第10章 身近な自然の状況

 

 日本では、古くからおもに薪炭の生産を中心に里山の管理がなされ、昭和27年ごろまでにそのピークを迎えていた。しかし、昭和30年代以降の高度経済成長の中で、従来の森林の利用に大きな変化が生じてきた。即ち、薪炭林、農用林としての利用が著しく減少したのである。この過程で、利用価値の低くなった林地は、従来の農地中心から宅地造成地、工場用地等へと多岐に転用される局面が増大し、居住地周辺の森林や、いわゆる人里に近い里山がその開発の波を受け、人々と係わりの持てる森林が身近なところから遠のいていったといえる。

 また、農地は、大正9年(603万ha)と昭和36年(609万ha)にピークを示したが、昭和36年以降は減少傾向を示し、昭和57年には543万ha(1980年農林業センサス、耕地面積)に減少した。この農地減少の要因として、大都市周辺地域における人ロ、産業の集積が進展したことにともない、農地の宅地化、工場用地化など都市的土地利用が拡大したことが挙げられる。

 このように身近な森林や農地を含んだ自然環境が人工地へと改変していくなかで、人々のレクリエーション行動にも変化がみられ、昭和45年以降は、よく知られた観光地に加え、失われた原風景を思いおこさせる身近な自然を求める行動も徐々に増加し、近年その傾向は著しい。ここでは、身近な自然の保全のあり方等を検討する基礎資料を得るために、自然環境保全基礎調査の各種データ等を利用し、「首都圏」、「近畿圏」、「越後平野を中心とする地域」の3地域について、その自然の状況を概観した。

 

10.1 解析対象地域の設定と解析に用いた資料

 

 解析対象地域として、つぎの3地域を設定した。

 まず、人口の集積度が高く、都市環境がその多くを占める地域として、「首都圏」及び「近畿圏」を設定した。

 両地域は、それぞれ日本を代表する大都市を擁し、人口だけでなく、産業等からも、都市機能が高度に、集積しており、「身近な地域」での自然の消失の度合は大きい。一方で、小規模ながらも残された緑地や水辺は、生物にとっての重要な生息環境であり、人々にとっても、景観やレクリエーション機能等も含めて、貴重な存在となっている。

 つぎに、上記のような2大都市圏とは別に、いわゆる地方都市のなかから、越後平野を中心とする地域(越後平野から、飯豊山へかけての地域)をとりあげた。

 この地域は、上記2大都市圏に比べ人口集積度が低く、田園的な自然や二次的自然を有する地域が、面積的にも相当程度の広がりがあり、また市街地や住宅地から比較的近いところに、自然性の高い地域が存在している。

 解析に用いたデータは、植生、動植物の分布、地形に関するものである。

 植生は、第2回及び第3回自然環境保全基礎調査の「植生調査」のデータであり、動植物の分布は、第3回自然環境保全基礎調査の「身近な生きもの調査」に基づくデータである。なお、前にも述べたが、植生メッシュデータは「小円選択法」によって3次メッシュ(約1km×1km)の代表値を選んでいるために、小規模で散在する植生の場合はメッシュデータとして拾われていないことがあり、注意を要する。昭和58年度から昭和59年度にかけて実施された「第3回自然環境保全基礎調査−身近な生きもの調査」は、この種の調査としては初めて、全国の一般参加者(ボランティア)を募り、全国一斉に一律の調査方法・結果収録方法を以て行なわれた。その結果、10万人余の調査協力者を得、全国土の25%に及ぶ地域から情報がよせられた。この情報がよせられた地域は、「身近な生きもの調査」で主な対象とした全国の「身近な地域」(可住地)の77%に及んだ。

 地形のデータは、国土数値情報の傾斜度に関するものである。

 

10.2 首都圏における植生及び身近な生きものの分布状況

10.2.1 地域の概要

 戦後における首都圏の土地利用の改変状況を調べた第2回自然環境保全基礎調査の「表土改変状況調査」結果を用いて、首都圏域の都市的土地利用への転換をマクロに促えると、「まとまった自然表土地」の大部分は、昭和20年の段階でも首都圏50km圏以遠の山地部に後退しており、丘陵、台地の農耕地化が進んでいた(図10.2.1)。

 首都圏40km圏内には、2つのまとまった自然表土地(多摩丘陵から三浦半島に至る地域及び下総台地から房総半島に至る地域)が残されていたが、特に、昭和35年から50年までの都市化圧力によって、これら地域の自然表土地は著しく減少した。

 昭和50年では、奥秩父・丹沢などの山地及び房総半島の山地では、山麓部に自然表土地の改変が部分的にみられる。

 丘陵では、特に多摩丘陵の改変が著しく、昭和50年頃の自然表土地は、昭和20年頃のおよそ半分に減少している。また、房総半島の木更津丘陵〜土気・誉田丘陵に至る地域でも部分的ではあるが改変がみられる。

 台地では、首都圏東部〜北部の各台地(下総台地、筑波台地、稲敷台地、猿島台地など)で自然表土地の減少傾向が著しい。また、昭和20年時点でもすでに自然表土地が少なかった北足立台地、武蔵野台地、相模原台地などの首都圏西部の台地でも、昭和50年頃には自然表土地はさらに半減または1/3に減少している。

 一方、昭和50年の首都圏の人工表土地は、昭和20年の約2.3倍となり、その拡大傾向は昭和20〜35年では東京・神奈川に多く、昭和35〜50年では放射状に伸びる鉄道網に沿ってほぼ全域にみられる。

 このように首都圏の自然環境は、戦後において様々な都市化圧力が加えられ、その変ぼうは著しいものである。また、人口を見ると首都圏の1都3県に全国の25%にあたる2,600万人もが集中している。

 

10.2.2 植生の分布状況

 様々な都市化圧力が加えられてきた首都圏の植生(植物群落)の分布状況を、図10.2.2に示した。

 最も目を引きつける点は、都心から郊外に放射状にしかも横に連結しながら伸びる無植生地(市街地、住宅地、工場地等が主体をなし、メッシュデータとなるほどのまとまりのある植生の存しない地域)が多数を占めることである。これら無植生地の分布の外縁部は、関東山地、丹沢山地等に連なる西側地域においては、北から飯能市、青梅市、五日市町、八王子市、上野原町、相模原市、厚木市、伊勢原市、秦野市などにみられる。また、北部地域においては、川越市、高崎線沿線の各市、東部伊勢崎線及び野田線沿線の各市にみられる。特に北部地域の無植生地は、耕作地を蚕食するように分布している。

 こうしたなかにあって、身近な自然として親しみ深く、「武蔵野の雑木林」の名で一般に知られる二次林(クヌギ、コナラ、クリ、ミズナラ等から成る林)は、規模が比較的大きなものは丹沢山地及び周辺地域にみられるだけで、これらを除くと、小規模なものが孤立して存在する程度である。これらの分布地としては、多摩川の南に拡がる多摩丘陵の一部(八王子市、日野市、多摩市、町田市、相模原市に囲まれた地域)、三浦丘陵の一部(鎌倉市の東側地域)、狭山丘陵、阿須山丘陵(飯能市、入間市、青梅市に囲まれた地域)などがあげれらるが、これらの周囲は大半が無植生地になっている。この二次林は、その用途の違いにより人里から離れてやや奥地に存在する薪炭林、人里に配置されている農用林に分けられる。先に述べた武蔵野の雑木林は、農用林として育成、管理されたものであり、農家が農業経営を行ったり、必需品を自給するために利用されていた。農用林として管理されなくなって数十年を経て残されている里山の雑木林は、種組成が多様になり、本来の雑木林とは様相を異にしている。

 ブナ林、モミ林、シラカシ林などの自然林は当然二次林以上にその分布が限られ、丹沢山地、日原川上流域などの地域に存在するにすぎない。

 一方、スギ、ヒノキ等の植林地は、自然林、二次林にとってかわり奥多摩郡、入間郡、秩父郡などの関東山地を中心に大規模に拡がっており、丹沢山地の南側地域においてもみられる。

 このように首都圏の植生の大半は、その成立に人為が加えられたものからなり、無植生地が拡大する中で、多摩丘陵、狭山丘陵、三浦丘陵などに残る二次林はその存在自体が緑地保全上重要なものとなろう。

 次に、これらの植生がどのような地形(傾斜度)の所に存在しているのかを調べた(表10.2.2)。

 市街地、住宅地、工場地などの無植生地は約9割が傾斜度8゜未満の所に存在しているが、造成地は平坦地だけでなく、傾斜地にもみられ約2割が傾斜度15゜以上の所に存在している。前述した無植生地の分布の外縁部は、多くの立地が傾斜度8゜以上に該当する。

 二次林のうち、クリ・ミズナラ林は全てが傾斜度15゜以上の山地、丘陵に存在しているが、クヌギ・コナラ林は約4割、アカマツ林は約9割が傾斜度15゜未満の所に存在している。先に、その存在自体が重要なものとなろうと述べた多摩丘陵、狭山丘陵、三浦丘陵、阿須山丘陵などの二次林は、大半が傾斜度15゜未満8゜以上の所に存在しており、過去の開発の経緯(特に、多摩丘陵は二次林等で被われていたが、傾斜地の雑木林にも開発が加えられた結果、傾斜度15゜未満8゜以上でも市街地、住宅地等の無植生地が広くみられる)からみると今後開発への圧力が高まるものと考えられる。

 なお、自然林のうち、ブナ林、モミ林は全てが傾斜度15゜以上の所に存在し、また、スギ、ヒノキ等の植林地は、約9割が傾斜度15゜以上の山地に、耕作地の大半は傾斜度3゜未満の台地に存在している。

 このように樹林地を無植生地へと変える開発行為は傾斜地にもみられ、丘陵などの傾斜地に残る二次林の保全のあり方が重要な課題となろう。

 

10.2.3 身近な生きものの分布状況

 身近な生きもの調査では、70種の動植物が調査対象とされ、動物では、スズメ、ツバメ、ミンミンゼミ、キジバトなど、植物では、セイヨウタンポポ、ヒメジョオン、セイタカアワダチソウなどが報告メッシュ数の多いものである。

 ここでは、首都圏に残された比較的良好な自然を選好する身近な生きものとして、オオムラサキ、リス、ノウサギ(以上、陸域の生物)、サワガニ、カジカガエル、ヤマメ(水域の生物)の6種を取り上げ、これらの分布情報が首都圏のどのような地域から得られているのかを調べた(図10.2.3表10.2.3)。

 

 陸域の生物グループの情報は、関東山地、丹沢山地の外緑部から東側に位置する各丘陵や台地で得られている。具体的には、つぎの地域があげられる。

●狭山湖周辺の狭山丘陵

●飯能市周辺の高麗丘陵

●秋川市・日の出町周辺の地域

●高尾山・相模湖周辺地域

●八王子市から町田市にかけての冬摩丘陵

●厚木市、伊勢原市、秦野市にかけての丹沢山地の山麓部

●鎌倉市東部の三浦丘陵、野田市周辺の下総台地北西部地域      など

 

 水域の生物グループの情報は、多摩川などの河川を中心に得られている。主な地域としてつぎの地域があげられる。

●飯能市周辺の関東山地山麓部の河川(荒川の支流にあたる越辺川、高麗川、入間川)周辺地域

●多摩川及び支流の河川(名栗川、秋川など)の周辺地域(狛江市、稲域市、多摩市、日野市、立川市、昭島市、福生市、秋川市、青梅市、日の出町、五日市町、八王子市など)、

●相模川及び支流の河川(中津川、小鮎川など)の周辺地域(厚木市、座間市、愛川町、相模原市、城山町、相模湖、など)

●花水川及び支流の河川(渋田川、金目川、水無川、など)や酒匂川及び支流の河川(川音川、など)周辺地域(秦野市、中井町、大井町、など)

●横浜市南部の堀割川、大岡川、柏尾川などの周辺地域

 

 上記の地域のなかでも、飯能市周辺、秋川市・日の出町周辺、高尾山から城山町周辺地域、秦野市から厚木市にかけての丹山山地山麓部、八王子市、日野市、稲域市などの多摩丘陵西部、武蔵村山市北部の狭山丘陵、鎌倉市東部の三浦丘陵北部などでは、陸域及び水域の生物情報が共に得られている地域である。こうした地域では、小尾根の上部のアカマツ林や中腹のクヌギ・コナラ林、谷戸の水田などがコンパクトに集合した自然をもつといえる。

 以上のような動物の情報がえられた主要な地域の植生をみると、クヌギ・コナラなどの二次林、常緑針葉樹などの植林地、樹林地に隣接した市街地などが主なものである。特に、オオムラサキの生息環境となる平地や山麓部の雑木林は、宅地化や林種転換で減少しつつある。また、ニホンリスの生息環境となる平地から山地にかけのマツ林は、近年マツノザイセンチョウ等による枯死が著しく、無残な様相を呈している。

 狭山丘陵、多摩丘陵西部、三浦丘陵北部は、前述したように、クヌギ・コナラ等の二次林が分布しているが、周辺は大半が市街地等の無植林地となり、孤立した状態で樹林が存在している。過去の開発は、これらの丘陵とおよび周辺地域に加えられ、斜面等に残る二次林等が伐採され、住宅地等に変えられている。このような開発の経緯を考えあわせると、都心部周辺に残るこれらの孤立して残る丘陵の自然環境は陸域及び水域の生物が共に生息する地域として、また、身近な良好な自然環境を人々に提供する地域として重要となろう。さらに、都心部の無植生地であっても、陸域、水域の生物の情報が得られている地域は、これらの生息地となりうる条件を保持していると考えられるため、こうした地域の保全とともに、そうした動物が生息しうるような環境を積極的に再生していくという視点が必要である。

 

10.3 近畿圏における植生及び身近な生きものの分布状況

10.3.1 地域の概要

 近畿圏は六甲山地などの山地と淀川などの水系を基盤としており、これらの上に成立した低地や丘陵に約1,900万人の人々が生活している。

 昭和30年頃までは、低地特に農地を中心に「線的」な鉄道網の新規整備が進められ各種産業基盤が形成された。

 昭和30年頃から昭和45年頃までは、道路整備の進展とともに、昭和30年頃までに整備された鉄道沿線の低地を中心に「面的」な開発が行われ、さらに平地から丘陵へと進み、その結果、樹林地が著しく減少した。この開発に伴う人口の集積地の推移をみると、大阪平野周辺では生駒山地の山麓沿いに南へ進展し、一大ゾーンを形成するに至っている。

 昭和45年頃から昭和55年頃までは、千里ニュータウンに代表される住宅団地や海岸の埋め立てによる臨海工業地帯の開発に象徴される大規模開発が進められた時代であり、緑地や自然海岸の急激な消失が目立つようになった。例えば、近畿圏域にあった総延長約600kmに及ぶ自然海岸は急激に減少し、昭和60年頃には168kmしか残っていない。

 昭和55年以降は、宅地開発やレジャー開発が続いているが、地域的には近畿圏の外縁部から大阪市街地の方向へと向かう開発の動きが生じている。

 このように近畿圏の自然環境は、低地開発による農地の減少、丘陵開発による樹林地の面的減少を受け、今日では緑地の孤立化の傾向がより一層著しくなっている。

 

10.3.2 植生の分布状況

 植生の分布状況は、図10.3.2に示した。

 無植生地(市街地、工場地等、ただし、前述のようにメッシュの代表値としてのことであり、そのメッシュ内にまったく植生がないということではない)は、大阪平野を中心に、淀川低地から京都盆地、生駒山地東側の奈良市及び周辺都市、神戸市などに連続してみられる。

 耕作地(水田等)は、生駒山地、和泉山地に連なる羽曳野市、富田林市、和泉市などの南大阪丘陵、泉北丘陵、泉南丘陵及び奈良盆地、木津川周辺地域にみられる。

 身近な自然として生活と深くかかわっていた二次林(アカマツ林、クヌギ・コナラ林、等)は、大阪平野を取り囲む六甲山地、北摂山地、生駒山地、和泉山地、大和高原、湖南山地などに広い範囲で分布している。かつては京都のような大都市の郊外でも、落葉かきや柴とりが行われており、洛中に暮らす人々にとって、雑木林は燃料などの資源となっていた。

 古くから文化・産業の中心、として栄えてきた近畿圏においては、歴史的に自然林(コジイ林、アラカシ林、等)は残り少なく、奈良市周辺、宇治市周辺、金剛山などにわずかに点在して分布するにすぎない。一方、スギ、ヒノキなどの植林地は、和泉山地、金剛山地、奈良盆地南部の吉野川周辺山地、大和高原などに広く分布している。

 このように近畿圏においては、大阪平野を取り囲む山地にアカマツ林などの二次林が存在し比較的市街地に近接した地域に樹林地がみられる(大阪市街地からは、これらの山を前山と呼んでいる)ことが特徴としてあげられる。

 次に、これらの植生がどのような地形(傾斜度)の所に存在しているのかを調べた(表10.3.2)。

 無植生地のうち、市街地、工場地は約8割から9割が傾斜度8゜未満の緩傾斜地に存在しているが、造成地は首都圏と同様な傾向を示し約4割が傾斜度15゜以上の傾斜地に存在している。傾斜度15゜以上の無植生地は、六甲山地南部の山麓地、川西市周辺の北摂山地、京都市東部の東山山地、城陽市西部の宇治丘陵などの緑辺部にみられる。

 二次林のうち、アカマツ林は約7割、クヌギ・コナラ林は約8割が傾斜度15゜以上の丘陵、山地に存在している。

 なお、自然林のうち、コジイ林は全て、アラカシ林は約7割が傾斜度15゜以上の丘陵、山地に存在し、また、植林地等は約9割が傾斜度15゜以上の丘陵、山地に存在している。

 耕作地のうち、水田は傾斜地にもみられ、傾斜度8゜以上15゜未満に約3割弱、傾斜度15゜以上に約2割が存在する。傾斜地の耕作地としては、東幡丘陵、北神丘陵、南大阪丘陵、泉北丘陵、泉南丘陵などがあげられる。

 近畿圏においても開発行為は、首都圏と同様に傾斜地にもみられ、山地、丘陵などの傾斜地に残る二次林の保全のあり方が重要な課題となろう。

 

10.3.3 身近な生きものの分布状況

 首都圏の場合と同様、比較的良好な自然を選好する身近な生きものととして、リス、カッコウ、チゴユリ(以上、陸域の生物)、カジカガエル、イモリ、ゲンジボタル(水域の生物)の6種を取り上げ、これらの分布情報が近畿圏のどのような地域から得られているのかを調べた(図10.3.3表10.3.3)。

 陸域の生物グループの情報は、大阪平野を取り囲む六甲山地、北摂山地、西山山地、東山山地、甘南備山丘陵、生駒山地、奈良盆地、北縁台地丘陵、金剛山地、和泉山地等の山地や丘陵で得られている。貝体的には以下にあげる地域である。

 

●再度山、摩耶山、六甲山、甲山などの六甲山地周辺

●能勢町の剣尾山周辺地域

●長岡京市北部のポンポン山・釈迦岳周辺地域

●京都市東部の音羽山・醍醐山周辺地域

●田辺町の木津川周辺地域

●飯盛山・生駒山・信貴山などの生駒山地周辺地域

●大和郡山市・斑鳩町などの丘陵縁辺地域

●二上山・葛城山・金剛山などの金剛山地周辺地域

●葛城山・三石山などの和泉山地周辺地域       など

 

 水域の生物グループの情報は、以下にあげる地域から得られている。

●再度山、摩耶山、六甲山、甲山などの六甲山地周辺

●裏六甲に位置する太多田川・山田川周辺

●伊丹市から宝塚市にかけての武庫川及び周辺の地域

●能勢町の山辺川・大路次川周辺地域

●高槻市内を流れる淀川支流の芥川・桧尾川周辺

●八幡市北部の淀川周辺

●京都市南西部を流れる淀川支流の小畑川・善峰川周辺

●京都市伏見区を流れる山科川周辺

●宇治川・瀬田川周辺、

●斑鳩町の竜田川・富雄川及び周辺の池、東大阪から八尾市にかけての生駒山地の山麓部周辺、

●富田林市を流れる石川・佐備川・千早川などの周辺

●金剛山周辺、明香村周辺              など

 

 上記の地域のなかでも、六甲山周辺、能勢町周辺、京都市伏見区周辺、生駒山地山麓部(大阪側と奈良側)、金剛山周辺では、陸域及び水域の生物情報が共に得られている地域である。

 以上のような動植物の主な分布地の植生をみると、陸域の生物では、アカマツ林、クヌギ・コナラなどの二次林、常緑針葉樹などの植生地、樹林地に隣接した市街地などの無植生地、耕作地が主なものである。特に、カッコウの情報は平地から山地のヨシ原、木のまばらにある草原、農耕地、明るい林などから多くえられている。また、水域の生物では、ゲンジボタル、イモリ、カジガエルともにアカマツ林などの二次林が最も多く、続いて、水田などの耕作地、樹林地、耕作地に隣接した市街地などの無植生地、常緑針葉樹などの植林地が主なものである。陸域の生物、水域の生物の情報がともにえられた地域ではこうした環境が組合さった地域ということができる。

 過去の開発は、低地開発による農地の減少に始まり、丘陵開発による樹林地の面的な減少及び孤立化をもたらしている。今後の開発は、姫路低地、湖西・湖南低地から大阪市街地の方向へと向かう動き、奈良盆地から生駒山麓へと向かう動き、南大阪丘陵等から生駒山麓、泉北・泉南丘陵等から和泉山麓へと向かう動きが予想される。

 これらを考えあわせると、大阪平野周辺に位置する生駒山地及び周辺の枚方・甘南備山丘陵、奈良盆地北縁台地丘陵、箕面市周辺の箕面・千里丘陵、富田村市周辺の南大阪・泉南・泉北丘陵などの自然環境の保全及び本来の自然環境の再生が課題となろう。

 

10.4 越後平野を中心とする地域における植生及び身近な生きものの分布状況

10.4.1 地域の概要

 新潟県は、信濃川、阿賀野川、その他の中小河川が日本海にそそぎ、その中心部に広い平野部をもつ。また、飯豊山地、越後山脈、三国山脈など2,000mの山岳がすぐ背後にあり、平野は南北に長く東西に狭くなっている。越後平野は最も幅広いところで海岸から丘陵地まで約30kmある。

 新潟市及び周辺市町村の戦後の人口の年平均増減率をみると、昭和25年から50年にかけては、新潟市が約1.5%から2.0%近い増加率を示しているが、多くの市町村は減少または微増しているにすぎない。このような人口の減少傾向は、昭和50年から55年にかけても多くの市町村(新潟県112市町村のうち65市町村)でみられる。

 人口減少という、都市機能の維持という側面からは厳しい状況下にあるが、上越新幹線、関越及び北陸自動車道の全通により新潟県は新たな時代を迎えようとしている。例えば、土地利用動向調査結果をみると、都市計画法に基づく宅地系(住宅、工場用地等)の開発許可(20ha未満)、農地法に基づく宅地系への農地転用の許可又は届出(20ha未満)は、新潟市を中心に、黒埼町、亀田町、新津市、新発田市などに至る鉄道沿線、道路沿線に集中してみられる。また、工業団地の造成は、同じく関越自動車道、北陸自動車道沿線の市町村を中心に盛んに行われている。

 このように、新潟県の自然環境は、豊富に残っているといえども、新幹線や主要自動車道の開発に伴う各種開発の影響を大きく受ける時期を迎えつつあると考えられる。

 

10.4.2 植生の分布状況

 植生の分布状況を、図10.4.2に示した。

 無植生地は、首都圏、近畿圏の分布状況とは大いに異なり、新潟市を中心に鉄道沿線の市町村(新発田市、新津市、五泉市、白根市、燕市、三条市など)に小規模にみられるだけである越後山脈の無植生地は、自然裸地である。

 耕作地は、越後平野を中心に広く分布している。

 二次林(ミズナラ・カシワ林、ブナ・ミズナラ林、クヌギ・コナラ林、等)は、飯豊山地の低標高地域、櫛形山脈、関川丘陵、岩船丘陵、東頸城丘陵、五頭山脈、笹神丘陵などの各山地、丘陵に広く分布している。これらの地域は、教育活動やレクリエーションの場としても親しまれている。

 自然林(ブナ林、冷温帯自然低木林、等)は、当然のことながら、首都圏、近畿圏とは異なり、飯豊山地、越後山脈に大規模な分布がみられる。

 一方、スギなどの植林地は低標高地にみられ、加茂市、三条市などの魚沼丘陵、飯豊山地の低標高地域、櫛形山脈の山麓、関川丘陵にみられる。

 このように新潟においては、首都圏、近畿圏とは異なり無植生地の拡がりは少なく、越後平野には耕作地が拡がり、隣接する丘陵にはスギなどの植林地、二次林がみられ、山地にはブナなどの自然林が広く分布してみられることが特徴としてあげられる。

 次に、これらの植生がどのような地形(傾斜度)の所に存在しているのかを調べた(表10.4.2)。

 無植生地のうち、市街地は約8割が傾斜度3゜未満の平坦地に存在する。住宅地、造成地は約6割が傾斜度3゜未満の平坦地に存在しており、傾斜度15゜以上の立地にこれらが存在する割合は、首都圏、近畿圏と比べて低く、新潟における造成等は、現状では平坦地(平野部の耕作地、等)を対象に行われていることがわかる。傾斜度8゜以上の無植生地は、加茂市、三条市などの魚沼丘陵の外縁部で主にみられる。

 二次林のうち、ブナ・ミズナラ林、ミズナラ・カシワ林、クリ・ミズナラ林、クヌギ・コナラ林は大半が傾斜度15゜以上の丘陵、山地に存在している。

 なお、自然林では、ブナ林、冷温帯自然低木林、クロベ・ヒメコマツ林、スギ林は大半が傾斜度15゜以上の山地に存在し、また、スギなどの植林地は、約7割が傾斜度15゜以上、約2割が傾斜度8゜以上15゜未満の丘陵、山地に存在している。

 耕作地のうち、水田は大半が傾斜度3゜未満の平坦地に、一部は傾斜地にも存在している。畑は約5割が傾斜3゜未満の平坦地、約2割弱が傾斜度15゜以上の傾斜地に存在している。

 本地域での開発行為は、大半が越後平野の耕作地帯を中心に行われており、首都圏、近畿圏でみられた丘陵開発による樹林地の面的な減少は少ない。しかし、それらが今後増大する可能性もある。市街地周辺の耕作地(水田)の土地利用転換は、生活排水の流入を伴い、水生生物の生息への影響をもたらすことも懸念される。

 

10.4.3 身近な生きものの分布状況

 首都圏、近畿圏の場合と同様、比校的良好な自然を選好する身近な生きものとして、リス、カッコウ、ヒバリ(以上、陸域の生物)、オオヨシキリ、ゲンジボタル、メダカ(水域に関連した生物)の6種を取り上げ、これらの分布情報が新潟のどのような地域から得られているのかを調べた(図10.4.3表10.4.3)。当地域の場合、首都圏、近畿圏と比べると、調査参加者数が少なく、調査の密度がやや低いという面もあるが、設定した地域内に居住地と併せて大規模な山地があり、その結果として調査密度はうすくなったと言える。

 陸域の生物グループの情報は、その分布が比較的ある地域に集中して得られている。主な地域はつぎのとおり。

 

●越後平野北部に位置する荒川、胎内川の周辺地域(荒川町、黒川村等)

●新発田市、新潟市、巻町、吉田町、三条市、与板町、上川村、西会津町等の市街地周辺地域

●新津市から田上町にかけての信越本線沿線の魚沼丘陵

●村松町の南部に位置する白山の山腹地域       など

 

 水域に関連した生物グループの情報は、陸域の生物の情報と同様にある地域に集中して得られている。主な地域はつぎのとおり。

●荒川・胎内川の流域周辺

●阿賀野川及び支流河川(上川村の常浪川、津川町の音無川)の周辺

●村松町の滝谷川周辺

●鳥屋野潟周辺

●信濃川、中口川、新川の河口周辺

●巻町から吉田町にかけての河川(西川など)の周辺

●三条市を流れる信濃川及び五十嵐川周辺

●寺泊町の海岸付近から和島村の低地周辺

●西会津町を流れる阿賀野川及び支流河川(安座川、長谷川など)の周辺  など

 

 上記の地域のなかでも、荒川・胎内川周辺、阿賀野川の下流周辺、鳥屋野潟から西の新川にかけての平野部、巻町から吉田町にかけての河川周辺、寺泊町から和島村にかけての地域、村松町の滝谷川周辺、西会津町の阿賀野川周辺では、陸域及び水域に関連した生物情報が共に得られている地域である。

 以上のような動物の主な分布地の植生をみると、陸域の生物では、水田などの耕作地、常緑針葉樹などの植林地、ミズナラ・カシワ林、ブナ・ミズナラ林などの二次林、市街地、住宅地・公園などの無植生地が主なものである。特に、ヒバリやカッコウは、耕作地、植林地、リスは、ニ次林、植林地から情報が多く得られている。また、水域に関連した生物では、水田などの耕作地、常緑針葉樹などの植林地、住宅地・公園、市街地、開放水域などが主なものである。特に、水田、植林地から情報が多く得られている。両者ともに水田、植林地を含む、人為環境の比較的多い地域で情報がえられている。

 これまでの開発をみると、大半が越後平野の鉄道沿線、幹線道路沿線の耕作地を中心に土.地利用の改変が行われており、今後はさらに新潟市街地の拡大が予想される。これらを考えあわせると、新潟市街地周辺の阿賀野川の下流域、鳥屋野潟から西に位置する新川にかけての平野部などの自然環境は身近な自然として重要なものと、注目されよう。さらに、平野部及び丘陵等で陸域及び水域に関連した生物の情報が得られている地域は、住民に身近な自然との出会いの場を提供するためにも、現状の環境を悪化させないことともに、改変により失われた環境を再生するという視点が必要である。

 

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