標識調査の展開

標識調査から得られた長年の知見や実績は、さまざまな方面に広がり役立っています。

目次

1.さまざまな個体追跡方法の開発

調査

カラーマーキングが装着されたハマシギ

 細かい文字の入った金属足環の番号を読みとるには、その鳥を再捕獲しなければならないという弱点があります。鳥の生態を研究するために、研究者たちは遠くからでも双眼鏡や望遠鏡を使って個体識別ができるようなマークをつけて調査をおこないます。この方法は、同じ鳥を何度も捕獲しなくても観察による追跡を継続しておこなえるのが利点です。環境省では主に、ハクチョウ、ガン、ツルなどに文字と番号の刻まれたプラスチック製のカラーリング(首環や足環)を、シギ・チドリの足にカラーフラッグ(プラスチックの旗)を装着して調査をおこなっています。これらの観察データは繁殖地・中継地・越冬地への移動経路、つがい関係や家族構成など、鳥の生態を知る重要な手がかりとなり、学術研究に貢献するだけでなく、具体的な保護対策を考えるうえで重要なデータとなるのです。

 人工衛星を利用して野生動物の大規模な移動を調べる方法はウミガメやクジラ類、陸上の大型哺乳類などで使われています。体に付けた発信機から電波を発信し、衛星を使ってその位置を調べることが出来るのです。近年この発信機の軽量化が進んで、鳥類にも応用できるようになりました。大空を渡っていく鳥の移動経路を調べるには、地上の調査だけでは追いきれません。しかし、電波という標識を付けて追えるようになったのです。  例えば、日本で繁殖し北太平洋を移動するアホウドリや南半球までも移動するオオミズナギドリ、シベリアで繁殖し日本で越冬するオオワシ、北極圏で繁殖し日本で越冬するハクチョウ類などの調査が行われています。

ジオロケータ












人工衛星追跡用発信機を装着されたアホウドリ

▲目次へ戻る

2.安全な捕獲技術の開発

 絶滅に瀕したトキがわずか5羽になってしまった1979年、環境庁(当時)は全個体を捕獲し人工飼育下で増殖させる以外に方法はないと判断し、(財)山階鳥類研究所(当時)に安全捕獲の調査研究と捕獲事業の実施を委託しました。研究所は現地での行動調査、国内外の事例の検討を行った結果、ロケットネットを使って安全に捕獲できる見込みを得て、海外からの入手、綿密な発射実験を経て、1980年11月から1981年1月にかけて、5羽すべてを何の損傷もなく捕獲することに成功しました。この一連の成果は2冊の報告書にまとめられ、その後は他鳥種の捕獲調査などにも活かされています。

トキの捕獲

 1981年にヤンバルクイナが発見された際にも、(財)山階鳥類研究所標識研究室(当時)が現地で考案、作成したトラップを使って捕獲することに成功し、詳細な記録を得て放鳥することができました。

ヤンバルクイナの捕獲

▲目次へ戻る

3.保護の現場での識別・鑑定のために

 野鳥を捕獲・飼育することは、特別な例を除いて許可されていません。しかし、減ってきているとはいえ、現在でも密猟や違法飼育があとを絶たない現実があります。

 密猟され、違法飼育されている鳥は、それが国産の鳥であることを証明しなければ、違反者を検挙することができません。

 鳥類標識調査の長年の成果から、輸入鳥(外国産)と密猟鳥(日本産)の識別が可能になってきました。これまで、密猟・違法飼育の多い、メジロ、ウグイス、ホオジロ、オオルリ・キビタキ、オオタカについて、環境省によって識別マニュアルが作成され、実際の取り締まりに役立っています。

密猟・違法飼育を防ぐために 画像1
密猟・違法飼育を防ぐために 画像2

 また、標識調査を通じて蓄積されてきた鳥類の識別に関する知見は、税関での識別や地方自治体やNGOなどによる傷病鳥の救護の現場でも活かされています。

 油汚染事故の際などに備えるための識別マニュアルも民間団体によって作成されています。

 

  • オオタカ識別マニュアル(環境省自然環境局作成)
      環境省「希少種識別マニュアル」のページへリンク
  • メジロ識別マニュアル、ホオジロ識別マニュアルなど
     (環境省作成)
      全国密猟対策連絡会「種の識別鑑定ページへリンク」
  • 油汚染海鳥影響調査識別マニュアル
     (WWFジャパン・日本鳥獣保護連盟作成)
      JEDIC日本環境災害情報センターへリンク
  • ▲目次へ戻る

    4.国際協力・国際交流として

     鳥類標識調査は、国際的なネットワークによって誕生し成り立っている調査であり、とくに近隣の諸国が積極的に協力して成果を上げていく必要があります。このため、日本の鳥類標識センターである(公財)山階鳥類研究所が、環境省や文科省のODA事業や民間の資金援助によって、東南アジアの国々で標識調査の意義と重要性を紹介し、その技術移転に努めてきました。これまでに中国・フィリピン・タイ・インドネシア・ベトナム・マレーシア・モンゴルおよび台湾において、標識調査の研修会を行うとともに、研究者を日本に招いて技術研修を実施してきています。その結果、多くの国において政府機関または民間団体が標識調査プロジェクトを組織し、調査が行われるようになりました。しかしながら一部の国では、まだ独自の調査体制が立ち上がったり、活発になるまでには至っておらず、今後のさらなる協力・交流が期待されます。

    国際協力の写真

    中国での標識調査講習会

    ▲目次へ戻る