2−4 動物分布調査(鳥類)

 

1.調査の目的と方法

(1)目的

動物分布調査の一環として行われた鳥類繁殖分布調査は、我が国に生息する鳥類の繁殖状況を把握するために、現在まで日本国内で繁殖の知られている鳥類を対象として、繁殖期における分布について調査したもので、その結果を種ごとに全国規模の分布図として図示することが試みられた。

このような分布図の作成は、動物地理学上の知見の増大という科学上の貢献の他に、種ごとの分布域の把握から、稀少性や絶滅の危険性を判定する重要な手掛りの一つを得ることを可能にする。

本調査においては、他の動物分布調査のように対象種を限定することなく、繁殖すると思われるすべての種が対象とされたが、これは鳥類が他の動物群に比べれば生活様式の変異の幅は小さく、同一の調査方法によって生息あるいは繁殖の確認が可能であるという理由による。この場合、生息域、個体数とも極限されている絶滅のおそれのある種は、実際以上に情報量が制限される可能性があるが、このような種に対してはすでに監視や保護増殖の手段が講じられているものも多いので、本調査における情報量の不足については、保護対策上それほど支障とはならないと思われた。

(2)調査の内容と方法

調査は、日本全国47都道府県の全域を対象として調査区画を選定するという、一種のサンプリング法により実施された。原則として島嶼部の現地調査は行わなかったが、離島に調査員が住んでいる場合、島が多く、そのうちの重要な離島を調査する必要のある沖縄県の場合、または(財)日本野鳥の会各支部が調査の必要性を認めた場合には、それぞれ例外として離島の現地調査も実施した。現地調査の実施期間は昭和53年4月1日から8月31日までの間とされた。

対象とした鳥類は日本で繁殖する、あるいは繁殖の可能性のある257種(野生化した外国産飼鳥を含む)(表2−4−1)であるが、これ以外でも、調査期間中に繁殖の可能性が記録された種類は、追加してさしつかえないものとした。

採用した調査方法は野外での実地踏査によりデータを収集した現地調査と、既存の資料から得られたデータをまとめた資料調査の2種類である。

現地調査は、次のようにして行った。まず国土地理院発行の5万分の1地形図を縦横それぞれ2等分してできるメッシュのうち、多様な環境を含む2メッシュを選択し、それぞれのメッシュ(2万5千分の1地形図に相当)内で、環境が多様で鳥類相が豊富と思われる調査区画(サブメッシュ)を1つ選択し、その中に全長3kmの調査コースを1本設定し、時速2km程度でこのコースを歩行し鳥を記録するロードサイドカウントと、原則として同コースの開始点および終了点での30分ずつの定点カウントを行い、生息鳥類の種類と繁殖の可能性、生息環境の概要および個体数の概況の3項目について調べた。

資料調査は印刷・公表されたものや個人の観察記録などのうち、繁殖可能性区分(表2−4−2)のA又はBランクに該当するもの、1974年以後の記録で、出典、調査年月日又は期間、調査者、記録された位置がどのサブメッシュに含まれるかが、いずれもはっきりしているものを対象とし、生息鳥類の種類と繁殖の可能性、生息地の位置、および調査年月日又は出典の3項目を調べた。

この場合、サブメッシュは、現地調査の行われたものに限らずできるだけ多くのものを調査するよう指示された。

調査員は日本野鳥の会会員で、同会の各支部あるいは調査受託者から推薦され、本調査に関して直接説明をうけた者に限られた。

調査結果は日本野鳥の会事務局が指名した各支部の代表調査員を中心に、調査員が現地調査と資料調査の結果をもとにした繁殖状況票、現地調査の行われなかったサブメッシュについては、資料調査のみにもとづいた繁殖状況票および現地調査の結果にもとづいた環境調査票にとりまとめた(図2−4−1)。

(3)情報処理の内容と方法

調査結果の点検には代表調査員および日本野鳥の会事務局が当たったが、少しでも疑いの持たれる結果には、現地調査票や資料調査票にさかのぼり、場合によっては記録用紙をも点検した。極めて注目される結果に関しては、さらに代表調査員や該当調査員自身に直接連絡をとって協議し、常に最も確実な記録を優先させた。

調査結果は、点検後磁気テープ化され、電算機により繁殖分布図の作成及び各種の集計が行われた。

磁気テープ化にあたって、繁殖データは次のように処理された。

1  同じ区画内の同一種に対して異なる繁殖可能性ランクを得た場合には、現地調査または資料調査のいずれかの記録を一律に優先させることを避け、常にランクの最も高い繁殖情報をもってその区画を代表させるものとみなし、コーディングを行った。

2 繁殖分布図は、都道府県境を考慮にいれずに区画(メッシュ)を基準にしている。しかし、県および地方別に集計して調査結果が出るよう、得られた繁殖データと県コードとのつきあわせを行った。その際、サブメッシュか都道府県境にまたがる場合には、またがった各県にそれぞれ同一の繁殖データを与える結果となった。サブメッシュ数の全国合計が、実際に調査を行った数より大きい値となっているのは、そのためである。

3  繁殖可能性の同ーランク内に列記された2つ以上の観察コードは、常に最も小さいコード番号(ランクの最も高い方)のみを選んでコーディングした。

4 繁殖可能性の区分は、AよりFまで6ランクに分かれ、各種ともこのランクのうちのいずれかが繁殖状況票に記入された。コーディングは、その原票の通りにAよりEランクまで行われた(Fランクは繁殖に関する情報無しとして扱かった)。繁殖分布図作成にあたっては、視覚上の読み取り易さと情報の精度を考慮し、繁殖の確かさの点で上位3ランク(A〜Cランク)を採用した。繁殖に関して積極的な判断材料のない下位3ランク(D〜Fランク)の結果が分布図から省かれた理由として、Dランクは繁殖の可能性がおそらくないとの判定結果であり、EおよびFランクは生息の確認ができない種類で客観的観察事項にもとづかない判定結果であることなどによる。

5 調査は2万5千分の1図を4分割したサブメッシュを単位として実施された。しかし、資料調査の結果を加えても全国をサブメッシュの単位でもれなく埋めることは不可能であった(図2−4−2)。さらに、調査結果の得られた2万5千分の1図を単位に分布図を作製すると、ある空白の区画は、調査されない為に繁殖可能性ランクの表示がないのか、調査はされたが上位3ランクの結果が得られなかったので何の表示もないのかの区別がつかなくなる。そこで、分布地図化に際しての区画単位としては、現地調査が少なくとも必ず2カ所は含まれる5万分の1地形図を採用した。その際に、5万分の1地形図内の同一種について異なった繁殖可能性ランクの得られた場合には、ランクの最も高いものを選んでその区画を代表させるようプログラムされた。

 

2.我が国の鳥類の繁殖分布状況

(1)今回の調査で確認された鳥類

本調査の主たる成果である繁殖分布地図は、1974年から1978年までの資料調査と1978年の現地調査の結果のみから作成された。調査対象となったのは、外来の13種を含む257種の、日本で従来繁殖しているか又は繁殖が可能と考えられる鳥類である(表2−4−1参照)。この結果、A、BあるいはCランクとして全国で1度でも記録された種類は合計で205種を数え、これは調査対象種総数の79.8%にあたる。各種毎に繁殖ランクの最も高いものを代表させ、ランク別に全国の種数をみると、繁殖を確認したもの(Aランク)188種、繁殖の確認は出来なかったが、その可能性があるもの(Bランク)11種、生息を確認したが、繁殖については何ともいえないもの(Cランク)6種となっている。A、BまたはCランクで記録された種数の91.7%(調査対象種総数の73.2%)が全国のいずれかのサブメッシュで確実に繁殖が認められた結果となった。

一方、Dランク以下で記録された種類数は合計52種にのぼり、このうち、生息を確認したが繁殖の可能性はおそらくないもの(Dランク)は27種、まったく生息の確認出来なかったもの(EおよびFランク)は25種で、調査対象種類総数のそれぞれ10.5%と9.7%にあたっている。後者の中には、ヤマヒバリのような稀な種類で鳥の発見自体が困難なもの、トキやコウノトリのように絶滅の危期に瀕している種類、アカコッコ、メグロ、イイジマムシクイのような普通の種類でありながら限られた環境に繁殖するため調査されず、従って結果の得られなかったもの、アホウドリに代表されるような海鳥類で特定の島嶼にのみ繁殖し、現地調査が今回不可能であったために記録の無いものなどが含まれている。

(2)都道府県別・地方別の繁殖確認種数

すでに述べたように本調査の成果の主体は繁殖分布図であり、これは鳥類の繁殖分布に関する総合的な情報を我々に提示してくれるが、本報告書には、大量の分布図をすべて掲載する紙面的余裕はない。そこで分布図では一体的、視覚的に表わされていた繁殖分布に関する位置情報と量的情報とをそれぞれ都道府県別繁殖状況一覧表と種別繁殖メッシュ数一覧表(資料編)とに分けて表し、これらに基づき我が国の鳥類の繁殖分布状況について考察した。なお分布図は図2−4−5に例示的に掲げた。

繁殖状況一覧表に基づき都道府県別のCランク以上で確認された種数を求めるとともに地方別及び北海道、本州、四国、九州の四島別(但し九州には大隅、奄美諸島を含む)の種数を求めた(表2−4−3)。

都道府県ごとの繁殖確認種数にかなりのバラツキがあるがこの理由として地域の実際の鳥類相の相違の他、実施された調査の粗密も挙げられよう。

鳥類のセンサスでは、同一地域内で調査を繰返すと、調査回数が増すにつれて情報量は増大するが、或る頻度を超すと情報量の増加がほとんどなくなる、ということがよく知られている。本調査のような全国的な規模のものでも、地域の鳥類相を把握するのに必要十分な調査区の設定法や調査頻度が存在すると思われるが、本調査で得られた情報が、地域間の調査の粗密の影響を無視して種々の比較検討が可能なものであるかどうかは現在のところ検証不能である。

調査対象種257種のうち、今回の調査でCランク以上で確認されたのは全国で205種であったが、都府県別(道は除く)にみると、130種を超えたところはなく、125種の石川県が最大であった。120種を超えたのは石川県を含めて4県で、以下119〜l10、109〜100、99〜90、89〜80、80未満の区分ごとにそれぞれ11県、1都7県、11県、2府5県、5県であった。沖縄を除けば、長崎県の67種が最も少ないものであった。なお北海道、沖縄を除いた45都府県の平均値は約100種であった。地方別にみると、東北地方の150種が最大であり、以下中部、北海道、関東、九州、近畿、中国、四国の順となる。

さらに北海道、本州、四国、九州の島単位でみれば本州170種、北海道l43種、九州132種、四国110種で、面積に応じた順となった。

ある地域内で繁殖する鳥の種類数を決定する要因として大きなものの一つに、生息環境の多様性が挙げられるが、我が国のように自然がモザイク状に存在するところでは、地域の環境の多様性はその面積に影響される可能性が高く、それ故、ある地域における種類数は面積によって異なることが予想される。そこで面積による差を取除くため繁殖種数を調査が行われたサブメッシュ数で除し、単位面積当たりの種類数を求めた(表2−4−3注(1)。北海道・沖縄を除く45都府県の調査サブメッシュ数の平均は約50であるので、これで先の平均種数を割って得た値:2種/サブメッシュ、と比較すると、埼玉、東京、神奈川、石川、大阪が3.5以上と平均値よりかなり高く、このうちでも大阪は5.1と著しく高かった。これらはいずれも調査面積が小さく大都市を含む地域であり、密度の濃い調査の結果が影響していることを暗示している。

逆に1.3以下と平均値よりかなり低かったのは岩手、新潟、千葉、長野、岐阜、鹿児島の各県であった。岩手、新潟、長野、岐阜、鹿児島は調査サブメッシュ数がいずれも80以上と大きく、さらに山岳や離島を含んでいるので効果的な調査が困難であったとも考えられるが、サブメッシュ数も小さく地形的制約が少ないと思われる千葉で最も低い値を示したのは、本来的に鳥類相が貧弱なことを示すものかも知れない。

(注1)但し、表2−4−3に示す繁殖状況は、現地調査だけでなく資料調査の結果を含めたものであるので、現地調査メッシュとは厳密には対応がないが、都道府県ごとの調査域のおおよその目安として採用した。

(3)地方別の鳥類相

本調査で繁殖が確認された種を地方別にまとめ、さらにそれを分類グループ(目)別に区分し、それぞれのグループの構成比を比較した(表2−4−4)。17の分類グループのうち最大の目であるスズメ目については、科単位で同様の作業を試みた(表2−4−5)。

目別の構成比を地方別に比較すると、コウノトリ目の構成比が北海道において低いこと、ガンカモ目の構成比が北海道、東北で高いこと、チドリ目の構成比が四国、九州、沖縄で若干高いこと等が目立つ程度で、他はほぼ同じような値を示した。

この傾向は、スズメ目に属する科の構成比についても認められ、ツバメ科の構成比が九州地方で高いこと、ホオジロ科の構成比が四国で低いこと、アトリ科は、北海道・東北で高く、関東以南で低いこと、などの他は地方間に差はなかった。

同じグループ(目、科)でもその種組成は地域によって相違がある(資料編参照)。それにもかかわらず、構成比が同じような値を示すということは、鳥の生活様式に応じた自然環境は、地方程度の面積単位でみればほぼ一定の割合で存在するということを示唆するものかも知れない。

地方間において相違のあるグループは、そのグループ全体の分布が偏っていることによるものだろう(カルガモ、オシドリ以外のガンカモ科の種は本来大陸の北部で繁殖するものである)。

(4)繁殖サブメッシュ数による鳥類の区分

今回の調査では、全国で2,225か所のサブメッシュで調査が実施されたが、Cランク以上で確認された種とその確認サブメッシュ数は、種別繁殖メッシュ数一覧表(資料編)に示すとおりである。種による数値の大小は、−部生活様式からくる発見の難易による影響はあるものの、第一義的には分布域の広さを表わしていると考えられる。そこでメッシュ数を6区分し、それぞれの区分ごとに配列し直したのが、表2−4−6である。但しメッシュ数のみでは、一か所に集中的に分布しているのか全国に分散しているのか等が把握できないので、当該種の出現は、都道府県数を資料より求めて併記した。その他渡りの有無や繁殖場所のタイプ等の欄を設け、当該種の生活様式も常識的な範囲で明らかにした。なお図2−4−2図2−4−3にはそれぞれメッシュ数ランク別の種数、出現県数別の種数を示した。表2−4−5及び図2−4−2によると1ランク(0〜10サブメッシュ)に属するのは39種でこのうち非スズメ目は30種、スズメ目は9種で、ガンカモ目が8種と最も多かった。

ランクU(11〜100サブメッシュ)に属するのは48種で、非スズメ目30種、スズメ目18種であった。

ランクV(101〜500)には56種がこれに属し、内訳は非スズメ目31種、スズメ目25種であるが、非スズメ目のうちカイツブリ目、ウミツバメ目、ぺリカン目ではこのランクに属するものはなかった。特にウミツバメ、ぺリカンの各目はこれ以上のランクには出現しない。スズメ目の中ではヒタキ科の鳥の多く(計11種)がこのランクに属した。

ランクW(501〜1000)に属するのは22種で、非スズメ目8種、スズメ目14種と、両者の関係が逆転した。このランクの非スズメ目は、カイツブリ目、ガンカモ目、ワシタカ目、キジ目、ハト目、ヨタカ目、各1種、キツツキ目2種であり、スズメ目ではヒタキ科が6種と多かった。

ランクX(1001〜2000)に属するのは25種で非スズメ目7種、スズメ目18種で非スズメ目ではワシタカ目(トビ)、キジ目(コジュケイ)、ハト目(キジバト)、ホトトギス目(カッコウ、ツツドリ、ホトトギス)、キツツキ目(コゲラ)であった。

ランクY(2001以上)に属するのは6種のみで非スズメ目はハト目(キジバト)のみで、スズメ目ではヒヨドリ科(ヒヨドリ)、ヒタキ科ウグイス亜科(ウグイス)、シジュウカラ科(シジュウカラ)、ホオジロ科(ホオジロ)、ハタオリドリ科(スズメ)の各科・(各種)であった。この6種は我が国の最もポピュラーな鳥ということができよう。

すでに述べたように、メッシュ数のみでは、全国的にみてその種が分散して分布しているのか、集中して分布しているのか把握することができない。そこで、都道府県別の出現状況から、全国的な広がりを考慮しつつ分布状況を検討した。

出現都道府県数の多少は、全国的な広がり具合を表すが、図2−4−4Bによれば出現頻度は、10県以内と40県以上のところに集中している。

対象種全体について今回得られた分布状況の概略を把握するため、横軸に出現都道府県数、縦軸に対数尺でメッシュ数をとり、全種についてプロットした(図2−4−4)。図中の曲線A−Eは1県当りのメッシュ数を表しそれぞれ1、5、10、50、100メッシュ/県に対応する。

したがって曲線Aに近いほど稀薄に分布しEに近づくほど密な分布をするといえる。

一般的にいえるのは、出現する都道府県数が少ない種の多くは県当りのサブメッシュ数が少なく、出現県数が多いグループでは、県当りサブメッシュ数の多いものが多数を占めるということである。出現県数が10以下の種のうち(特に1都道府県のみ)で県当りメッシュ数の多いものがあるが、これは我が国では北海道にのみ生息するもので、道内ではかなり普通のものが挙げられたため、高い値を示したものといえる(例エゾライチョウ、ヤマゲラ)。類似のケースとして、琉球、奄美列島にのみ生息するルリカケス等がこれに該当する。

比較的広く分布しながら、メッシュ数はあまり多くない。すなわち稀薄な分布をするものはイカルチドリ、シロチドリ、コアジサシ、コノハズクなどであった。

(5)稀少種について

今回の調査では稀少種に関しては特に区分することなく全種一律の規準で調査された。しかし、結果のとりまとめの段階では、公表することによって好ましくない影響が生じることがないよう配慮すべき種として選定理由および種類の検討が行われた。その結果、以下に示す理由から40種が選定された。

ア.繁殖地での鳥の習性を観察することにより営巣場所がわかり易く、繁殖活動が妨げられるおそれのある種類:サンカノゴイ、タンチョウ、タゲリ、セイタカシギ、ツバメチドリ。

イ.ワシ・タカ類は、日本では鷹狩り、ハク製などのための密猟が今日でも根強く続いて、一般に減少している。又、その保護は国際的な課題となっている。従って、データ公表は原則として全種を稀少種扱いとする。但し、個体数の比較的多いと考えられるトビ、ツミ、ハイタカ、ノスリ、サシバ、コノハズク、オオコノハズク、アオバズクは例外とした。

ウ.生息数が少なく、局地的に繁殖する、又は、繁殖例が極めて少ない種類:カンムリカイツブリ、コアカゲラ、ミユビゲラ、ヤイロチョウ、イワミセキレイ、ツメナガセキレイ、オオモズ、オオセッカ、コジュリン、ハギマシコ、ギンザンマシコ。

エ.営巣する環境が特殊で、特に保護する必要があると考えられる種類:シロハラクイナ、ツルクイナ、カラスバト、ハリオアマツバメ、ノグチゲラ、クマゲラ、アカヒゲ、ルリカケス。

繁殖状況は周知の事実でありながら、稀少種のシンボル的存在となる種類:トキ、コウノトリ。

これらの中には、いくつかの基準に該当する種類もあるが、年々の繁殖や保護の状況により変更が加えられてしかるべきであろう。

前節で行ったメッシュ数や、出現県数による類別は稀少種把握の一手段であり、今後調査が進みより正確な分布情報が集積されれば、この類別により少なくとも、「ウ」のタイプの稀少種は正確に選定することができるだろう。

(6)外国産鳥類について

飼鳥として外国から輸入された鳥が何らかの理由で野生化し、いわゆる「かご抜け」と呼ばれて、日本各地で観察される例が近年増えてきた。それらの一部には野外においても繁殖するものもでてきて、今回の調査においても、次にあげる10種類が記録された。

原産地がインド、東南アジア方面の鳥、ハタオリドリ科−ベニスズメ、ブンチョウ、ギンパラ、ヘキチョウ。カラス科−ヤマムスメ。オウム科−ワカケホンセイインコ。

原産地が南アメリカ。アトリ科−コウカンチョウ。オウム科−オキナインコ。

原産地がオーストラリア。オウム科-セキセイインコ。

各種の特徴は以下の通り。

以上は飼い鳥として飼育される種であるが、ヤマムスメは台湾特産の珍しい種で、一般に飼育されることは少なく、かご抜けとしても特殊な種である。

このような外来種は、ヤマムスメを除いて穀物を主食としており、飼育される場合も、アワ、ヒエなどを与えられている。日本でこれらが見られる環境は、川原のアシ原などが多いが、ワカケホンセイインコは住宅地の雑木林などに生息する。

ブンチョウとセキセイインコとはかごの中での繁殖が容易であるため、飼育される個体数では他より圧倒的に多い。手乗りなどにして飼育される場合も多いため、野外へ逃げ出す例は数多いと思われるが、日本の野外環境では定着することが困難なようで、記録されたメッシュは少ない。外来種の中で最も注目される鳥はベニスズメとギンパラの2種で、生息、繁殖が確認されたメッシュは、他の種に比較してかなり多く、定着の度合いが高いと考えられる。この2種はアシ原や農耕地に生息し、イネ料植物の種子などを主食としていると思われるが、ベニスズメは小昆虫なども割合食べる。繁殖期は秋で、両種ともに温暖な地方に認められ、北限は山形県、宮崎県である。両種とも分布は似ているが、ベニスズメの方が繁殖、生息のメッシュ数が多い。関東地方と近畿地方に分布がやや集中している。ギンパラについては、沖縄本島で生息メッシュがかなり多く、定着の度合いの高さを示している。台湾には野生種が生息するが、緯度的に近い沖縄本島は農耕地も多くギンパラの本来の生息環境に近い条件が与えられているためであろう。

他の鳥種は生息、繁殖が確認されたメッシュが少なく、1メッシュから3〜4メッシュ程度である。セキセイインコなどはたまたま逃げ出して間もない個体を観察した可能性もある。いずれにせよ前記の2種以外は日本への定着の度合いが低く、繁殖している地域でも継続して繁殖を続けることは不可能と考えられる。

外来種の出現したメッシュはすべて本州以南の温暖な地方であるが、これらの種の原産地はすべて亜熱帯から熱帯にかけての地方であることを考えると、寒冷な地方では野外で種を維持することは食物があっても困難なのであろう。一方、温暖な地方では外来種が野外において繁殖することにより、在来種の生息などにどのような影響があるのかは、不明な点が多く、今後の調査・研究にまたねばならない。

(7)調査地点の標高分布

各調査コースの標高に関し、最高調査地点、最低調査地点および平均調査地点の高さを求めることにより、調査地点の標高分布を集計し、検討した。標高区分は、20m以下、21〜100m、101〜500m、501〜1,000m、1,001〜1,500m、1,501〜2,000m、2,001〜2,500m、2,501m以上の8区分である。平均調査地点の標高を調査コースの代表値として、今回の調査における調査コースの設定20m以下の区画が14%、21〜100mが20%、101〜500mが14%、501〜1,000mが17%、1,001〜1,500mが5%、1,501〜2,000mが2%、2,001〜2,500mが1%、2,501m以上が0.3%という結果になっている。

(8)環境要素比率分布

本調査においては鳥類の繁殖状況の調査の他、調査コース沿いの環境についても調査した。調査コースの環境は、次の8つの環境要素に分類されている。各要素の詳細については、調査要綱(資料編)を参照されたい。

A、林地    E、水域

B、耕地    F、裸地

C、草地    G、水系裸地

D、湿地植生  H、その他

ここでは、環境調査票の記録事項のうち上記の環境要素のうちで主要なものが、調査コースのなかにどのような比率で含まれているかを、地方別、県別に検討してみる(表2−4−7)。

北海道では、林地の占める比率が55.8%と最も高く、次いで草地が20.1%、耕地が10.0%、水域が6.1%、湿地植生が3.6%の順である。他の地方の比率と比較すると、北海道では草地の比率が大変高いこと、また、湿地植生の比率が比較的高いことが大きな特徴になっている。

東北地方では、林地が63.2%、耕地が12.9%、草地が9.1%、水域が6.9%の順になっており、林地の比率が高いのが特徴である。

関東地方では、林地の比率が43.1%、耕地が21.5%、その他が10.6%、草地が8.5%、水域が8.1%である。林地の比率が他の地方より明らかに低く、その他の比率がかなり高いのが特徴である。

中部地方では、林地が60.7%、耕地が14.0%、草地が8.1%、水域が7.2%であり、林地の比率が高いのが特徴となっている。

近畿地方では、林地が59.1%、耕地が13.2%、草地が9.4%、水域が9.3%の順になっている。草地と水域の比率が高いのが特徴である。

中国地方では、林地が65.5%、耕地が15.3%、草地が6.5%、水域が4.7%であり、林地の比率が高く、耕地の比率も比較的高い。

四国地方では、林地が64.8%、耕地が9.6%、水域が8.5%、草地が8.1%の比率となっており、水域の比率か比較的高いのが特徴となっている。

九州地方では、林地が56.9%、耕地が16.9%、草地が9.1%、水域が5.6%、裸地が3.4%の比率であった。耕地と裸地の比率が他の地方より幾分高いのが特徴である。

全国的にみると、調査コースの環境要素の比率は、林地が58.0%、耕地が14.2%、草地が10.5%、水域が6.9%、その他が4.3%、湿地植生が2.4%、裸地が1.9%、水系裸地が1.8%となっている。

3.まとめ

 我が国で繁殖する可能性のある鳥類257種すべてを対象として全国的規模で行われた分布調査の結果、205種の鳥類の分布図が作成された。

 この調査は、1年間という短期間で実施され、かつ島岐部については調査対象としたものが少なく、これをもって我が国の鳥類の繁殖分布状況とするには、既存の知見と照らして、なお距離のある状態といわざるを得ない。

 より現実に近い分布図を作成するためには、本調査を繰返し実施していく必要があるが、それにも増して重要なのは日々観察され蓄積されていく個人記録を収集し活用していくことである。近年、自然への回帰の希求が高まるにつれ、鳥類観察を行う人々の数は飛躍的に増大しており、その潜在的な情報量は莫大なものである。これらの人々の行為を単なる趣味に終わらせず、自然科学や自然保護への貢献に導くには、本調査で得られた分布図は、ベースマップとしてきわめて重要な機能を果しうるものである。

 より正確に分布図が得られた時には、本節で試みた稀少種や普通種の類別や鳥類相からみた地域の自然環境の多様性の把握などが、より確実性、科学的客観性をもって可能となり、絶滅に瀕する種の保護や狩猟等を通じての鳥類の個体数管理のより適切な実施が図られるであろう。

 

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