2.全国的にみた植生の改変状況

衛星画像から抽出した植生改変地を各都道府県別の調査により確認し、現存植生図のマイラー上で植生改変地ごとにくくり線及び新凡例番号をオーバーレイ表示した。この調査では、このような手順を経て、第3回調査時の群落凡例が変更された箇所を改変地と定義した。この改変地は5ha未満の規模が多く、約1km2 のメッシュでは精度が粗いため、マイラー上の改変地ごとに面積を集計し、解析した(表T.3.7の第4回調査改変地解析用ファイルを使用)。ただし、群落凡例の変更が概念上の変更であることが明らかな箇所は解析対象から除外した。

なお、一般的には群落の変化として、植生が回復した場合も考えられる。しかし、全国の植生基準が統一されていないことや草地の森林化がゆっくり進行するために、伐採のような急激な植生改変に比べ、画像上の変化は明瞭でなく、回復した植生の把握は困難である。このため今回の解析における「改変」には一部の都道府県で報告された例を除き、基本的に植物量が増加する方向の植生「改変」は含まれていない。

岩手県、栃木県では植生図の凡例の概念上の修正が多く含まれていた。このうち、岩手県では県集計結果に概念上の修正箇所が明記されていたためこの箇所を除外した値を解析に採用した。一方、栃木県では県集計結果に概念上の修正個所が明示されていないため、概念上の凡例修正箇所の除外は行わなかった。

また、宮城県等の一部の県では旧衛星画像の撮影時点よりも第3回調査の植生図の作成が後になったため、画像解析で抽出された改変地がすでに第3回の植生図に反映されており、植生図上での改変地面積が少なくなっている例がみられた。

 

2.1 全国の植生改変状況

(1)全国の植生改変概要

表U.2.1は1980年代の約5年間に変化した旧植生の改変状況を示したものである。また、小円選択法により小円内に改変地が含まれる3次メッシュを改変地として図示すると図U.2.1のようになる(表T.3.7の改変地分布図作成ファイルを使用)。この図をみると、北上山地に植生改変地が多いことがわかる。

森林から伐採跡地や住宅地への変化などを含む緑被地の改変地面積は全国で426,004haある。これは日本の緑被地の1.22%にあたる。調査期間を平均5年とすると1年あたり0.24%の変化となる。

改変地の中でも最も広い範囲を占めるのは森林で353,317haが改変された。1年あたりの平均改変地面積は約7万haである。また、改変地率をみると、草原が1.85%と高い。

(2)全国の植生区分別改変状況

改変前の植生を植生区分別に集計すると表U.2.2及び図U.2.2のようになる。また、地方別の改変前の植生を植生区分別に集計すると表U.2.3図U.2.3及び図U.2.4のようになる。

地方別に改変地面積をみると、東北地方での改変地面積が大きく、111,947.7haである。次いで、中部地方(68,884.4ha)、関東地方(65,546.0ha)、北海道(61,712.9ha)で、60,000haを越える改変がみられる。近畿地方、中国地方、九州地方では約40,000haの改変がみられる。

改変地面積の最も広い植生区分は、スギ・ヒノキ植林などが広く占める植林地・耕作地植生で144,085haあり、改変地全体の32.1%にあたる。これは植林地における林業活動に伴う伐採が多いためと推定される。また、都道府県によっては凡例上伐採跡地などの群落を定めず、植林地の伐採跡地に再造林した場合は、植生図には以前と同じ植林地として扱っているところもあり、この植生区分の実際の改変地面積はさらに大きくなると思われる。

次いで広い面積を占めるのがヤブツバキクラス域代償植生であり、改変地面積は121,087ha、改変地率は2.09%と平均の1.7倍となっている。ヤブツバキクラス域代償植生の改変は北海道を除く全国各地でみられ、中国地方や近畿地方、四国地方では全改変地に占める占有率が50%を越え、植林地の改変を大きく上回っている。一方、ブナクラス域代償植生は83,814haの改変があり、改変地率は1.98%である。東北地方と中部地方での改変地面積が大きい。

自然植生では、ブナクラス域自然植生とヤブツバキクラス域自然植生のどちらも改変地率は1%を越ている。ブナ林を主とするブナクラス域自然植生の改変は55,169haあり、改変地率が1.22%で、北海道、東北地方、中部地方に改変地が片寄っていることが特徴である。北海道では、この植生が全改変地面積に占める割合が50%を越えている。

ヤブツバキクラス域自然植生の改変地率は1.85%とさらに高い。全国のヤブツバキクラス域自然植生の改変地のうち九州地方の占める割合は55.3%で、全国の2分の1以上の改変が九州地方でみられる。

生育条件の厳しい亜寒帯・亜高山帯から寒冷域の植生は、他に比較すると改変地率は低いが、亜寒帯・亜高山帯自然植生の改変は6,781haとなり広い面積といえる。このうち69.3%が北海道で改変されている。次いで中部地方が23.9%と高い。

亜寒帯・亜高山帯代償植生の改変は、中部地方(328ha)、東北地方(255ha)、北海道(235ha)に多く、これらの地方では、この植生区分の分布域が限られていることや再生が困難な立地であることから、今後も同様の改変が続き植林地や他の土地利用となると、亜寒帯・亜高山帯植生の保全への影響が憂慮される。

植生改変の推移は、データ編3の地方別改変状況の推移(植生区分別)に示すようになる。

(3)全国の植生自然度別改変状況

改変前の植生を植生自然度別に集計すると、表U.2.4及び図U.2.5のようになる。また、地方別の改変前の植生を植生自然度別に集計すると、表U.2.5図U.2.6及び図U.2.7のようになる。

改変地面積が多いのは、植生自然度8・7の二次林で182,652haあり、改変地面積全体の40.7%を占めている。二次林(植生自然度8・7)の改変は、北海道、九州地方では少ないが、全国に分布している。中でも東北地方、中部地方、中国地方の改変地面積が大きい。

植生自然度9の自然林は72,711ha改変され、宮城県の県土面積の10分の1に相当する自然林が植生自然度の低い二次林や植林地あるいは他の土地利用に変わった。改変地の半数以上は北海道(51.2%)でみられ、次いで東北地方(16.3%)、中部地方(12.6%)、九州地方(9.7%)で多くみられる。改変地率は1.09%で、植生自然度6の植林地(1.08%)とほぼ同程度であり、他の自然度植生と比較し、保全状況は良いとはいいにくい。

植生自然度10の自然草原は3,472haが改変した。改変地率は0.86%であり、その44%が北海道で占められている。

図U.2.7は、地方別に改変量の構成比を示したものである。

北海道、沖縄地方では、自然林(植生自然度9)の改変が多く占めるのに対し、中国地方、近畿地方、四国地方では二次林(植生自然度8・7)の割合が、九州地方では植林地(植生自然度6)の割合が高い。

図U.2.8は、植生自然度10・9の自然植生が改変された箇所の分布を、図U.2.9は植生自然度8・7の二次林が改変された箇所の分布を示したものである。二次林の改変地は全国的に散在し、北上山地、北関東、中国山地に多いことがわかる。

図U.2.10は、植生自然度3・2・1へ改変された箇所の分布状況である。関東地方、近畿地方の都市域周辺にみられるほか、山間地に点在してる。

図U.2.11は伐跡群落などの植生自然度5・4に区分される二次草原や植生自然度6の植林地への改変地の分布状況である。改変地は全国的に散在するが、中でも北海道、東北地方、中部地方から中国地方にかけての日本海側の山間地、紀伊半島から九州地方にかけての太平洋側などにみられ、特に北上山地に集中している。

また、岩手県、栃木県に改変地が集中してみられる傾向があるが、これは両県の植生図の全面改訂を行ったため、概念上の変化と植生改変を分けて表示することが難しく、実際の植生改変以外の箇所も含まれるためと推定される。

なお、データ編4の地方別改変状況の推移(植生自然度別)には、第3回調査と第4回調査の植生自然度の推移を示してある。

 

2.2 都道府県別の植生改変状況

(1)都道府県別の植生区分別改変状況

都道府県別の植生区分別改変状況を表U.2.6図U.2.12に示す。

また、都道府県ごとに集約群落別に改変地を集計した結果は、データ編2に示した。全改変地面積に対する各都道府県の改変地面積を比較すると次のようになる。

 

a.寒帯・高山帯自然植生、亜寒帯・亜高山帯植生

寒帯・高山帯自然植生や亜寒帯・亜高山帯植生では、標高の高いところで多くみられ、また国立・国定公園等で保護されている場合も多く、人為的影響を受けにくいため、改変地面積の割合は非常に低い。しかし、その中でもその都道府県の改変地面積全体に占める割合が高いのは、北海道、長野県、山梨県、岐阜県、静岡県、群馬県などである。

 

b.ブナクラス域植生

この植生が広く分布する北海道、東北地方、中部地方で改変の割合が高く、その中でも特に北海道(71.2%)、青森県(68.6%)、秋田県(67.2%)、山形県(76.8%)、新潟県(68.2%)で割合が高い。このうち、ブナクラス域自然植生の改変割合が高いのは、北海道(53.1%)、宮城県(28.9%)、奈良県(21.4%)である。北海道ではエゾイタヤ−シナノキ群落、下部針広混交林、宮城県を含む東北地方全体ではチシマザサーブナ群団などがこの中に含まれる。一方、ブナクラス域代償植生も同地域で改変地面積の割合が大きく、改変地面積全体に占める割合が5割以上の青森県、秋田県、山形県、新潟県、4割以上の福島県、福井県でみられるほか、長野県(38.7%)、山梨県(29.9%)でも改変地面積の割合が高い。

 

c.ヤブツバキクラス域植生

近畿地方、中国地方、四国地方で多く改変地面積の割合が高い府県が多く、山口県(85.8%)、徳島県(81.5%)では全体の改変地面積の8割以上を占めている。ヤブツバキクラス域自然植生が多く生育する沖縄県(49.5%)、鹿児島県(41.8%)、奈良県(23.0%)、宮崎県(17.0%)では改変の割合も高くなっている。ヤブツバキクラス域代償植生では、近畿地方から九州地方にかけての地域で改変の割合が高い府県が多く、改変地面積の7割以上を占めるのが京都府、島根県、山口県、徳島県、香川県、6割以上を占めるのが兵庫県、和歌山県、岡山県、広島県となっている。

 

d.河辺・湿原・塩沼地・砂丘植生

河辺・湿原・塩沼地・砂丘植生では、多くの県で改変地面積に占める割合が1%未満と低く、1〜2ha程度の小規模な改変が多い。改変地面積に占める割合が2%を越えるのは、香川県(4.6%)、埼玉県(4.5%)、沖縄県(4.0%)、徳島県(2.7%)、北海道(2.0%)である。植物群落ではヨシクラスが高い割合を占める。

 

e.植林地・耕作地植生

この植生区分の改変は、全国的に多くの都道府県で高い割合を占め、茨城県(73.4%)、佐賀県(63.1%)、高知県(58.3%)、宮崎県(57.9%)の順に高い。この区分での改変が少ない1割以下の改変割合の県は、岡山県、山口県、徳島県、沖縄県となっている。

 

f.その他

その他には、市街地・自然裸地・開放水域等が含まれる。この区分で高い改変の影響を受けた都道府県は東京都(56.6%)、沖縄県(38.3%)である。東京都は、市街地・造成地等が、また沖縄県では開放水域の改変が高い割合を占めている。

 

(2)都道府県別の植生自然度別改変状況

都道府県別の植生自然度別改変状況を表U.2.7図U.2.13に示す。

a.植生自然度10・9(自然植生)の改変状況

自然植生(植生自然度10・9)の改変の割合が最も大きいのが北海道(62.7%)であり、次いで沖縄県(53.5%)、奈良県(44.4%)、鹿児島県(42.1%)、宮城県(30.5%)の順となっている(図U.2.13)。この他には、東北地方(青森県、秋田県、山形県)や中部地方(静岡県、長野県、富山県、新潟県、岐阜県、山梨県)において改変割合が10〜20%の県が多い。

植生自然度10の自然草原については、香川県(4.6%)、埼玉県(4.5%)、沖縄県(4.0%)で改変地面積の割合が4%を越える。

一方、中国地方の全県および南関東地方(東京都、神奈川県、千葉県)、近畿圏(大阪府、京都府、兵庫県)、愛知県、福岡県において、自然植生の改変割合が2.0%未満であり、非常に小規模なものとなっている。

 

b.植生自然度9・8・7・6(森林植生)の改変状況

自然性の高い森林や人工的な植林をあわせた森林植生の改変割合では、全体の改変地面積のうち8割程度を越える都道府県が多い。高知県や宮崎県の森林植生の改変地面積の割合は非常に大きく、それぞれ98.5%、93.8%である。植生自然度8の自然林に近い二次林の改変地面積の割合が大きいのは九州地方に多く長崎県(34.4%)、佐賀県(31.3%)、熊本県(23.9%)、福岡県(21.6%)などである。他に改変地面積が20%を越えるのは、新潟県(25.8%)、福井県(27.6%)、三重県(30.1%)である。植生自然度7の二次林の改変地面積が大きいのは中国地方、四国地方に多く、山口県(83.4%)、広島県(79.8%)、京都府(76.1%)、香川県(72.5%)、島根県(72.3%)、徳島県(71.0%)の各県で70%を越える。また、植生自然度6の植林地では、高知県(57.1%)、宮崎県(55.0%)の順に改変地面積の割合が大きい。

 

c.植生自然度5・4(二次草原)、植生自然度3・2(農耕地)、植生自然度1(市街地・造成地等)の改変状況

二次草原(植生自然度5・4)の改変地面積の占める割合は、全国的に小さい都道府県が多いが、その中でも特に大きいのは青森県(22.3%)、大分県(16.0%)、東京都(15.9%)である。

植生自然度5の背の高い二次草原の改変地面積の割合が大きいのは、大分県(15.9%)、北海道(6.8%)、青森県(6.8%)、静岡県(6.3%)、神奈川県(5.8%)である。

植生自然度4の背の低い二次草原の改変地面積の割合が大きいのは、青森県(15.5%)、東京都(12.1%)、岡山県(9.8%)、埼玉県(7.6%)、干葉県(7.6%)、秋田県(7.1%)、神奈川県(5.7%)である。

樹園地、水田、畑などの農耕地(植生自然度3・2)においては、茨城県(30.9%)、埼玉県(28.6%)、栃木県(23.9%)、長崎県(21.4%)、千葉県(21.3%)、大阪府(20.6%)で20%を越える。

植生自然度1の市街地・造成地等の改変地面積の割合は、東京都(42.2%)で極めて大きく、次いで岡山県(15.7%)、神奈川県(8.9%)、兵庫県(8.5%)、千葉県(8.3%)の順に多い。

 

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