T.調査の概要

1.調査の目的

自然環境の中でも基本的な構成要素である植生については、第1回から第3回までの自然環境保全基礎調査では、下記のような調査を行い、その結果1/50,000現存植生図が基本図として作成された。現存植生図に表示された各群落は現地調査等により特徴が示されており、これらの資料は、各種計画のための自然環境保全上の基礎資料として活用されている。

第4回自然環境保全基礎調査植生調査では、広域性・均質性・同時性・周期性の面で優れた地球観測衛星画像の解析によって抽出した植生改変地のデータを利用して、都道府県委託調査により現地調査と資料調査を行い、既存の1/50,000現存植生図の経年変化状況を把握し、図示内容の修正・補完を行った。

本調査は、これらの調査データと国土数値情報などの既存情報を組合せ総合的な解析を行い、現在の植生からみた自然環境とその経年的動態について明らかにすることを目的として実施した。

 

*)自然環境保全基礎調査・植生調査の変遷

第1回調査

昭和48年度(1/200,000都道府県別現存植生図、同植生自然度図)

第2回調査

昭和54年度(1/50,000現存植生図、都道府県別植生調査報告書、植生調査報告書全国版)

第3回調査

昭和58〜61年度(1/50,000現存植生図、都道府県別植生調査報告書、植生調査報告書全国版、1/3,000,000現存植生図全国版)

  

2.植生調査の概要

(1)調査区分

植生調査全体調査は、大きく次の4つの工程に分けて実施した。

1 衛星画像解析による植生改変地の抽出

2 都道府県委託による既存資料や現地調査に基づいた植生改変地の確認、群落の現況把握

3 1/50,000現存植生図をマイラーに複写したものに、植生改変地をオーバーレイして、1/50,000植生改変図を作成

4自然公園の管理情報、国土数値情報等を組み合わせた総合解析

 

(2)調査対象地域

北方領土及び一部の離島を除く国土の全域を対象とした。

 

(3)調査実施期間

平成元年度から平成5年度の5ヶ年で実施した(図T.2.1)。

なお、これに先立ち昭和62年度と昭和63年度に衛星画像を活用した植生調査手法についての検討を行った。

 

(4)衛星画像解析による植生改変地の抽出

この調査は、すでに刊行された現存植生図の表示内容について、第3回調査以降の経年変化に応じて更新するための基礎情報を、リモートセンシング技術を活用して収集したものである。

調査の工程は経年変化画像の作成、画像判読、判読結果の表示・集計に大別され、図T.2.2に示す調査の流れに沿って実施した。経年変化画像の特性は、次に示すような特徴をもっており、全国の植生改変を画一的な技術で抽出する方法としてすぐれている。口絵写真に白神山地と仙台市周辺の解析画像を示す。

[経年変化画像の特徴]

経年変化画像は、凡そ5年間の間隔をおいて撮影された2時期のランドサットデータを合成して作られており、撮影時期の古い旧画像を青に、撮影時期の新しい新画像を赤に発色し画像を作成した。このような画像作成により、経年変化画像上では伐採、造成などにより植物量が減少したところが赤く、逆に遷移や植林木の生長などにより植物量が増加したところが青く発色している(口絵写真参照)。

また、森林伐採と植生回復による発色の模式例を図T.2.3に示す。

使用したランドサットデータは、旧画像はおおむね第3回調査時点のものを、新画像は都道府県委託調査の前年のものを使用するようにしている。しかし、活葉期に雲のないデータが入手困難な場合には、経年変化期間がずれるケースも生じた。おおむね旧画像は1979年から1984年のものを、新画像は1986年から1990年のものを使用している。

 

(5)都道府県委託調査の内容

衛星画像解析による植生改変地のデータと、1/50,000現存植生図、植生に関する既存の調査研究成果、及び空中写真判読結果等を利用して、資料調査及び現地調査等を行い、第3回調査までに作成した1/50,000現存植生図の表示内容の修正・補完と、これまでに確認されていなかった重要な小群落などを調査し、報告書にとりまとめた。

環境庁の定める調査要綱(参考資料−6)をもとに、委託を受けた都道府県において、植物社会学、植物生態学の専門家等が調査を行った。調査に参画した専門家の名簿を参考資料−8に示す。また、都道府県の調査年度は以下の通りである。

都道府県委託調査年度

平成2年度

北海道(道南地方)、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、新潟県、山梨県、長野県(北部)

平成3年度

北海道(道南地方を除く地方)、神奈川県、長野県(南部)、静岡県、三重県、岐阜県、富山県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県、大阪府、兵庫県、鳥取県、香川県、徳島県

平成4年度

愛知県、島根県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

 

(6)1/50,000植生改変図の作成

1/50,000植生改変図をマイラー焼きし、その上に都道府県委託調査により確認された植生改変地の情報をオーバーレイ図として焼き付け、1/50,000植生改変図を作成した。

 

(7)植生調査とりまとめ

本植生調査のとりまとめは、平成5年度に実施した。調査内容は、植生調査データ及び自然公園等のデータを「標準地域メッシュ・システム」(昭和48年・行政管理庁告示第143号「統計に用いる地域標準メッシュ及び標準地域メッシュコード」)による第3次地域区画(約1km×1kmの「基準地域メッシュ」または「3次メッシュ」ともいう)を用いて数値情報として処理し、国土数値情報、メッシュ気候値、メッシュ統計等と組み合わせて総合解析を行うとともに、基礎情報として数値情報ファイルを全国的なレベルで整備した。

 

3.植生調査とりまとめの概要

(1)情報処理の方法

情報処理は次の4つに大別される。

1 都道府県委託調査によって作成された植生図の修正内容を第2回・第3回自然環境保全基礎調査で作成した植生の数値情報と整合するように読み取り、編集する業務(植生現況磁気データファイルの作成)。

2 第2回・第3回調査で作成した自然公園及び自然環境保全地域について、変更部分の修正を行ったうえで植生情報の属性データの一つとして読み取り、データファイルに編集する業務(自然公園メッシュ磁気データファイルの作成)。

3 既存の国土数値情報、メッシュ気候値等のデータと合せて植物群落の特性について集計・解析する業務。

4 都道府県委託調査により作成された植生改変地情報を数値化し、集計・解析する業務(改変地ファイルの作成)。

の4通りに分けて実施した。この調査の手順の詳細は、図T.3.1に示す方法によった。

自然公園及び自然環境保全地域は、第2回調査で作成した「自然公園及び自然環境保全地域区域図」(縮尺1/50,000)について変更部分の修正を加え、植生調査と同様のメッシュ単位で読み取った。

植生及び自然公園等のデータファイルについて入力状況の点検と誤記の修正をしたのち国土数値情報等を編集し、全国の植生群落の集計や植生の立地等の解析を行った。

 

(2)入力編集情報

植生調査の結果と既存情報を解析するために、植生情報を第3回までの調査結果と同様に約1km2の地域メッシュ(JIS.C6340−1976)を用いて数値情報に置き換えた。表T.3.1に示す各種情報と編集をして、解析用のデータを作成し、磁気テープに収納した。また、都道府県委託調査により作成した植生改変地の情報は都道府県ごとに集計を行い改変地の解析に用いた。

1 改変地の植生情報の読み取り

改変地の植生情報の読み取りは平成2年度以降に都道府県別に作成された縮尺1/50,000植生改変図より、約1km×1kmの地域メッシュ(3次メッシュ)を利用して読み取りを行った。読み取りは各メッシュの中央に図T.3.2のような直径5mmの測定円(約5ha)を設定し、円内で最も広い面積を占める群落をそのメッシュの代表とする手法(小円選択法)を用いた。この読み取り手法は昭和50年度に検討、採用された手法で、小面積の群落の読み取りの欠除を小さくでき、偶然性を是正できることが特徴である。

 

読み取り範囲は現存植生図の図化範囲としたが、細部では次のような条件を定め読み取りを実施した。

現存植生図のメッシュ読み取り条件

イ.メッシュ内の測定円に植生図が一部でも含まれたとき、含まれた範囲について原則を適応する。(例:海岸線など)

ロ.測定円に陸地が含まれても、植生図中に群落が表示されておらず、陸地面積が微細なときは除外する。(例:極めて小さい島など)

ハ.読み取り範囲で、図の読み取りが不可能なときは不明区分を用いて表示する。

ニ.陸域で囲まれるような湖沼、河川については、現存植生図中に該当凡例がなくても開放水域として入力する。

ホ.測定円に2都道府県以上がまたがる場合は、最大面積を占める県のうち、最も広い面積の群落をそのメッシュの代表とする。

群落の数値化は、群落コードヘの置き換えにより行った。このコードは、昭和60年度環境庁作成の「凡例一覧」に準拠したものを用いた。

第4回調査で入力した群落は参考資料−1に示す各群落である。第4回調査では、第2・3回調査で用いたいづれかの凡例に含め、新たな群落凡例の新設は行わなかった。この群落を環境庁「凡例一覧」の色凡例にもとづき、おおむね同一の性格と思われる群落ごとに集約し、これを「集約群落」とした。このまとめ方は、第3回調査と同様とした。集約群落は参考資料−1に表示してある。入力した群落と集計した集約群落の関係の例は表T.3.2に示す。

また、各々の群落は第1回調査で定義した植生自然度への変換が可能であり、メッシュを代表する群落の植生自然度がそのメッシュの植生自然度となる。植生自然度は、表T.3.3のような10段階の表示が行われており、今回の集計でもこれに準拠した。第1回調査で植生自然度10に含めた自然裸地については、第2回、第3回調査と同じく開放水域、不明区分とともにその他として区分した。

また、環境要因との解析では、要因間のクロス集計を行うと該当データ数が少なくなることが予想されることから、植生自然度の区分を同一区分の概念の単位で統合し、例えば森林(植生自然度9・8・7・6の統合)、二次林(植生自然度8・7の統合)、農耕地(植生自然度3・2の統合)のような区分を新たに設定した。逆に、社会環境要因では、植生自然度2を細分し、農耕地と緑の多い住宅地に分けて解析した。

また、植生自然度10の自然草原、植生自然度5・4の二次草原、植生自然度3・2の農耕地(緑の多い住宅地を除く)を加え森林に対して草地を定義した。さらに地上面が植物で覆われていたところを総称し、緑被地とした。緑被地は、森林、草地を合計したもので、植生自然度10から2の合計値から緑の多い住宅を除外したものとした。

2 自然公園及び自然環境保全地域の読み取り

自然公園及び自然環境保全地域については、環境庁資料をもとに、第3回調査で作成した「自然公園及び自然環境保全地域区域図」(縮尺1/50,000)を修正し、この図面によりメッシュ読み取りを行った。

メッシュでの読み取りの対象とした自然公園は、国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園とした。また、自然環境保全地域は国指定の原生自然環境保全地域と自然環境保全地域及び都道府県自然環境保全地域とした。

自然公園及び自然環境保全地域の読み取り範囲は、全国を対象とし、読み取り条件を以下のように定めて実施した。

自然公園及び自然環境保全地域のメッシュ読み取り条件

イ.メッシュ読み取りは現存植生図と同様、小円選択法で行い、測定円内に公園等が過半を占める場合に読み取りを行うことを原則とするが、内水面や海岸部では過半に満たない場合でも、公園等の現存植生が読み取られていれば読み取り対象とする。

ロ.2以上の公園等で、小円が過半となる場合、占有比率の多い公園を読み取る。ただし、都道府県境をはさんで2以上の公園等である場合については、現存植生図を読み取った都道府県の公園等を優先する。

ハ.国立公園、国定公園、国指定原生自然環境保全地域、国指定自然環境保全地域については、その測定円の陸域で最も大きな優占比率の地種区分もあわせて読み取る。

公園などの数値化は、環境庁自然保護局の定めた4桁公園コードと1桁の地種区分コードの5桁で行った。

公園等の入力コードの構成を表T.3.4表T.3.5に示した。また、各公園のコードの詳細は参考資料−2に示した。

 

(3)出力方法

各種集計に用いた植物群落は、環境庁の彩色凡例をもとにして群落コードを付し、入力した。さらに植物群落の分類上、同一群落と思われる群落ごとに集約し(集約群落)、この群落を解析上の集計単位とした。

入力群落と集約群落のコードは、参考資料−1に示す。なお、この報告書で記載した植物群落及び群落コードは、特に注を付さない限り、集約群落の名称・コードを用いた。

また、メッシュを用いた集計値ではデータ数が少ないと解析が困難なことから、第3回調査で解析に用いた13区分の「代表的な植生」を集計単位に利用するとともに、環境要因の解析のために、全国で329ある集約群落のうち、わが国を代表するものとして84選び、これを「主な群落」として解析を行った。

出力処理を行った集計単位は次のとおりである。

・ 集約群落別

・ 植生区分別

・ 植生自然度別

・ 代表的な植生別

・ 主な群落別

・ 地方別(表T.3.6の地方区分による)

・ 都道府県別

・ 国立・国定公園別

・ 原生自然環境保全地域、自然環境保全地域別

・ 都道府県立自然公園別

・ 都道府県自然環境保全地域別

・ 環境要因別(主な群落ごとに年平均気温、年降水量、温量指数、寒さの指数、最寒月気温、最深積雪深、標高、地形、地質、土壌、人口、道路密度、指定地域別に集計)

 

(4)解析に用いたファイルの特性

第3回調査までの数値化解析は、1/50,000現存植生図のメッシュ化により数値を求め集計、作図を行っている。しかし、第4回調査では、従来から行ってきた植生現況3次メッシュファイル(Aファイル)のほかに、経年的な変化を把握するために、都道府県委託調査結果の改変地データを編集した改変地解析用ファイル(Bファイル)と3次メッシュで改変地を作図するための改変地分布図作成ファイル(Cファイル)をさらに加えて作成した。

これらのファイルの特性は、表T.3.7に示す。

 

解析ファイルの利用方法

A.第4回調査植生現況3次メッシュファイル

植生現況の解析に用いる基本的なファイル。第3回調査メッシュ数との比較にも参考としてこのファイルを用いた。しかし、この数値には、実際の改変地の他に図面上で凡例を修正したことによる数量も含まれており、経年的な変化把握には適していない。

ただし、自然公園、国土数値情報等の他の3次メッシュファイルとのクロス集計を行うには、改変地解析用ファイルを用いることができないため、このファイルを用い変化量を算出した。

 

B.改変地解析用ファイル

植生改変量の集計解析に用いた。植生区分修正区域の旧植生、新植生、面積等が入力されている。都道府県単位までの経年変化量を把握することが可能で、Aの植生現況3次メッシュファイルが約100ha単位の集計であるのに対し、このファイルは0.5ha単位で集計することができ、群落単位の解析にも適している。しかし、3次メッシュとの対応がとれないために、他のファイルとのクロス集計は行えない。

植生図の凡例の概念上の修正(例えば、第3回現存植生図ではコナラ群落であった箇所をアカマツ群落に変更するような場合)については、都道府県委託調査報告書に明示されていて他の植生改変地と区別できる箇所については、植生改変地から除外して集計してある。

 

C.改変地分布図作成ファイル

改変地の分布図表示に用いた。Bの改変地解析用ファイルと同様に概念的な植生図修正箇所は除外してある。小円選択法により、小円内に少しでも植生改変地がかかれば、改変地として入力されている。しかし、都道府県委託調査報告書に植生図凡例を修正した箇所が明示されていない場合や、正確に実際に生じた植生の改変と植生図の修正が区分されていない場合が含まれている。これらの数量については今回の調査では修正ができなかったため、そのまま表示してある。

それぞれのファイルによる集計量の比較は、表T.3.8に示すとおりである。

植生改変地面積の集計は、上記のファイルの他に衛星画像の解析時にも集計を行っており、この集計結果も参考に上記の表に付記して示した。この数値は、おおむね5年前後の改変量を集計した数値である。Bの改変地解析用ファイルでは、都道府県委託調査において植生図の修正方法が都道府県により異なるため、画一的な基準により改変地の抽出を行うことができなかった。しかし、衛星画像解析では、植生改変地の抽出区分は粗いものの、抽出範囲や面積は画一的であることから、変化量としては実際の値に近いと推測される。図T.3.3は衛星画像の取得期間による補正を行い、単年あたりの変化量を求めたものである。

また、第3回調査と第4回調査との間では、地形的な変更のためメッシュ総数が140メッシュ増加している。これらの箇所の大半は、水域との境界部にあたり、埋め立てなどの変化によるものである。

 

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