4.海域自然度調査

 

4−1 調査方法と解析

ア 調査項目

 海域の自然環境、特にその自然性を判定するため、次のような調査事項が定められ、まず都道府県でデーターの収集が行われた。

1 海岸線改変状況(純自然海岸、半自然海岸、人工海岸の区分)及び海岸線土地利用状況(自然地、農業地、市街地・工業地の区分)

2 水質(透明度及びCOD)

3 生物分布(貝類、海草類など水産生物の分布状況)

 これらの資料が環境庁に報告され、小委員会で自然性判定のための整理方法が検討された。なお、調査対象範囲は、各都道府県の沿岸地先海域とした。

イ 全国海岸線の改変及び土地利用状況

 海岸線の利用、改変状況については、全国の海岸線を対象として改変状況や土地利用現況を5万分の1縮尺の地形図に記入し、各項目の海岸線延長を測定し、それを都道府県別に集計した。

 まず、海岸線の物理的改変状況を調査するため海岸汀線及びそれに接する海域を1純自然海岸(海岸汀線及びそれに接する海域が人工によって改変されていないで、自然の状態を保持している海岸)2半自然海岸(道路や護岸等で海岸汀線に人工が加えられているが、なお汀線に接する海域が自然の状態を保持している海岸  3人工海岸(港湾、埋立等の土木工事により海岸汀線及びそれに接する海域が著しく人工的に改変された海岸)の3種に分類した。それぞれの全国的な割合は、純自然海岸59.6%、半自然海岸19.2%、人工海岸21.2%となっている。ただし、ここで調べた海岸線の改変状況とはあくまでも汀線に加えられた物理的の改変状況であって、水質汚濁等による海域の理化学的な改変状況は考慮されていない。従って水質汚濁等による沿岸海域の改変状況を加えて総合的に判定すると純自然海岸の残されている比率はさらに低くなる。(表18参照)

 次に海岸陸域の土地利用を 1自然地(樹林地、砂浜、断崖等の自然が人工によって著しく改変されていないで、自然の状態を保持している土地)2農業地(水田、畑、牧野等の農業的利用が行なわれている土地)3市街地、工業地(市街地、集落地、工業地等の人工的な利用が行なわれている土地)の三種の分類した。それぞれの全国的な割合は、自然地54.7%、農業地21.2%、市街地・工業地24.1%となっている。(表19表20参照)

ウ 特定17海域の水質

 全国海域のうち特徴的な海域で既存資料の比較的整備されている17海域を選定し、水質、海岸の利用・改変状況、水産生物分布等よりその自然性を総合的に判定した(図13参照)。

 海域の自然性を分析するためまず、COD、透明度について6段階の区分基準(表21参照)を設け、前述の三段階の海岸線改変状況、海岸陸域土地利用状況と併せて自然性判定の基礎とした。この表では、ランク(T)から(Y)になるに従って自然性を失なうのが一般的傾向である。なおCODについては、「海域の水質汚濁に係る環境基準A・B・C類型」を参考として定めた。(表22参照)

 事例として17海域の理化学的性状区分表(表23)、透明度区分図(図14)、COD区分分図(図15)を掲げる。

 例えば図15は、海域ごとのCOD調査地点の測定データーを基準表の(T)〜(Y)までの6段階にあてはめ、それぞれの分布比率を円グラフに表現したものである。例えば番号3の陸中海岸では、測点数28のうち約70%が一番きれいな(T)のランクに、約30%が次にきれいな(U)のランクに属するため、化学的酸素要求量については“自然の状態が保たれている”と判定された。これに対して番号6の東京湾では、測点数94のうち約53%が汚濁の進んでいる(X)(Y)のランクに属し、きれいな(T)は18%しか占めていないため、CODについては自然の状態が失なわれていると判定された。次の7の相模灘では25測点数のうち(T)が32%、(U)が60%であったので、CODについては“やや自然の状態が保たれている”と判定された。水質の問題についても、測定地点が少ない、測定の時期、測定の精度等の問題があった。

エ 特定17海域の生物分布

 海域の自然環境調査では、漁業組合に依頼して、貝類、海草類等の水産生物について、最近の漁獲の増減傾向をアンケー卜調査した。このため、水産生物31種類を指定し、最近の漁獲の現状からみてそれらが 1増加 2変化なし 3減少 4著しく減少等の傾向を調べた。対象とした水産生物は表24のとおりであり、貝類、海草類などで海底に生息し、移動性が少ないためその海域の汚濁や改変の影響を一番うけやすいものの中から、漁業の対象になっていて、漁業に従事する人々の日常の経験から、増減の傾向がわかりやすい種類を選んだ。表24で貝類(1〜23)23種、甲殻類(24、25)2種、海草類(26〜31)6種であり、沖縄では別に6種のものを選んだ。ただし、垂下式などの養殖しているものは除いた。

 海域別水産生物(貝類、海草類等)の増減傾向を円グラフに表現したものが図16である。この図で円グラフの円外の番号は表24の調査対象水産生物一覧表に示した種類の番号に対応する。この図から、全体的に眺めると、2、3の海域を除いて減った種類が多いことがわかる。これは漁民の実感であろう。ただ、5の秋田海岸や9の富山湾では、「増加の傾向にある」、「変化がない」という種類が多い。従って「水産生物からみてまだ自然の状態が保たれている」と判定した。また6の東京湾、13の燧灘では「減少の傾向にある」、「著しく減少した」という種類が多い。従って「水産生物が明らかに減少し、自然性が失なわれている」と判定した。この水産生物調査は、海のよごれ具合を漁民の意識から知ろうとするものであるが、漁業組合からのアンケート回答はかなり主観的であることに留意しなければならない。さらに正確な判断を行なうためには、時系列的な漁獲量の変化を知らねばならないだろう。従って水産生物指標は各海域の自然性総合判定のための参考資料として活用する程度に止まった。

 

オ 特定17海域・海岸線の改変及び利用状況

 次に図18をみると、各海域の海岸線を純自然海岸、半自然海岸、人工海岸の3種に区分し、それぞれの海岸線延長の比率を円グラフで表現している。例えば、3の陸中海岸では、海岸線延長640kmのうち、84%が純自然海岸であり、これに対して6の東京湾では、海岸線延長479kmのうち人工海岸が80%を占めていた。同様に10の大阪湾(211Km)では73%、8の伊勢湾(258Km)では49%が人工海岸となっている。また、瀬戸内海に属する12の広島湾や13の燧灘でも約50%近くが人工海岸化していることは注目してよい。結局、今回事例として取上げた17海域の海岸線総延長の合計5,379Kmのうち44%が純自然海岸、20%が半自然海岸、36%が人工海岸ということになる。これを全国海岸線で占めるそれぞれの比率とくらべると、純自然海岸の比率が少なくなっており、逆に人工海岸の比率が高くなっている。

4−2 海域の自然性

 海域自然度小委員会の学識経験者によって判定された17海域の各事項別の自然性は表26のとおりである。この判定表を基にして各海域の自然性を記述的に表現し、5つのクラスに分類して総合評価したものが表27である。Nの評価を与えられたものが「自然性が良好に保たれている」5海域、(N)が「自然性が比較的良好に保たれているが何等かの人為的改変がみられる」4海域、0が「中間的な」富山湾、(D)が「比較的自然性を失なっている」3海域、Dが「開発が進み自然性を失なっている」4海域であった。

 17海域のうち、海岸の物理的改変が少なく、水質等の理化学的性状も自然性を保っている海域として陸中海岸(岩手)、鳥取海岸(鳥取)、石狩後志海岸(北海道)、鹿児島湾(鹿児島)、宇和海(愛媛)の5海域があげられている。一方、海岸の物理的改変が著しく進み、水質等の自然性も失っている海域とし大阪湾(大阪・兵庫)、伊勢湾(愛媛・三重)、燧灘(愛媛・香川)、東京湾(千葉・東京・神奈川)の4海域があげられている。

 

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