冬のトキ(佐渡市提供)
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トキの野生復帰と米づくり

●開始時期:平成17(2005)年 
●場所:新潟県佐渡市
●事業主体:新潟県佐渡市

背景

トキは、美しい羽を目的とした乱獲により、明治33(1900)年頃から急激に数を減らしました。大正15(1926)年に絶滅されたと言われましたが、昭和40(1965)年に佐渡で2羽のトキが発見されたのをきっかけに、人工飼育や佐渡トキ保護センターの建設(昭和42(1967)年)など、懸命な保護活動が続けられました。しかしながら、戦中、戦後の森林の大規模伐採と開墾、食糧増産のための農薬の使用、田んぼの区画整備(排水路のコンクリート化)などにより、トキの餌生物が田んぼから姿を消したことも要因となり、トキの個体数が回復することはありませんでした。

一方で、魚沼産に次ぐ高級品で、環境保全型農業を行うインセンティブの無かった佐渡のコシヒカリは、平成16(2004)年8月の台風の影響で佐渡産米がほぼ全滅した後、市場での競争力を回復するのが困難で、毎年5,000t(21%)ずつ売れ残るようになりました。

米価の下落と販売不振による米の生産調整の強化が、耕作放棄地を生み出し、トキのすむ佐渡の里山の崩壊につながると考えた佐渡市では、環境省が平成17(2005)年に策定した「環境再生ビジョン」の目標である、平成27(2015)年に島の東側にトキ60羽の定着を目指すため、平成20(2008)年に「トキの餌場確保」と「生物多様性の米づくり」の2つを目的に掲げた環境保全型農業を認定する「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」を立ち上げました。

朱鷲と暮らす郷づくり認証制度

佐渡市の環境保全型農業である「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」は、1. 栽培期間中に使用する化学農薬、化学肥料を慣行栽培(※1)に比べて5割以上削減(5割減減栽培)とし、2. 冬期湛水、江・魚道・ビオトープの設置などを実施する「生きものを育む技術」を採用していて、3. 栽培者がエコファーマーの認定を取得していることが求められます。

水田・水路での江の設置(佐渡市提供)

【写真】水田・水路での江の設置 ©佐渡市

「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」のラベル画像これらの要件を佐渡市が現地を確認した上で認証を受けた田んぼで栽培されるお米は、市が認定する「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」のラベルを貼ってインターネットのほか、首都圏のスーパーや米穀店を中心に3,000〜3,500円/5kg程度(参考:慣行栽培米1,580円/5kg)で販売されています。また、「佐渡トキの田んぼを守る会」の生産者による「トキひかり」(朱鷺と暮らす郷づくり認証米)は3,600〜3,900円/4.5kgで売られるなど、ブランド化が進んでいます。

生態系サービスへの支払い1の図

この取り組みの結果、佐渡産コシヒカリの認知度が向上し、平成20(2008)年度は佐渡産米が完売し、環境保全型農業に取り組む農家も増え、同年より3割減農薬・3割減化学肥料栽培を全島規模で実施するようになりました。また、平成24(2012)年には、朱鷺と暮らす郷づくり認証制度の要件の一つでもある、5割減減栽培を全島で実施することが予定されています。

市は、認証制度の補助金として、10aあたり1,000円を交付しています。さらに、出荷する農家には、150円/1俵(1,200円(8俵)上限)が支払われます。

認証米に取り組む農家の収入は1俵あたり1,000円程度向上しました。認証米の販売を通して、トキの餌場や餌生物の増加が図られることとなり、環境と経済が循環する効果が表れ、認証制度の面積も平成20(2008)年の420haから、平成21(2009)年には860ha、平成22(2010)年は1,200ha(申請中)と拡大しています。

佐渡市の「朱鷲と暮らす郷づくり認証」を受けた田んぼの面積の図

また、平成22(2010)年から6月の第2日曜日と8月の第1日曜日を「生きもの調査の日」とし、地域全体で「田んぼ一枚一枚の生きもの調査を行い、全島マップを作成し、トキが餌を食べたかどうか調査することにしています。そうした活動などを通じて、農家が生物多様性保全に視点を当てた農業を実践するとともに、「安心を市が保証していく」としています。

田んぼの生きもの調査(佐渡市提供)

【写真】田んぼの生きもの調査 ©佐渡市

1Kg1円募金

朱鷺と暮らす郷づくり認証米の販売では、米の販売1kg/1円の佐渡市トキ環境整備基金への募金がされており、平成20(2008)年産米では約130万円の募金が集まり、トキの生息環境の向上に役立てられています。これは作る農家、販売するお店、そして消費者のトキを守る思いがつながることを目標に実施されており、多くの米穀店の協力のもとに実施されています。

この取り組みは、朱鷺と暮らす郷づくり認証米以外にも広がっています。平成22(2010)年4月30日には、佐渡産の「コープ新潟佐渡コシヒカリ」(※2) を対象に、販売した米1kgに付き1円を「佐渡市トキ環境整備基金」に寄付する連携協定が、佐渡市と生活協同組合連合会の間で調印されました。この銘柄は、佐渡で生産される米の約1割に相当する2,650t(2009米穀年度・玄米実績)が販売されていることから、平成22(2010)年5月〜12月で140万円程度の募金金額を想定しています。この米の販売を通して、生物多様性の大切さを浸透させる取り組みや、産地と消費者の相互理解を深めるための産地視察や交流も推進していくこととしています。

生態系サービスへの支払い2の図

※1 一般の農家が行っている農薬や化学肥料を通常通り使用する栽培方法。自治体等が地域ごとに定める「栽培指針」等に沿って行われている。
※2 関東信越の8生協で構成されるコープネット事業連合の会員生協が一部店舗と宅配サービスで販売している。一部会員生協では、認証米の取り扱いもあるが、ここで対象となっているのは、主力商品の慣行栽培による佐渡産コシヒカリ。

●参考文献
・堅田 恵, 田中 裕人 (2008) トキの野生復帰を目的とした減農薬・減化学肥料栽培米の評価に関する研究 , 農業情報研究, 17: 6-12
・斎藤真一郎(2009)「トキと共に生きる! !生物多様性の島をめざして」環境を考える経済人の会21 2009年度第6回朝食会2009年12月15日
・生活協同組合連合会コープネット事業「佐渡トキ保護活動を目的として、寄付募金や相互交流を拡大 新潟県佐渡市とコープネット事業連合、コープにいがたが協定を締結」2010.4.30
・農業協同組合新聞「佐渡トキ保護活動へ米1kgに付1円を寄付 コープネット」 2010.4.28 http://www.jacom.or.jp/news/2010/04/news100428-9071.php

●協力
新潟県佐渡市農林水産課生物多様性推進室

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