整備された森林(安城市提供)
  • 里地里山
  • 森林
  • 水資源
  • その他の新しい取り組み

トップページ > 水資源 > 矢作川水源の森環境育林事業

  • 矢作川水源の森環境育林事業
  • 福岡市水道水源かん養事業基金
  • 地下水涵養による水資源の保護
  • 【コラム】 森は海の恋人

矢作川水源の森環境育林事業

●開始時期:令和4年(2022)年
●場所:矢作川最上流部 茶臼岳北斜面
●事業主体:愛知県安城市、長野県下伊那郡根羽村

背景

矢作川は、東海地方中央部の太平洋側に位置し、その源流を中央アルプス南端の下伊那郡大川入山に発し、長野・岐阜・愛知の3県を流域として、伊勢湾の東隣の三河湾に注ぐ、全長118kmの河川です。その流域面積(※1)は1,800km2を超え、上流部には長野県の2村と岐阜県の2市、中・下流部には愛知県の7市町村の自治体があります。

矢作川流域の図
森林中にある案内板(安城市)

©安城市

矢作川源流域である根羽村では大正時代から営林署等によって造林が行われ、伐期に入った昭和30年代から営林署等による伐採が始まりました。昭和40年代半ばまでは、伐採により何億円もの利益が村に入り、村の財政は大きく潤いました。しかし、昭和40年代の木材の輸入自由化により木材価格が低迷し、経済的に伐採完了後に返還された土地を再生させることが不可能となりました。この結果、景観破壊や山の崩落、水源地の荒廃などの影響が表れ、その対策が必要となりました。

根羽村は、平成3(1991)年に開始が予定されていた伐採の取りやめを決意し、伐採を行う営林署等に中止要請を行いましたが、不調に終わりました。このため、営林署の権利分を買い取る(買い取り価格1億112万円=面積48.21ha分のヒノキを主体とした樹木の販売利益を折半した数字)ことで、水源かん養や砂防などの森林の保護計画を進めることとしました。

ただ、この買い取りには多額の資金が必要となるため、以前より交流のあった下流の安城市に『矢作川水源の森』として共同経営(分収林(※2))することを持ちかけました。安城市は矢作川上流域の森林を水源地として保全する必要があると考え、平成3(1991)年に、契約期間を30年間とする立木の買い取り等に関する下記のような分収育林契約を結びました。この契約は、同年4月に森林法に新たに付け加えられた「森林整備協定」に基づく全国初めての契約でした。
1. 立木の買い取りに地代を加えた約1億4,500万円を安城市が根羽村に支払う。
2. 立木は今後30年間伐採しない。
3. 間伐など森林の管理費用及び、将来伐採して得た利益は全て折半する。

概要

令和3年度末に分収育林契約の期間が満了を迎えたのに伴い、令和4年4月1日からは、分収育林契約の取り組みを継承し、より森林保全、環境教育活動に重きを置いた「矢作川水源の森環境育林協定」を下記のとおり結びました。
 1. 水資源の涵養・森林資源保護育成及び啓発。
 2. 協定の存続期間は、令和4年4月1日から定めのないものとする。
 3. 前契約で支払いをした立木買取り費及び地代は本協定においても継承する。
 4. 協定の履行のために必要な費用は折半とする。
 5. 間伐等に伴う樹木の販売にかかる収益は折半とする。
環境育林協定では、従来の「水資源の涵養・森林資源の保護」だけでなく、「流域住民への還元」、「SDGsへの貢献・啓発」を目的に掲げ、これらを達成するために、森林整備、矢作川上下流域の自治体間交流に加え、現在の人工針葉樹林から、針葉樹と広葉樹の共生を図る「針広混交林への転換」を軸とした事業に取り組んでいます。森づくりの一端を、矢作川上下流域の住民の皆さまと共に協働し、間伐、植樹、木育などの体験を通じて、水の大切さや森林の役割の理解を深め、次世代へ引き継いでいく環境教育活動(文化的サービス)を推進しています。

生態系サービスへの支払いの図 森林の管理作業の様子(安城市提供)森林の管理作業の様子(安城市提供)

©安城市

※1 流域面積とは、その川に雨水などを集める地域全体の広さ、すなわち隣の川の流域との境である「分水界」に囲まれた区域の広さを言う。(銀河書房編(1994))
※2 森林所有者、造林・保育を行う者、費用負担者の3者またはいずれか2者で契約を結び、造林・保育したのち伐採して、その収益を分け合う森林。
※3 平成3年に締結した分収育林契約に基づく約48haの土地の30年間の地代の2分の1の金額。これを継承することによって安城市は地上権を保全する。

●参考文献
・銀河書房編(1994)『水源の森は都市の森』銀河書房

●協力
安城市役所総務部財政課管財係

ページトップに戻る