「国連生物多様性の10年」の中間年を迎えるにあたり、ビジネス、市民団体、教育展示施設、ユース、自治体の各セクターのヒアリングを実施しました。各セクターとも活発な議論が交わされ、2014年までに取り組んできた成果と、目標達成に向けての今後の課題が明確になりました。
ビジネスセクターでは、各企業の取組が着実に進展していることが報告されました。生物多様性への民間事業者の取組を促進する「生物多様性民間参画パートナーシップ」の会員は、設立5年で509事業者にまで増加。さらに会員事業者の92%が生物多様性を経営理念などに盛り込んでいます。
課題は、大きく分けて中小事業者・事業者団体の取組の遅れと、原材料調達から廃棄までのサプライチェーン全体を通した取組が不十分であること。中小事業者の取組の遅れは、「生物多様性」の言葉が抽象的なため、何から取り組んだらいいのかわからないとの声があがっています。ビジネスセクターにとっての「お客様」である消費者の生物多様性に対する認知度が低いため、取組への動機付けが希薄になる側面も指摘されました。
市民団体セクターでは、一般市民と他セクターの“つなぎ役”としての成果を残してきたことが報告されました。自然保護や生物多様性をテーマにした講座の開催など市民への普及活動から、企業・自治体・教育施設との連携、さらにはCOP12など国際会議への市民参加など、生物多様性と関わりの薄かった“お茶の間”と愛知目標をつなげる役割を担ってきました。生物多様性が話題に上ることが増え、日常生活の取組として広がってきた手応えを感じています。
市民団体の強みとしては、“アメーバ”のように各セクターとの潤滑油になれること、担当者が変わらずに継続した事業・取り組みができることが挙がりました。また、他セクターに比べて自由に活動できる強みについても議論が盛り上がりました。きめ細やかな人脈づくりをしたり、良いと思った取り組みを率先して実行に移すなど堂々と“エコひいき”ができることもメリットです。
その一方で、一人に大きな負荷がかかり、同時に代わりを担う人材も不足していることが指摘されました。また、国民運動として広く呼びかけることへの限界を指摘する声も。生物多様性の問題を実感できる人に細やかな訴求をしないと主流化につながらない、細やかな訴求をするためにはターゲットを絞ったツールが必要、などの具体的な課題について議論が交わされました。
教育展示施設セクターでは、各施設での取組だけでなく、施設を横断したネットワークが構築され、セクター全体として生物多様性に取り組んできた成果が報告されました。日本植物園協会と日本動物園水族館協会では各園が連携して域外保全などの保全事業を連携して実施する仕組がつくられました。また、UNDB-Jと連携した取組も多く実施されました。例えば、「生物多様性の本箱」の100冊を図書館持ち回りで展示を行ったり、図書館振興財団が主催する「調べる学習コンクール」に「国連生物多様性の10年委員会賞」が新設されるなど、子ども達に向けた普及活動に成果をあげています。理解促進のための教材ツールや体験プログラムの開発も進んでいます。
教育展示施設セクターの大きな強みとして、「施設」という場があり、利用者がいることが挙げられました。場を持っていることで、他機関ではできない域外保全などの取組が可能だったり、説明できる人・素材を所有していたり、利用者に対してMY行動宣言を配布し回収するなどの普及活動を行うことができます。施設が持つ文化(ミュージアム、図書など)とのかかわりの中で、生物多様性をわかりやすく訴求できるメリットもあります。
一方で、資金不足により施設が閉鎖や取組の不十分、また人の回転が速くなり知見やノウハウを伝えていくことが難しいなどの課題も明確になりました。セクター内を連携させ、さらにセクター間の相乗効果を高める「プロデューサー」が不在により、普及啓発が進んでいないとの指摘がありました。
ユースセクターでは、COP10を契機に発足した「がけっぷちの生物多様性委員会」の後継団体「生物多様性わかものネットワーク」や大学の環境サークルの活動などについて報告が行われました。合宿形式の「生物多様性わかもの会議」の開催、講演会、政策提言など取組のほか、2014年には「生物多様性わかもの白書」を制作し、学生の生物多様性に関する活動などについて取りまとめました。また、里山保全、河川保全など、ユースならではの視点を持って取組むことで成果をあげている活動が報告されました。
ユースセクターは将来を担う世代であり、伸びしろが一番ある世代です。学生/若者だからこそ思い切った取組を行うことができ、SNSなどのツールを使いながら、半年や1年弱の短いスパンで瞬間風速を高めるような活動に威力を発揮することができます。またCOP10初日の新聞一面に取り上げられるなど、若者が行う活動はメディアへの訴求力があることも、強みとして挙げられました。
しかし、人の入れ替わりが激しいため活動を継続していくことの難しさ、社会人として引き続き環境に取り組みたくても職が不足していることなど、長いスパンで取り組む際の課題が多く挙げられました。また、ユースの取組をより広範囲に広げていこうとした時のアピール不足、広報活動の難しさも課題です。
自治体セクターでは、COP10をきっかけとして生物多様性の活動に対する理解が深まり、人の手を加える里山など二次的自然を保全・再生し、地域づくりにつなげていこうという機運が、農林水産業分野で生まれつつあるといった成果が報告されました。特に地域戦略の策定を通じ、これまでの環境に対する取組が生物多様性につながっている認識が広がり、共感やネットワークが生まれつつあります。また、各自治体に生物多様性の担当者ができたことで、他地域との協議会を設立するなどの地域間のネットワークの広がりも生まれています。
自治体の強みは、地域での取組の旗ふり役・コーディネーターとしての役割を担うことができること、との声が多く挙がりました。地域で取組を推進する時、自治体から企業やNPO団体に声がけをしてセクター間をつなぐことができます。その際、交付金事業などの具体的な予算が、取組スタート時の後押しになります。また、市町村の基礎自治体は、具体的な土地に直接かかわることができるので、保全活動の対象となる土地の地権者と直接交渉できるメリットも複数の参加者から指摘されました。
しかし、地方では高齢化が進み後継者が不足し、里山や山林が荒廃していく課題も抱えています。取組を進めていく中での生物多様性保全の取組の評価方法や、必要となる調査のための人材と資金確保などの課題も明確になりました。
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