ネイチャーポジティブ社会に向けた社会変革と行動変容 ※2024年2月26日開催(終了しました)

豊かな生物多様性に支えられた生態系は、我々の社会・経済・暮らし・文化の基盤であり、様々恵みをもたらし、人間の福利に貢献していますが、人間活動の影響により、地球全体でかつてない規模で多量の種が絶滅の危機に瀕しています。IPBESが公表した報告書では、現在世界で約100万種が絶滅の危機に追いやられており、生物多様性の損失を止め、回復させるためには、経済、社会、政治、技術すべてにおける横断的な「社会変革」が必要と指摘されているところです。

我が国では、2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定され、「2030年ネイチャーポジティブ(自然再興)」を実現すること等が目標に掲げられました。また、本国家戦略の実施のための基本戦略の一つとして、「一人一人の行動変容」が同戦略に位置付けられています。

このシンポジウムでは、本国家戦略を中心に、IPBESにおける最新の科学的議論を踏まえつつ、どのように社会変革をもたらすことができるのか、本国家戦略における「社会変革」「行動変容」の具体的な内容、社会変革に向けて求められる私たちの行動は何か等を、国内外の有識者を招き議論しました。

プログラム

   

基調講演等

IPBES侵略的外来種評価技術支援機関からのアナウンス

タナラ レナード チュオン IPBES侵略的外来種評価技術支援機関(IPBES-TSU-IAS)シニアプログラムコーディネーター

基調講演①

ロウラ ペレイラ (ストックホルム大学ストックホルムレジリエンスセンター研究員、ウィットウォータースランド大学グローバル・チェンジ研究所准教授)

「なぜ私たちは人と自然のために社会変革シナリオを必要とするのか:ネイチャー・フューチャーズ・フレームワークを含む多様なシナリオ・アプローチ」

基調講演②

松浦 正浩 (明治大学 専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授)

「トランジション・マネジメントによる下からの社会システムの変革」

パネルディスカッション (所属は開催時点のものです)

 石原 広恵 東京大学 新領域創成科学研究科 准教授

 橋本 禅 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 准教授

 松浦 正浩 明治大学 専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授

 浜島 直子 環境省自然環境局生物多様性主流化室長

シンポジウムの録画

 環境省YouTubeをご覧ください。

各講演等やパネルディスカッションの概要

本シンポジウムでは、IPBESや将来シナリオ、社会変革に知見のある専門家を招聘し、社会変革や行動変容とは具体的にどのようなものなのか、社会変革に向けて求められる私たちの行動とは何か等について議論しました。なお、本題に入る前に、IPBES侵略的外来種評価報告書の技術支援機関(IPBES IAS-TSU)から、同評価のフルレポートやファクトシート和訳版等の公表について発表され、合わせて日本政府やIGESの同評価の作業への貢献に対し謝辞が表明されました。

◇基調講演①

ロウラ・ペレイラ氏は私たちが自然と共生する社会を実現するためにはどのような未来が必要か、最新のシナリオ・アプローチも交えてご解説頂きました。人間と自然にとって好ましい未来の展望は共通点もあり得るものの人によって異なり、全世界においてそれが多様なことを認識し、複数の望ましい未来を考える必要性を指摘しました。そこで、IPBESシナリオモデルの専門家グループは、多様な知識システムや自然の価値観を考慮し、人と自然にとって好ましい未来シナリオの作成のためのツールである「Nature Futures Framework(ネイチャー・フューチャーズ・フレームワーク:NFF)」の開発が先住民も含めた多様な主体との議論を重ねて進められてきたことが紹介されました。最後に、「あなたの未来のビジョンを持たない限り、あなたの未来は他の誰かのビジョンにとって変わられてしまう。」、さらに、The Economist(2011)※1 に掲載された文を引用し、「人類は世界の仕組みを変えてきた。今人類は、それに対する考え方を変える必要がある。」として締めくくりました。

◇基調講演②

松浦正浩氏により、トランジション・マネジメントの考え方についてご解説頂きました。まず、日本の喫煙率の過去数十年における大幅な低下や携帯電話・スマートフォンの普及に伴う公衆電話の減少等の身近な事例を基に、社会の当たり前は一瞬で変わるのではなくて数十年かけて変わること、個人の行動の変容だけではなく、社会全体の変容を考えていくことの重要性が示され、トランジションを考える上で重要な「マルチレベルの視点」が紹介されました(一番上にマクロレベル(生態系)、真ん中にメゾレベル社会経済システム)、一番下にミクロレベル(個人)の三つの層)。その上で、マクロレベルとメゾレベルの間の齟齬を指摘したうえで、メゾレベルを変革する必要性を措定した後、その実践的な手段としてミクロレベルの未来的実践の「推し活」を通じて下からの変革加速を促すトランジション・マネジメントの方法論が紹介されました 。

◇パネルディスカッション

環境省自然環境局自然環境情報分析官の中尾文子氏がモデレーターを務め、松浦氏に加え、石原広恵氏、橋本禅氏、浜島直子氏が加わり議論しました。初めに、IPBESの学際的専門家パネル(MEP)の共同議長でもある橋本氏は、ロウラ氏の講演でも紹介されたNFFが自然のあり方を積極的に考える視点の必要性から開発されてきたことを解説しこれまでは自然の道具的な価値として貨幣換算することが多く行われてきましたが、それでは生まれた場所に対して抱く愛着や、農林業を通した自然との親しみといった関係的な価値を見落とすため、NFFは自然の多様な価値を評価するために役立つとしました。次に石原氏は、日本における人と自然との関係性や価値観の特徴について述べ、価値の多様性を評価することの重要性があると同時に、それをシンプルに説明することの難しさが課題として述べられました。次に、浜島氏からは国の役割として生物多様性の主流化への取組と課題を述べつつ、環境省も企業の先進的な事例紹介等に取り組んでいるが多くの企業にとっては“すごいな”で終わってしまう、より幅広い主体の行動変容を引き出すことが難しい、と述べられました。

松浦氏は、社会全体の変えていく上での行政・ビジネス・私たち一人一人へのアドバイスとして、気長に、辛抱強く試みること、持続可能な社会を体現しているフロントランナーを見出し推していくことの重要性を述べました。また、ロウラ氏からは自然の価値の捉え方は国レベル、そして京都、東京といった国内の地域レベルでも異なるので、そういった自然に対する多様な価値観認識の理解を日本国内でも進めると同時に、例えば里山など、自然に関する日本の理解を世界に示すことが重要としました。

最後に、石原氏からは、日本全体よりもローカルな地域レベルにおいて多様な価値がどのように尊重されているかを明らかにし、そういった日本の事例をIPBESの議論でも発表していきたい旨が述べられました。浜島氏は、生物多様性国家戦略で書かれていることを自分ごととして考えていけるような機会の創出にも取組みたいと述べました。 橋本氏は、価値の多様性を認め合いつつ対話を積み重ね、われわれが一体どういう社会を築きたいのか具体的なイメージを描き共有していくことが社会変革に繋がると総括し、また社会変革の萌芽を捉える視座を養うことの重要性にも触れました。

※1 The Economist. “Welcome to the Anthropocene”. 2011年5月26日. https://www.economist.com/leaders/2011/05/26/welcome-to-the-anthropocene

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