14 野生鳥獣による生態系への影響が懸念される地域(ニホンジカ及びイノシシ)

  • 14-1 ニホンジカの分布とその拡大予測

    14-1 ニホンジカ

  • 14-2 イノシシの分布とその拡大予測

    14-2 イノシシ

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概要

農業及び生態系などへの被害をもたらすおそれのあるニホンジカ及びイノシシが現在分布している又は今後分布する可能性のある地域を示した地図。

考え方

ニホンジカおよびイノシシは、高密度に生息して採食や踏みつけ等によって広く農業被害及び生態系被害等を及ぼしている。このため、現在分布が確認されている地域では、被害防止対策を実施する必要があるとともに、今後分布が拡大する可能性が高い地域については、将来の被害防止に備えた早期の対策が求められる。

この地図では、実際の分布記録のデータにより、1978年以降に拡大傾向であることを示すとともに、森林率及び積雪を考慮した上で、今後の分布拡大の可能性を簡易に予測した。

データ及び加工方法

【実際の分布記録データ】
実際の分布記録は以下のデータを用いた。

1.自然環境保全基礎調査 第2回動物分布調査 哺乳類(1978、環境省)
2.自然環境保全基礎調査 第6回哺乳類分布調査(2003、環境省)
3.狩猟及び捕獲許可(有害鳥獣駆除および特定鳥獣保護管理計画)による捕獲位置報告 2007-2009年度分

なお、狩猟及び捕獲許可による捕獲位置報告は、都道府県及び環境省地方環境事務所から報告のあった2007-2009年度の狩猟者等による捕獲位置のデータを使用している。このため、都道府県等により報告の程度に差が見られたり、一部に誤報告と考えられるデータ(例. 関東平野の埼玉・東京・千葉県境、愛知県の半島部等のデータ)や生息するが報告のない地域(エゾジカの生息する北海道等)がある。このように、2007-2009年度の捕獲位置データについては精度にばらつきがあることに留意する必要がある。

また、地図化にあたっては調査精度の異なる3つのデータから分布拡大の様子をとらえるため、以下の処理をした。

  • 比較的精度の高い自然環境保全基礎調査のデータについては、1978年・2003年ともに出現記録の見られる地域を黄色で示し、2003年にのみ出現記録のある地域を橙色で示した。なお、1978年のみ出現していた地域については、少数であること、この地図では拡大状況を把握することが主な目的であることから表示していない。
  • 「2007-2009年度 狩猟及び捕獲許可」のデータについては、2003年に出現記録のない地域のみを出力し、「2007-9年度の拡大範囲」として赤色で示した。

【分布拡大の予測】
分布の周辺地域では生息密度が小さく、分布記録を得にくいため過小評価となりがちである。こうした分布データの周辺部を補完し、分布記録は無いが現在生息している可能性が高い、または、近い将来に分布が拡大する可能性の高い地域を抽出するため、以下の評価を行った。

直近のデータで調査精度の高いと考えられる2003年の自然環境保全基礎調査の分布データをもとに、動物の移動の困難さを考慮した移動距離(移動コスト)を算出し、既存分布データ周辺の分布拡大の可能性の高い地域を抽出した。

移動の困難さのパラメータとして、ニホンジカ・イノシシ両種に共通してもっとも大きな制限要因となると考えられる森林率と最大積雪を用いて、森林の連続性に関する既存のモデル研究等 注1)や積雪の影響に関する知見等を参考にしながら、下表のとおり移動コストの値を設定した。

移動コストの値

森林率の算出には「地図3.森林が連続した地域」と同様の手順で自然環境保全基礎調査の現存植生図から作成した森林分布データを用いた。

ただし、ここではニホンジカ・イノシシの移動経路・生息地としての評価のため、植生自然度6~9の凡例の地域(植林地も含む樹林)を「森林」と定義している。

この森林分布データとニホンジカ・イノシシの分布記録に用いられている5倍地域メッシュ(約5km四方)との重なりから森林率を算出した。

一方、積雪については以下に収録された3次メッシュ(約1km四方)毎の年間の最大積雪深の推定値(1970-2000年の平年値を元に算出)を用いた。

なお、イノシシ・ニホンジカの分布限界と積雪深との関係は過去から1m、50cm、30cm等の様々な議論がある(環境省 1978)。 また近年、気候変動等の影響により、多雪地での積雪量が減少傾向と考えられることから、積雪による移動への影響も少なくなっている可能性もある。また、積雪の多い地域であっても、実際には針葉樹林などで雪を避けて生息することがあるため、針葉樹林が積雪の影響を緩和している場合もある。積雪の影響については、これらの影響も考慮すべきかとの議論もあるが、ここでは仮に前記の移動コストを利用している。

こうして出力した分布拡大の可能性データのうち、2007-2009年の出現地点の概ね8割をカバーするコストの範囲を(深)緑色で表現している。2007-2009年の出現地点には精度のばらつきが見られるが、概ねこの範囲では近年生息している可能性が高い地域である。

注1)既存のモデル研究については「地図3.森林が連続している地域」の項目を参照。

【データ】

  • 自然環境保全基礎調査 第5回植生調査 現存植生図(平成5~10年、環境省)
  • メッシュ気候値 2000 (2002年、気象庁)

参考)環境省(1978) 動物分布調査報告書[哺乳類].

地図により表現される生物多様性の状況

【ニホンジカ】
1978年と2003年の分布を比較すると、1978年に分布していた地域を中心にニホンジカの分布は大きく拡大しており、新潟県、福井県、石川県などこれまで分布が見られなった地域にも広がっている。今後は、積雪の少ない西日本や東日本の太平洋側では、分布が拡大していく可能性が高いため、分布が拡大し生息密度が高くなる前に早急な対策を取っていくことが求められる。

また、北海道東部から北陸地方にかけての日本海側の豪雪地域では、積雪が制限要因となってニホンジカが生息できないと考えられていたが、享保・元文諸国産物帳の記録などによると、江戸時代には山形県や能登半島・茨城県等、現在は分布が見られない地域においても記録がある。現在は過去の狩猟・駆除等の影響で縮小した分布が回復していく過程にあるとも考えられる。このため、分布拡大の可能性が低い地域であっても注意が必要である。

【イノシシ】
イノシシは既に西日本のほぼ全域に分布しており、1978年から2003年にかけて、栃木県、群馬県、新潟県、長野県などを中心に分布が拡大している。今後は、積雪の少ない東日本の太平洋側などを中心に分布が拡大していく可能性が高いため、分布が拡大し生息密度が高くなる前に早急な対策を取っていくことが求められる。

また、東北地方日本海側や北陸地方の豪雪地域では、積雪が制限要因となってイノシシが生息できないと考えられていたが、享保・元文諸国産物帳の記録などによると、江戸時代には山形県や岩手県北部等、現在は分布が見られない地域においても記録がある。現在は過去の狩猟・駆除等の影響で縮小した分布が回復していく過程にあるとも考えられる。このため、分布拡大の可能性が低い地域であっても注意が必要である。

なお、北海道にイノシシは自然分布しないが、1980年代に道東地域で飼育個体が放されて野生化し、各種の被害が生じたため駆除が行われている。現在、分布の拡大は止まっている模様であるが根絶はできていない。

データの
ダウンロード
データの出典

【分布記録】

  • 自然環境保全基礎調査 第2回動物分布調査 哺乳類(1978、環境省)
  • 自然環境保全基礎調査 第6回哺乳類分布調査(2003、環境省)
  • 狩猟及び捕獲許可(有害鳥獣駆除および特定鳥獣保護管理計画)による捕獲位置報告 2007-2009年度分

【環境データ】

  • 自然環境保全基礎調査 第5回植生調査 現存植生図(平成5~10年、環境省)
  • メッシュ気候値 2000 (2002年、気象庁)
データに関する注意事項等
  • 狩猟及び捕獲許可(有害鳥獣駆除および特定鳥獣保護管理計画)による捕獲位置報告は、GISファイルに含まれない

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