5-2 第2回自然環境保全基礎調査

 第1回調査が「自然度」という概念を中心に据えて、全国の自然の状況把握を試みたのに対し、第2回調査では、基礎的・客観的資料の収集に力点がおかれ、精度の向上、調査対象の拡大、選定基準の明確化等に対して努力が払われた。

 以下に調査項目ごとに第1回調査からの課題の達成状況や第2回調査における問題点、さらに改善すべき点等について言及する。

 

1.植生調査

第1回調査で問題点とされた群落名の統一については、第2回調査開始時点においても解決されず、便宜的に第1回調査の際環境庁により作成された植生図凡例に各県から独自に追加された凡例を整理した増補改訂案を作成するにとどまった。当初この環境庁凡例の増補改訂案(以下、環境庁凡例という)に示した302の群落以外の群落名は、環境庁凡例との対応関係を明示することにより、最終的な取りまとめ段階では統一を図ることが課題とされていたが、調査員の十分な同意が得られなかったので統一化は行わず調査者の意向が尊重された。したがって、結果的には、同物異名を含めて530の群落名が植生図に登場することとなった。

第2回調査の重点課題は、植生調査の場合、精度の向上であり、そのため最終的な成果品としての植生図は国土地理院発行の縮尺5万分の1の地形図単位で作成された。しかしながら調査の分担は都道府県単位が優先されたので、同一図面内に異なる名称(同一群落に対して)が与えられる場合が生じたり、精度の異なる図が相接して表示されることになった。

精度の向上は反面で調査面積の縮小をもたらした。これは、調査の実施に当たって前回と同程度の調査体制で臨まざるを得なかったため、単位面積当たりの労力コストの増大につながる精度の向上は、一定時間内で調査を実施しうる地域の減少によって補わざるを得なかったことによる。この結果、調査が実施されたのは国土の約2分の1にとどまった。

第1回調査では、自然度の判定に幾つかの問題点が残されたが、このうち、ヨシ・アシなどの水辺植生のうち、汚濁の進んだ地域のものは、代償植生とし、自然度5と区分された。しかし、人為の加わっていない原生林(自然度9)と二次林的な天然生林(同8)との判別については必ずしも十分に解決されなかった。

調査が国土の全域で行われなかったため、第1回調査で行ったような自然度による全国の自然の状況の把握等は不可能であった。また調査を5年の間隔を置いて2度に分割したことにより、国土全体の時系列的変化の把握が困難になった。

要するに、精度を高めることによって、全国土において同一時期のほぼ均質なデータを収集するという、基礎調査の特徴の一つが失われることになった。

調査の精度・密度の向上と、均一性・迅速性・悉皆性の維持とは、調査体制(マンパワー)及び予算の飛躍的増大がない限り相対立する命題であり、ニーズに応じて、どちらか一方へ比重をかけなければならない。今回は、地域的レベルの保護及び開発の諸計画に対応できる植生図の整備が第一義的であったので、前者に重点をおいた形となり、全国の植生図の整備は次回に達成されることが期待されている。

なお、時系列的変化の把握には人工衛星によるリモートセンシング技術の導入を図る必要があろう。

 

特定植物群落調査

本調査と動物分布調査のうちの両生類・は虫類、淡水魚類及び昆虫類については、第1回調査の「すぐれた自然の調査」に対応するものである。

第1回調査では、基準がやや不明瞭であったため、対象物の選定と評価に地域差が生じた。そこで第2回調査では、選定基準を可能な限り明確にすることに努めたが、提示された基準の適用にはどうしても調査者の主観が入ることは避けられなかった。

絶滅のおそれや学術上重要な植物群落の状況を把握するために行われた本調査で問題となったのは、群落という概念がきわめて幅広く解釈され、広大な地域(数万ヘクタール)の植生が自然性の高さから対象として抽出される場合がしばしばあったことである。

これが同一の相観を呈するものであり、かつ一体的なものであれば一つの群落として取り扱うことは妥当であるが、高山植生から低山帯の植生まで多様なものが含まれる場合は、群落として取り扱うことは困難であった。

上記のような自然性の高い植生は保護対象として重要であるので、十分に把握しておく必要があるが、その場合は、植生調査から得られる植生自然度図に基づき、自然度910の連続する地域を摘出し、この地域の詳細な状況を現地調査、植生図、航空写真等で検討する等がより効果的であろう。

調査は基準に該当する群落を遂一リストアップすることを主たる目的としたため、体系的に整理することについては十分な配慮が払われず、群落に対して付された名称は統一性に欠けるものであった。このため、特定植物群落の状況を体系的に把握するための分類や整理に、かなり困難な作業を必要とした。

このような調査では少くとも一つの群落は同一の相観を呈するもの、という原則をつらぬく必要があろう。そして、個々の相観には統一的な呼称を予め付すべきであろう。

 

哺乳類分布調査

本調査は調査員が直接地域在住者に会って情報を聞きとる直接面接法が用いられた。これは郵送アンケート法に比べ情報が確実なこと、在住者がいる限りその区画の情報が入手し得ること等の利点があり、現在取り得る全国規模での分布調査の手法としては最良のものといってもよいであろう。しかし調査結果および情報内容を検討していくつかの問題点が指摘できる。

まず第1点は情報提供者の情報がどこまで正確であるかということである。今回の調査では聞きとり対象者は林業作業員、営林署担当区職員、狩猟者といった地域の山林に詳しい人々が中心であった。哺乳類との出会いの機会は最も多い人達と思われるが、哺乳類を相手にした職業でないだけに情報を100%信頼し得る根拠はない。事実再アンケート調査によって本調査の結果が否定された地点もいくつかあった。

また、とりまとめにあたっても情報の信頼度を検証し得る手段がなかったことは今後の課題として残るところである。

第2点は聞きとり調査者の情報取得能力の問題である。調査者の情報取得能力には大きな個人差があり、それによって情報内容の正確さ、情報量は大きく変わるものである。したがって調査者が調査意図、調査内容を正確に理解し情報提供者の選択も含めていかに情報を収集してくるかが調査の精度を高め情報量をふやす一つの決め手となるだろう。

第3点は回答者不在区画の問題があげられる。今回の調査でも聞きとるべき対象者がいなかったため、県境部や奥山で分布情報が空白になっている場合が多くあった。もっとも調査精度の項で述べたように、聞きとり対象者が不在の区画でも、隣接地域の回答者の情報がある場合があり、分布情報の空白区画はかなり少なくなっているが、地域によっては情報の得られていない区画が残っている。この空白部分をいかに埋めるかもまた調査の精度を高め分布域を確定するための大きな課題といえよう。

以上のような問題点はあるものの、本調査は他の動物分布調査に比べて格段の精度と情報量を有するものであり、情報の精度と、同時性、均一性、悉皆性との関係においては、現状ではほゞ満足し得るところに到達していると考えてよい。

 

鳥類分布調査

我が国において繁殖する可能性のある鳥類すべてを対象とし、その繁殖確認を中心とした分布調査はイギリスで1968年から72年の5か年間をかけて実施された繁殖鳥類分布調査に範をとったものである。

イギリスにおける調査は10km四方メッシュを単位として、その区画ごとに情報提供には種別の繁殖確認情報を集計し地図化していくもので、イギリス中の鳥類観察者の多くが参加した。

本調査では単年度で行ったため、予算及び調査員の動員体制の点から全域を調査することはせず、5万分の1地形図区画(約20km四方メッシュ)で最低2か所調査コース(延長3km)を設けて、ここで調査を行うサンプリング調査となった。また、離島は調査員の在住するところ、特に重要なところを除いては行われなかった。

この結果、必然的に調査の精度はやや粗いものとなり、分布限界となることの多い離島の情報が欠如したものとなった。

したがって、今回作成された分布図は、繁殖分布に関して20km四方メッシュで最低ここだけはいるという段階のものであるといえる。今後は今回得られた分布図をベースに情報の追加修正を行っていく必要がある。この場合は、全国各地の鳥類研究者や観察者の自発的参加を得て、それぞれの調査フィールド内で得た情報を収集することと、こうした方法でカバーできない地域に調査員を派遣しての集中的現地調査の併用が考えられよう。

繁殖に関する分布情報は、一部のマニアや密猟者に利用され、鳥類(特に稀少種)保護上好ましくない影響を与える場合が予想されるので、情報の公開に関しては、特別の配慮が必要である。しかし第2回調査では当初はこの問題についての検討がなされていなかったため、公表の段階において若干の混乱が生じた。今後は国及び調査団体の代表者等により事前に公表の取扱いについて検討し情報の管理の方針を決定する必要がある。

 

両生類・は虫類分布調査、淡水魚類分布調査

標記2調査には共通点が多いので一括して論ずる。

両調査とも絶滅のおそれある種、学術上重要な種を対象としてその現況を把握することを目的とした。この場合、特定植物群落及び昆虫類分布調査(特定昆虫類)と異なり、選定基準を設けることなく、検討会もしくは検討分科会において具体的に種が選定された。なお、都道府県においても独自の調査対象種の追加選定が許されたが、両生類・は虫類においては追加選定されたものはなかった。

一般に、絶滅のおそれのあるもの、学術上重要なものは、分布が局限されている、個体数が少ない、生活様式が特異(すなわち特殊な生息環境を要求する)であるなどの特徴を有し、必然的に人目に付きにくいものや分類学的に取り扱いが困難なものが多くなる。従ってごく限られた専門研究者でなければ、正しい情報を得ることができない場合が多い。

この分野(特に両生類・は虫類)における専門研究者は絶対数が少なく、今後とも当分の間は、全国的な一斉調査をフィールドに出て実施することは基本的に不可能と考えられる。このような事情から今回の調査結果は既存の知見と照らしても情報の欠如が目立つ。今回対象とした種については作成された分布図等をベースに、専門研究者の研究・調査活動から得られる情報を恒常的に集積していくことが、より正確な実態把握には効果的であろう。その一方で、きわめて分布が局限されている種は、既知の生息地とその周辺地域で、生息可能な環境を重点的に調査することで効率的に情報が収集しうる可能性もある。

今回調査対象となった種の選定条件は、絶滅のおそれがあるか、学術上の重要性を有するかであり、それ以上のの詳細な選定基準は示されていない。今回の調査で明らかとなった分布状況と専門研究者による解説とによってこれらの種の位置づけがはじめて明らかになったといえよう。種の絶滅を回避するということを動物の保護における第一義的使命とすれば、今回取り上げられたものと同等かそれ以上に危険な状態にあるものは常に注意を払うべきであり、それらが漏れていないかどうかを第3回調査を計画するに当たり点検する必要があろう。

 

昆虫類分布調査

昆虫類分布調査は、環境庁が指定した良好な自然環境の指標となると思われる10種の昆虫類の全国分布調査(指標昆虫類分布調査)と、選定基準を示して都道府県ごとに該当するものを選定し、生息状況を調査した特定昆虫類分布調査とによって構成される。

前者の場合、選定された10種は全国に広く分布することを前提としたものであるが、北海道や沖縄は他の地域と昆虫相が大きく異なるため、これらの組合せでは目的を達することができなかった。昆虫に限らず指標生物は全国同一の種を採用することにこだわることなく、同一の生態的地位をしめ、当該地域に広く分布するものを利用する方が、良い結果をもたらすと思われる。

後者の場合は、我が国だけで10万種も生息すると見積られているきわめて大きな動物群に対して、ややあいまいな基準を適用したため、全体でおよそ1800という多数の種が取り上げられる結果となった。この中には選定基準の適用が不適であったものや知見がほとんどなくそもそも適用が困難なグループもあった。

きわめて多様に分化した動物群である昆虫類に今回の基準を徹底して適用すればさらに何倍もの種が選定されよう。いかに大きな動物群とはいえ、数千から1万に近い種が摘出されるような基準は、基準としての役割を果しているとはいえない。保護を前提とした類似の調査を行うならば種の保存という命題を柱に選定基準を検討する必要があろう。

 

湖沼調査及び河川調査

湖沼調査は、我が国に存在する面積1ha以上の天然湖沼の大部分について、既存資料による概要の把握と、現地調査による湖岸の改変状況、透明度を含む水質等が調査され、61の主要な湖沼(特定湖沼)に対しては生息魚類について資料調査が行われた。

魚類調査を除く他の調査項目については、情報の精度、均一性、同時性、悉皆性の点ではほぼ満足すべき結果が得られたと思われる。魚類調査は、特定湖沼における資料調査にとどまったが、生物の生息環境としての重要性に鑑み、今後は全湖沼の状況を把握しうる調査方法を検討すべきであろう。又今回は1ha以上の天然湖沼に、対象が限定されたが、人造湖も景観や生物の生息場所という観点からは、天然湖沼に劣らず重要な意味を有しているので、これらに対する取り扱いも検討する必要があろう。

河川調査は全国の109の1級水系を代表する河川と2、3の重要な支川及び沖縄(西表島)の1河川を加えて合計113の河川において魚類の魚獲調査を含む各種の調査を実施した。又、原生流域については対象河川を限定せず実施した。得られた情報は精度、均一性、同時性については水準に十分達しており、代表河川のみとはいえ、全国土の主要な水系をも網羅しているので、我が国の河川の状況を把握するのに十分可能な調査である。

今後は、今回の対象河川に限らず上流域から下流域まで原始性を保っている河川の抽出や原生流域については1,OOOha以上という基準にとらわれず、原生状態が保持されているか否かを流域単位で把握していくことなど検討されてよいと思われる。

なお、淡水魚類の調査は、その生息域である湖沼や河川に係る調査と関連づけて行うことが効率的な情報収集という点から考慮されるべきであろう。

 

海岸調査

海岸調査は前回に比して格段の精度の向上が得られた。理論的には同様の方法で調査を繰返していくことによって、我が国の海岸線の変貌状況を把握でさきるはずであるが、調査時において生じる誤差と、図上計測の際の誤差はそれぞれ数パーセントが見込まれ、一方、5年間程度の時間間隔で人為によって生じる変化もおそらく数パーセントにとどまるであろうから、時系列的変化を把握するためには誤差と実際の変化を区別しうる調査方法の検討が必要とされる。

 

干潟・藻場・サンゴ礁分布調査

全国を対象とし、資料調査中心とする方法によったものとしては、現時点では、望みうる限りの質と量の情報が収集できた。しかしサンゴ礁については、沖縄県には広大に分布しているので、資料調査だけでは、タイプ別等多くの嘱性データを得ることができなかった。

 

10海域生物調査

主として海域の汚染に関する多様な既存データを収集したが、調査時の諸条件が雑多であり、赤潮の発生状況を除き統一的な比較検討を行うまでには至らなかった。しかし、収集した多様なデータは都道府県ごとの海域の汚染に関するデータ集、文献目録として活用されるであろう。

 

11海域生物調査

都道府県ごとに2か所の調査区を設定し、5年ごとの調査を繰返し、そこにおける生物群集構造や、生物生産における変化から、海岸域の環境の変化を把握しようとするもので、第1回目の調査に当たる今回は、収集されたデータの整理にとどまった。

調査区は、我が国の海岸域の生態系を代表する各種のタイプをすべて網羅するように設定すべきで、この点から調査区の設定箇所の見直しを行い、必要ならば新たな調査区の追加すべきであろう。

 

12総合的考察

第2回調査は、我が国の自然を構成するさまざまな要素について、客観的な情報を収集し、自然環境の現状を把握しようとしたものである。

自然科学の諸分野のうち、地域との結びつきの強いもの、すなわち地形学・地質学・地理学及び種レベル以上を対象とする生物学などでは、それぞれの調査・研究の状況には著しい地域較差が存在することが少なくない。

基礎調査では、このような状況を認識し、現段階で入手可能な情報を出来るかぎり収集することに徹したもので、その調査体制や調査範囲は都道府県を単位とすることを原則とした。

この結果、得られた情報はその精度や、基準の適用等において都道府県単位では統一性のあるものになったが、全国的視野で自然の現況を把握しようとする時は上述の状況を反映した地域差が目立つ結果となった。この結果をもって、全国的視野で、自然の現況をみようとすれば、「リービッヒの最小律」が働き、最も低い精度や内容しか採用できないことになり、或る地域ではきわめて詳細に調査された結果をみすみす無駄にすることになった。従って第2回調査の結果は、都道府県単位でみたときに最も意味をもつものである。いくつかの自治体では、この結果を総合化したり、補完調査を行って自治体レベルの施策に活用しうるものにしようとの努力がなされており、この方向が、今回の結果を最も有効に活用しうるものであろう。

自然環境保全基礎調査の第一の目標は、全国的な視野で自然環境の現状を把握するところにある。これをより効果的に実現するためには、第2回調査では都道府県レベルで達成できた情報の精度及び内容に均一性、同時性を付与する努力がなされるべきである。

第2回調査においても、この点を徹底して押し進めた調査がある。哺乳類分布調査では、対象種を調査可能性の観点から決定し、調査内容をその種の生息の有無を中心とする単純な項目に限定して実施した。このような方法によって現状では望みうる限り詳細な全国的な分布図が作成された。そしてこの分布情報を元に様々な解析がなされている。

この例を参考とするならば、全国的視野で自然環境の状況を把握するための調査の原則は、次のようなものが挙げられるであろう。

(1)調査対象は、調査の実施可能性を踏まえて予め具体的に決定すること、対象を決定し得ない場合は、主観の入り込む余地のない明確な基準を設定すること。

(2)調査内容(項目)は、調査目的に応じた可能な限り単純なものとし、調査員あるいは体制に適したものとする。すなわち、分布調査であれば、種名とその確認位置の正確性を徹底すべきであり、保護に関する制度や生息環境等を同時に要求することは効率的でなく、これらの情報は別途に得る方が正確性も期せ合理的である。但し、きわめてミクロな環境が重要なものの場合は、この限りでない。

(3)(2)の原則から、個々の調査はきわめて分化した情報収集を行うことになりこれを統合化する必要性が生じてくる。このために必要なキーを調査の計画段階で明らかにする必要がある。第2回調査では、情報処理の段階で、このキーを「第3次地域メッシュ」としたが、今後もキーとしてはこれを基本とすべきであろう。その際位置情報のメッシュ化は情報源で行うことが最も確実であることは明らかなので、それが可能な調査方法とする必要がある。

(4)このような方法はあくまで全国的視野での把握、すなわち、全国的に広く存在する対象に適用されるもので、その存在が地域的に局限されるもの、存在量がごくわずかなものについては、不適当である。この問題については5-2の5でやや具体に論じたが、専門家による既存の知見の集大成により、絶滅のおそれのある種や稀少種を選定し、専門研究者からの情報収集や地域を定めた現地調査等によって、情報の充実や、対象種の監視を図っていく必要があろう。

(5)また、全国視野での現況把握に力点をおくあまり、地域的な特性が無視されることへの危惧が生じるかも知れない。しかし、都道府県レベルの地域特性の把握はこれらを全国的に比較することによってはじめて浮び上がるもので、同様に、市町村レベルの特性把握は都道府県単位の調査によって可能となるものである。

市町村レベルの地域特性を把握するためには相当精度の高い調査が必要であるが、これを本調査で実施することは、経費的にもマンパワー的にも不可能に近く、また、その実施は、これまでの論述から明らかなように無意味でもある。

今後はそれぞれのレベルに相応しい調査の体制、方法等、すなわち調査の機能分担が図られるべきであろう。

(6)最後に、均一な精度と内容の情報を比較的短期間に収集するということが基礎調査の特徴であるが、この情報を種々解釈していくためには、さまざまなバックデータが必要である。しかし現実には、あるタイプの自然の存在が、環境の状態をどのように表現しているか、詳しく研究されている事例は少ない。こうしたバックデータの不足を補うため、我が国の代表的な生態系をサンプリングエリアとして、より詳細な調査を行い、この結果を全国的な一斉調査の結果を解釈することに利用する必要があろう。

これによって、自然環境保全基礎調査の情報は2次元的広がりに厚みを加え3次元的なものとなるであろう。

 

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