U.調査の結果

1.全国的にみた植生の現況

1.1 全国の植生現況

(1)全国の緑の概要

第3回自然環境保全基礎調査までに作製した縮尺1/50,000現存植生図を修正し、約1km2ごとのメッシュ数値情報に置き換えて集計を行い、植生分布や保全状況等を解析した(以下U.1章で解説する内容は表T.3.7の第4回調査植生現況3次メッシュファイルを使用し集計)。

表U.1.1は全国の緑被の現況である。樹林地、草原、農耕地等の何らかの緑で覆われた地域は、全国土の92.5%に達し、世界でも緑で覆われた面積の広い国の一つといえる。中でも森林の占める割合は67.0%あり、アメリカ合衆国(32.1%)、イギリス(9.9%)、フランス(7.4%)、ドイツ(29.8%)、中国(13.6%)、韓国(65.6%)、ブラジル(58.0%)、インドネシア(60.3%)、カナダ(39.0%)、[FAOの1991年次の統計値]に比較しても高い比率といえる。

(2)全国の植生区分の現況

全国の植生を植生帯、自然植生・代償植生の別などにより区分し、集計した結果を表U.1.2表U.1.3図U.1.1及び図U.1.2に示す。これらの結果と別添の全国の現存植生図(縮尺1/2,500,000)から植生区分別の分布の特徴をみると次のようになる。

 

a.寒帯・高山帯植生

高山低木群落、高山ハイデ、雪田草原などの寒帯・高山帯自然植生は、全国の0.3%であるが、大半は大雪山、日高山脈、知床半島等の北海道の山岳地帯の山頂部(61.7%)や北アルプス、白山、南アルプス等の中部山岳地帯の山頂部(28.4%)に集中している。

 

b.亜寒帯・亜高山帯植生

トドマツ、エゾマツ、ダケカンバ、オオシラビソが優占する亜寒帯・亜高山帯植生は、全国の4.7%である。このうち自然植生は、北海道(72.5%)と中部地方18.2%)に集中しており、その他東北地方(5.0%)の八甲田山、八幡平、鳥海山、飯豊山地、裏磐梯等や、関東地方(4.2%)の三国山脈、奥秩父等にも分布している。

一方、代償植生の割合は少なく、自然植生が全国の4.4%を占めるのに対し、0.3%である。代償植生の地方別構成比においても自然植生とほぼ同様の傾向を示しているが、北海道(60.2%)でやや少なく、中部地方(28.1%)でその分多くなっている。

 

c.ブナクラス域植生

ブナクラス域の植生は、全国の23.4%を占め、自然植生(12.1%)と代償植生(11.3%)の割合がほとんど同程度となっている。分布域は北海道(41.0%)、東北地方(26.3%)、中部地方(23.1%)に集中し、他地域は点在する程度である。

ブナクラス域の自然植生のうち62.7%は北海道にあるが、代償植生は東北地方(34.7%)、中部地方(33.3%)に多く、北海道(17.8%)の割合は少ない。

ブナ自然林、エゾイタヤ−シナノキ群落、下部針広混交林などのブナクラス域自然植生は、北海道では比較的広く分布しているが、他の地方では山地の比較的標高の高い地域に残存するのみで、ミズナラ林などの代償植生の占める割合が上回っている。

 

d.ヤブツバキクラス域植生

ヤブツバキクラス域植生は、全国の17.1%を占め、メッシュカウントされなかった青森県を含めると北海道を除く各地方に分布している。かつてこの区分に含まれる地域は、さらに広い面積を占めていたが、現在では、植林地化や耕作地化などの土地利用改変によりブナクラス域植生に比較して分布面積は狭くなっている。

自然植生と代償植生の構成状況は、ブナクラス域植生に比較すると改変を受けたところが著しく多くなり、自然植生が全国の1.6%であるのに対し、代償植生は、15.5%と約10倍となる。自然植生の分布は、九州地方、沖縄地方に片寄り、ヤブツバキクラス域自然植生の64.4%が両地方に分布している。

 

e.河辺・湿原・塩沼地・砂丘植生

海岸、河川、湿地、沼地に生育するこの植生は、全国の0.7%を占めるのみで、限られた生育環境に分布する植生といえる。釧路湿原やサロベツ原野などの存在する北海道が全国の38.9%を占め、次いで東北地方(16.9%)、関東地方(11.8%)の割合が高い。

なお、本州以西におけるこの植生区分に含まれるものとしては、海岸の砂丘植生が代表的なものである。

 

第3回調査と第4回調査の出現メッシュ数を比較すると、ヤブツバキクラス域代償植生、ブナクラス域代償植生、ブナクラス域自然植生での減少が大きく、植林地・耕作地植生、その他の増加が大きい。

 

(3)地方別にみた植生区分の現況

全国を9つの地方に分けてそれぞれの地方ごとに植生区分の出現頻度からみた特徴をみてみる(前掲表U.1.3、図U.1.3及び図U.1.4)。

 

a.北海道地方

北海道の中での植生区分別の出現頻度構成比をみると、植林地・耕作地植生が37.6%と最も高く、次いでブナクラス域自然植生(33.4%)となる。亜寒帯・亜高山帯自然植生(13.9%)の構成比が他地方に比較すると高いのが特徴である。全国の亜寒帯・亜高山帯自然植生に対する構成比をみると、その72.5%が北海道に集中している。

大雪山系、日高山脈、知床半島、阿寒、恵庭岳周辺等の山岳地帯には、亜寒帯・亜高山帯自然植生が大面積に分布しており、これらの山頂部には北海道のわずか0.9%であるが、寒帯・高山帯自然植生も分布している。しかし、全国の寒帯・高山帯自然植生と比較してみると61.7%が北海道に残されていることになる。河辺・湿原・塩沼地・砂丘植生は全国の38.9%が北海道に集中している。中でも湿原植生は、我が国最大の湿原である釧路湿原をはじめ、サロベツ原野、雨竜沼高地などに分布している。

 

b.東北地方

東北地方の約半分にあたる48.0%が、植林地・耕作地植生である。自然植生の大半を占めるブナ林を主体とするブナクラス域自然植生は12.4%を残す程度で、下北半島、白神山地、十和田湖、八甲田山、八幡平、森吉山、栗駒山地、船形山、月山、朝日岳、飯豊山地、裏磐梯などにまとまって分布するが、その分布域は限定されてきている。

一方、ブナクラス域代償植生は21.5%あり、阿武隈山地や奥会津地方などに広く分布し、全国で最も高い割合を占めており、自然植生の割合を大きく上回っている。

寒帯・高山帯、亜寒帯・亜高山帯の植生は1.4%分布するが、高海抜地域が限られることから中部地方(5.6%)、関東地方(2.4%)と比べて構成比が小さい。

ヤブツバキクラス域の植生は少なく、特に自然植生は陸中海岸から南三陸にかけての太平洋岸と日本海岸の一部に0.9%が点在するにすぎない。

ヤブツバキクラス域代償植生が北上山地を中心に比較的広範囲に分布しているが、その主体はアカマツ林及びコナラ林である。

 

c.関東地方

関東地方は、植林地・耕作地植生の占める割合が九州地方、四国地方に次いで高く55.2%となっている。関東平野周辺部の山地帯には自然植生が分布しており、利根川源流部を含む三国山脈にはブナクラス域及び亜高山帯の自然植生が広く分布しているほか、これに隣接する奥日光にも同様の植生が分布している。

これらと中部地方、東北地方にまたがる奥只見一帯のブナクラス域自然植生の分布域を合わせた地域は、本州では最も自然植生の分布面積の大きい地域の一つである。

ヤブツバキクラス域自然植生の分布域は限定され、わずかに0.5%が残されているのみである。

ヤブツバキクラス域代償植生は12.5%あり、植林地・耕作地植生、その他に区分される市街地・造成地等に次いで多い区分である。

 

d.中部地方

山岳地の多い中部地方は、北海道に次いで高山帯や亜高山帯の植生が多く、全国の28.4%にあたる寒帯・高山帯自然植生と18.2%にあたる亜寒帯・亜高山帯自然植生、28.1%にあたる亜寒帯・亜高山帯代償植生が残されている。

自然植生の割合は15.1%あり、北海道、沖縄地方、東北地方に次いで高い。

高山帯及び亜高山帯植生は、北アルプス、中央アルプス、南アルプスの脊梁山脈一帯に広く分布するほか、白山、妙高山、八ヶ岳、富士山及び三国山脈などに分布している。

ブナクラス域の植生は、自然植生が9.4%、代償植生は21.5%分布している。これらは、上記の亜高山帯の下部に分布するほか、朝日岳から越後山脈にかけての一帯、佐渡、上信越の山地、能郷白山などに広くみられ、エゾイタヤ−シナノキ群落及び下部針広混交林が大半を占める北海道を除くと、東北地方に次いで多いが、その大半は代償植生である。

ヤブツバキクラス域代償植生は11.5%あり、伊豆半島、能登半島、美濃三河高原などに比較的広く分布する。天竜川流域を中心とする地域には植林地が多い。植林地・耕作地植生の構成比は42.8%で最も高い。

 

e.近畿地方

大都市圏を抱える近畿地方は、関東地方と同様に市街地などの占める割合が12.4%と高い。近畿地方の中では、48.6%が植林地・耕作地植生で占められ、次いでヤブツバキクラス域代償植生が31.5%と高い。

ブナクラス域の植生は自然植生1.2%、代償植生4.0%と東日本に比較すると少ない比率となる。ブナクラス域の自然植生は大半がスズタケ−ブナ群団であり、紀伊山地に多く分布する。

 

f.中国地方

中国地方は、アカマツ林を初めとするヤブツバキクラス域代償植生の割合が50.9%を占め、全国で最も高い地方であり、ほぼ全域にわたる広い範囲に分布している。

一方、中国山地の一部には、わずかであるが氷ノ山・那岐や大山などにブナ自然林が残存しているほか、氷ノ山から道後山周辺、西中国山地にかけては、ミズナラ林などのブナクラス域代償植生が塊状に分布している。ブナクラス域植生のこの地方に占める割合は6.5%であるが、ブナクラス域植生のうち代償植生の割合は91.4%あり、他の地方に比較するとブナクラス域の自然植生の割合がもっとも少なくなっている。

 

g.四国地方

植林地・耕作地植生がこの地方の59.1%を占め、次いでヤブツバキクラス域代償植生が30.3%と多い。

森林比率は高く、その大半は植林地やアカマツ林、シイ・カシ萌芽林などのヤブツバキクラス域代償植生である。しかし、剣山、石鎚山などの山頂部にはシコクシラベやササ群落などの亜寒帯・亜高山帯自然植生が分布するほか、ブナ林も小規模ながら分布している。

 

h.九州地方

九州地方は、植林地・耕作地植生の割合が62.2%あり、全国でも最も高い。

ブナクラス域自然植生は、1.1%とわずかであるが標高の高い久住山、祖母山、傾山から九州中央山地にかけての一帯及び霧島山に分布している。

ヤブツバキクラス域自然植生は7.4%残され、スダジイ、イチイガシなどの照葉樹林が日豊海岸、宮崎県北部一帯、大森岳を中心とする綾川上流域、鰐塚山地、出水山地から薩摩半島、大隅半島、甑島列島、奄美大島などに分布しているが、個々の群落はあまり広くない。一方、屋久島のスギ自然林は大面積で残されており特異である。

ヤブツバキクラス域代償植生は19.5%あり、植林地・耕作地植生の3分の1以下となっている。

 

i.沖縄地方

自然植生の占める割合が高く48.1%あり、北海道に次いで多い。沖縄本島北部及び西表島には大面積のヤブツバキクラス域自然植生が分布しており、照葉樹林のほか、マングローブ林等亜熱帯性の植生も分布している。

また、河辺・湿原・塩沼地・砂丘植生は5.6%あり、大規模湿原などがみられる北海道(1.2%)の構成比率と比較しても際立って高い比率となっている。

 

1.2 全国の植生自然度の現況

(1)全国の植生自然度の概要

全国の植生を表T.3.3に示したように人為による自然性の度合に応じて10ランクの植生自然度に区分し集計した結果を表U.1.4表U.1.5図U.1.5及び図U.1.6に示す。これらの結果と別添の全国の植生自然度図(縮尺1/2,500,000)から植生自然度別の分布の特徴をみると次のようになる。

この図によると、植生自然度の高い10・9の植生は北海道に集中し低海抜高の箇所でもみられるが、それ以外の地域では、大半は高海抜地域に植生自然度の高いところが残されている。中部地方より西では、ほとんど植生自然度10・9はみられない。また、中央構造線の南側に植生自然度6の植林地が分布していることがよくわかる。

湿原や高山の自然草原等の植生自然度10に区分される単層の自然植生は、分布域は狭く1.1%である。植生自然度9に区分されるブナ林などに代表される自然林は18.0%あり、両方合わせた自然植生は19.1%となっており、国土の5分の1以下にまで減少している。

次いで植生自然度8に含まれる自然林に近い二次林は5.4%である。これらを合わせると24.5%となり、全国の約4分の1が自然植生とそれに近い植生となっている。

自然林、二次林、植林地を合わせた森林植生(植生自然度9・8・7・6)は67.0%を占め、国土のおよそ3分の2が森林となっている。

これらの森林植生のうち、アカマツ林、コナラ林などに代表される植生自然度7の二次林は18.7%あり、自然林の面積をわずかに上回っている。

植生自然度6の植林地は全国の25.0%を占めており、自然度で区分すると最も広い面積を占め、植生自然度9の自然林に植生自然度8の自然林に近い二次林を加えた合計の23.4%よりも上回っている。

また、人為影響を受けて生じた二次林(植生自然度8・7)は全体で国土の24.1%を占めている。

植生自然度3・2の農耕地等は22.8%と植生自然度6の植林地に次いで広範囲に分布している。これに植生自然度1の市街地・造成地等を合わせると27.0%となり、国土の4分の1以上が都市や農耕地などの土地利用の進んだ地域となっている。

改変地の植生については、U.2で全国的にみた植生の改変状況に詳述するので、ここでは第3回と第4回のメッシュ比率増減に着目し、動態をみてみる。

第3回調査結果と第4回調査結果を比較すると、二次林(植生自然度8・7)と自然林(植生自然度9)での減少が大きく、植林地(植生自然度6)、市街地・造成地等(植生自然度1)、二次草原(植生自然度4)での増加が大きい。これは、自然性の高い植生が減少していることを示しているもので、我が国は緑の量からみた場合には高い比率であっても、自然の保全や回復の視点からは必ずしも良好な状態となっていない。

 

(2)地方別にみた植生自然度の現況

植生自然度からみた地方別出現頻度の構成比を前出の表U.1.5、図U.1.7及び図U.1.8に示す。各地方別の特徴は次のとおりである。

 

a.北海道地方

自然林(植生自然度9)の構成比が47.1%と最も高く、次いで農耕地(植生自然度3・2)(21.2%)、植林地(植生自然度6)(17.0%)がつづく。自然草原(植生自然度10)は、全国では北海道(46.8%)に偏在しているが、道内での構成比は2.2%と自然林の20分の1にも満たない。

植生自然度8の自然林に近い二次林と植生自然度7の二次林に区分される植生はそれぞれ2.5%、3.3%と少なく、自然林と植林地の間の中間的な区分が少ないのが特徴である。

 

b.東北地方

自然林(植生自然度9)は14.3%と二次林(植生自然度8・7)(28.7%)、植林地(植生自然度6)(26.5%)と比較すると2分の1程度となっている。森林植生(植生自然度9・8・7・6)に対して農耕地(植生自然度3・2)の構成比も22.4%あり、植生自然度区分からみると多段階の植生がほぼ同程度混在している。自然草原(植生自然度10)の割合は少なく、わずか0.9%である。

 

c.関東地方

自然林(植生自然度9)は5.9%であり、東北地方や中部地方が10%以上あるのに対し、少ない状況である。森林植生では植林地(植生自然度6)(22.9%)、二次林(植生自然度8・7)(17.3%)の構成比が高く、両者で関東地方全体の面積の約4割を占めている。自然草原(植生自然度10)は1.1%と少ないが、他地方と比較すると、沖縄地方、北海道に次いで多い状況である。農耕地(植生自然度3・2)(36.3%)、市街地・造成地等(植生自然度1)(11.6%)が特に高いのが特徴である。

 

d.中部地方

全体的にそれぞれの植生自然度の構成比をみてみると、東北地方によく似ており、自然林(植生自然度9)(14.2%)は、二次林(植生自然度8・7)(31.0%)の2分の1程度である。これに植林地(植生自然度6)(24.2%)を加えた森林植生は約7割となる。自然草原(植生自然度10)は0.9%であり、生育範囲は限られている。

 

e.近畿地方

自然草原(植生自然度10)(0.5%)と自然林(植生自然度9)(2.9%)を合わせた自然植生は3.4%であり、中国地方の次に小さな割合となっている。一方、近畿地方で最も大きな割合を占めるのは、二次林(植生自然度8・7)(34.5%)で、植林地(植生自然度6)(31.1%)、農耕地(植生自然度3・2)(18.4%)がこれに続く。

 

f.中国地方

中国地方は全国の中で最も自然林(植生自然度9)の構成比が小さい地域である(1.4%)。二次林(植生自然度8・7)(51.2%)が最も大きな割合を占め、そのほとんどは植生自然度7の二次林(48.6%)である。次いで農耕地(植生自然度3・2)が20.5%を占めており、植林地(植生自然度6)は沖縄地方に次いで小さく16.9%である。自然草原(植生自然度10)(0.2%)はわずかではあるがみられる。

 

g.四国地方

自然林(植生自然度9)の構成比(3.6%)は近畿地方(2.9%)や中国地方(1.4%)に次いで小さいが二次林(植生自然度8・7)(31.3%)、植林地(植生自然度6)(41.9%)を含めた森林植生は全体の76.8%で全国の中で最も高い。特に、植林地の割合が高くなっている。一方、農耕地(植生自然度3・2)の構成比は18.2%で全国で最も低い。自然草原(植生自然度10)の割合は少なく、わずか0.3%である。

 

h.九州地方

自然林(植生自然度9)の占める割合は西日本の中では高く8.5%である。森林植生では植林地(植生自然度6)の構成比(37.2%)が四国地方に次いで大きく、二次林(植生自然度8・7)の構成比は17.6%を占め、植生自然度8の割合が高いのが特徴である。農耕地(植生自然度3・2)(27.2%)は、関東地方(36.3%)、沖縄地方(32.5%)に次いで高い。自然草原(植生自然度10)の割合(0.5%)は近畿地方(0.5%)、中国地方(0.2%)、四国地方(0.3%)と同様に低い。

 

i.沖縄地方

自然林(植生自然度9)の割合は42.5%で北海道(47.1%)と同様に高く、自然草原(植生自然度10)(5.6%)を含めると、沖縄地方の約5割が自然植生で占められる。二次林(植生自然度8・7)(1.2%)や植林地(植生自然度6)(1.1%)などの割合は小さい。次いで農耕地(植生自然度3・2)(32.5%)、二次草原(植生自然度5・4)(7.7%)の順となる。他の地方と比較して、自然林(植生自然度9)が多く、二次林や植林地が少ない特異的な植生状況がみられる。

 

1.3 都道府県別の植生現況

(1)都道府県別の植生区分の現況

都道府県別の植生区分の集計結果を表U.1.7及び図U.1.9に示す(集約群落別に集計した結果は、データ編1を参照)。

寒帯・高山帯自然植生は、北海道、東北地方の各県、関東地方の栃木県、群馬県、中部地方の新潟県、富山県、石川県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県に分布している。北海道(714メッシュ)、富山県(81メッシュ)、長野県(79メッシュ)、岐阜県(69メッシュ)の出現頻度が高い。

亜寒帯・亜高山帯自然植生は、北海道、東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方の各道府県に分布するが、中でも分布面積が広いのは、北海道(11,687メッシュ)、長野県(1,430メッシュ)、群馬県(438メッシュ)、富山県(390メッシュ)、岐阜県(317メッシュ)である。

ブナクラス域とヤブツバキクラス域の自然植生の出現頻度と構成比の高い上位10都道府県を表U.1.6に示す。

ブナクラス域の自然植生の中で3次メッシュ小円選択法でメッシュカウントされた植生は、千葉県、大阪府、沖縄県以外の44都道府県にみられた。その分布の中心は北海道、東北地方、中部地方の各道県である。自然植生の分布もこの地方の道県が上位を占め、北海道に62.7%、それ以下の9県を合わせると、上位10道県でブナクラス域自然植生の90.7%を占めている。出現頻度、構成比とも日本海側ブナ林の分布する地域の道県で自然植生の占める割合が高くなっている。

ヤブツバキクラス域の植生は、北海道を除く46都府県に分布する。自然植生の出現頻度の高い都道府県は、鹿児島県(全国の31.2%)、沖縄県(15.0%)、宮崎県(10.0%)と九州地方に集中するが、他に山口県、奈良県、三重県など近畿地方、中国地方の県にも出現頻度が高い県がある。また、岩手県にも440メッシュ(県面積の2.9%)が分布するが、これはブナクラス域からヤブツバキクラス域の移行帯に分布するアカマツ群落が全て自然植生とされていることによるものであり、他の都府県のヤブツバキクラス域自然植生とは性質が異なっている。

 

(2)都道府県別の植生自然度の現況

都道府県ごとに植生自然度別の集計を行った結果を表U.1.8及び図U.1.10に示す。

植生自然度10(自然草原)と植生自然度9(自然林)よりなる自然植生、植生自然度9(自然林)、植生自然度8・7(二次林)、植生自然度6(植林地)よりなる森林植生、植生自然度1(市街地・造成地等)にそれぞれ着目して、各都道府県ごとの比較を行うと、図U.1.11図U.1.12図U.1.13のようになる。

自然植生(植生自然度10・9)は北海道、東北地方、中部地方の県で構成比が高く、近畿地方以西では非常に低い府県が多い(口絵参照)。しかし、その中で沖縄県、鹿児島県は植生自然度10・9(自然植生)の占める割合が48.0%と23.4%と高い。

自然植生(植生自然度10・9)の割合の低い県としては、岡山県(0.6%)、広島県(0.7%)、愛知県(0.8%)、佐賀県(0.9%)の各県が1%未満となっている。また、5%未満は24府県になり、全国の都道府県の半数以上にのぼる。

森林植生(植生自然度9・8・7・6)の占める割合(口絵参照)では、上位10県までは東北地方(岩手県)、中部地方(岐阜県、長野県、福井県)、近畿地方(和歌山県、京都府、奈良県)、中国地方(島根県、山口県)、四国地方(高知県、徳島県)の府県が占めるが、これら府県の森林の構成をみると、高知県、和歌山県、奈良県の3県では植林地(植生自然度6)の占める割合が高く、自然林(植生自然度9)や二次林(植生自然度8・7)の割合は全国平均を下回っている。

森林植生(植生自然度9・8・7・6)の占める割合が50%以下の都府県は10都府県(滋賀県、福岡県、愛知県、沖縄県、東京都、神奈川県、茨城県、千葉県、埼玉県、大阪府)あり、沖縄県以外の9都府県では、自然林(植生自然度9)や二次林(植生自然度8・7)の占める割合も低い。森林植生の占める割合が40%以下の都府県は6都府県で、大阪府を除き首都圏に集中している。

次にまとまった緑がほとんどなくなってしまった植生自然度1(市街地・造成地等)の占める割合を比較すると、大阪府、東京都、神奈川県の比率が高く、いずれも30%を越えている。一方、このような強度の人為改変が少ない都道府県は、高知県、徳島県、北海道、山形県、島根県、宮崎県などで、これらの地域では市街地・工業地帯の占める割合が相対的に少ないといえる。

 

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