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環境省は、8月27日(木)に大阪市内において、生物多様性の取組に関心のある事業者、NPO/NGO及び自治体の方々を主な対象とし、「生物多様性民間参画シンポジウム」を開催しました。
国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)事務局長の道家哲平氏による講演のほか、環境省による生物多様性の民間参画の推進に向けた施策紹介、大阪府による生物多様性保全に関する施策紹介、事業者・事業者団体による事例紹介を行いました。交流会では、登壇の事業者を含む14のブースが出展され、参加者との情報交流が活発に行われました。
その後のパネルディスカッションでは、大阪府立大学 理事・副学長・生命環境科学研究科教授の石井実先生をコーディネーターに迎え、生物多様性の民間参画についての意見交換を行いました。
日時 |
平成27年8月27日(木)13:30~17:00 |
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会場 |
大阪府立大学I-siteなんば2階 カンファレンスルーム(大阪市浪速区敷津東2-1-41) |
主催等 |
主催:環境省 共催:大阪府、大阪市、堺市、大阪府立環境農林水産総合研究所、大阪商工会議所、関西経済連合会、大阪生物多様性保全ネットワーク、国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J) |
出席者数 |
約200名 |
主催側から環境省が、共催者を代表して大阪府から開会の挨拶がありました。
秀田 智彦 (環境省 近畿地方環境事務所長) |
石川 晴久 氏 (大阪府 環境農林水産部長) |
道家 哲平 氏
(国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)事務局長)
道家氏からは、生物多様性に関する行動が企業活動の中の重要課題に設定されつつあるという世界的な潮流を俯瞰しつつ、今後、民間企業が宣言し行動が促進されることへの期待をお話しいただきました。
民間企業の取り組みを進めるためのステップごとに世界的方針・施策が整備されつつあることを紹介されました。ステップ1の生物多様性の価値の可視化と普及と政策的な方向付けの確立では、愛知ターゲットや自然資本宣言などの動向が、ステップ2の企業ガイドラインや環境宣言など企業によるコミットメントを促す仕組みについては生物多様性民間参画パートナーシップやにじゅうまるプロジェクトの支援制度が紹介されました。また、ステップ3の具体的な取組段階における環境管理システムについては、ISO14001に関する改定の動きが、ステップ4の行動を起こした企業のパフォーマンスが向上するための認証制度や投資判断基準への組み込み等については、機関投資家を巻き込む取り組みが紹介され、生物多様性に取り組むことは、リスク管理や社会評価、長期的投資確保につながり、企業の持続可能性を高めることになりつつあるという見解を述べられました。
堀上 勝
(自然環境局 自然環境計画課 生物多様性施策推進室長)
生物多様性に関する事業者の取組状況に関しては、着実に進展しており、生物多様性民間参画パートナーシップの会員のなかでは、生物多様性を経営理念に入れている会員の割合が増加している旨の紹介をしました。一方、愛知目標の達成状況に関して地球規模生物多様性概況第4版(GBO4)では、ほとんどの目標において進展はあったものの不十分との評価にとどまっている旨の紹介をしました。このような状況を踏まえた、取組の推進に向けた環境省の施策として、トップランナーの表彰に加え、事業者団体の取組を支援するモデル事業の実践、生態系サービスの定量評価の検討なども進められていることについて紹介しました。今後、2020年に向けて、環境省はこれらの取組と同時に、生物多様性のさらなる主流化に向けて業界団体やNGO等との連携が必要であると述べました。
勝又 章 氏
(大阪府環境農林水産部 みどり推進室長)
大阪府が策定した「大阪21世紀の新環境総合計画」を構成する柱の一つである生物多様性に関する取組に関して、その内容についてご説明いただきました。
継続的なモニタリングのために府民や専門家、行政などが連携して大阪生物多様性保全ネットワークを構築し、レッドリスト改訂や普及啓発を進めているほか、理解と行動の促進に関しては保全区域の設定や産業廃棄物処分場跡地での森づくり、協定企業が森林・里山整備を行うアドプトフォレスト制度、府民・大学・企業等の連携による絶滅危惧種イタセンパラの保護の事例をご紹介いただきました。また、都市部においてもエコロジカルネットワークを構築すべく、府、企業、大学が「おおさか生物多様性パートナー協定」を締結して、協力して生態系の拠点づくりをすすめている事例をご紹介いただきました。
住友商事グループの生物多様性への取組は、企業の社会的責任(CSR)を果たすものであり、公利公益を追求する経営理念の実践であることをお話頂きました。
生物多様性のホットスポットであるマダガスカルでのニッケル鉱山開発事業では、国際金融公社(IFC)パフォーマンス基準など各種の環境関連ガイドラインに準拠し、更には、ビジネスと生物多様性オフセットプログラム(BBOP)のパイロット事業の第一号として、国際・現地のNGOや研究機関等と連携しながら生物多様性保全に取り組んでいる事例をご紹介頂きました。また、「一杯のコーヒー」から生物多様性保全に取り組める事例として、渡り鳥の生息地保護を目的としたバードフレンドリー認証コーヒーをご紹介頂きました。
武田薬品工業(株)では、患者のことを第一に考える一方で、社会からの信頼を得ることも重要と考えており、京都薬用植物園において、原料の持続化な利用や生薬の自家栽培に取り組み、薬用植物の保全拠点としての役割を担っていることをご説明いただきました。交雑汚染を回避する採種等の技術を駆使した種の増殖や、絶滅危惧種の生育特性の研究といった種の保全への取組の他、現在ほぼ全てを中国からの野生品に頼っているおり、乱獲による土地の砂漠化が懸念されている甘草の生産栽培に向けた取組などをご紹介いただきました。これらの取り組みで培った経験や知識を活かして、小学生と保護者を対象とした五感を使った環境教育に発展させていることもご紹介いただきました。
積水ハウス(株)では、原材料調達においてサプライヤーにさかのぼって木材調査を実施し、事業活動の生態系への影響を把握した事例をご紹介いただいた上で、取り組みやすい活動の例として、生物多様性に配慮した自然資本としての企業緑地の構築とその価値についてお話しいただきました。その地域の生物にとって利用価値の高く病害虫への耐性も高い樹木を植えることで過剰な薬剤散布を抑えるといった効果もある在来種の植樹活動「5本の樹」の取組の紹介もいただきました。その取組において、環境NGOと連携した経験から、外部のNGOとの連携が企業の発展ための大きな力になることや、地域の生き物に配慮した企業緑地が増えることで、都市に公園や住宅と一体となった生態系ネットワークが形成され、社員の創造性の向上につながる旨の調査結果もご説明いたただきました。
(一社)日本建設業連合会では、日建連および会員企業の環境行動指針「建設業の環境自主行動計画」において生物多様性に関する活動を主要なテーマと位置づけた経緯、建設現場における具体的な取組事例の紹介、生物多様性に関する建設業の取組への理解促進を図る活動を行ってきたことをご説明いただきました。また、会員企業への調査から、技術者の認識不足、一般社会への理解促進の必要性などの課題が見いだされたことをお話しいただきました。業界内と社会全体の2つの軸での生物多様性の主流化が重要であり、そのためには、業界全体の生物多様性との関わりについての認識を高めるとともに、行政や他業種と連携によるレベルアップをはかっていくことが重要であるとお話しいただきました。
交流会では、事例紹介で登壇された事業者を含む14のブースが出展され、それぞれの取組を紹介しました。各ブースでは、取組に対しての質問や意見など、参加者との情報交流が活発に行われました。
パネルディスカッションでは、コーディネーターに大阪府立大学 理事・副学長・生命環境科学研究科教授の石井先生をお迎えし、前半の講演・事例紹介の内容の振り返りを交えながら、パネリストである事業者各社から、生物多様性への取組によって得られるメリット、実施する中で直面した課題や参考にすべき対応策等についてご意見をいただきました。
取組により得られる評判やブランド力がメリットである他、社員の能力レベルの向上、人脈や視野を広げる効果があるとの発言や、メリット・デメリットは一義的ではないことから顧客の立場にあわせてメリットを説明しながら事業を進めることが重要であるとの意見もありました。課題としては、一企業単独で取り組むことは他社との比較でコスト増になりかねないことから業界全体で(大企業だけでなく中小企業も)取り組めるようにしていくこと、自然のシステム全体への正しい理解や生物多様性への取組によって生じる支払コストへの理解の醸成の必要性などが挙げられました。また、生物多様性への取組が投資判断の材料となることの認識が企業の間に広まれば、取組に対するモチベーションの維持につながることや、新たな市場の創造には業界全体で取り組むことが重要である一方、先駆者にはメリットが存在すること、国民の声が官庁や企業に影響を与え、最終的に事業者の取組につながることから、社会全体の生物多様性の主流化の必要性についても述べられました。
また、生物多様性の取組の可視化に関して、取組に対する表彰の必要性、例えば住民に保全サイトの環境調査をしてもらうといった、外部から評価される仕掛けを念頭において取組を行う必要があることなどの意見がありました。
今後に向けては、行政に対しては情報発信、目標設定、「主流化」とは何かを理解しやすく伝えることを求める意見があり、登壇者からは「国連生物多様性の10年」の最終年である2020年に向けての指標や目標設定などに関する今後の動向についての共有がなされました。また、関西圏のNGOはフレンドリーで連携しやすいという特徴もあることから、企業側から働きかけをしていくことも大事であるとの意見もありました。
最後に、コーディネーターからは、毎日の生活に必要な食品や新鮮な空気でさえもが豊かな生物多様性によって支えられていることを感じ取れる「Bセンス」を国民一人一人が持っている状態が社会全体の「主流化」であること、事業者に対しては本業における生物多様性に関する取組と、社会貢献活動としてのビオトープの設置などによる地域の生物種の保全に関する取組の両面で、生物多様性を支えてもらいたいとのコメントがありました。