要約 |
潮干狩りなどを通じて我々にとって身近な自然である干潟は、魚類や貝類の生息の場であるばかりでなく、シギやチドリ類などの 渡り鳥の重要な生息の場でもある。また藻場は、沿岸浅所の特色ある生物のすみ場所を構成しており、その独自の生物相は、生態 学的にも、内湾における水産資源保護の見地からも注目される存在である。さらにサンゴ礁にはきわめて多様な生物群集が見られ、 生物生産量も非常に大きいことから、藻場とともに我が国沿岸域における重要な生物環境と言える。
このようなきわめて重要な存在である干潟・藻場・サンゴ礁について、これらの分布状況や消滅状況を把握する目的で実施された。
(1) 干潟
第2回基礎調査においては、現存するか、昭和20年までに存在していた面積1ha以上の干潟を、主として地形図、空中写真 の読み取りその他既存資料の収集により、また必要に応じて現地確認等を行って、その位置、面積、タイプ、環境の現況等を調査した。
第4回基礎調査においては、最新の分布状況と前回調査時以降の消滅状況を把握した。
第5回基礎調査においては、日本全国の干潟・藻場・サンゴ礁の生物学的な類型区分等を目指し、次の点を目的とした。
1)全国の代表的な干潟・藻場・サンゴ礁を対象に、生物群集に関する基礎的データを集積すると共に、 各域の生物学的な 類型区分等について検討する。
2)全国調査に必要な簡便な調査項目・手法の確立を目指す。
平成14年度から3ヶ年で全国の干潟約150箇所について調査を実施した。
調査方法は、一つの干潟について上流と下流、あるいは湾の入り口と奥というような調査地を複数箇所設置し、生物相を把握、 約5m四方の調査枠をとり、時間を限って底生動物種とその多寡を記録した。泥の中や岩の下にいる底生動物についても、泥 を掘り返したり岩をひっくり返すことで記録した。
(2) 藻場
第2回基礎調査においては、おおむね20m以浅の沿岸において、現存するか、昭和48年までに存在していた面積1ha以上の藻 場について、干潟と同様の調査を実施した。
第4回基礎調査においては、最新の分布状況と前回調査時以降の消滅状況を把握した。
第5回基礎調査においては、既存調査の結果及び地元漁業者からの聞き取り等、現状の海藻・海草群落の位置、面積等を確認し た。また、スノーケリング及びスキューバによる目視観察により群落の種構成、規模等を把握した。
第6回基礎調査においては、平成14年度から5ヵ年で全国の藻場約130箇所について調査を実施した。
調査方法は、シュノーケルやスキューバで現場に潜り、出現種を記録。また、重点調査地点では、現存量を測定するために、 調査区内に設定した枠内の海藻・草を刈り取り重量を測定。その他、標本の作製や葉上で生活する葉上動物の種の同定等を行った。
(3) サンゴ礁
第2回基礎調査においては、現存するか、昭和48年までに存在していた石サンゴ類の群落(トカラ列島以南では面積1ha以上のもの) について、干潟と同様の調査を実施した。
第4回基礎調査においては、サンゴ礁海域(トカラ列島小宝島以南)と非サンゴ礁海域(トカラ列島悪石島以北)に分けて造礁 サンゴ群集の分布状況と前回調査時以降の消滅状況を、既存資料収集とマンタ法、ステーション設置による現地調査で実施した。
第5回基礎調査においては、調査線を設定し、その周囲を10分間遊泳し、優占するサンゴ種、生サンゴ被度、オニヒトデ食害、 白化の有無等サンゴ群集の概観を記録した。
本書は、その調査報告書。 |