IPBESシンポジウム:「生物多様性のための持続可能な生産と消費」
             ~IPBES評価報告書から見たサプライチェーン~

2018年3月にコロンビアで開催された第6回IPBES総会において、「生物多様性及び生態系サービスに関する地域・準地域別評価報告書」及び「土地劣化と再生に関するテーマ別評価報告書」の政策決定者向け要約が承認されました。

これらの報告書には、生物多様性の現状や減少の要因、生物多様性保全や持続可能な社会の構築に向けたメッセージが記されていますが、さまざまなステークホルダーが持続可能な生産と消費のために行動を起こすことの重要性や、生産現場と消費現場の乖離が問題の根底にあることを指摘しています。

2018年11月6日に東京で開催した本シンポジウムでは、IPBES評価報告書の内容や土地劣化の状況についての解説、ならびにサプライチェーンを通した企業の取組について紹介し、これを踏まえて、持続可能な生産と消費を広めていくために消費者や民間企業、科学者などがそれぞれの立場からできる行動について議論しました。

各報告者、講演者の発表内容

環境省自然環境局の正田局長は開会挨拶で、本年3月に承認された2つの評価報告書を踏まえて、持続可能な経済活動を推進することの重要性を指摘しました。

また、アン・ラリゴードリIPBES事務局長はビデオメッセージで、IPBESへの支援に関して日本政府環境省に感謝の意を表するとともに、2020年以降の国際的な生物多様性目標の設定や2030年持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて、IPBESが重要な役割を担っていることについて述べました。

シンポジウムの第1部では、東北大学の香坂教授(IPBES アジア・オセアニア地域評価報告書第1章統括執筆責任者)からIPBESの概要の紹介があり、続いて東京大学の橋本准教授(IPBES アジア・オセアニア地域評価報告書第5章主執筆者)からIPBESアジア・オセアニア地域評価報告書、国立環境研究所の山形主席研究員(IPBES 土地劣化と再生に関するテーマ別評価報告書第7章査読編集者)からIPBES土地劣化と再生評価報告書の概要についての説明がありました。

第2部では、環境学者の石氏が基調講演で、世界の土地劣化の現状について詳しい解説を行いました。また、イオン環境財団の山本事務局長と積水ハウス環境推進部の佐々木部長は、生物多様性に配慮した各社の取組を紹介するとともに、サプライチェーンにおいて消費者や民間企業ができることについて事例を交えて提案しました。

発表資料

パネルディスカッション

最初にコンサベーションインターナショナル・ジャパンの日比代表理事が、サプライチェーンに関わりの深いコーヒー生産に関する取組について紹介しました。

続いて、生産現場と消費者との間の情報共有、消費者の行動変化、ならびにステークホルダー連携の3つの点について、以下のような議論が行われました。

〇生産現場と消費者との間の情報共有

情報を伝えることで消費者は遠い産地で起こっていることを想像できる。イオンは、食品ロス対策のための残渣の堆肥利用について消費者に伝えている。積水ハウスは木材の産地の情報を収集して消費者に伝えている。研究者にも、科学的な情報をわかりやすく伝える知識ブローカーとしての役割がある。

〇消費者の行動変化

「肉食を減らすべき」などの理念があっても、代替案がないと人々の行動は変わらない。市場を作って需要が増えれば価格を抑えられるので、環境への取組のコストは本質的な問題ではない。地域に密着した企業の取組も社会を変えていくためには重要。

〇ステークホルダー間の連携

ステークホルダーが連携し、それぞれの立場で役割を果たすことが求められる。例えば滋賀県で環境保全型農業が広まった背景には、県による農業技術の開発、農協による商品化と流通、イオンによる環境配慮米としての販売といったように、さまざまなプレーヤーの関与があった。ESG投資が特に大企業の環境への取組を後押ししているが、大企業はサプライチェーン上流の中小企業にこうした取組の重要性を伝えていく必要がある。

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