田んぼで餌を探すコウノトリ(豊岡市提供)
  • 里地里山
  • 森林
  • 水資源
  • その他の新しい取り組み

トップページ > 里地里山 > コウノトリの野生復帰とコウノトリを育む農法

  • 蕪栗沼のふゆみずたんぼ
  • コウノトリの野生復帰とコウノトリを育む農法
  • トキの野生復帰と米づくり
  • 魚のゆりかご水田プロジェクト

コウノトリの野生復帰とコウノトリを育む農法

●開始時期:平成15(2003)年 
●場所:兵庫県豊岡市

背景

豊岡市は、兵庫県の北東部、日本海に面する人口8万9,000人、面積約700km2のまちです。かつての豊岡市は、野生のコウノトリの国内最後の生息地でしたが、昭和46(1971)年の目撃を最後に、日本のコウノトリは絶滅したといわれています。

コウノトリが絶滅した要因として、生産性向上を目的としたほ場整備(乾田化)によるエサとなる水生生物の生息場所の消失や、水路と田んぼ間の分断による魚類などの往来ができなくなったこと、第二次世界大戦中には松林が伐採されコウノトリの営巣木が減少したこと等があげられます。また、農薬の使用によってエサとなる生物が減少したばかりでなく、コウノトリの体内に蓄積された有害物質の影響で繁殖能力を失ったことも原因の一つでした。

絶滅に先立つ昭和40(1965)年から人工飼育がスタートしましたが、なかなかヒナが誕生せず、平成1(1989)年に人工飼育から初めてヒナが誕生しました。飼育下で100羽を超えるまでに数を増やしたコウノトリを、平成17(2005)年からは数羽ずつ試験的に野外へと放鳥しています。このような取り組みと並行して、コウノトリの生息できる環境を取り戻すための農業を中心とした取り組みが行われました(下記)。その結果、豊岡の農地に、再びコウノトリの姿が見られるようになりました。コウノトリは生態系ピラミッドの頂点に立つ鳥であり、その存在は、生物の多様性の豊かさを証明するものでもあります。平成21(2009)年現在、コウノトリの野生羽数は35羽にまで増えています。

コウノトリ育む農法
冬期湛水(豊岡市提供)

【写真】冬期湛水 ©豊岡市

平成15(2003)年から豊岡市と兵庫県は、JA等と連携し、農薬をできるだけ減らしながら田んぼの生きものを増やす稲作技術「コウノトリ育む農法」の普及を図ってきました。具体的には、農薬の栽培期間中不使用(または75%減)、化学肥料の栽培期間中不使用、種もみをお湯で消毒する、田んぼに深く水を張る、通常6月下旬に行う中干しの実施時期を7月上旬に遅らせる(オタマジャクシがカエルに変態、ヤゴがトンボに羽化する時期を避けることで、それらの成長を助ける)、田植えの1カ月前から、または冬期間も水を張る(イトミミズの発生を促しながら抑草効果のあるトロトロ層を形成する)といった農法です。平成21(2009)年度時点で、市内で212.3ha(全体の約7%)の田んぼがこの農法に取り組んでいます。豊岡市は、「コウノトリ育む農法」に取り組む農家に対して、冬期湛水・中干し延期稲作を実施する農家に7,000円/10a、転作田を活用して常時湛水することによって生きものを育むビオトープを設置する農家に対して27,000円/10aの委託料を支払っています。

コウノトリ育む農法 栽培面積(豊岡市)の図

コウノトリ野生復帰の取り組みを通じて、生産の場である「田んぼ」で生物多様性を高め、 その取り組みを行政やJA 等が支援し、結果として農業者所得やエコツーリズム等、地域 活性化に結びついているという報告もあります。コウノトリ野生復帰による地域への経済効果は施設建設や事業等で約80億円、またエコツーリズムの効果は年間約10億円になると推定されます(大沼・山本, 2009)。

生きもの調査に取り組む子ども達(豊岡市提供)

【写真】生きもの調査に取り組む子ども達 ©豊岡市

農薬や化学肥料を極力使用しない「コウノトリ育む農法」では、無農薬の場合で25%程度は減収になると言われています。しかし、JAたじまによる生産者への支払いは、減農薬で約23%、無農薬で約54%(平成19(2007)年度)の価格差がついています。一方、農協を通さない直接販売もかなりの量を占め、減農薬で約29%増、無農薬で約71%増の価格で売れています(大沼・山本,2009)。

生態系サービスへの支払いの図
コウノトリの舞

コウノトリの舞の認証マーク「コウノトリを育む農法」とは別に、平成13(2001)年に創設された兵庫県の「ひょうご安心ブランド」認定制度(残留農薬を国基準の10分の1以下に抑える)をもとに、化学肥料、農薬の使用を慣行の2分の1以下に抑えるなどの付加要件をクリアしたお米や野菜は「コウノトリの舞」農産物(市認定)として出荷することができます。

コウノトリの舞(水稲)栽培面積の図
コウノトリツーリズム

コウノトリと共に生きるまちづくりが進むにつれ、コウノトリを見に、また、その取り組みを学びに、学校のエコロジーツアーのほか、中国やロシアの高校生や大学生、韓国などからの農業者や研究者等、国内外からたくさんの人々が訪れるようになりました。また、ある大手旅行会社では、コウノトリを見て、城崎温泉に宿泊し、コウノトリ育む農法によるお米や但馬牛を食べて、おみやげとしてお米を500グラムがもらえるという団体旅行を平成18(2006)年から売り出し、年間1,000人以上に利用されています。

観光客の伸びは、市立コウノトリ文化館の来場者数からも確認することができます。

コウノトリ文化館の入館者数の図

●参考文献
・大沼あゆみ・山本雅資(2009)「兵庫県豊岡市におけるコウノトリ野生復帰をめぐる経済分析―コウノトリ育む農法の経済的背景とコウノトリ野生復帰がもたらす地域経済への効果―」『三田学会雑誌』102巻2号、pp3-22
・兵庫県但馬県民局豊岡農業改良普及センター(2009)『コウノトリ育む農法ーコシヒカリ編―』

●協力
豊岡市コウノトリ共生部コウノトリ共生課コウノトリ共生係

ページトップに戻る