T 調査とりまとめ方法と実施状況

 わが国に生息する哺乳類の状況を把握するため,昭和53年度に環境庁は,ニホンザル,シカ,ツキノワグマ,ヒグマ,イノシシ,キツネ,タヌキ,アナグマの計8種を対象とする分布調査を都道府県に委託して実施した。

 調査は,全国47都道府県全域におけるそれぞれの哺乳類の生息地域,生息状況,分布の変動(絶滅地域,出現年代,絶滅年代)について聞きとり調査により実施された(資料編調査要綱参照)。

 この調査の結果は,各都道府県毎に分布メッシュ図(%万地形図を縦横4等分したものを1メッシュとしている)添付の報告書にまとめられ発表された。

 昭和54年度は各県より集められた調査票,分布原図(1/5万地形図)記載情報の磁気テープ入力作業,県別分布メッシュ図をもとにした全国分布メッシュ図の作成およびとりまとめ作業を行った(図1)。

図1 第2回自然環境保全基礎調査動物分布調査(哺乳類)の年度別事業の概要

T−1 調査実施状況

(1)昭和53年度本調査実施状況

 第2回自然環境保全基礎調査動物分布調査(哺乳類)の聞きとり調査は「聞きとり調査実施要領」(資料編参照)によった。

 聞きとり調査にあたっては,ほとんどの都道府県が要領にそって,林業改良普及員,鳥獣保護員,都道府県林業事務所等職員,市町村林務関係職員,自然公園指導員等,大学における研究者,小中高校生物担当教員から調査員をえらんでいる。聞きとり調査員は調査の趣旨,調査方法等について事前に講習を受けた。

 聞きとり調査地点は,国土地理院発行の1/5万の地形図を縦横それぞれ4等分してできる区画(以下「調査区画」という)の中から2地点がえらばれた。

 聞きとり調査を行う相手(以下「回答者」という)は,林業作業員,営林署担当区職員のように哺乳類の生息状況について詳しい人から聞くようにつとめた。

 調査者は,1地点につき2名以上,即ち1調査区画につき4名以上の回答者から聞きとることが原則になっているが,調査区画内に人が定住していない場合あるいは調査区画内全域の市街地化が著しく調査対象哺乳類の生息が認められないと判断された場合には調査を省略している。

 また,なかには10名以上の回答者から聞きとりを行った調査区画のある県もある。

 聞きとり調査は,調査員が回答者に動物識別用カラー図版を示しながら調査票(資料編参照)にそって情報を得た。目視地点,捕獲地点,生息地点の情報は回答者に呈示した地形図にその場で記載された。

 聞きとり調査実施期間は,各県によって多少のずれはあるが,昭和53年5月から昭和54年2月までの間に実施された。

 調査要綱では調査対象とする哺乳類は次表のとおりであった。

表1 環境庁の指定した地域ごとの調査対象哺乳類

 しかし,各県によって従来より生息の知られていない種については,調査を実施していない種もあり,表2に示すような実施状況になっている。また,都府県によっては調査対象哺乳類以外の種についても分布調査が実施された。

(2)昭和54年度補足調査

 1.54年度ヒアリング調査

 各県から提出された県別哺乳類分布メッシュ図と環境庁調査と同等の手法でアンケート調査を行った哺乳類分布調査科研グループによる分布調査結果(以下「MDR調査」と略称する)等とを比較検討し,調査結果のズレのある区画を抽出した。

表2 都道府県の聞きとり調査実施状況

表3 再アンケート発送数および回収数,回収率

 この際留意したのはMDR調査が環境庁調査に比べて比較的粗い精度の調査であったということである。このため環境庁調査では生息情報を得られたが,MDR調査では情報が得られていないということは調査の精度上当然起こり得ることである。したがって今回の比較検討ではこの逆の場合,すなわちMDR調査では情報を得られたが,今回の調査では情報が得られていない区画を中心に再調査すべき地域を抽出した(抽出区画は後述)。

 特にズレの多い地域に関しては該当する県の調査担当者および地域在住者に直接ヒアリング調査を実施した。調査を行なった県は次のとおりである。

  秋田県,岩手県,新潟県,群馬県

  長野県,徳島県,高知県,佐賀県

  熊本県,宮崎県,鹿児島県

 2.再アンケート調査

 前記の比較検討の結果,抽出区画が広範囲にわたっている地域,現地ヒアリング調査が実施できなかった地域に関しては郵送アンケート法による再アンケート調査を実施した。

 実施状況は以下のとおりである。

i)調 査 対 象

 今回の調査結果とMDR調査結果が異なる区画

ii)調査実施期間

 昭和54年11月1日より11月末日

iii)調査内容

○調査対象種

 北海道(シカ,ヒグマ)

 本州,四国,九州(ニホンザル,シカ,ツキノワグマ,イノシシ)

 宮崎県についてはニホンザル,シカ,ツキノワグマ,イノシシ,キツネ,タヌキ,アナグマの全種を対象とした。

○調査事項

 生息地域(目撃地点,捕獲地点)

 生息状況(群れ,子連れの有無)

 分布の変動(出現年代)

iv)調 査 方 法

 調査はアンケート調査票を郵送し,記入後返送してもらう郵便調査法を用いた。調査票および調査範囲を指定した地図(国土地理院発行1/5万地形図)を調査対象として抽出した各小中高等学校に郵送し,生息地域を地図に記入,それに対応する情報をアンケート調査票に記入後,そのどちらも返送してもらった。

v)回  収  率

 アンケート調査票発送数および回収数,回収率を都道府県別に表3に示す。全体としてのアンケート回収率は,61.5%とこの種のアンケート調査としては良好な回収結果を得た。

vi)再アンケート情報処理

 回収された調査票と地図に記載されている情報は以下のようにして処理された。

 地図に記入された生息地域は,各都道府県ごとにそれぞれの分布原図に転記し,その後生息地の読みとり(8桁基準メッシュコード化),調査票の情報はコード化し,T−2の情報処理方法に準じて磁気テープに入力された。

 

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