●開始時期:平成9(1997)年
●場所:福岡市及び、大分県、熊本県の水源地域17市町村
●事業主体:福岡市水道局
福岡市は地理的に水資源に恵まれず、政令指定都市では唯一一級河川を市内に持っていないため、海水淡水化や市域外の筑後川からの導水、市域内外でのダム開発(8つのうち市外に5つ)等、これまで様々な水資源開発を行ってきました(下図)。
しかし、そのダム周辺の地域では、過疎化や林業従事者の高齢化、木材価額の低迷などにより、森林が荒廃して、森林の持つ水源かん養機能が低下し、将来における安定的な水源の確保が難しくなってきています。
このため平成9(1997)年、福岡市では福岡市水道水源かん養事業基金を設置し、先行する豊田市(※1)の例を参考に、水道使用量1トン当たり1円(水道会計から0.5円と、福岡市一般会計からの0.5円)の積み立てを10年間行い(基金残高は平成20(2008)年末現在約10.6億円)、現在は年間約1億円を以下の各種事業に活用しています。
基金を財源に、水源林の整備や水源地域との交流事業などを行うことにより、水道水源のかん養機能の向上や水源地域の活性化、上下流の連携と相互協力関係の強化を図ってきました。また、「蛇口の向こうに水源地が見える」をモットーに、下流に住む福岡市民が水源地や水の大切さを理解できるような事業も進めています。
○水源林の整備
市内水道専用ダム(曲渕、脊振、長谷)周辺の集水域(※2)において、広葉樹造林や下草刈り、間伐等の計画的な水源林の整備を行っています。特に、市内のダムについては、水道局が集水域内の山林などを取得し、水源涵養機能を高めるとともに、乱開発などによる水質の汚濁防止に努めています。平成20(2008)年度末現在、3ダムの集水面積の約3割(505ha)を福岡市水源林として所有しています。この管理を適切に行うため、平成16(2004)年度に向こう60年間にわたる「福岡市水源涵養林整備事業計画」を策定し、計画的な整備に取り組んでいます。
1. 曲淵ダム:森林面積は約1000haです。うち約4割が福岡市所有の水源林です。人工林の割合は約60%で、人工林のうち約6割が40年生未満の若齢林です。
2. 脊振ダム:森林面積は約510haで、そのうち約5割は私有林が占めています。福岡市の所有はわずか4%です。人工林が7割を占めています。
3. 長谷ダム:森林面積は約130haで、そのうち約4割を福岡市が所有しています。人工林が約3割を占めており、全体の約8割が40年生以上の高齢林です。
市外の水源地域については、地元自治体と連携・協力し、水源林整備を促進しています。
○水源地域交流事業
水源地域との連携を図るため、水源地域において市民参加による育林活動や芋ほり・もちつきなどの交流事業を実施するとともに、市民団体が実施する植樹、下草刈りなどの育林活動や交流事業について経費の一部(経費の2分の1、上限50万円まで)を助成・支援しています。
【写真】いも掘りと交流会 ©福岡市水道局
○福岡都市圏流域連携基金(※3)負担金
福岡都市圏広域行政事業組合が設置する基金へ負担金を支出し、都市圏の他の自治体と協力して都市圏共通の市外の水源地域への各種取り組みに協力しています。
※1 豊田市水道水源かん養事業基金:「1トン1円」のコンセプトで、水道料金に上乗せ徴収して積立てる方式を取っている。そのため、水道利用者は「1トン1円」を水道料金で確認することができる。福岡市は、「上乗せ」方式ではない点が異なる。
※2 雨が降ると山をつたって水が流れ、ダムに水が貯まる。そのダムに集まる雨の降る区域のこと。
※3 平成17(2005)年度設置。福岡都市圏の共通水源地域・流域への取り組みを、都市圏の自治体(19市町)が一体となって行う。水源地域との交流推進事業や水源林整備への支援、環境保全活動を行うNPO等団体への助成等を実施している。年間基金額6,000万円(積立額3,000万円、事業費3,000万円)のうち、福岡市負担額が約4,000万円(かん養事業基金から3,200万円、一般会計から800万円)。
●参考文献
・梶返恭彦(2008)「水源林の整備と水源地域との交流、連携について―福岡市水道水源かん養事業基金の取り組みー」蔵治光一郎編『森林環境税は森を救えるか―第20回日本の森と自然を守る全国集会よりー』東京大学演習林出版局
・福岡市水道局「豊かな水源林の育成をめざして〜福岡市水道水源かん養林整備について〜」
●協力
福岡市水道局計画部流域連携課