3 森林が連続している地域

  • 3-1 森林の連続性(植林地を含めた場合)

    3-1 植林地を含めた場合

  • 3-2 森林の連続性(植林地を除いた場合)

    3-2 植林地を除いた場合

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概要

森林がどの程度連続的に分布しているかを示した地図。植林地の有無により2種類で表現した。

考え方

森林の分断化・孤立化にともない、そこに生息する個体群が分断化・孤立化されると、動物の個体群の存続に大きな影響を与えると考えられている。クマなど一定以上の森林面積を必要とする種は、森林の分断化によって生息が困難になる。このため、広い行動圏を有する種、食物連鎖の上位に位置する種、大径木の樹洞など森林内にわずかしか存在しない環境要素を必要とする種などを含めて、広く連続した森林は多様な動物の生息環境を含んでおり、森林に生息する多くの動物にとって、森林はなるべく広く、連続して分布していることが望ましいと考えられる。

生息に必要な連続性のレベル(生息に必要な最小面積や移動可能距離)は種によってさまざまであるが、この地図では「なるべく広い森林が隣接している地域」を抽出した。

植林地は適切な管理がされない場合には、自然林などと比較して生息・生育する生物の種類や数が少ないと言われているが、対象の種や管理状況によっては評価が異なる。例えばクマ類等の大型獣の場合、移動経路としてであればほとんどの植林地は利用可能であると予想されるが、採食場としては実のなる木が少ない等の状況から一般に生息には適さないであろう。ただし、管理状況によってはキイチゴ類等の液果や昆虫が豊かでクマ類の採食場としても使用されることがあるなど、生物や管理状況によって植林地の生物多様性保全上の役割は異なる。このように、様々なケースが想定されるため、植林地の有無で2種類の地図を作成した。

既存のモデル研究1)2)では、連続性には面積的な閾値が存在するとされており、一定範囲内において特定の土地利用が占める面積が一定の値(閾値)を下回ると、急激にその連続性が失われる。先行研究では約60%が連続性の閾値とされている(BOX参照)。

以上のことから、この地図では、便宜的に下記の4段階を設けて評価を試みた。

  • 閾値を大幅に上回る森林率の地域(80%、地図の緑色の地域):充分に連続性が保たれている地域
  • 閾値を上回る地域(60%以上80%未満、地図の黄緑色の地域):連続性が比較的保たれているが、これ以上森林率が下がると分断化が進む危険性が高い地域
  • 閾値を下回る地域(40%以上60%未満、地図の黄色の地域):既に連続性が失われつつあり、森林率の向上が求められる地域
  • 閾値を大幅に下回る地域(40%未満、地図の橙色とピンク色の地域):既に大きく連続性が損なわれている地域
データ及び加工方法

地図3-1では自然環境保全基礎調査の現存植生図における植生自然度6~9の森林地域(植林地・自然林・二次林)を、地図3-2では植生自然度7~9の森林地域(自然林・二次林)を対象として、森林の連続性を評価した。

現存植生図(ポリゴンデータ)を、最大面積法(グリッド内で森林が最大面積を占める場合にそのセルの値を森林とみなす)によって100mグリッドの森林地域の分布データに変換した。フォーカル解析(BOX参照)によって、それぞれのセルの周囲100×100セル(計10,000セル、10×10kmで、2次メッシュとほぼ同サイズ)における森林率を以下のとおり算出した。

森林率(%)=(森林のグリッド数/陸域※のグリッド数)×100

※陸域は、海域と湖沼を除いた地域

【データ】

  • 自然環境保全基礎調査 第5回植生調査 現存植生図(平成5~10年、環境省)
地図により表現される生物多様性の状況

植林地を含む森林の連続性である地図3-1をみると、脊梁山脈に沿って森林率80%以上の地域(地図上の緑色)が概ね連続的に分布している。森林の連続性の低い地域は関東平野等の平野部が大部分であり、60%程度まで含めれば、国土の大部分で森林が連続している。国土がこれほど大規模な森林で広く覆われている国は少なく、連続した森林は、日本の高い生物多様性を支えていると考えられる。

一方、植林地を除いた評価である地図3-2をみると、森林率80%以上(地図上の緑色)の地域は、北海道や東北・本州中部の山地沿いに広く分布している。こうした地域は、地図1「国土を特徴づける自然生態系を有する地域」とも重なり、生物多様性保全上の核(コア)となる重要な地域と考えられる。また、上記の自然林の森林率の高い山地の周辺には、森林率60-80%の連続性が比較的保たれている地域や、地図3-1で見られる植林地も含めた森林が連続的に広がっている。こうした地域は、自然林どうしをつなぐ回廊(コリドー)や緩衝地域(バッファ)としての重要性を有する。

一方、九州や四国、紀伊半島を中心に、中部地方の岐阜県から東北地方までの太平洋側の地域には、植林地を含む地図3-1では森林率80%以上(地図上の緑色)の地域が広がるが、植林地を除く評価である3-2では60%以下の地域が広がっている。こうした地域では、多くの森林が植林地であると考えられる。これらの地域では、植林地の適切な管理を進めるとともに、管理の担い手がいない場所については必要に応じて自然林に再生し、生物の生息・生育環境としての質を高めていくなど当該地域に応じた管理を行っていくことが望ましい。

BOX

連続性の閾値:
連続性の閾値はパーコレーション理論(Percolation theory)で提唱されたものである。一定面積のグリッドマップ(セルに区分されたマップ)において、ある要素A(ここでは森林)が全てのセルを占める場合は、セル同士は完全に連続し大きな1つのパッチとなる。ここから徐々に要素Aのセルをランダムに減少させていくと、徐々に小さいパッチに分断化していき、パッチ数も増えていく。そして、ある閾値を境にしてパッチ数は急激に増えることになる。この理論によって導き出された連続性が急激に低下する要素Aが全セルに占める割合pの値(閾値)はp0.59である。

この閾値は、地図の範囲(もしくはセルのサイズ)が変わると多少変動するが、地図の範囲が100×100セル以上であれば、閾値は40~60%(p=0.4~0.6)の間に収まるとされている。また地図の範囲を変えても、必ず閾値は存在する。

参考文献:
1) Gardner, R. H. B. T. Milne, M. G. Turner, and R. V. O'Neill (1987) Neutral models for the analysis of broad-scale landscape pattern. Landscape Ecology 1: 5-18.
2) S. M. Pearson and R. H. Gardner (1997) Neutral Models: Useful Tools for Understanding Landscape Pattern. In "Wildlife and Landscape Ecology, Effects of Pattern and Scale. Springer."
3) M. G. Turner, R. H. Gardner and R. V. O'Neill (2001) Landscape Ecology in
Theory and Practice: Pattern and Process. Springer-Verlag.

フォーカル解析:
あるセルを対象に、その周囲の計算範囲を定義して、その内部における合計値や平均値などを計算する手法。例えば、下図では中心のセルの値を、周囲49セル(7×7)にある森林のセル(緑色のセル。以下の図では25セル)の占める割合で算出している。
(なお、下図では計算範囲の全てを母数としているが、地図での実際の計算では水域(海など)が含まれる場合があるため、母数は全計算範囲のうちの陸域が占める面積である)

フォーカル解析
データの
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データの出典

【森林の連続性データ】

  • 自然環境保全基礎調査 第5回植生調査 現存植生図(平成5~10年、環境省)より解析
データに関する注意事項等

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