写真左から豊岡市、栃木県、福岡市水道局
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生態系サービスへの支払い(PES) 〜日本の優良事例の紹介〜

生態系サービス〜自然の恵み

私たちは、普段の生活の中で気づかないうちに、自然から非常に多くの恵みを受けています。身近なところで考えてみると、例えば、お米はそれ自体が食糧という自然の恵みですが、お米を作る田んぼも、大雨時の洪水を防ぐ水がめとしての役割や、気温を下げる機能、あるいはメダカやタガメなど様々な生きものに生息の場を提供し、さらには田んぼのある景色が私たちの目を楽しませてくれます。このような自然の恵みを支えてくれる自然の働きのことを「生態系サービス」といいます。

ミレニアム生態系評価(MA:Millennium Ecosystem Assessment※1) では、生態系サービスを次のように分類しています。※1 Millennium Ecosystem Assessment: 国連の主唱により平成13 (2001) 年から平成17 (2005) 年にかけて行われた、地球規模の生態系に関するはじめての総合的評価。95 ヵ国から1,360 人の専門家が参加し、生態系が提供するサービスに着目して、それが人間の豊かな暮らしにどのように関係しているか、生物多様性の損失がどのような影響を及ぼすかを明らかにした。

生態系サービスの危機とその原因

しかし、ミレニアム生態系評価では、生態系サービスの地球規模での状態と傾向について代表的な24の生態系サービス(供給サービス、調整サービス、文化的サービス、基盤サービスの各種)のうち15の項目(漁獲、木質燃料、遺伝資源、淡水、災害制御など)で低下している、または持続的に利用できない形で利用されていると評価されています。このような生態系サービスの低下は人間活動による生態系の改変によるもので、21世紀の前半の間にさらに進行することが予測されています。この進行を防ぐためには、政策や制度等の大幅な見直しが必要だと結論づけています。

生態系サービスの低下の原因は多岐にわたりますが、大きな原因の一つとして、私たちがその価値を認識せず、その価値や機能の低下を招く開発を行ったり、また、その適切な管理が行われなかったりしたことが挙げられます。生態系サービスの機能を維持していくためには、その価値を十分に認識し、維持に必要な生態系の管理を可能とする仕組みを構築することが必要です。

現状では、生態系サービスや生物多様性の保全と持続的な利用を行うための資金は世界的に見ても圧倒的に不足していますが(※2) 、資金を確保するための資金メカニズムが世界各地で検討・実施されており、その中の一つの仕組みとして注目を浴びているのが「生態系サービスへの支払い(PES:Payment for Ecosystem Services)」です。

受益者が維持管理コストを支払う仕組み

PESの定義について国際的に合意されたものはありませんが、原則として以下の要件を満たすものとされています(Wunder, 2005) 。

1. 生態系サービスの受益者と供給者との自発的な売買
2. 生態系サービスの明確な定義化(またはそれらのサービスに関連する土地利用の定義化)
3. 生態系サービスの購入者(買い手)の存在
4. 生態系サービスの供給を管理する生態系サービスの供給者(売り手)の存在
5. 生態系サービス供給者が生態系サービスの供給を継続的に確実にすること

1990年代中頃から導入され始めたPESは、生態系サービスの保全に有効な手法として、すでに世界で約300以上の導入例が報告されています(林, 2010)。その例としては、ガソリン税等を森林保全の財源とする制度や、良質の水を必要とする企業がその水源の保全に協力する畜産農家に対し費用を支払う仕組みが挙げられます。

日本の事例

日本でも、森林、里地里山、水資源を対象としたPESに類する事例(上記の要件のいずれかがあてはまるもの)が多く見られます。ここでは、このような事例について、具体的にはどのような仕組みで、都市の住民や消費者、企業が、自然の恵み、生態系サービスに対して支払いを行っているのかについて紹介します。

この他、金融や都市計画において、生物多様性や生態系を保全するための費用を間接的に負担する新たな取り組みについても、併せて紹介します。

※ここで紹介する事例は、「平成21年度環境経済の政策研究(生物多様性分野)」の成果を踏まえて作成されたものです。

監修:(財)地球環境戦略研究機関(IGES)
制作・編集・とりまとめ:(財)地球・人間環境フォーラム

※1 Millennium Ecosystem Assessment: 国連の主唱により平成13 (2001) 年から平成17 (2005) 年にか けて行われた、地球規模の生態系に関するはじめての総合的評価。95 ヵ国から1,360 人の専門家が参加し、生態系が提供するサービスに着目して、それが人間の豊かな暮らしにどのように関係しているか、生物多様性の損失がどのような影響を及ぼすかを明らかにした。
※2 例えば、途上国に現存する保護地域の維持・管理に必要な費用の3 分の1 程度しか実際には費用が充てられておらず、年間10 億〜 17 億米ドルが不足している(Bruner A., Naidoo, R. and Balmford, A.(2008) Review of the costs of conservation and priorities for action, in “Review on the Economics of Biodiversity Loss: Scoping the Science”. ENV/070307/2007/486089/ETU/B2)

●参考文献
・Wunder, S. (2005). Payments for Environmental Services: Some Nuts and Bolts, CIFOR
・林希一郎(2010)『生物多様性・生態系と経済の基礎知識』中央法規出版

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