3.代表的な植生の現況と改変状況

3.1 全国の代表的な植生の現況と改変状況

占有面積などからみて、わが国を代表する植生として表U.3.1に示すような植生をとりあげ、これらの分布傾向や改変状況について解説する。

(1)全国の代表的な植生の現況

それぞれの代表的な植生に含まれる植物群落を表U.3.2及び表U.3.3に示した(U.3.1(1)で解説する内容は表T.3.7の第4回調査植生現況3次メッシュファイルを使用し解析)。

これらの代表的な植生の出現頻度を表U.3.4に示す。ブナクラス域の代表的な自然植生であるブナ林(自然林)は全国の3.9%を占めている。このブナ林(自然林)のうちの大半が日本海側のブナ林で全国の3.5%を占め、太平洋側のブナ林は0.4%を占めているにすぎない。

照葉樹林(自然林)は、ヤブツバキクラス域の代表的な自然植生であるが、西日本を中心に小面積に点在しており、出現頻度の構成比では全国の1.0%を占めるにすぎない。

代償植生では、ミズナラ林・シデ林が8.1%、コナラ林が6.1%、シイ・カシ萌芽林が2.4%を占めている。また、アカマツ・クロマツ林は9.2%を占めている。

表U.3.5及び表U.3.6は、地方別の代表的な植生の出現頻度をそれぞれ地方別総メッシュ数に対する比率と代表的な植生別総メッシュ数に対する比率で表にしたものである。

第3回調査結果と第4回調査結果を比較すると、コナラ林、ミズナラ林でメッシュ数の減少が大きい。

地方別に構成比の高い植生をみてみると、東北地方ではミズナラ林(12.4%)、ブナ自然林(9.9%)、コナラ林(9.2%)、アカマツ林(7.9%)が高い。関東地方では、コナラ林(8.1%)とミズナラ林(5.6%)が高い。中部地方では、ミズナラ林(10.9%)、アカマツ林(6.9%)、コナラ林(6.8%)、ブナ二次林(6.7%)、ブナ自然林(5.6%)が高い。近畿地方では、アカマツ林(19.3%)、コナラ林(8.3%)が高い。中国地方では、アカマツ林(33.3%)、コナラ林(15.7%)が高い。四国地方では、アカマツ林(14.0%)、シイ・カシ萌芽林(9.7%)が高い。九州地方では、シイ・カシ萌芽林(11.2%)、照葉樹林(自然林)(5.5%)が高い。沖縄地方では、照葉樹林の中でもシイ林が26.1%と高い。

(2)全国の代表的な植生の改変状況

全国の代表的な植生の改変状況を表U.3.7及び図U.3.1に示す。改変地の分布を図U.3.2図U.3.3図U.3.4図U.3.5図U.3.6図U.3.7に示す。小円選択法で小円内に少しでも改変地がかかれば抽出する方法で改変地のメッシュを選び、それを5kmメッシュのドットで表示したものである(表T.3.7の改変地分布図作成ファイルを使用し作図)。また、代表的な植生ごとの改変地面積は表T.3.7の改変地解析用ファイルを用いて集計を行った。地方別の改変地面積を表U.3.9及び図U.3.8に示す。

データ編「5.地方別改変状況の推移(代表的な植生別)」には、改変前の代表的な植生がどのような植生自然度区分に変化したかを地方別に示してある。

植生ごとに改変地面積をみると、ブナ林(自然林)は16,898haの改変がみられ、これはブナ林(自然林)全体の1.17%にあたる。太平洋側のブナ林と日本海側のブナ林を比較すると、改変地面積では日本海側のブナ林の方が圧倒的に大きいが、改変地率では逆に太平洋側のブナ林の方が高くなっている。

照葉樹林(自然林)の改変は5,083haで、照葉樹林全体の1.40%にあたる。シイ林とカシ林の改変地面積が大きく共に2,000haを越えており、カシ林は改変地率においても3%を越えている。

代償植生では、ミズナラ林・シデ林は59,179ha(改変地率1.95%)、コナラ林は50,796ha(2.20%)、シイ・カシ萌芽林は12,050ha(1.36%)、アカマツ・クロマツ林は79,541ha(2.34%)の改変がみられる。改変地面積ではアカマツ林、コナラ林、ミズナラ林の順に多い。改変地率はそれぞれほぼ2%前後となっている。自然林と二次林の改変地率は大きく離れていない。

また、改変前と改変後の推移をみると表U.3.8のようになる。これによるとブナ林の9割以上(91.1%)、照葉樹林の8割以上(86.3%)が森林、自然草原以外に転換されており、農耕地や伐採跡地となり、樹林となっていない。ブナ二次林もブナ林と同様に他の植生に比較し、森林以外の植生に変化した割合が高い。

3.2 都道府県別の代表的な植生の現況と改変状況

(1)都道府県別の代表的な植生の現況

代表的な植生の都道府県別分布状況をみると表U.3.10のようになる。

ブナ林(自然林)は、東北地方と中部地方で多く、北海道、秋田県、山形県、新潟県、福島県の各道県で出現メッシュ数が1,000を越える。また、都道府県内で7%以上の構成比を占めるのは、山形県(16.2%)、秋田県(14.0%)、富山県(13.0%)、青森県(9.5%)、新潟県(8.9%)、福島県(8.1%)、石川県(8.1%)、岐阜県(8.0%)、群馬県(7.8%)、宮城県(7.7%)の10県である。太平洋側のブナ林は分布域が狭まれ山梨県、奈良県、宮崎県、栃木県、静岡県等にやや多くみられ、100メッシュを越える。

照葉樹林(自然林)は、九州地方に多く、鹿児島県、沖縄県、宮崎県で卓越している。都道府県別の構成比が高いのは沖縄県で27.8%と際立っており、次いで鹿児島県(14.7%)、宮崎県(7.0%)の構成比が高い。

落葉広葉樹の二次林であるミズナラ林・シデ林は、中部地方と東北地方で多い。都道府県別では、北海道、宮城県を除く東北地方の各県と新潟県、長野県、岐阜県で多く出現メッシュ数が1,000を越える。構成比が高いのは、新潟県(33.7%)、山形県(30.6%)、長野県(23.8%)、秋田県(22.1%)、福井県(22.1%)、福島県(21.5%)で20%を越える。

コナラ林は全国的に広く分布し、東北地方、中国地方、中部地方で多い。都道府県別では、岩手県、島根県、宮城県、福島県、岡山県、岐阜県、京都府等が多く、1,000メッシュを越える。構成比でみると、島根県が34.7%と高く、次いで京都府(24.2%)、石川県(23.6%)、宮城県(23.3%)、岩手県(20.6%)が20%以上となる。

シイ・カシ萌芽林は九州地方、四国地方、近畿地方で多く、都道府県別では九州地方各県のほか、高知県、和歌山県、三重県で多くみられる。

アカマツ・クロマツ林は10%以上を占めるのが22府県あり、北海道と沖縄地方を除き、全国的に広く分布しており、特に中国地方に多い。広島県、山口県、岩手県、兵庫県、岡山県では出現メッシュ数が2,000を越える。山口県(51.9%)、広島県(44.5%)、香川県(40.1%)、兵庫県(32.0%)、京都府(31.4%)は、府県内全体の30%以上がアカマツ・クロマツ林となっている。

(2)都道府県別の代表的な植生の改変状況

代表的な植生の都道府県別改変状況をみると表U.3.11及び図U.3.9図U.3.10図U.3.11図U.3.12図U.3.13図U.3.14のようになる。

改変地の分布をみると、ブナ林(自然林)は東北地方を中心にこの植生の分布域全体に改変がみられる(図U.3.2)。改変地面積は東北地方、次いで中部地方が大きく、都道府県別では新潟県(2,016.5ha)が最も大きく、2位から5位までを東北地方の県が占めている。改変地面積の構成比では、宮城県(28.7%)と奈良県(20.4%)が20%以上と高い。

照葉樹林(自然林)の改変は九州地方南部に集中しており(図U.3.3)、中でも鹿児島県(2,121.5ha)と宮崎県(1,813.9ha)の改変地面積が飛び抜けて大きい。改変地面積の構成比では、鹿児島県(28.8%)と沖縄県(20.4%)が20%以上とかなり高い。

ミズナラ林・シデ林の改変は全国にみられるものの東北地方から北陸地方にかけて多く分布している(図U.3.4)。改変地面積はブナ林(自然林)と同じく東北地方と中部地方が大きく、都道府県別では新潟県(10,192.7ha)が卓越しており、県全体の改変地面積の53.1%を占めている。次いで、宮城県を除く、東北地方の各県の改変地面積が大きく、2位から6位までを占めている。2,000haを越える改変があるのは他に長野県、北海道、岐阜県である。改変地面積の構成比では山形県(54.9%)、新潟県(53.1%)が50%以上、福井県(44.9%)、秋田県(42.9%)が40%以上と高い。

コナラ林の改変は東北地方の太平洋側から北関東をへて近畿地方の日本海側から中国地方にかけて多くみられる(図U.3.5)。地方別では、東北地方、関東地方、中国地方で改変地面積が大きい。都道府県別では岩手県(9,934.5ha)が最も大きい。次いで島根県(5,627.Oha)、栃木県(4,926.3ha)、福島県(3,416.5ha)の順となっている。改変地面積の構成比では島根県(52.8%)、石川県(41.1%)が40%以上と高い。

シイ・カシ萌芽林の改変は、近畿地方、四国地方の太平洋側から九州地方に点在している(図U.3.6)。改変地面積では九州地方が最も広く、都道府県別では宮崎県が2,114.0haと最大である。次いで高知県(1,244.5ha)、熊本県(1,187.Oha)、長崎県(1,132.8ha)、和歌山県(1,128.1ha)で1,000ha以上の改変がみられ、西日本の各県で占められている。改変地面積の構成比では、長崎県(34.4%)、佐賀県(31.3%)、三重県(30.1%)が30%以上と高い。

また、アカマツ・クロマツ林の改変は北海道、沖縄県を除く全国に分布しており、東北地方の太平洋側、北関東、近畿地方、中国地方に多く見られる(図U.3.7)。都道府県別では岩手県(6,918.Oha)、兵庫県(6,849.2ha)、広島県(6,465.0ha)、茨城県(5,117.7ha)の順となっており、5,000ha以上の改変がみられる。改変地面積の構成比では、山口県(80.6%)、香川県(70.5%)、徳島県(63.0%)が60%以上と高い。

 

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