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魚のゆりかご水田プロジェクト

●開始時期:平成18(2006)年 
●場所:滋賀県内26地域約111ha(平成21(2009)年度)
●事業主体:滋賀県

背景

滋賀県の琵琶湖周辺の田んぼは、かつてコイ、フナ、ナマズなどの湖魚の産卵育成の場でしたが、農業活動においては非常に不利な地域で、農家は琵琶湖の水位の変動による浸水被害に悩まされたり、湿田であるために田舟の使用を余儀なくされたりしていました。昭和30年代後半から40年代後半にかけて圃場整備事業が進展するなかで、大区画化、乾田化が図られ、農業の生産性は大幅に向上しました。しかし、琵琶湖と水田の間の魚類移動経路は分断されたため、田んぼの魚類産卵繁殖・生育機能は失われ、さらに外来魚被害も加わり、在来魚が激減してしまいました。特に、琵琶湖の固有種であり、伝統的特産物「ふなずし」の原料ともなるニゴロブナの漁獲量は、この40年で10分の1以下にまで減少しています。

ニゴロブナの漁獲量の推移の図

そこで、滋賀県では、人や生き物が安心して暮らせる田んぼの環境を取り戻し、「生き物と人々でにぎわう農村づくり」を目指して、琵琶湖と水田の間を魚類が行き来し、産卵繁殖していたかつての水田機能を回復させるために平成18(2006)年から魚道の設置に取り組んでいます。

概要

平成13(2001)年に水田の魚類産卵繁殖機能を確認する生態学調査をした結果、水田は水深が浅く、産卵行動とふ化に適した水温に保たれる上、ブラックバスなどの外敵がいないため、稚魚の生存率が平均で30%と琵琶湖沿岸のヨシ帯よりも高いことがわかりました。また、水田は稚魚の餌となるプランクトンが豊富であるため、孵化後約1か月で遊泳力が備わる全長2cmに達することも確認されました。

平成16(2004)年には、住民参加により、間伐材を活用し排水路の水位を階段状に10cmずつ堰上げ、水田の水面と同水位にする「排水路堰上げ式水田魚道」を設置しました。

魚道(佐賀県提供)

【写真】魚道 ©滋賀県

平成18(2006)年には、「魚のゆりかご水田環境直接支払パイロット事業」として、魚道設置によって琵琶湖からの魚類の遡上が可能になった水田で、従来の営農活動以外に魚類の遡上・産卵、稚魚の成育に必要な水管理と魚道の維持管理などに取り組む団体に3,500円/10aの環境直接支払を実施しました。翌年からは、国が『世代をつなぐ農村まるごと保全向上対策』(滋賀らしい農地・水・環境保全向上対策)という形で事業を引継ぎ、4,400円/10aが支払われるようになりました。

魚のゆりかご水田米

魚のゆりかご水田米のロゴマークまた、滋賀県ではこの事業に取り組む農家への支援策として、その水田で作られたお米を「魚のゆりかご水田米」としてブランド化する取り組みを行っています。ロゴマークは、平成19(2007)年に公募によって決定し、平成21(2009)年2月に商標登録しています。

この名称を使用するためには、以下の約束事が守られていなければなりません。
(1)魚毒性の最も低い除草剤が用いられ、散布後数日間は水田系外への流出と魚の進入を防ぐため水尻の止水を確実に行うこと。
(2)魚の生息環境に影響を与えないよう、適切な肥培管理を実施すること。
(3)中干しの落水時に水田から排水路への稚魚流下促進に取り組んでいること。
(4)農業排水路等に設置された魚道を利用して産卵のために遡上してきた在来魚が水田で繁殖していること。

「魚のゆりかご水田米」の名称の使用基準では、県で推進している「環境こだわり農産物」 (※1)の認証は必須としていませんが、「環境こだわり農産物」の認証もできる限り受けるように指導しています。その結果、現在販売されている「魚のゆりかご水田米」については、すべて「環境こだわり農産物」の認証を受けており、この二つの認証を併せ持つことで、化学合成農薬・化学肥料の使用量の5割削減と生きものに配慮した営農活動、魚毒性の低い除草剤の使用が実現されています。

魚のゆりかご水田プロジェクト及びブランド米に取り組む地域数と面積の図

魚のゆりかご米は、慣行栽培米(※2)より高い値段で販売されてきました(下図)。平成20(2008)年度産より、県内大手スーパーでも、プレミアム価格にて販売されています。

生態系サービスへの支払いの図

この取り組みの効果としては、稚魚の流下する姿を見て水田と琵琶湖との強いつながりを再認識させられたという声が聞かれます。また、小学生による環境学習会なども開かれました。各集落で環境こだわり米の取り組みが増え、地域の農業振興とともに環境保全活動をはじめとする様々な地域活動につながっています。

ナマズの遡上(滋賀県提供)

【写真】ナマズの遡上 ©滋賀県

※1 (1)農薬や化学肥料の使用量を半分以下に減らして栽培する、(2)琵琶湖や周辺の環境にやさしい技術で栽培する、(3)いつ、どんな農薬や化学肥料を使用したかきちんと記録する。以上3つの約束事を守り、滋賀県が認証した農産物。
※2 一般の農家が行っている農薬や化学肥料を通常通り使用する栽培方法。自治体等が地域ごとに定める「栽培指針」等に沿って行われている。

●参考文献
・滋賀県(2006)「滋賀県ニゴロブナ資源回復計画」
・滋賀県農政水産部農村振興課にぎわう農村推進室「魚のゆりかご水田プロジェクト〜湖魚が産卵・生育できる水田環境を取り戻そう〜」
http://www.pref.shiga.lg.jp/g/noson/fish-cradle/index.html
・寺林暁良(2010)「『魚のゆりかご水田』による環境再生・地域再生ーJAグリーン近江と栗見出在家町ー」、調査と情報第16号、農中総研

●協力
滋賀県農政水産部農業推進課にぎわう農村推進室

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