代替法

生態系サービスなど自然環境がもつ機能を別の商品や施設等に置き換えるときの費用で環境の価値を評価する手法。直感的に理解しやすい手法である。

ただし、置き換える商品や施設等が存在しない場合には評価ができない。また、評価対象の自然環境がもつ機能を正確に定量化することが難しい。

例)干潟の水質浄化サービスの評価

1.
評価対象とする干潟の浄化機能(窒素除去力など)を定量化する。
2.
同じ浄化機能を有する水質浄化施設を新たに建設した場合の費用(建設費やその後の維持管理費を含む)を求める。
3.
2で求めた水質浄化施設の建設費用を、評価対象とした干潟の水質浄化機能サービスの価値とみなす。

トラベルコスト法

トラベルコスト法は、訪問地までの旅費をもとに訪問価値を評価する手法。人は魅力の高いレクリエーション地であれば、高い旅費を支払ってでも訪問したいと考えるため、訪問者が支払った旅費には訪問価値が反映されるという考え方に基づく。
海外では多数の研究蓄積が存在し、国立公園管理など様々な環境政策で用いられてきた。ただし、評価対象はあくまでも訪問行動に関係する価値(レクリエーション価値)に限定される。例えば、誰も訪れないような奥地の原生林の価値を評価する場合、価値はゼロ(訪問者がいないため)となる。

例)自然公園のレクリエーションサービスの評価

1.
評価対象とする自然公園における利用状況(出発地、訪問回数、訪問人数、旅行費用など)を把握する。
新規にビジターセンターや歩道などの利用施設を整備するような場合には、整備された場合の訪問意思をアンケート調査で尋ねることもある(その場合は表明選好法となる)。
2.
利用状況の調査結果から、旅行費用に着目して訪問者をグループ分けする。
旅行費用、訪問回数、訪問人数からグループ別に求めた旅行費用の総和が、自然公園のレクリエーションサービスの価値となる。
トラベルコスト法を説明する上で、需要曲線、消費者余剰という概念が良く出てくるため、そのイメージを例示する。
需要曲線・消費者余剰説明図

需要曲線・消費者余剰とは:
評価対象について、訪問回数と旅行費用の関係を整理した右のような図を需要曲線と呼ぶ。これを見ると訪問回数30回の人は毎回1,000円の旅行費用を支払って訪問している。ところが10回目のときは需要曲線を見ると2,000円を支払うのであるが、実際には1,000円しか支払っていないため、1,000円分得をしたことになる。このように訪問回数の違う他の訪問者についても得をした分を合計していくと、図のオレンジの三角形になる。これを消費者余剰という。

ヘドニック法

ヘドニック法は、財の価格は、その財を構成する属性(車であれば車体、エンジンなど)によって説明されるという考え方に基づく。環境面の属性を利用する場合、例えば、環境条件の異なる2つの地域の住宅価格の差(環境が良好な地域ほど多くの人が選好するため、住宅価格が高くなっていることが多い)を、その環境の価値とみなす。
実際には住宅価格に影響を及ぼす属性は環境面だけでなく、利便性、築年数、大きさ等の複数の属性が考えられるため、様々なデータを集めて統計的な手法により推定する。

ただし、地域限定的なもので利益につながっているもののみが評価対象となる。

例)都市緑地の価値の評価

1.
都市緑地を中心に、都市緑地との距離と住宅価格の情報を収集する。
2.
住宅価格と都市緑地との距離の関係を把握する。この場合、都市緑地に近づくほど住宅価格が高くなり、その価格の差は都市緑地との距離の差によるものであると仮定する。
3.
都市緑地に近接する住宅価格と、都市緑地から離れるほど安くなる住宅価格との差額を集計したものが、都市緑地の価値となる。

大気汚染による損失(きれいな空気の価値)の評価イメージ

仮想評価法(CVM)

環境改善に対する支払意思額や、環境悪化に対する受入補償額を尋ねることで環境の価値を評価する手法。人々に環境の価値を直接尋ねるため、評価範囲が広く、景観、騒音防止、森林レクリエーション、水資源保全などの利用価値だけではなく、野生動物保護や生態系保全などの非利用価値も評価できる。 非利用価値も評価できることから、1990年代に入って世界的に注目を集め、今日では国内でも様々な環境政策に使われる。ただし、アンケートを用いて支払意思額(受入補償額)を尋ねる必要があるため、アンケートの内容によって評価額が影響を受ける現象(バイアス)が発生する可能性がある。このため、調査手法や調査票の設計を慎重に行い、できるかぎりバイアスを少なくすることが必要である。アメリカでは、CVMを政策に用いる際のガイドライン(NOAAガイドライン)がある。

例)自然再生事業により回復する生物多様性の評価

1.
シナリオの設定:
自然再生事業による効果を、例えば生息する魚の個体数など、変化前と変化後の状態が定量的に分かるようなシナリオを設定する。

この自然再生事業によりサケの生息数が100個体から300個体にまで回復すると仮定します。あなたはこの取組に対して●●円を支払っても構いませんか?

2.
アンケート調査の実施:
シナリオのほか、評価対象事業に対する認知度や理解度を尋ねる設問、回答者の属性(性別、年齢、収入等)を尋ねる設問を追加した調査票を作成し、アンケート調査を実施する(実際の調査票については、「平成24年度 第2回生物多様性の経済価値の評価に関する検討会 参考資料3」参照)。アンケート調査票を設計する際には、以下のポイントに留意する必要があり、調査の目的、規模にあった適切な設計とすることが重要である。また、アンケート調査を実施する前に、小規模の事前調査(プレテスト)を繰り返し行うことは非常に有効である。

■金額の尋ね方: 自由回答方式、支払カード方式、二項選択方式などがある。
■支払形式: 税金方式、基金方式、寄付方式などがある。
■アンケート方法: 郵送調査、ポスティング、Webアンケートなどがある。
■アンケートの配布数(実施数):
    支払意思額は統計処理して推定するため、統計の精度を確保できるよう、
    必要な回答を回収する必要がある(目安は有効回答数600以上)

3.
支払意思額の推定:
回収したアンケート結果を使用して支払意思額を推定する。推定にはいくつかの統計モデルが考案されているが、下記のように簡易に推定するツールもWebサイト上で提供されている。
→ 「ExcelでできるCVM」 栗山浩一(京都大学)
4.
評価額の推定:
評価額は、支払意思額に受益範囲(評価対象の恩恵を受けるであろう地域)の世帯数(人口)を乗じることで求める。

コンジョイント分析

複数の環境保全策の代替案を回答者に示し、その好ましさをたずねることで、環境の価値を属性単位に分解して評価する手法。生物多様性や生態系サービスの評価においては、複数の代替案の中から最も好ましいものを選んでもらう選択実験(choice experiment)が多く使われている。
CVMと同様に評価対象の範囲が広く、利用価値・非利用価値のどちらも評価可能である。また、CVMは特定の環境対策の価値を評価するのに対して、複数の代替案別に評価できるという利点もある。評価の流れは、基本的にCVMと同様で、アンケート調査により支払意思額を推定する。

ただし、CVMと同様にアンケート内容によってバイアスの影響を受けやすい。また、新しい評価手法であり、研究蓄積が少ないため、評価結果の信頼性の確保などの課題もある。

例)自然再生事業により回復する生物多様性の評価

1.
代替案の設定:自然再生事業による効果を、複数の属性と水準を用いて設定する。
代替案設定例
2.
アンケート調査の実施:
代替案のほか、評価対象事業に対する認知度や理解度を尋ねる設問、回答者の属性(性別、年齢、収入等)を尋ねる設問を追加した調査票を作成し、アンケート調査を実施する。
3.
支払意思額の推定:
回収したアンケート結果を使用し、まずは限界支払意思額を推定する。限界支払意思額とは、評価した属性(自然植生回復面積等)の単位あたりの支払意思額である。この属性別の限界支払意思額に事業の具体的な代替案の規模(自然植生回復面積、希少生物回復個体数)を乗じることで、その代替案に対する支払意思額が推定できる。更に、支払意思額に受益範囲(評価対象の恩恵を受けるであろう地域)の世帯数(人口)を乗じることで、価値を求める。
支払意思額推定例
評価額の推定:
限界支払意思額の推定にはいくつかの統計モデルが考案されているが、例えばWebサイト上に公開されている「Excelで出来るコンジョイント 栗山浩一(京都大学)」というエクセルシートを使用することで、支払意思額の推定のイメージを掴むことが可能である。

※参考
「平成23年度 環境経済の政策研究 経済的価値の内部化による生態系サービスの持続的利用を目指した政策オプションの研究 最終研究報告書 平成24年3月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) 京都大学 長崎大学 名古屋大学」
 
「生物多様性・生態系と経済の基礎知識―わかりやすい生物多様性に関わる経済・ビジネスの新しい動き 林 希一郎 中央法規出版2009」
 
「最新 環境経済学の基本と仕組みがよ~くわかる本 栗山著 秀和システム 2008」
 
「初心者のための環境評価入門 栗山・柘植・庄子著 勁草書房 2013」
 
「価値ある自然 生態系と生物多様性の経済学:TEEBの紹介 環境省 2012」