3−2 河川調査

 

1.調査の目的と方法

(1)調査の目的

河川は、飲用水・農工業用水の供給源や洪水の発生源、すなわち利水や治水の対象であるだけでなく、魚類をはじめとする生物の生息場所や人間のレクリエーションの場としてもかけがえのない存在である。

わが国の河川においては、水質の悪化についてはある程度対策が講じられてきているが、後者に対する認識は十分とはいいがたく、ダム等の建設、護岸改修、都市部における河川の埋立・暗きょ化等の著しい改変による生物相の貧困化、住民の憩の場の消失等の問題に対処するための継続的・体系的調査すら、ほとんどなされていないのが現状である。

このため、本調査においては、わが国の河川の自然性の現況及び利用の状況を把握し、河川の多面的な機能保全へ向う第一歩として、魚類の生息状況や河川の改変状況等について調査した。

また、集水域全体が原生状態を保っている河川流域(「原生流域」)は、わが国ではごくわずか残されているにすぎないと思われるため、早急に保全対策を講じる必要から、これらの地域の摘出を行った。

(2)調査の内容と方法

ア.対象河川

魚類調査と改変状況調査では、我が国の1級河川の幹川と沖縄県にあっては西表島の浦内川を調査対象とし、原生流域調査の場合は全国のすべての河川を対象とした。

イ.魚類調査

魚獲試験による現地調査を基本とし、これに漁協等からの聞き込み、既存資料の収集を加え、河川ごとの魚類相の把握を行った。

魚獲試験は、主として投網によることとしたが、この方法では採捕が困難な場合は釣り、刺網等他の方法によることとした。

調査においては、魚種名、個体数、体長等を記録するとともに、魚獲試験実施地点の生息環境条件として、気温、水温、底質、塩分等も調べられた。

調査結果は、資料調査等の結果と合せて、魚類調査総括表にまとめられた。

ウ.河川改変状況調査

河川に関する定義を次のように定め、水際線の改変状況、河原の土地利用状況、ダム、堰等の河川横断工作物の設定状況等を既存資料(2.5万分の1地形図)及び現地確認により調査区間(後述)ごとに調査した。

(河川等の定義)(図3−2−1

1 この調査で「河川区域」とは、河川法の規定による「河川区域」とする。

2 「水際線」とは、平水位における水面が陸地と接する部分をいう。

3 「河原」とは、河川区域内の陸部のうち、比較的平坦な部分をいう。

4 「河畔」とは、河川区域の外側幅100mの区域をいう。

5 「右岸」「左岸」とは、それぞれ上流から下流に向った呼称である。

調査は河口より1kmごとに区分し、これを調査区間とした。なお最上流端の区間は1km未満であっても1区間とした。

エ.原生流域調査

全国のすべての河川を対象として、既存資料による調査を行い、次のすべての要件に該当する河川の集水域であって、その面積が1000ha以上のもの(原生流域を摘出した。

1 集水域内で河川改修工事、砂防工事が行われていないこと。

2 集水域内に人工構築物(建築物、車道、各種工作物)が存在しないこと。ただし、標識、測量杭等の軽微な工作物及び歩道(登山道、踏み分け道)については、この限りではない。

3 集水域内で森林の伐採(皆伐・択伐)、土石・鉱物の採取、水面の埋立、土地の形状変更等の人為の影響が認められないこと。

(3)情報処理の内容と方法

都道府県ごとの報告書にまとめられた魚類調査票、河川改変状況調査票及び魚類調査総括表の内容を点検整理したのちコード化注(1)し、磁気テ−プに収納した。

各種の集計は、この磁気テープを利用して行った。又、原生流域図(1/5万)から、デジタイザーで面積を再計測した。

注(1)魚類は湖沼調査と同一のコード。

 

2.河川の分類

 河川の分類

 調査河川の地域的諸特性の把握を容易にするため、全国を大分水界によって13のブロックに分割し、それぞれのブロックに属するものを同一水系群とした(図3−2−2)。このブロックについては便宜上、北海道、本州、四国、九州の4主要島と河川の流入海域との組合せをもって水系群名とした。

 各水系群に属する河川の概要は次のとおりである(表3−2−1)。

 

3.魚類の生息状況

 魚類調査では、各河川の河口と上流端の間にできる限り均等になるよう調査地点を選定し、投網等による採捕を行うとともに、漁協等からの聞きとりによって河川ごとの魚類相の把握が試みられた。

 調査においては採捕地点の河況や採捕魚の種類のみならず、体長や採捕頭数等も記録されたが、調査の主旨は魚類相の把握にあるので、河川ごとの細部にわたる分析は避け、魚類相における特徴や地域差、あるいは放流の影響などを明らかにすべく集計・整理を行った。結果は生息魚類一覧(資料編)にとりまとめるとともに、科ごとの種類数としてまとめた(付表1)。

 

(1)水系群及び河川別生息魚類数

採捕や聞きとりによって生息が認められた魚類の種数は純海産魚(中村守純、原色淡水魚類検索図鑑において取上げられた汽水域に侵入する魚類以外の海産魚)を除くと159種類(・・)であり、1河川の平均魚類数は32.8種類であった。水系別にみると、生息魚類数の多いのは四国−瀬戸内海水系群で平均39.0種類が生息し、少ないのは平均14.3種類しか生息しなかった北海道−日本海水系群であった。生息魚類数(生息確認魚種数)の多少により上位及び下位5河川を挙げると次のとおりとなる。

ア.生息魚類の多い河川

1 信濃川(本州−日本海)     65種

2 筑後川(九州−東支那海)    64種

3 淀 川(本州−瀬戸内海)    63種

4 長良川(本州−大平洋(中・南))62種

5 高津川(本州−日本海)     59種

イ.生息魚類の少ない河川

1 渚滑川 (北海道−オホーツク) 6種

2 常願寺川(本州−日本海)    6種

3 常呂川 (北海道−オホーツク) 9種

4 天塩川 (北海道−日本海)   13種

5 留萌川 (北海道−日本海)   14種

(2)主要な科ごとの生息状況

ア.サケ科:サケ科魚類は我が国では4属16種注(2)の生息が認められており、このうち3種は外国産の移入魚である。今回の調査では、4属15種(うち外国産移入魚3種)が確認された。

サケ科魚類は水産上最も重要なグループであり、全く別の水系への移植を含む各種の人工増殖が盛んに行われており、本科の魚類の生息状況は本来の状態から大きく変化していると思われるので、生息状況を以下のように整理した。

@)放流が全く行われていない種類(生息河川の多い順に)

1 アメマス  2 オショロコマ 3 イトウ

4 ゴギ    5 イワメ    6 ブラウントラウト

7 マスノスケ

A)放流が行われている種類(生息河川の多い順に)

1 ニジマス  2 アマゴ    3 ヤマメ

4 イワナ   5 サケ     6 サクラマス

7 カワマス  8 ビワマス   9 ヒメマス

10 エゾイワナ 11 カラフトマス

B)外国産移入魚

カワマス     生息河川数 12

ニジマス           60

ブラウントラウト       1

イ.アユ科:本科に属するのはアユのみである。本種は我が国においてはサケ科魚類と同様水産資源上最重要種の一つであり、琵琶湖産アユの放流が各地で行われている。生息状況及び放流の状況は次のとおりであった。

生息河川数(水系群別)

水系群 生息河川数(うち放流の行われていない河川数)

北海道−日本海    2(2) 本州−日本海     29(2)

本州−太平洋(中・南)31(3) 本州−瀬戸内海    11(0)

四国−太平洋(中・南)5(0) 四国−瀬戸内海    3(1)

九州−日本海     1(1) 九州−大平洋(中・南)4(1)

九州−瀬戸内海    4(0) 九州−東支那海    9(0)

アユは北海道南部、本州、四国、九州、朝鮮、台湾、華北の一部などに分布するが、本調査で確認されたのは天塩川(北海道−日本海水系群)が最北であり、南は肝属川(九州−東支那海水系群)であった(沖縄県の浦内川(西表島)では確認されなかった)。分布限界にあたる北海道の各河川及びアユの生息に不適当と思われる河川形態の浦内川を除くと、放流、天然遡上を含めてアユの生息が確認されなかったのは六角川と本明川の2河川であった。

注(2)サケ科魚類の分類には専門学者の間に意見の相違があるが、ここでは中村(前出)に従った。なお本集計に使用した魚類コ−ドでは本科が01〜18、すなわち18種類に区分されているが、これはアメマス(降海型)・エゾイワナ(河川型)、ビワマス(琵琶湖型)・アマゴ(河川型)をそれぞれ独立したものとみなし、調査結果にあらわれなかったギンマスを削除したことによる。

ウ.ワカサギ科:我が国の淡水域と汽水域には3属5種を産するが、本調査では4種(チカは確認されなかった)が確認された。生息(放流)状況は次のとおりであった。

シシャモ   4(放流0)河 川

キュウリウオ 2(〃 0) 〃

ワカサギ   33(〃 9) 〃

エ.コイ科:本科は非常に大きな分類群であり我が国では22属53種および亜種の生息が認められている。このうちアオウオ、ソウギョ、ハイレン、コクレンはアジア大陸原産の移入魚であり、タイリクバラタナゴはソウギョの移植に伴い我が国に入ったものと思われる。

北海道の各河川における本科魚類の少なさが顕著であるので、まず、北海道の各水系群における生息状況を示す。

北海道−オホ−ツク 2種 (ウグイ、ギンブナ)
北海道−日本海 5種 (ウグイ、エゾウグイ、コイ、ギンブナ、ゲンゴロウブナ)
北海道−太平洋(北) 4種 (ウグイ、エゾウグイ、アブラハヤ、コイ)
北海道一太平洋(中・南) 2種 (ウグイ、エゾウグイ)

(注)種不明は除く。

全国的にみて生息河川数の多少により上位、下位各5種を示すと次のとおりである。

生息河川数の多い魚類(上位5種)

1 ウグイ  94河川

2 オイカワ 94河川

3 カマツカ 90河川

4 コイ   89河川

5 ギンブナ 84河川

生息河川数の少ない魚類(下位5種)

1 ヒナモロコ

2 ウケクチウグイ

3 アオウオ

4 ヤチウグイ

5 シロヒレタビラ

6 セボシタビラ     いずれも1河川

上位5種のうちウグイ及びコイは北海道にも生息する。また下位に属するシナイモツゴも北海道に生息する。すなわち北海道に生息するコイ科魚類は、きわめて広域に生息するものと、北方系のものとに限定される傾向がある。

なお、コイ科魚類のうちのあるものは、琵琶湖産アユの放流に伴って無意識的に各地の河川に移殖され分布を拡大しているものがあるが(オイカワ、ハスなど)、このような種については、本調査では移入の実態を明らかにすることができなかった。

(3)放流の現況

前項でも既に触れたが、我が国の淡水域には、水産資源の増殖やレクリエーション資源の確保等の目的で多くの魚類が放流されている。このことは一方では我が国の淡水域における魚類相に大幅な変化をもたらしている。魚類相の変化が陸水生態系に及ぼす影響や人間生活に及ぼす影響については十分解明されていないが、放流の実態について把握することには意味があると思われるので、前項でとり上げたグループも含めて、放流の行われている河川及びその種類について整理した。放流されている魚類及び当該魚類が放流されている河川数(( )内)は次のとおりである。

カワヤツメ(1) ワカサギ (8) キンブナ   (8)

カワマス (5) ニゴイ  (1) ギンブナ   (28)

エゾイワナ(2) ヒガイ  (1) ナガブナ   (3)

イワナ  (16) ウグイ  (18) ゲンゴロウブナ(35)

ニジマス (45) アブラハヤ(1) フナ類    (15)

ヒメマス (1) ソウギョ (4) ドジョウ   (3)

サケ   (17) オイカワ (14) ナマズ    (1)

サクラマス(12) カワムツ (6) ウナギ    (54)

アマゴ  (29) コイ   (66) カムルチー  (1)

アユ   (98)

何らかの魚類の放流が行われている河川は総数113のうち96河川で、内訳は北海道5河川、本州の日本海側では28河川、太平洋側では39河川、四国8河川、九州16河川であった。

 

4.河川の改変状況

 河川の改変状況を把握するため、各種の項目について調査が行われ、その結果については電算集計により河川改変状況一覧表が作成された(資料編に掲載)。これをさらに集約して示したのが付表2である。

 以下に、護岸等の設置による水際線の改変状況と河畔の土地利用状況、河川工作物の設置状況についてみていくこととする。

(1)水際線の改変状況

河川の水体が平常時陸地と接する部分を水際線とし、この部分が護岸等によって人工化している割合が調査されたが、調査河川区間の総延長11,414kmのうちの19%、2,116kmが人工化していた。全区間が人工化されている長崎県の本明川をはじめ、50%以上の水際線が人工化している河川は8河川、30%以上のものは29河川あった(表3−2−2)。一般に北海道の各河川は人工化の程度が低く、瀬戸内海や九州西岸の内湾に注ぐ河川は高い。

(2)河畔の土地利用状況

河畔の土地利用形態は、その背後に広がる土地の利用状況、すなわち河川の周辺環境を推測する手掛りとなる。特に河畔に市街地が存在すれば、その背後もやはり市街地である確率は高いと思われるので、市街地の河畔に占める割合の高い河川は、生活及び産業汚廃水の流入や河川区域内の種々の開発等、河川への負荷は大きいと思われる。

河畔に市街地等の占める割合の高い河川は鶴見川(75.0%)、淀川(58.6%)、多摩川(53.5%)で、一方市街地率の低いのは高瀬川(1.0%)、沙流川(2.0%)、後志利尻川(2.1%)であり、対象河川全体の平均値は14.9%であった。地域的すなわち水系別群にみると、本州−瀬戸内海で高く(24.7%)、北海道−太平洋(中・南)では低かった(2.1%)。

(3)河川工作物、ダム

河川に生息する魚類のうちには、海と淡水の双方を規則的に利用するものがあり、これらにとっては移動を妨げるような河川工作物の存在は、時には持続的な生息を不可能にする程重要な影響をもつ。このうち特に産卵のため河川を遡上する場合が最も工作物の影響を受け易いので、魚類の遡上が可能かどうかという点に重点を置き、河川工作物の設置状況が調査された(付表2参照)。この場合、遡上可能け否かの判定は、北日本ではサケ、サクラマス、西日本ではアユが遡上できるかどうかに基づいてなされた。

この結果から、河川工作物の設置状況において特徴的な河川を挙げると次のとおりである。

・河川工作物の全くない河川

尻別川(北海道)浦内川(沖縄)

・工作物が少なくかつ遡上がすべて可能な河川

常呂川、網走川、後志利別川(北海道)

高瀬川、名取川(本州−太平洋)

・工作物は多いが遡上は可能な河川

十勝川(北海道)、高瀬川、久滋川(本州−太平洋)

渡川(四方十川)、土器川(四国)

白川(九州)

・遡上不可能な工作物が多数ある河川(10箇所以上)

信野川、神通川など11河川(本州−日本海)

相模川、木曽川など6河川(本州−太平洋(中・南))

加石川、吉井川、三波川 3河川(本州−瀬戸内海)

重信川、(四国−瀬戸内海)

遠賀川、大淀川など 5河川(九州)

計  26河川

地域別にみると、北海道ではいずれの水系群も河川工作物が少なく、魚が遡上を妨げられることのない河川が13河川中5河川存在する。本州の日本海側では全流路にわたって遡上可能な河川は1本もなく、29河川中11河川は遡上不能な工作物を多数有する。本州の太平洋側にそそぐ水系群ではこの点やや良好で、遡上不能な工作物が多数ある河川が6河川存在する一方、全流路遡上可能な河川が3河川ある。本州、四国、九州のいずれにおいても、瀬戸内海に注ぐ水系群は魚の遡上に関しては条件が悪く、本州11河川、四国3河川、九州4河川の計18河川のうち、全流路遡上河川はわずか1本(土器川)で、逆に遡上不能な工作物が10箇所以上ある河川は6本もあった。

多数の遡上不能な工作物をもつ河川のうちできわめて特異なのは千代川(鳥取県)で、河川工作物40のすべてに魚道が設置されており、そのうち26箇所が本来の機能を果していない。これは、他の河川では大部分が魚道が無いため遡上不能となっているのと対照的である。

次に河川工作物を魚道の有無、その効果などの点から検討する。表3−2−3は河川工作物の設置状況を整理したものである。河川工作物は全部で2033箇所設置されていることが確認され、このうち708箇所(34.8%)に魚道が設けられていた。しかし魚道が設けられていない残りの1325箇所のうちには、遡上が可能なものが662箇所あり、これらは、その規模や構造の点から魚の遡上に支障のないものと考えられるので、ここでは検討対象から除いて考える必要がある。

そこで、調査結果は次のように言い換えることが可能である:魚道設置等の対策が講じられなければ魚の遡上に影響を及ぼすような規模と構造をもつ河川工作物は、全部で1371箇所存在し、そのうち魚道が設置され、遡上が可能なものは616箇所(48.4%)で、遡上ができないもののうち、663箇所には魚道がなく、92箇所の河川工作物では、魚道が設置されているのに構造上あるいは管理上の欠陥によりその機能が果されていなかった。

この結果、サケ、サクラマス、アユなどが、その生活環を支障なく全うできる河川は、前述のとおり13河川しかなく、調査対象とした113河川のうち100河川(88.5%)においては、魚類の遡上が阻害されているということが判明した。

(4)河川の利用状況

河川の利用形態として調査対象としたものは、漁業を除いてすべてレクリエーション利用に含まれるものである(漁業も第5種共同権漁業はレクリエーションの色彩が強い)。

漁業を除く6種の利用形態のうちでは風景探勝が最も区間数が多く、601区間(5.3%)次いでボート(1.5%)、温泉(1.0%)、川下り(1.0%)、常設釣場(1.0%)、の順に利用頻度は減少しキャンプ(0.8%)が最も利用頻度が低かった。

水系群別にみると、風景探勝は全水系群において利用がみられるが九州−瀬戸内海水系において利用頻度が高く、逆に低いのは北海道−大平洋(中・南)であった。

その他では、利用がみられない水系群もあり、利用の目立つところをあげれば、九州−瀬戸内海、九州−東支那海水系での温泉、ボート、また、四国−瀬戸内海でのボートがあげられる。

全般的にみて河川のレクリエーション的利用状況はきわめて貧弱であるといえる。かろうじて大都市圏を貫流する河川においてやや高く利用されているにすぎない。

(例多摩川・相模川等)

漁業、すなわち漁業権の設定状況は次のとおりであった。

・漁業権が全区間を通じて設定されていない

網走川など17河川(15.0%)

・漁業権の設定区間が30%未満である河川

天塩川など27河川(23.9%)

・漁業権の設定区間が30%以上60%未満である河川

北上川など14河川(12.4%)

・漁業権の設定区間が60%以上の河川

馬淵川など38河川(33.6%)

・漁業権が全区間にわたって設定されている河川

名取川など17河川(15.0%)

また、河川の全延長に対する漁業利用区間の割合は54.8%と、他の利用形態とは対照的にきわめて高率であった(河川別の状況は資料編河川改変状況一覧表参照)。

 

5.原生流域

 原生流域調査は、全国のすべての河川を対象とし、要件(1−(2)−エ参照)を満たす「原生流域」を航空写真や国有林事業図などの既存資料から摘出したものである。

 本作業では作成された原生流域図(縮尺1/5万)より原生流域界及び自然公園、自然環境保全地域の区域界、地種区分界をデジタイザーにより入力し、原生流域ファイルを作成した。

 これによると「原生流域」として摘出された地域は全国で109箇所230,759haであった。面積の全国平均は2,117ha、地方別にみると北海道40箇所92,951ha、平均2,324ha、東北地方34箇所71,527ha、平均2,104ha、関東地方8箇所14,792ha、平均l,849ha、中部地方24箇所43,934ha、平均1,831ha、九州、沖縄地方3箇所7,556ha、平均2,519haであった。

 北海道以外の原生流域を県別にみると東日本に多く、これに対して西南日本にはきわめて少なく、太平洋側では静岡県、日本海側では石川県が本土では西限となっている。これより南西に存在する3箇所の原生流域はいずれも離島にある。

 離島部にのみ原生流域が存在する鹿児島及び沖縄を除く道及び13の県について、道あるいは県の総面積に占める原生流域面積を比較した(表3−2−4)。これによると原生流域の占有率が高いのは2.29%を占める山形県であった。

 次にこのように我が国においては広大でかつきわめて原始性の高い地域が、自然公園や自然環境保全地域(両者を合せて保全地域とする)にどの程度指定されているかを検討した。

 保全地域のいずれかに流域の全部又は一部が指定されているものは61箇所で半数強であった。このうち全域が保全地域内に含まれるものは44箇所(うち国立公園27箇所、国定公園4箇所、都道府県立自然公園8箇所、原生自然環境保全地域0箇所、自然環境保全地域0箇所、都道府県自然環境保全地域2箇所、国立公園と原生自然環境保全地域3箇所)であった。

 各保全地域の地種区分別の指定面積をとりまとめたものが表3−2−5である。

 昭和54年度の調査時点では109の原生流域が摘出されたが、このうちには調査時点ですでに伐採等の計画が確定しているものがあった。すなわち、山態田川上流部(新潟県)、逆河内上流部(静岡県)、小揚子川上流部(鹿児島県)の3箇所である。したがって、これらの地域は数年内に原生流域のリストからはずされるべき運命にあるといえよう。

 なお、原生流域の詳細は資料編に原生流域一覧表としで掲載した。

 

6.まとめ

 国土保全上又は国民経済上、特に重要なものとして河川法で指定した109の水系に属する河川のうち、その水系を代表する河川(幹川)及び重要な3つの支川と沖縄県の浦内川の計113河川について、そこに生息する魚類の調査と河辺の改変状況を調査した結果、全河川の総延長11,414kmおよそ20%にあたる2,116kmが、水際線がコンクリート等で固められた状態にあった。このような水際線の人工化には、顕著な地域差が認められ、北海道の河川は、人工化の程度が全般的に小さく、本州、四国では瀬戸内海、九州では西岸の内湾に流入する水系の河川の改変の程度が高かった。

 又、治水、利水のために河川を横断して設けられているダムや堰などは、河川の遡上、降下を繰返して生活している魚類に対して、重大な影響を及ぼすが、そのための配慮(魚道の設置)を欠いているため、魚の遡上が妨げられている河川は113河川中100河川ときわめて多かった。

 このため、大部分の河川で積極的な放流が行われており、放流無しで遡河魚類の個体群が維持されているケースはかなり少ない。放流の実施は、水産資源の維持に貢献するが、この行為は一方では、自然生態系を撹乱するという副次的な作用をもたらす。

 魚類調査と改変状況調査とは別に、全国のすべての流域を対象として、実施した原生流域調査では、人為の影響がほとんどない、大規模な流域は、ほとんどが東北日本に集中していることが明らかとなった。

 

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