V.今後の課題

植生調査の総合解析から気づいた自然環境保全基礎調査植生調査の問題点を列記し、その課題を整理した。解析業務は、衛星画像を活用した植生改変情報の抽出から、各都道府県による植生図修正個所のとりまとめにも広く係わるため、解析業務のみの視点だけでなく、調査全般の視点から課題を抽出し、整理した。

1 植生改変情報の抽出精度の向上

(問題点)

衛星画像を利用した植生改変地の抽出は、調査前に行った検討では画一性と再現性にすぐれている特徴が上げられた。しかし、次のような問題点が解析を通して明らかになった。

・ 1年間に起きる季節変動による影響を受けるケースが、北海道、東北地方や高山地域で発生し、改変情報と識別しにくい面がみられた。

・ 1ha以下の小規模な改変の抽出は画像の解像度から困難であり、市街地周辺などの小規模な改変の多い地域では、改変地が把えにくい。

・ 植生図情報と画像情報の双方に位置誤差があり、オーバーレイによって、抽出された箇所と、植生図上の修正箇所の対象地が同じにならないケースがみられた。

・ 既存の植生図の作成年度が古いものがあり、旧衛星画像の撮影時期と植生図作成の時期にズレがみられる場合がある。

(課題)

季節変動を考慮して各地域の活葉期に撮影された画像を用いて解析を行ってきたが、第4回調査で季節誤差が大きかった地域では画像撮影時期の選択をさらに厳密にする。

また、改変地の抽出と植生図凡例の修正は独立した概念として扱い、植生の改変(あるいは変化)の内容をより厳密に把握していく必要がある。

2 植生変化基準の作成

(問題点)

衛星画像により抽出された改変地は、都道府県委託調査により多くの労力をさき、改変内容等の確認が行われた。しかし、衛星画像による改変地の抽出と各都道府県による植生改変の把握評価の方法や考え方に相違があり、全国的に統一された植生改変情報として扱いにくい面が生じた。例えば、植林地の伐採跡地に対する解釈は、既往の植生図の作成手法が各都道府県により異なるため、伐採後もこれまでと同様植林地とするところ伐跡群落とするところがみられたり、土地利用改変地を一括して造成地として扱う都道府県が生じたりした。

(課題)

全国的に統一した植生改変の基準と評価方法を定める必要がある。評価方法としては、現地確認、航空写真、既存資料、衛星画像などの利用が考えられる。精度、期間、経済性などを配慮して検討することが望ましい。

また、今回の都道府県委託調査の結果を踏まえ、植生改変地の抽出に適した。新しい凡例の定義や全国の調査水準の統一などを行い、均質なデータに基づき解析を行う必要がある。

3 3次メッシュファイルによる改変地評価

(問題点)

3次メッシュごとに約5haの小円による選択法は、対象地が5ha程度あれば、ほぼ実際の面積を反映できる抽出精度を維持できる。しかし、植生改変地は2ha前後以下の頻度が高く、東日本に比較し、西日本ではより小規模となる傾向がみられた。そのため、3次メッシュで改変地を抽出した場合、実面積の2分の1以下の面積しか抽出されないケースもみられ、改変地量が過小評価となることと、さらに地域誤差も生じることがわかった。

(課題)

第3回調査までが現況把握が中心であったのに対し、第4回調査以降では、植生の改変の把握が重要なテーマの一つである。

全国規模の植生改変を的確に把握するには、1ha前後の改変地も解析時に読みとることが必要である。このような手法への改善としては例えば250〜100mメッシュの採用や改変情報のポリゴン情報管理が適していると考える。なお、今回の解析では、植生改変についてはポリゴンの改変地情報を使用している。

4 植生回復を把える

(問題点)

第4回調査での植生改変の把握は、植生量の減少を中心に行われ、回復に関する評価は一部を除き扱われなかった。そのため、植生改変によるマイナス量の把握のみになり、プラス側の情報が不足し、植生動態の全般については、把握しきれなかった。

(課題)

植生回復の進んでいる地域の評価を行う必要がある。しかし、衛星画像では5年間程度では植生回復力の差により、抽出結果に差がみられること、また、群落の遷移段階と植生単位の扱い方が統一されていないことから、回復した植生の全国的な把握は現時点では困難である。今後は、植生遷移の把え方と調査方法の二面から検討を進めることが望ましい。

5 現地調査データの不足

(問題点)

第4回調査の都道府県委託調査は、改変地の確認と図面の修正に力点を置いたところが多く、重要な植物群落の分布状況や植生の改変内容に関する現地調査データが不足した。また、総合解析では、改変の多かった東北、北海道などにおける植生変化の内容を把握できる情報が不足し、改変原因や自然林への遷移状況などが十分に解析できなかった。

(課題)

都道府県委託調査では、重要な群落や植生遷移等を把握するためには現地調査に重点を置く必要があり、一方、改変地の確認調査は、衛星画像情報等をより全面的に利用し、都道府県の調査内容を簡略化する方法が望ましい。

6 適切な情報提供の推進

(問題点)

自然環境情報に関する利用ニーズは、アセスメント、環境管理計画等の増加により、迅速・多量に提供することが求められている。一方で植生調査は、5年ごとに実施されているが、データ取得時期と公表時期の差が大きく、現在発生している問題や計画に対応するには不十分である。

(課題)

画像解析時に概略的な速報を公表し、自然環境保全状況の変化方向を示すことが適切である。

このためには、数値化データの活用を進めることによって、中間時点での経年変化情報の数量把握や分布図の表示の活用が可能と考える。

また、今回作成したような数値化情報は、通信ネットワークを活用した情報提供を今後展開していくことがデータ利用の視点からも特に重要である。

7 データチェックを解析に先立ち実施

(問題点)

第4回調査では、衛星画像を活用した植生改変地情報、都道府県委託調査結果、植生改変図のオーバーレイ図作成の順に作業を行ったが、データの修正、検討の工程が最終段階となり、不十分であったところがみられた。

(課題)

都道府県委託調査後、成果の確認と修正を行い、データチェックが完了した後にオーバーレイ図の作成や総合解析を実施する方法が適切である。

 

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