5.環境要因からみた植生の解析

5.1 自然環境要因からみた植生の解析

現在分布している植物群落の生育立地と気候、地形、地質、土壌、標高などの自然環境要因との関係を気象庁のメッシュ気候値と国土庁の国土数値情報を用いて解析した(以下U.5章で解説する内容は表T.3.7の第4回調査植生現況3次メッシュファイルを使用し解析)。データ数が少ない場合は特異値となることが多いため、該当するメッシュ数が十分あり、国内を代表する群落の中から84群落(以下主な群落)を選びそれぞれの基礎統計量を求めた(データ編参照)。

主な群落の総メッシュ数は223,015メッシュあり、農耕地、市街地等を除く自然植生と代償植生を合計したメッシュ数(264,780メッシュ)の84.2%にあたる。

 

(1)気候要因と植物群落

基礎統計量としては、年平均気温、温量指数、寒さの指数、最寒月平均気温、年降水量、最深積雪深、標高を選び、84群落について、それぞれの平均値、最大値、最小値、標準偏差を求めている。それぞれの数値は、データ編9データ編10データ編11データ編12に示してある。なお、平均値については表U.5.2に示す。

主な群落と吉良の温量指数の関係を図示すると図U.5.1図U.5.2のようになる。温量指数と生態気候区分の関係を表U.5.1に示す。温量指数が240を越える熱帯の植物群落はなく、もっとも高い値となったのはケナガエサカキ−スダジイ群集(212.2)で以下沖縄県、鹿児島県に生育する植物群落のうち3群落が平均値180以上の亜熱帯に区分された。

シイ林、タブ林などの常緑広葉樹林は、おおむね110以上の平均値となった。このような常緑広葉樹林の群落の中で、関東地方に分布するサカキ−ウラジロガシ群集は100.8となり、低い値となった。落葉広葉樹林は、コナラーノグルミ群落(108.8)、クヌギ−コナラ群集(102.0)、コナラ−クリ群落(101.4)などが高い数値を示した。

ブナ林は、シラキ−ブナ群集(74.1)、スズタケ−ブナ群団(69.7)が高く、日本海側に生育するチシマザサ−ブナ群団(61.4)、マルバマンサク−ブナ群集(61.3)が低い値となった。

さらに、低い数値としては、高山に生育する植物群落である高山低木群落(26.5)、雪田草原(28.1)などが挙げられる。寒帯・高山帯植生と亜寒帯・亜高山帯植生は全て温量指数が50以下になっている。他に50以下になる群落としては、ツルコケモモ−ミズゴケクラスがあげられる。寒帯植生に区分される15未満の植生は主な群落としてあげた中にはみられなかった。

*温量指数:

植物の生長にとって最低限度の気温の平均を5℃とし、年平均気温が5℃以上の月の平均気温から5℃をマイナスし、1年間積算した値(吉良,1949)

*寒さの指数:

年平均気温が5℃以下の数値を合計した値(吉良,1949)

最深積雪深順に主な群落を並べると図U.5.8のようになる。

最深積雪深が2mを越える群落には、ウラジロヨウラク−ミヤマナラ群団(284.5cm)、オオシラビソ群集(271.2cm)、雪田草原(226.6cm)、自然低木群落(225.9cm)、ミドリユキザサ−ダケカンバ群団(212.7cm)、ヒメヤシャブシ−タニウツギ群落(210.4cm)の6群落が挙げられ、世界でも稀れな多雪地帯に生育している植物群落といえる。

この他に、寒さの指数の低指数値より30群落をリストアップしたものを図U.5.3に、最寒月平均気温の上位30群落を図U.5.4に、降水量の上位30群落を図U.5.6に、降水量の下位30群落を図U.5.7に、標高の上位30群落を図U.5.9に、下位30群落を図U.5.10に示す。また、各群落の気温と温量指数と降水量について、平均値と標準偏差を図示したものを図U.5.11図U.5.12図U.5.13に示す。

気候要因のデータからは、多様な群落の特徴が読みとれるため、できる限りデータ編に原データを多く掲載するようにした。要因間のクロス集計では、さらに多くの解析が可能であることから、主な群落ごとの相関図を以下の図U.5.14図U.5.15図U.5.16図U.5.17に示す。また、標準偏差に着目すると群落ごとの分布域の広さが示唆される。一般に気温という生育環境の標準偏差の小さい群落は分布域が狭く、標準偏差の大きい群落は分布域が広い傾向がみられる。例えば、海岸、河川、湖沼などの水環境にあり、比較的気候の緩和されやすい立地に生育する植物群落は、平均気温の標準偏差でみると砂丘植生(4.8)、ヨシクラス(4.4)、塩沼地植生(4.0)となるのに対して、それ以外の群落では標準偏差が1前後となり、前者は後者に比較し、広い範囲で分布していることがうかがえる。

年降水量と年平均気温との関係を図示すると図U.5.14のようになる。このグラフからは、各植生区分の違いが年平均気温の違いを反映していることがわかる。寒帯・高山帯植生は2℃以下、亜寒帯・亜高山帯植生は2〜6℃、ブナクラス域植生が5〜12℃、ヤブツバキクラス域植生は10℃以上となっている。一方、年降水量についてはヤブツバキクラス域ではおおむね1800mm以上と多いが、ブナクラス域植生では、2000mm以上の年降水量が多い群落と1000mm〜1600mm程度の年降水量が少ない群落のおおまかに二つのグループに分かれる傾向がみられる。

ブナクラス域から寒冷域の群落においては、気温の差異より年降水量が示す違いが大きい。

例えば、ヤマボウシ−ブナ群集とマルバマンサク−ブナ群集を比較すると前者の年降水量と年平均気温は、2111.0mm、7.9℃であるのに対し、後者は3216.9mm、7.5℃であり、年降水量の差が大きい。さらに両者の最深積雪深は33.3cmと195.9cmと差があり、降水による生長への寄与より、積雪による制約が両群落の性格を特徴づけているとみられる。ブナ林では、日本海側と太平洋側の群落を比較するとこのような傾向が顕著である。

年平均気温と標高のグラフをみると(図U.5.15)、おおむね年平均気温が低いと標高が高くなる傾向が認められる。しかし、ブナクラス域と亜寒帯・亜高山帯植生では、標高の高いグループと標高の低いグループとに二分される傾向が認められる。特に河辺・湿原・塩沼地・砂丘植生では気温が低く、標高が低いところに集中している。

年平均気温と最深積雪深のグラフをみると(図U.5.16)、おおむね気温が低いと最深積雪深が多くなる傾向が認められる。ブナクラス域植生では、最深積雪深が大きいグループ(100cm以上)とさほど大きくないグループ(100cm以下)とに二分される傾向がある。

年降水量と標高のグラフをみると(図U.5.17)、おおむねヤブツバキクラス域以外では標高が高くなると降水量が多くなる傾向が認められる。標高の高いところで年降水量が多いことは、積雪量に関係することが考えられるが、標高と最深積雪深のグラフや年降水量と最深積雪深の関係をみてもブナクラス域植生、亜寒帯・亜高山帯植生、寒帯・高山帯植生では、おおむね同様の相関が認められる。

以上のことから、各植生区分の違いは気温の違いを直接的には反映しているものが多いが、各植生区分中の各群落の違いは、降水量や標高の違いを強く反映しており、特にブナクラス域から寒冷域の植生では、最深積雪深による影響が大きいことが推察される。

(2)地形、地質、土壌と植物群落

国土数値情報の地形、地質、土壌ファイルを全国で区分を統一し、主な群落ごとに各3次メッシュ数の地形、地質、土壌区分を集計し、それぞれの区分ごとの構成比を求め比較を行った。群落ごとの地形、地質、土壌区分別のメッシュ数はデータ編13データ編14データ編15に、構成比は表U.5.3表U.5.4表U.5.5に示す。また、各都道府県ごとの区分の統一方法は参考資料−4に記載した。

 

a.地形と植物群落

図U.5.18〜27(18192021222324252627)は、各地形区分に該当する割合の高い群落を示したものである。

大起伏山地は、ツガ−コカンスゲ群集(94.3%)、イヌブナ群集(91.4%)、マルバマンサク−ブナ群集(82.9%)などの山岳地稜線部に分布する群落が抽出された。

中起伏山地では、スギ−ブナ群落(62.5%)、ムサシアブミ−タブ群落(50.0%)、クロモジ−ブナ群集(44.8%)などがみられたが、大起伏山地ほど群落間の構成比の差は大きくない。

小起伏山地は、もっとも広く分布する。ここで抽出された群落は、中国山地や沖縄県などにみられるアカマツ林、スダジイ林が多く、大起伏山地と比較すると異なったタイプの群落が抽出された。ケナガエサカキ−スダジイ群集では88.3%が小起伏山地に立地する。

山麓地に多い群落としては、イチイガシ群落(21.3%)、クロマツ群落(15.3%)が抽出された。

火山地に多い群落としては、海抜高の高いところに生育する雪田草原(57.9%)、高山低木群落(51.4%)などが抽出された。また、長崎県と大分県の火山地に分布するコナラ−ノグルミ群落(46.2%)は低海抜地域の植生としては、火山地の優占率が高い。

火山山麓地に多い群落としては、ブナクラス域のアカマツ群落(12.0%)、ヤブツバキクラス域のアカマツ群落(10.6%)、自然草原(9.6%)、ノジギク群落(9.3%)、マサキ−トベラ群集(8.4%)が抽出された。

丘陵地に多い群落としては、アカマツ林、クロマツ林、スダジイ林などが抽出された。台地・段丘に多い群落としては、イノデ−タブ群集(33.3%)、カシワ−ミズナラ群落(32.2%)、ノジギク群落(31.1%)が抽出された。

低地に多い群落としては、塩沼地植生(91.2%)、ヨシクラス(79.1%)、砂丘植生(61.7%)、ハンノキ群落(61.4%)、ハマニンニク−コウボウムギ群落(60.5%)、ヤナギ低木群落(59.0%)、ヌマガヤオーダー(57.6%)が抽出された。

湖沼・河川でみられる群落は非常に限られており、ヨシクラス(0.46%)、クロマツ群落(0.37%)、カシワ−ミズナラ群落(0.24%)、ヤナギ低木群落(0.19%)が優占率で0.1%を越えているにすぎない。

 

b.地質と植物群落

図U.5.28〜35(2829303132333435)は、主な群落のうち各地質区分ごとに優占率の高い群落を示したものである。

未固結堆積物は国土に占める面積は少ないが、当該地質区分の優占率が高い植物群落として、ハンノキ群落(93.0%)、ヨシクラス(90.3%)、塩沼地植生(85.7%)と固有の生育地に特徴づけられる群落が抽出され、これらの植物群落の生育立地と地質条件が密接に結びついていることがうかがえる。

我が国で半固結−固結堆積物の地質はもっとも広く分布している。占有率の高い群落としては、オンツツジ−アカマツ群集(88.8%)、ツガ−コカンスゲ群集(84.9%)など多様な群落が抽出された。他の地質区分でも同様であるが、この調査の規模が1km2メッシュ単位であることから、微細な地質条件よりも地形や気候要因を反映しているケースが多くみられ、地質条件が直接関わっている群落は抽出しにくいとみられる。

石灰岩では、タブ群落(11.4%)、リュウキュウマツ群落(7.5%)で構成比が高い。

火山性岩石(1)では、カシワ−ミズナラ群落(24.5%)、ヤブツバキクラス域自然植生のアカマツ群落(22.4%)で構成比が高い。

火山性岩石(2)では、コナラ−ノグルミ群落(81.4%)で構成比が高い。また、寒帯・高山帯植生の構成比が高いのも特徴的である。他に、クロモジ−ブナ群集(64.8%)、オオシラビソ群集(63.3%)、ササ−ダケカンバ群落(59.2%)、チシマザサ−ブナ群団(54.3%)、ノジギク群落(53.6%)の構成比が50%を越えている。

深成岩類は、クロベ−ヒメコマツ群落(51.8%)、ヤブツバキクラス域自然植生のクロマツ群落(45.9%)、ウラジロヨウラク−ミヤマナラ群団(45.0%)での構成比が高い。深成岩類において構成比が高い群落は、火山性岩石(2)でも構成比が高い傾向がある。

変成岩類は、リュウキュウアオキ−スダジイ群集(32.2%)、ウバメガシ群落(25.4%)で構成比が高い。

植生との関係が注目される蛇紋岩では、国土に対する分布域が狭いことから、、構成比の明瞭に高い群落は抽出されていない。アカマツ林、コナラ林の優占するところもみられるが、大半は、高山地域の山岳地植生が抽出されている。これは1km2メッシュに該当するような蛇紋岩地域が低山地域には少ないためと思われる。

 

c.土壌と植物群落

土壌タイプ別に各群落毎の総数に対する出現割合を示すと図U.5.36〜44(363738394041424344)のようになる。

タイプ別にはもっとも高頻度で出現する褐色森林土が約50%前後を占め、多くの山地型の群落において褐色森林土の優占率が高い。そのため、多数の群落で高い構成比となっている。1,000メッシュ以上出現する群落で、褐色森林土の構成比の高いのは、エゾイタヤ−シナノキ群落(65.1%)、クリ−ミズナラ群落(56.7%)、スギ・ヒノキ・サワラ植林(53.7%)などである。その他の土壌タイプについて占有率の高い群落を挙げると次のようになる。

1 岩石地・岩屑地

高山低木群落(61.8%)、雪田草原(54.9%)、高山ハイデ及び風衝草原(50.4%)などの高山地域固有の植生

メッシュ数では、チシマザサ−ブナ群団の2024メッシュが最大

2 未熟土

砂丘植生(65.3%)、ウバメガシ−トベラ群集(63.2%)、ハマニンニク−コウボウムギ群落(55.3%)などの海岸地域固有の植生

メッシュ数では、コバノミツバツツジ−アカマツ群集(1720メッシュ)が最大

3 黒ボク土

アカマツ群落(59.4%)、カシワ−ミズナラ群落(39.3%)、アカマツ植林(35.7%)、コナラ−ノグルミ群落(35.4%)

メッシュ数では、スギ・ヒノキ・サワラ植林(7663メッシュ)が最大

4 乾性褐色森林土

ホソバカナワラビ−スダジイ群集(68.4%)アカマツ−サイゴクミツバツツジ群集(55.7%)、ヤブコウジ−スダジイ群集(54.2%)などの瀬戸内海地方沿岸域の植生

5 湿性褐色森林土

コメツガ群落(13.4%)、シラビソ−オオシラビソ群集(10.6%)、亜高山帯植生、ブナクラス域の平坦地形の植生等

6 ポドゾル

寒帯・高山帯植生、亜寒帯・亜高山帯植生に多い

オオシラビソ群集(71.6%)、シラビソ−トウヒ群団(63.1%)、シラビソ−オオシラビソ群集(55.8%)

メッシュ数では、チシマザサ−ブナ群団が3162メッシュで最大

7 赤黄色土

ケナガエサカキ−スダジイ群集(95.5%)、リュウキュウアオキ−スダジイ群集(73.5%)、リュウキュウマツ群落(55.3%)などの沖縄地方固有の群落

8 低地土・グライ土・泥炭土

ヨシクラス(71.1%)、ヌマガヤオーダー(65.0%)、ハンノキ群落(61.3%)

河辺・湿地・塩沼地・砂丘植生が多い

9 その他

ヤナギ低木群落(10.3%)、ヨシクラス(4.8%)

メッシュ数では、ヤナギ低木群落が54メッシュ、ヨシクラスが51メッシュ

 

5.2 社会環境要因からみた植生の解析

社会環境要因としては、表T.3.1に示した国土庁の国土数値情報の道路密度と指定地域に関する情報、総務庁統計局のメッシュ統計の人口に関する情報と、表T.3.7の第4回調査植生現況3次メッシュファイルを組み合わせ解析した。集計単位は、植生自然度と代表的な植生を中心とした。

(1)人口と植生の関係

84の主な群落についてそれぞれのメッシュごとの人口を積算し平均した。主な群落ごとの平均人口は前掲の表U.5.2に示したとおりである。

このうちメッシュ人口の高い群落を図示すると図U.5.45のようになる。人口密度の高い地域にみられる総メッシュ数100以上の主な群落は、ヨシクラス(346.6人/メッシュ)、クヌギ−コナラ群集(301.7人/メッシュ)、クロマツ植林(262.4人/メッシュ)などがある。ブナクラス域植生では平均が100人/メッシュを越える群落はみられない。

人口の少ないところにみられる群落は、図U.5.46のようになり、高山ハイデ及び風衝草原(0.02人/メッシュ)、オオシラビソ群集(0.06人/メッシュ)、ヒメヤシャブシ−タニウツギ群落(0.09人/メッシュ)などでいずれも高山あるいは岩角地などが発達する地域にみられる植生である。

次に人為と植生の関係をみるために植生自然度と人口の関係を図示すると図U.5.47のようになる。

人口が0人のメッシュの構成比は、自然林(植生自然度9)でもっとも高く92.5%を占める。自然草原(植生自然度10)、自然林に近い二次林(植生自然度8)、植林地(植生自然度6)、二次草原(植生自然度5・4)はおおむね類似した人口区分別の構成比となっており、人口0人のメッシュの構成比は約70%である。

植生自然度7の二次林は、植林地に比較すると、人口0人のメッシュの構成比が約60%と低く、人口25人以上1,000人未満のメッシュの構成比が高いことから、人口の多い人里付近の植生であることがうかがえる。二次草原は自然草原に比べて、人口0人のメッシュの構成比は約70%と変わらず、むしろ人口100人以上のメッシュの構成比は自然草原の方が高いくらいである。

農耕地(植生自然度3・2)、市街地・造成地等(植生自然度1)では、人口0人のメッシュの構成比が20%以下と極端に低い。農耕地では、人口が0人より多く、1,000人未満のメッシュの構成比が卓越するのに対して、市街地・造成地等では人口1,000人以上のメッシュの構成比が卓越する。

図U.5.48は代表的な森林植生と人口の関係を示したものである。自然林、ミズナラ林・シデ林は人口0人のメッシュの構成比が80%以上と人口の少ないメッシュの構成比が高いのに対し、コナラ林、シイ・カシ萌芽林、アカマツ・クロマツ林は人口0人のメッシュの構成比が約50%と小さい。

都道府県別に緑被地の構成比の高い順に、森林、草原、農耕地の出現頻度の構成比をグラフにしたものを、人口0人のメッシュ、人口100人未満のメッシュ、人口5,000人以上のメッシュごとに図U.5.49図U.5.50図U.5.51に示す。人口0人のメッシュでは、滋賀県を除き、緑被地の構成比が80%を越え、森林の構成比は全ての都道府県で60%を越え、80%以下の都県は8つである。人口100人未満のメッシュでは、全ての都道府県で緑被地の構成比が80%を越え、森林の構成比は6つの道県で60%以下である。人口5,000人以上のメッシュでは緑被地の構成比が小さく、20%を越えるのは12県である。

人口0人のメッシュを母数として、植生自然度に基づいた区分内容をみてみると、データ編17に示したような集計結果になり、植林地(30.7%)及び自然林(29.2%)の構成比が高い。自然林の構成比は、沖縄県(59.4%)と北海道(58.3%)で卓越して高く、次いで富山県(46.6%)が高く、他に鹿児島県と山形県で30%を越えている。植林地の構成比は、奈良県、福岡県、和歌山県、愛知県、三重県、愛媛県で60%を越え、高知県、宮崎県、佐賀県、熊本県、徳島県、鳥取県、茨城県で50%を越えている。草原植生の構成比が高いのは岡山県、広島県、沖縄県であり、農耕地(緑の多い住宅地を除く)の構成比が高いのは千葉県、沖縄県である。

人口5,000人以上のメッシュを母数にして、植生自然度に基づいた区分内容をみてみると、データ編18に示したような集計結果になり、そのほとんどが植生自然度1の緑被されていない地域が80%を越える都道府県が多い。

農耕地(緑の多い住宅地を除く)の構成比が高いのは、熊本県、徳島県、佐賀県、岡山県、広島県で20%を越える。二次草原(植生自然度5・4)の構成比が高いのは、千葉県・宮崎県・大分県で5%を越える。二次林(植生自然度8・7)の構成比は鹿児島県、長崎県、兵庫県が高く5%を越える。

(2)道路密度と植生の関係

3次メッシュでの道路密度を車輌通行の可能な幅員2.5m以上、それ未満の小径、道路無しの3区分に分け、植生自然度別と代表的な植生別の集計を行った。

図U.5.52は植生自然度と道路密度との関係である。自然林(植生自然度9)では道路無しの構成比が50%を越え、小径のみを加えると70%以上が車輌の侵入しにくいところとなっている。

自然草原(植生自然度10)、二次林(植生自然度8・7)、植林地(植生自然度6)、二次草原(植生自然度5・4)における車道の構成比は約40〜50%と、ほぼ同程度である。道路無しの構成比をみると、自然草原で約30%あるが、二次草原(植生自然度5・4)で約20%、二次林(植生自然度7)と植林地は15%以下であり、草原植生より二次林や植林地の方がより開発の対象となっている状況を反映しているとみられる。

森林植生では、自然林と二次林(植生自然度7)、植林地とで道路密度に差が認められるが、草原植生では、自然草原と二次草原(植生自然度5・4)とで道路密度にそれほど大きな差は認められないことが特徴である。植生自然度7の二次林は、森林植生のなかでは道路密度が高く、より開発の行為を受けやすい立地にある植生であることを示している。

農耕地(植生自然度3・2)、市街地・造成地等(植生自然度1)は車道ありの構成比が90%以上あり、道路無しは造成地などわずかである。

図U.5.53は、代表的な森林植生と道路密度との関係である。自然林は、道路無しの構成比が50%近くある。一方、コナラ林、シイ・カシ萌芽林、アカマツ・クロマツ林の道路無しの構成比は10%未満であり、車道ありの構成比は60%以上となっている。それぞれの二次林の日本における分布域は異なっているが、道路密度の特性は似かよっている。

これらの代表的な二次林は、森林植生のなかでは道路密度が高く、開発の影響を大きく受けやすい植生であるといえよう。

ミズナラ林・シデ林はその他の森林と類似した道路密度特性を示し、道路無しのメッシュの構成比が20%以上である。その他の森林で面積的に多く占めているのは植林地であり、ミズナラ林などの自然林に近い二次林と植林地は、自然林とコナラ林などの開発影響を大きく受けた二次林との中間に近い道路密度特性を示している。

また、全体を通じて小径の構成比には大きな変化はなく、道路無しの構成比が小さくなる分、車道の構成比が大きくなるという関係がみられる。

データ編19データ編20には、車道ありの各都道府県別のメッシュを母数として植生自然度別メッシュ数と代表的な植生のメッシュ数を示した。

(3)三大都市圏の植生の特徴

三大都市圏のメッシュ数は首都圏が18,985、中部圏が10,488、近畿圏が17,700であり、国土の面積の12.8%のメッシュ比率であるが、人口集中の著しい圏域である。

それぞれの植生を比較すると図U.5.54図U.5.55図U.5.56のようになる。集計結果は各圏域ごとに都道府県別の内訳と合わせてデータ編21データ編22データ編23に示した。

植生区分別にみると首都圏と中部圏はやや類似し、首都圏の方が植林地・耕作地植生の構成比が10%程度少なく、その分その他(市街地等)が多い。植生区分ではヤブツバキクラス域代償植生が首都圏(13.7%)、中部圏(14.7%)と同程度みられる。近畿圏は植林地・耕作地植生は少ないが、ヤブツバキクラス域代償植生は、首都圏、中部圏の2倍以上の構成比を占める。いずれの圏域においても、植林地・耕作地植生とヤブツバキクラス域代償植生が共通して高い構成比を示しており、ブナクラス域代償植生の構成比は低い(図U.5.54参照)。

植生自然度別には、首都圏が農耕地(植生自然度3・2)が多いの対し、中部圏は植林地(植生自然度6)の割合が高い。近畿圏はアカマツ林を主とする二次林(植生自然度7)が多いのが特徴となっている。植生自然度10・9の自然植生の構成比は首都圏(3.3%)、中部圏(2.7%)、近畿圏(3.3%)といずれも大きくは変わらず、代償植生や植林地の構成比がそれぞれ圏域を特徴づけている(図U.5.55参照)。

森林別に構成比をみると図U.5.56のようになる。首都圏ではコナラ林が24%と多く、アカマツ・クロマツ林は16%とコナラ林の3分の2である。中部圏は植林地を含めたその他が56%と過半を占め、次いでアカマツ・クロマツ林が23%と多く、コナラ林は首都圏に比較し4%と少ない。かわってシイ・カシ萌芽林が11%と多くなる。近畿圏は、アカマツ・クロマツ林が37%あり、コナラ林の18%とともに高く、中部圏や首都圏に比較し、大都市圏内に二次林が多く残されている。

(4)都市計画区域などの指定地域と植生の特徴

都市計画区域、市街化区域、市街化調整区域、農業地域、森林地域の植生を植生区分、植生自然度区分、代表的な植生にそれぞれ区分し、解析を行った。都市圏が中心となることから、植生自然度の区分は植生自然度2を農耕地と緑の多い住宅地に細分し集計した。

集計結果は全国でみると図U.5.57のようになる。各都道府県別の集計値はデータ編24〜35(242526272829303132333435)のとおりである。なお、指定地域のメッシュは、1kmメッシュ内に対象地があればカウントする方法をとっており、市街化区域のようにメッシュ全域が指定されにくいケースでは、メッシュ数が実面積と比較すると過大となっている。

 

a.都市計画区域内の植生

1 緑被率と森林率

都市計画区域のメッシュ数は105,867あり、全国の28.7%を占める広い範囲が指定されている(表U.5.6及び表U.5.7参照)。このうち緑被地は80.6%を占め、その約2分の1にあたる40.6%が森林である。また自然植生は全国の集計値が19.1%であるのに対し、都市計画区域内には4.5%が分布し、4分の1以下となっている。自然草原(植生自然度10)の構成比は全国と都市計画区域がいずれも1.1%で同率であるのに対し、自然林(植生自然度9)の構成比は全国が18.0%で、都市計画区域は3.4%であり、都市計画区域内の自然林の構成比が小さいことが目立つ。

都道府県別に都市計画区域内の緑被率を求めると表U.5.7、図U.5.58及び図U.5.65のようになる。岩手県(91.6%)、高知県(89.0%)、長野県(88.7%)などが高いが、36道府県が80%を越えている。自然植生の割合が高いのは沖縄県、北海道、鹿児島県の各道県で、沖縄県は30%、北海道は20%、鹿児島県は10%を越える。これらの道県では、身近なところに自然植生が多く残されていることを示しており、環境保全上重要である。

緑被率が低いのは東京都(39.9%)、神奈川県(52.8%)、大阪府(53.0%)、愛知県(66.2%)、福岡県(70.6%)などの大規模都市の集中する都府県である。

森林率は表U.5.7、図U.5.60のように埼玉県(14.1%)が最も低く、茨城県(21.3%)、千葉県(23.6%)、愛知県(25.1%)の順に低い。また、森林率が60%を越えるのは京都府(66.6%)、山口県(65.2%)、高知県(61.6%)である。

市街化区域ではこの傾向はさらに著しくなる(表U.5.8及び表U.5.9参照)。図U.5.57は全国の市街化区域内の緑被率である。全国の市街化区域の平均緑被率は51.4%であり、内訳は農耕地が32.5%と3分の2を占めている。自然林の割合は1.1%となり、河口部などに比較的残存している自然草原(1.2%)よりも少なくなっている。森林率は15.0%と小さくなっており、そのうち、二次林が9.6%、植林地が4.2%と、植林地の2倍以上の二次林がみられる。

各都道府県別の緑被率は図U.5.59及び図U.5.67のようになり、森林率は表U.5.9、図U.5.61のようになる。市街化区域内の緑被率は、広島県が66.7%と最も高い。低いのは東京都(18.3%)、大阪府(31.9%)、神奈川県(34.5%)で40%以下となっている。森林率は大都市圏ばかりでなく富山県(4.7%)、香川県(5.6%)などでも低い値であり、15都府県が10%以下となっている(口絵参照)。東京都、大阪府、神奈川県では森林に比較し、農耕地の割合が少ない。そのため図U.5.61にみるように都市内の森林率のみに着目すると全国の各都市では大都市圏以外のところでも20%以下のところが多く、市街化区域内の農耕地が減少すれば、緑被率は東京都、大阪府並みに低下する可能性がある。

なお、市街化調整区域の集計結果は、図U.5.63図U.5.66及び図U.5.69に示したが、都市計画区域と市街化区域の中間的な傾向を示す都道府県が多い。

 

2 都市の森林の特徴

都市計画区域、市街化調整区域、市街化区域内の森林を代表的な植生のタイプ別に区分し比較すると、図U.5.68図U.5.69図U.5.70のようになる。日本の都市を代表する植生はアカマツ・クロマツ林型、コナラ林型、シイ・カシ萌芽林型、二次林混成型、植林地型に概ね区分することができる。アカマツ・クロマツ林型は、都市計画区域では茨城県、愛知県から香川県、愛媛県まで広く分布し、都市域を代表する植生といえる。また、秋田県、山形県等では、都市計画区域では、ミズナラ林・シデ林が卓越するのに対し、市街化区域では、アカマツ・クロマツ林が多くなり、市街地に近いほどアカマツ・クロマツ林型になりやすい傾向がみられる。

関東地方、東北地方の太平洋側では、コナラ林が比較的広くみられ、落葉広葉樹の雑木林が都市の典型的な樹林となっている。四国地方の太平洋側、九州地方では、常緑広葉樹の二次林であるシイ・カシ萌芽林が多く占め、コナラ林型とは異なった都市の森林景観となっている。北海道、千葉県、佐賀県、宮崎県では植林地などその他の森林の割合が高く他の都府県とは異なっている。

 

b.農業地域の植生

都道府県ごとの農業地域の植生区分と植生自然度区分別構成比を図示すると図U.5.71及び図U.5.72のようになる。農業地域は全国で246,917メッシュあり、国土の67.0%にあたる。このうち緑被地は93.0%を占め、58.4%は森林、30.7%が農耕地である(図U.5.57)。また、植生自然度10・9(自然植生)は農業地域内の7.6%を占めており、全国の集計値(19.1%)と比較すると、5分の2である。

植生区分でみると植林地・耕作地植生の割合が高い。特に高いのは茨城県、埼玉県、静岡県、愛知県、三重県、奈良県、福岡県、佐賀県で、植林地・耕作地植生とその他の合計が80%を越えている。一方、植林地・耕作地植生の割合が低いのは、福島県、京都府、兵庫県、島根県、岡山県、広島県、山口県、沖縄県で、植林地・耕作地植生とその他の合計が50%以下である。

また、植生自然度区分でみると、農耕地の割合は30.7%で、その他に植林地(24.7%)、植生自然度7の二次林(22.0%)の割合が高い。農業地域といっても多くの都道府県で森林植生が残されており、近畿地方、中国地方では二次林が多い。自然林(植生自然度9)と自然林に近い二次林(植生自然度8)の構成比が比較的高いのは、北海道、青森県、東京都、新潟県、和歌山県、高知県、九州地方の各県、沖縄県などである。これらの地域では自然性の高い森林の保全が重要な課題である。

 

c.森林地域の植生

森林地域は全国で334,010メッシュあり、国土の90.6%にあたる。このうち95.7%が緑被地であり、73.8%が森林、17.6%が農耕地である(図U.5.57)。全国土の構成比と比較すると森林の割合が高く、農耕地の割合が低い。

都道府県ごとの森林地域の植生区分と植生自然度区分別構成比を図示すると図U.5.73及び図U.5.74のようになる。森林地域は、全国集計の構成比と近似しているが、東京都や大阪府などの都市域の都府県では、森林地域の指定地域の範囲は2分の1程度となり、構成比を全土と比較すると異なっている。

 

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