-TEEB-生態系と生物多様性の経済学
TEEBは「生態系と生物多様性の経済学(The Economics of Ecosystem and Biodiversity)」の頭文字をとったものです。
すべての人々が生物多様性と生態系サービスの価値を認識し、自らの意思決定や行動に反映させる社会を目指し、これらの価値を経済的に可視化することの有効性をうったえています。
TEEBプロジェクトの経緯
TEEBプロジェクトは、2007年にドイツ・ポツダムで開催されたG8+5環境大臣会議で、欧州委員会とドイツにより提唱されました。
その後、欧州委員会、ドイツなどの支援により、ドイツ銀行取締役のパバン=スクデフ氏をリーダーとして研究が進められ、2008年5月にドイツ・ボンで開催された生物多様性条約第9回締約国会議(CBD-COP9)の閣僚級会合で、第1フェーズの成果として中間報告が発表されました。
プロジェクトの第2フェーズとしてさらなる研究と、各ステークホルダーに向けた報告書の作成が進められ、2010年の生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)までに一連のTEEB報告書がとりまとめられました。
現在は、プロジェクトの第3フェーズとして、各国におけるTEEBの取り組みを支援することなどにより、政策決定などにおける生物多様性の価値の主流化の実践を進めています。こうした取り組みは愛知目標(特に1、2及び4)の達成に貢献することが期待されています。また、水と湿地、海洋と海岸、自然資本といった特定のテーマに関するより詳細な報告書も発表されています。
■プロジェクトリーダー: パバン=スクデフ氏 (ドイツ銀行取締役)
■協力国・機関:
国連環境計画(UNEP) 欧州委員会
英国 ドイツ オランダ ノルウェー ベルギー スウェーデン 日本 etc.
2007年3月 G8+5 環境大臣会合 (ドイツ・ポツダム) |
2008年5月 生物多様性条約COP9 (ドイツ・ボン) |
2010年10月 生物多様性条約COP10 (名古屋) |
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閣僚級会合で中間報告 |
TEEB報告書が公表 |
TEEBの主なメッセージ
これまでの経済社会では、生物多様性や生態系サービスの多くをタダ(無料)同然に扱い、その価値を十分に評価・認識してこなかったため、生物多様性の損失や生態系サービスの劣化を招く意思決定がされてきました。
生物多様性を保全し、生態系サービスを将来にわたって受け続けるためには、市民、ビジネス、行政などあらゆる主体が、商品の購入、企業活動、政策立案など、ありとあらゆる意思決定の場面に生物多様性や生態系サービスの価値を反映していくことが重要です。
生物多様性や生態系サービスの価値を適切に認識するためには、経済的な価値に置き換えることなどにより可視化することは有効な手段の一つです。
可視化することにより、生物多様性の保全や生態系サービスの利用にかかる全体のコストや便益を考慮した意思決定につながる場合があります。
ただし、経済的価値評価には限界があり、生物多様性の価値のすべてを明らかにすることは困難である点には留意が必要です。
段階的アプローチ
TEEBでは、生物多様性や生態系サービスの価値を認識してから実際の保全につなげるまでのステップとして、3段階のアプローチを示しています。
どのような生態系サービスを受けているか、その中で特に重要なものは何か、生態系サービスを持続的に利用するための障害はないかなどを整理して認識し、関係者の間で共有します。
生態系サービスの価値やその変化を定量化し、可能なものは経済的な価値評価をして、生態系サービスの価値を可視化します。
最後の段階では、生態系サービスの価値が意思決定に組み込まれるよう、具体的な施策や取り組みに反映します。例えば、生物多様性を保全し、生態系サービスを持続的に利用するために必要な費用を税金や助成金からまかなう仕組みを整えたり、消費者が環境に配慮した商品やサービスを利用しやすい環境を整備することなどが該当します。
TEEB報告書等
これまでTEEBプロジェクトにより公表された報告書等を紹介します。
構成フェーズ | 報告書等 | 概要説明 | 詳細情報 |
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第1フェーズ | TEEB Interim Report 中間報告 |
TEEBプロジェクト第1フェーズのまとめとして、2008年にドイツ・ボンで開催されたCBD-COP9で公表された最初の報告書 | |
第2フェーズ | Climate Issues Update 気候変動アップデート |
2009年【COP15/CMP5】国連気候変動コペンハーゲン会議に向けて、気候変動が生物多様性と地球の生態系に大きな影響を与えていることを提言した報告書 | |
Ecological and Economic Foundations D0 生態学と経済学の基礎 |
生態系サービスの分類と概要や経済的価値を評価する手法など生態系と経済学の基礎を紹介した報告書 | ||
TEEB for Policy Makers D1 政策決定者向け |
国及び国際レベルの政策決定者に向け、政策決定における生態系及び生物多様性の価値への配慮の重要性や、新たな手段及び既存ツールの活用方法を紹介した報告書 |
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TEEB for Local and Regional Policy Makers D2 地方行政担当者向け |
地方及び地域レベルの政策決定者が実践する際の指針となるよう、世界各国における様々な具体例や、生態系サービスへの支払い(PES)などの具体的な手法を提供した報告書 |
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TEEB for Business D3 ビジネス向け |
事業活動による生物多様性と生態系への影響や依存の把握、リスクと機会の評価、対外的な報告制度の充実などビジネスにおける生物多様性との関わりや取り得るべき行動等について提示した報告書 |
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TEEB for Citizens D4 市民向け |
TEEBの考え方を市民に向けて発信するために作成されたホームページ
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BANK OF NATURAL CAPITAL | |
Synthesis report 統合報告書 |
TEEBの主要な結論と提案を示し、TEEBのアプローチについて強調した報告書 |
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第3フェーズ | TEEB for Water and Wetlands | 水や湿地を守り、その機能を回復し、賢く利用していくうえでの洞察を示した報告書 |
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Nature and its Role in a Green Economy | 自然資本を維持することで利益を得られるだけでなく、保存と修復によって損失を避けられるというグリーン・エコノミーの考え方を提示した報告書 | ||
TEEB Oceans and Coasts | 過小評価されている海洋生態系による生態系サービスの価値を提示し、政策決定における海洋管理の改善・海洋保護の重要性の根拠を提示した報告書 |
※最新の報告書等については、TEEBウェブサイトでご確認下さい。
http://www.teebweb.org/our-publications/all-publications/
- ※参考
- 「生物多様性の経済学」 馬奈木俊介、地球環境戦略研究機関 編者
- TEEB-The Economics of Ecosystem and Biodiversity(英語)
- 公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)