自然の価値を評価する

生物多様性や生態系サービスなどの「自然」の恵みのほとんどは市場で取引される価格が存在しません。このため、これらの価値をお金に換算して、経済的価値を評価することは簡単ではありませんが、市場価値の存在する別のものに置き換えたり、人々に支払い意思額を尋ねたりと様々な評価手法が開発されています。ここでは、生物多様性や生態系サービスの経済的価値の評価手法について紹介します。

自然がもつ価値の分類

生物多様性や生態系サービスなどの「自然」の恵みの価値は、人々が直接または間接的に利用することで得られる「利用価値」と利用しなくてもその自然を守ることで発生する「非利用価値」に分けることができます。利用価値には、「直接的利用価値」、「間接的利用価値」、「オプション価値」が、非利用価値には、「遺産価値」、「存在価値」が含まれます。

自然の価値
利用価値
非利用価値
直接的利用価値
間接的利用価値
オプション価値
遺産価値
存在価値

食料や飲料水、木材、医薬品・化粧品などのように、直接利用することで得られる価値

森林の水源涵養機能や国土保全機能、レクリエーション機能などのように、間接的に利用することで得られる価値 熱帯林の遺伝資源などのように、現在は利用していないが、将来的に利用することで得られる価値 自分自身では利用しないが、将来世代のために残すべきと考える生物多様性・生態系サービスの価値 自分自身も将来世代も利用することはないかもしれないが、生態系や野生生物などが存在していることそれ自体の価値

※参考
「生物多様性の経済学」 馬奈木俊介、地球環境戦略研究機関 編者

経済価値を評価するための手法の概要

利用価値のうち、直接的利用価値については市場価格が存在するため、その市場価格で経済的価値を評価することが可能です(市場価格法)。しかし、それだけでは自然がもつ様々な価値の一部しか評価できません。

市場価格が存在しない自然の経済的価値を評価する手法は、顕示選好法と表明選好法に分けることができます。顕示選好法には、「代替法」、「トラベルコスト法」、「ヘドニック法」が、表明選好法には、「仮想評価法(CVM)」、「コンジョイント分析」があります。それぞれの手法には評価に適した対象、特徴が存在するため、経済的価値を評価するにあたっては、目的に沿った手法の選択が重要です。

それぞれの手法の特徴を以下に整理しました。

顕示選好法と表明選好法

  概要 手法
顕示選好法 環境が消費行動に及ぼす影響を観察することで間接的に環境の価値を推定する方法で、利用価値が対象
表明選好法 人々に直接尋ねることで環境の価値を評価する手法で、利用価値だけでなく非利用価値も対象

代表的な経済的価値の評価手法の概要と特徴

評価手法 顕示選好法 表明選好法
代替法 トラベルコスト法 ヘドニック法 CVM コンジョイント分析
内容 環境財を市場財で置換するときの費用をもとに評価 対象地までの旅行費用をもとに評価 環境資源の存在が地代や賃金に与える影響をもとに評価 環境変化に対する支払意思額や受入補償額を尋ねることで評価 複数の代替案を回答者に示して、その好ましさを尋ねることで評価
適用範囲

利用価値

水源保全、国土保全、水質などに限定

利用価値

レクリエーション、景観などに限定

利用価値

地域アメニティ、大気汚染、騒音などに限定

利用価値および
非利用価値

レクリエーション 、景観、野生生物、生物多様性、生態系など幅広く適用可能

利用価値および
非利用価値

レクリエーション 、景観、野生生物、生物多様性、生態系など幅広く適用可能

利点

必要な情報が少ない

置換する市場財の価格のみ

必要な情報が少ない

旅行費用と訪問率などのみ

情報の入手コストが小さい

地代、賃金などの市場データから得られる

適用範囲が広い

存在価値やオプション価値などの非利用価値も評価可能

適用範囲が広い

存在価値やオプション価値などの非利用価値も評価可能
特定の環境対策以外に複数の代替案を比較して評価可能

欠点 環境財に相当する市場財が存在しないと評価できない 適用範囲がレクリエーションに関係するものに限定 適用範囲が地域的なものに限定 アンケート調査の必要があり、情報入手コストが大きい
バイアスの影響を受けやすい
アンケート調査の必要があり、情報入手コストが大きい
バイアスの影響を受けやすい
研究蓄積が少なく、信頼性が不明

※参考
「生物多様性 生態系と経済の基礎知識 林編著 中央法規 2010」
 
「最新 環境経済学の基本と仕組みがよ~くわかる本 栗山著 秀和システム 2008」
 
「初心者のための環境評価入門 栗山・柘植・庄子著 勁草書房 2013」
 
「価値ある自然 生態系と生物多様性の経済学:TEEBの紹介 環境省 2012」

経済的価値の評価の限界

生物多様性の価値と評価範囲のイメージ

経済的価値の評価手法は、現在も開発や改良が進められていますが、生物多様性や生態系サービスの機能そのものについて未解明な部分も多いため、評価できているのは本来生物多様性や生態系サービスがもっている価値のうちほんの一部であることに注意が必要です。

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