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地下水涵養による水資源の保護

●開始時期:平成15(2003)年 
●場所:熊本県白川中流域 
●事業主体:半導体製造企業A社

背景

熊本市周辺地域の水道水はすべて地下水で賄われています。阿蘇外輪山西麓から熊本平野およびその周囲の台地に広がる熊本地域(※1)の地下水涵養量は約6.4億m3で、その3分の1が水田からの涵養によるものです。特に白川中流域(菊陽町およびその周辺)の水田は、「ざる田」と呼ばれ、他地域に比べ約5〜10倍の涵養機能があることがわかっています。しかし、近年では、都市開発や政府の減反政策等の影響により、地下水位が下がってきていました。

A社は平成13(2001)年10月にこの地域で半導体工場(B工場)を稼働させましたが、地元では、洗浄工程で大量の地下水を汲み上げて使うB工場による地下水への影響を心配する声もありました。平成14(2002)年6月にA社が開催したグループ会社等を集めた環境をテーマとして会合に参加した環境NGO「環境ネットワークくまもと」からの提案に応じ、「使った水は、きちんと返そう」をスローガンに地下水涵養事業を日本企業として初めて開始しました。この事業は、「環境ネットワークくまもと」、白川中流域土地改良区協議会、JA菊池で発足した「地下水涵養プロジェクト」は、その後熊本市やその他の地元企業にも拡大しています。

2010年田植え(ソニーセミコンダクタ九州提供)

【写真】2010年田植え ©ソニーセミコンダクタ九州

概要

B工場では、近隣の水田や減反政策で休耕田となっている畑を利用して、白川の水を引き込んで水を張り、地下に浸透させて戻しています。平成21(2009)年までに使用した水の量(約980万トン)以上を還元(推定約1,160万トン)しています。協力農家には、湛水に対して協力金を日数に応じて支払っています。

B工場の水使用量と地下水涵養量の図生態系サービスへの支払い1の図

熊本の地下水を長年にわたり研究している東海大学産業工学部の市川勉教授の調査によると、江津湖(※2)の湧水量が上昇に転じており、熊本の地下水量に回復の兆しが見えてきたこともわかっています(※3)

【ウォーターオフセット】
白川中流域で生産されたお米1kgを消費すると、約20〜30m3(※4)の地下水涵養効果があるとされています。消費者が、地下水涵養に取り組む水田のお米を購入することで、間接的にそのお米の生産によって実現される地下水涵養に貢献し、その相当量の水道水の利用による環境負荷と相殺できるという考え方です。

B工場では、毎年、地下水涵養協力田の田植えや稲刈りに従業員が参加し、収穫した減農薬有機肥料米は一部を430円/kg(慣行栽培米(※5)300円)で買い取り、社員食堂で提供することにより、「お米を買って使った水を返す」こと(ウォーターオフセット)に取り組んできました。平成21(2009)年度からは、これをさらに個人レベルに拡大し、5kg単位で従業員にもお米を販売した結果、535kg(11.235トンの地下水涵養量に相当)が消費されました。

生態系サービスへの支払い2の図

この取り組みも、地域で拡大を見せており、白川中流域で生産された減農薬減化学肥料栽培(県の基準の2分の1)のよるお米を「エコ米」として区別し(※6)、JA菊池内の有志の生産者が「水の恵み」ブランドとして、直売を中心に販売しています。熊本市でも、ウォーターオフセットの普及促進を図っています。

ウォーターオフセットの循環図

※1 熊本市、菊池市、宇土市、合志市、城南町、富合町、植木町、大津町、菊陽町、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町の14市町村(976,027人、面積1041m2、平成17(2005)年)
※2 江津湖は、豊富な地下水量がもたらす湧水が湿地帯を形成していた場所に、江戸時代に堤防で湧水を堰き止めて作った人工湖。江津湖は日量約40万トンの湧水量を誇る熊本市の水のシンボルで、市民の憩いの場であり、貴重な生態系も有する。市川教授は、平成3(1991)年より江津湖の湧水量などを調査している。
※3 熊本日日新聞 2009年7月10日朝刊「地下水量回復の兆し」
※4 地域の推定涵養量をお米の生産量で割り、お米1トンあたりの涵養量をウォーターオフセット量としている。例えば、東海大学・市川教授の調査では、平成20(2008)年度にエコ米生産を行った白川の4地域(上陣内、中陣内、下陣内、鍛冶)における推定涵養量は588.7万m3となっており、これを同地域でのエコ米の生産量225トンで割るとエコ米1kg当たりのウォーターオフセット量は約26トンとなるとされている(NPO 法人環境ネットワークくまもと(2009)『NPO 法人環境ネットワークくまもと通信』No.70 2009.7.15 p.6)。
※5 一般の農家が行っている農薬や化学肥料を通常通り使用する栽培方法。自治体等が地域ごとに定める「栽培指針」等に沿って行われている。
※6 JA菊池では、全量を慣行栽培米と区別してJAとして出荷する仕組みはまだできていないため、有志の生産者グループが一部の農産品について「水の恵み」ラベルを貼り、差別化している。なお、「水の恵み」はお米のみならず、野菜類も対象となる。

●参考文献
・熊本県(2008)『熊本地域地下水総合保全管理計画 資料編』
・ソニ−株式会社 環境推進室(2008)「使った地下水は田んぼから還す ソニーが地域とはじめた”生きた水”の循環」『eco press』pp1-5
・ソニーセミコンダクタ九州(2008)『環境報告書』
・武森雄志・市川勉(2008)「白河中流域農地における湛水による地下水涵養の効果評価について」東海大学紀要産業工学部1、p53-59

●協力
ソニーセミコンダクタ九州株式会社
https://www.sony-semiconductor.co.jp

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