シンポジウム「自然共生社会の実現に向けた社会変革」
~IPBES 地球規模評価を踏まえて次期生物多様性世界目標を考える~

IPBESが公表した地球規模評価は、生物多様性の課題解決は社会変革(transformative change)が必要であることを指摘しています。この指摘を踏まえ、現在国際的な議論が進められている生物多様性に関する次の世界目標(ポスト2020枠組)と、社会変革における一般市民の役割を考えるシンポジウム「自然共生社会の実現に向けた社会変革」を、令和元年12月21日(土)に東京大学弥生講堂・一条ホールで開催しました。

2019本年5月にフランス・パリで開催された第7回IPBES総会において、「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」の政策決定者向け要約が承認されました。本報告書では、自然がもたらすものは世界的に劣化し、このままでは生物多様性の保全や持続可能な社会の実現は不可能と指摘しています。一方で、社会変革を促進する緊急かつ協調的な努力が行われることで、自然を保全、再生、持続的に利用しながらも同時に国際的な目標を達成できると指摘しています。

このため、本シンポジウムでは、IPBES地球規模評価の解説、社会変革についての専門家によるパネルディスカッション、自然共生社会の実現についての参加者によるグループディスカッションを通じて、生物多様性に必要な社会変革と一般市民ができることについて考えました。

開会と基調講演

開会に当たり、環境省自然環境局の鳥居敏男局長より開会の挨拶と、これに続いて、IPBES地球規模評価報告書共同議長のエドゥアルド・ブロンディジオ・米国インディアナ大学特別教授からのビデオメッセージが放映されました。

ブロンディジオ教授からのビデオメッセージでは、地球規模評価報告書が過去50年間の人類の開発過程を辿る中で人と自然、気候変動などの相互のつながりについて理解を深める助けになること、そして将来に向けて世界全体や地域の共通課題を解決し、未来を共に創造できる可能性を示しているとのメッセージが伝えられました。

次に、IGESの武内和彦理事長より、「自然の恵みを継承できる社会への変革」と題して基調講演があり、IPBES地球規模評価報告書のうち、今すぐに「Transformative change = 社会変革」を起こすことで、持続可能な社会をつくれる可能性があることが強調されました。

また、来年中国・昆明にて議論されるポスト2020枠組について、SDGsや気候変動と密接な関わりがあり、統合的アプローチやローカリゼーションを進めていくこと、また里山・里海を維持してきたような自然とのかかわりを現代的に再生し、主流化していくことが重要であるとの指摘がありました。

IPBES地球規模評価報告書からのメッセージ

東京大学大学院農学生命科学研究科の橋本禅准教授より、「世界の生物多様性と生態系サービスの現状と将来」と題して、地球規模評価報告書政策決定者向け要約(SPM)のキーメッセージの解説がありました。

SPMは4つのセクションから構成され、セクションAでは自然と自然の寄与の現状と傾向を評価した結果、物的寄与が増加している反面、調節的寄与や非物質的寄与が減少していること、こうした寄与の基盤となる生態系が、例えば陸地の75%、海域の66%で改変され、湿地の85%が消失していることが示されています。

セクションBは変化要因についての分析で、陸域・淡水域では陸・海利用変化による影響、海洋では直接採取による影響が最も大きく、これらの背景には過去50年間で人口が2倍、経済が4倍、貿易が10倍に増大し、これらが組み合わさってエネルギー・物質の需要を増大させていることを示しています。

セクションCは生物多様性愛知目標などの国際目標に向けた進捗評価で、持続可能な地球シナリオ(最もサステナブルな状況を想定)、地域間競争シナリオ(保護主義的が進む想定)、経済楽観主義シナリオ(経済成長最優先)の3つのシナリオを比較しています。その結果、最もサステナブルなシナリオでも自然と自然の寄与の減少が予測されることから、長期的な持続可能性のために社会変革が必要であることが示されています。

最後のセクションDは社会変革について解説しています。その中で、直接要因への対処は重要だが対処療法にすぎず、その背景にある間接要因に働きかけるような介入を行わなければいけないこと、効果的な介入のためには8つのレバレッジポイントがあることが示され、社会目標の達成に向けた具体的な提言が含まれています。

続いて、名古屋大学大学院環境学研究科の香坂玲教授より、「現場から考えるIPBES:欧州と日本にみる社会変革の萌芽」と題して解説がありました。

IPBESの花粉媒介評価報告書のアセスメントを例にとり、これには農業の実践の選択肢のなかで社会変革に類似した考え方がすでに入っていること、特に農業分野の具体的な行動変革を示す上で重要な役割を果たしたことに触れ、主に欧州の農産物の生産、流通、消費の状況と関連する法律も含め、多くの側面で起こりつつある具体的な変化について解説がありました。

パネルディスカッション

モデレーターを務める香坂玲・名古屋大学大学院環境学研究科教授からの3つの質問(①「変革」「気づき」に繋がるコミュニケーションとは?、②「変革」で気をつけるべき点は?、③日常生活のなかでできることは?)の投げかけに対して、4名のパネリストからの話題提供と議論がありました。

東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授からは、生物多様性と気候変動の相互連環についてお話し頂きました。土地利用変化が生物多様性と気候変動の両方に大きく影響し、IPCCによる1.5℃報告書は気候変動による生物への深刻な影響、1.5℃達成にはエネルギーや資源の面で生物多様性を利用しなければ達成できない側面もあることを示しています。そのため、社会変革を考える時には気候変動と生物多様性の両方を視野に入れ、私たちがありたい未来像を提示し、それに向かってイノベーションや投資を喚起し、企業や自治体など非国家主体の行動変革を促すことが重要です。

次に、日本サステナブル・ラベル協会の山口真奈美代表理事より、サステナブル・ラベルについて話題提供がありました。ラベルがあることにより、大きく社会が変わるというよりは、企業が環境や企業責任を意識するようになるという効果、企業から消費者へのコミュニケーションツールとしての役割があります。こうしたものをツールに、社会変革に向けてさまざまなステークホルダーと一緒に、世代を超えて一緒に考えていくことが重要です

続いて、花王株式会社ESG部門ESG活動推進部の金子洋平部長より、同社の原料調達ガイドラインなどについてお話いただきました。そこでは①原材料の使用量を削減(ものづくりから考え、最小限で最大の価値を出す)、②非可食バイオマス利用など代替原料の模索(多様な原料を使う)、③生物多様性や社会課題に配慮した原料を使うといった項目が含まれていて、洗剤の開発をはじめとする、生物多様性への負荷を減らしていく会社の取り組みについて解説がありました。

環境省自然環境局の鳥居敏男局長からは、第5次環境基本計画が掲げる地域循環共生圏の考え方、主に地方と都会が互いに支えあう、ローカルSDGsを実現し、さまざまな切り口から地域の課題やニーズを解決する新たな価値を創造する方向性についての解説や、民間参画ガイドラインについての話題提供がありました。

その後のパネルディスカッションでは、社会変革に向けて生物多様性に関心のない人も含む大規模な意識変革を起こす仕組みや施策の必要性、そのための科学的根拠とコミュニケーション、ポジティブな変革のビジョンの提示、ビジョンと現時点とのギャップを認識することの必要性などについて指摘がありました。

こうした議論に基づいて、どこがレバレッジポイントなのか、どう取り組んでいくのかについて、午後の部で議論する方向性が示されました。

グループディスカッション

冒頭に、環境省生物多様性戦略推進室の中澤圭一室長より、午前中の議論の振り返りと、生物多様性条約のポスト2020枠組の検討状況について解説があり、これを踏まえてグループディスカッションのテーマ(以下)の紹介がありました。

その後、48名が5つのグループに分かれ、ファシリテーターのもと、3つのテーマについて議論がありました。

テーマ1:2050年の暮らし~自然共生社会はどんな社会?

テーマ2:共生社会の実現へ① 今の私たちの暮らしと社会が抱えている課題

テーマ3:共生社会の実現へ② 解決方法-社会変革はどう起こすか

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