第2章 解析の方法と本書の構成

 

 本章では、解析の方法とそれに対応した本書の構成を示すとともに、用いた環境要因と依拠したデータベースについて述べた。

 

2.1 解析の方法と本書の構成

 

 図2.1に解析フローとそれに対応した本書の構成を示した。先ず3章で日本の自然環境及びそれに対する人為圧について自然環境保全基礎調査及び関連するデータを用いて概観し、全国的な傾向を把握した。ついで4章で基礎調査結果から、自然環境の現状・特性を把握するための指標として、今回の解析で用いる植生類型、動物種を整理・抽出し、5章でその分布傾向を分析した。6章では、分布を規定している要因を抽出し分析した。ここまでが、全国−地方レベルの解析である。7章では、より具体的な地域へひきつけての解析ヘ向けて、解析単位を設定した。8章では、その解析単位を用いて、保全すべき自然とその既保全性について検討を加えた。

 9章以降ではアプローチをかえ、9章では基礎調査結果と国土数値情報等を用いた、客観的な自然環境区分のこころみを示し、10章では身近な自然の状況を、代表的な3地域を抽出し、地形、植生、身近な生き物について、相互の関係を分析することにより明らかにした。

 11章では1−10章を総括し、今後の展望を述べた。

 

2.2 解析に用いた環境要因と依拠したデータベース

 

 本節では、今回の解析で用いた環境要因と依拠したデータベースを示した。

 

2.2.1 解析に用いた環境要因

 今回の解析にあたっては、自然環境保全基礎調査、国土数値情報などから以下に示す10項目の環境要因をとりあげ解析に用いた。

1)地形・地質要因

 地形に関する要因としては、山地、平野などの地形区分と平均標高を、地形の急峻さ、複雑さを表現するものとして、最大傾斜度をとりあげた。また、地質に関する要因としては、表層地質と地質の成立年代をとりあげた。

2)気候的要因

 気候的要因としては、温度環境として吉良の温量指数と年間降水量を用いた。温量指数は、5℃を基準とする、月単位の積算温度であり、植生の成帯分布と深い関係があるとされている。

3)土壌要因

 土壌要因としては、細かい土壌分類を統合した区分を用いた。

4)植生

 植生要因としては現存植生図における植物群落区分(凡例)および、それを類型化した区分を用いた。

5)動物分布

 動物分布としては、基礎調査等で調査された結果から一定の基準で選定した種類を、分析対象とした。

6)人口密度 6)〜8)の3項目は、人間の自然への働きかけの度合を示す指標としてとりあげた。人口密度は人為圧の程度をみるため、2次メッシュ単位の値をもとめそれを3区分して用いた。

7)土地利用

 土地利用に関する要因として、森林率、耕作地率、建物用地率をとりあげ、分析に用いた。

8)道路密度

 道路密度も、自然に対する人為圧の指標としてとりあげたもので、ここでは、自動車の通行できる幅員を持つ(2.5m以上)道路の密度を用いた。

9)水域改変状況

 水域に加えられた人為的インパクトをみるため、湖沼、河川及び海岸の改変状況をとりあげた。

10)自然公園等指定状況

 地域既保全性を表す要因として、国立公園、国定公園、及び自然環境保全地域の指定状況をとりあげた。

 

2.2.2 依拠したデータベース

 前に述べた要因のデータは、自然環境保全基礎調査、国土数値情報、メッシュ気候値データ、及び勢調査の各磁気データより編集・加工して用いた。これらの磁気データでは、位置を指示する方法として標準地域メッシュシステムを用いている。この方法は国土を、一定の緯度経度によって網目状に区画する方法であり、この区画を「地域メッシュ」と呼んでいる。標準地域メッシュは3段階のレベルで定められており、それは第1次地域区画、第2次地域区画及び第3次地域区画の3つである。「第1次地域区画」は南北40'(緯度差)、東西1゜(経度差)に区画された範囲で、これは20万分の1地勢図の大きさに相当し、日本の中央付近では縦横とも約80kmである。「第1次地域区画」を縦横8等分した範囲が「第2次地域区画」と呼ばれ、これは南北5'(緯度差)、東西7'30"(経度差)であり、2万五千分のl地形図の大きさに相当し、縦横とも約10kmである。この「第2次地域区画」をさらに縦横10等分した範囲が「第3次地域区画」で、南北30"(緯度差)、東西45"(経度差)で、大きさは約1km×1kmである。この第3次地域区画のことを「基準地域メッシュ」あるいは「(第)3次メッシュ」と呼んでいる。

 つぎに各データファイルの特徴について述べる。

1)自然環境保全基礎調査

 自然環境保全基礎調査からは、植生データ、動物分布調査データ、湖沼調査データ、河川調査データ、海岸調査データ、自然公園指定状況データを解析に用いた。各調査における、調査方法、情報処理の詳細は「磁気データファイルの概要」に示した。

●植生データは、5万分の1植生図をもとに、各3次メッシュの中央に直径5mmの測定円(面積約5ha)を設定し、この円内で最大の面積をしめる群落をそのメッシュの代表値としている(小円選択法)。この方法により、偶然性によるデータの歪みが排除され、小面積の群落が欠落することが防がれている。

●動物分布データとしては、第2回、第3回自然環境保全基礎調査から、哺乳類、鳥類、両生類、淡水魚類、昆虫類(トンボ類、チョウ類)、淡水産・陸産貝類の3次メッシュ分布データを用いた。このうち、第2回自然環境保全基礎調査の鳥類分布データ(繁殖データ)のみは、3次メッシュデータではなく、5倍メッシュ(3次メッシュを縦横5個ずつ計25個合わせたもの)単位のデータとなっている。データの内容は、分布情報が得られたメッシュコードと種コードの組合せである。

●湖沼調査データ、河川調査データ、海岸調査データからは改変状況のみをとりだして、解析に用いた。各調査では、改変状況の一項目として水際線の人工化の状況を、既存資料や現地確認調査により、自然−人工あるいは自然−半自然−人工の別に長さを計測している。

●自然公園指定状況データは植生データと同時に作成され、同様に小円選択法により、各メッシュに公園(保全地域)コード、地種区分コードを付している。

2)国土数値情報

 国土庁、建設省国土地理院により整備されている国土数値情報は、地形、土地利用、公共施設、道路、鉄道、行政界などの国土に関する地理情報を数値化し、磁気テープなどに記録したものである。

 これまでに整備された国土数値情報は、大別すると、1国土の自然条件に関するデータ(標高、地質、土壌など)、2各種法規制地域などに関するデータ(都市地域、農業地域など)、3各種施設などに関するデータ(道路密度、公共施設など)、4経済・社会に関するデータ(土地利用など)の4つに分類できる。

 今回の解析では国土数値情報から、表層地質、土壌分類、地形分類、最大傾斜度、道路密度、土地利用面積の各ファイルを用いた。これらファイルには3次メッシュ単位でデータが収められている。

●表層地質、土壌分類、地形分類は国土庁発行の20万分のl土地分類図のうち、表層地質図、土壌図、地形分類図より作成された。これらのファイルでは、メッシュ内で最大の面積をしめるカテゴリを代表値としている。このうち土壌と地形分類については分析にあたってカテゴリを再編成した(表2.2.1,表2.2.2)。

●最大傾斜度は平均標高ファイルから抽出して用いた。ここでは、3次メッシュ内を縦横4等分(計16等分)し、その区分線の隣合う交点間の傾斜のうち、最大値をメッシュの代表値としている。傾斜度は各交点の標高差と距離から計算している。

●道路密度ファイルは、5万分の1地形図を基礎資料とし、3次メッシュの東西南北の各辺を横切る道路の本数を、幅員別に数え上げて作成された。本解析では、自動車が通行できる幅員2.5m以上の道路の本数を合計し、3次メッシュの代表値とした。

●土地利用ファイルは、地形図を基礎資料とし、土地利用図、カラー空中写真などを参考にして作成された。土地利用区分は表2.2.3に示した15区分で、各区分について3次メッシュ内にしめる面積が記録されている。今回の解析では、表2.2.3の区分欄の「田」から「その他の樹木畑」を耕作地として、「森林」を森林として、「建物用地A」から「その他の用地」を建物用地として、それぞれ合計しメッシュ内の「海水域」以外の合計面積に対する割合として用いた。

3)メッシュ気候値

 気象庁で整備されたメッシュ気候値は、観測地点の気候値(累年平均値)と地形情報を用いて、各メッシュごとの気候値を推定したものである。その地形因子の作成に用いるメッシュデータの基礎になるデータは、国土数値情報の標高データなどである。このデータを基礎として、平均高度、標高差、起伏度、陸度・海度(%)、方位別開放度(%)、方位別勾配量(m/km)などの地形因子を計算し、例えば、気温の推定はステップワイズ回帰分析を用いるなどして、データを作成している。

 本解析では、気温データと降水量データを用いた。このうち、気温に関しては、「暖かさの指数(温量指数)」、「寒さの指数」を平均気温データより計算して用いた。

4)国勢調査データ

 国勢調査データは、5年ごとに総務庁が実施している国勢調査のデータ(人ロ、産業及びその動態などに関するデータ)を基準地域メッシュ(3次メッシュ)にまとめたものである。

 本解析では、昭和55年度国勢調査人口密度データを2次メッシュ単位に集計し直して利用した。

 

 また、今回の解析では、各要因の分布等の傾向をみるために地方ブロック別の集計をあわせて行った。その地方ブロックと都道府県との対応を表2.2.4に示した。

 

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