要   約

 

1.「自然環境の保全は,自然環境が人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであることにかんがみ,広く国民がその恵沢を享受するとともに,将来の国民に自然環境を継承することができるよう行わなければならない。」という基本理念に基づき,1972年に制定された自然環境保全法は,その第5条に「国は,おおむね5年ごとに地形,地質,植生及び野生動物に関する調査その他自然環境の保全のために講ずべき施策の策定に必要な基礎調査を行うよう努めるものとする。」と定めている。自然環境保全基礎調査は,これを受けて昭和48年度より実施されている自然環境に関する全国的な総合調査である。

2.昭和53,54年度の2か年にわたって実施された第2回自然環境保全基礎調査は,我が国の陸域,陸水域及び海域について,植生,動植物の分布,湖沼,河川,海岸線などの改変状況を,14項目にわたる調査によって明らかにしたものである。

3.植生調査は,我が国の国土全域について,縮尺5万分の1の現存植生図を作成することそ最終的な目標として行われ,第2回調査では,昭和54年度に国土のおよそ2分の1の地域について調査し,昭和55,56年度の2か年で印刷刊行した。

調査が国土全域を網羅したものではないため集計・分析的作業は,調査実施地域のうち,地域的にまとまりのある国立公園・国定公園の植生区分による類型化にとどめ,植生自然度や植生区分に基づく前回調査結果との比較は行わなかった。

4.特定植物群落調査においては,我が国における植物群落のうちで,学術上重要なもの,保護を必要とするものなどの生育地及び生育状況について明らかにした。この結果,選定された群落は,全国で3,834か所,面積は約93.5万ヘクタールに達した。このうち自然公園や自然環境保全地域にその全部又は一部が含まれているものは,箇所数で6割,面積は9割に達していた。

選定された群落は,相観や立地によって類別することで,全国的な状況を把握した。この結果,我が国における代表的な森林植生のうち,特に暖温帯常緑広葉樹林(照葉樹林)は,本来の生育分布状況に比べると全体的な面積も著しく縮小しているうえ,一つ一つの群落の規模が他の森林植生に比べてきわめて小さかった。そしてこれらは主として鎮守の森のような形で,地植住民の生活と密接な係わりをもって残存していることが明らかとなった。

一般に高地,寒冷地を本来の分布域とする群落は,現在でもなお比較的大規模に残存しているが,低地,温暖地は,古来人間の活動の中心域であったため,この地域の本来の植物群落は小規模にしか残されていない。

5.哺乳類分布調査においては,我が国に生息する120種余りの哺乳類のうちニホンザル,シカ,ツキノワグマ,ヒグマ,キツネ,タヌキ,アナグマの中・大型獣8種を対象として,各都道府県の鳥獣保護員,林務関係者2,200名余がその地域の野生動物に詳しいと思われる狩猟者や山林関係者約45,000名に対して聞き取りを行った。この結果,情報が全く得られなかったのは,高山など人間がほとんど活動していないごくわずかの地域のみで,全国土にわたってほとんどの地域が精査され,詳細な分布図が作成された。また,分布情報は磁気テープに収納し,各種環境情報と合せて電算処理を行い,分布を規定する要因等の解析を行った。この結果,次に示すことが明らかとなった。

(1)ニホンザルは北海道,茨城および沖縄県を除く1都2府41県に分布しており,その分布傾向は中部地方以西の分布域が広い西高東低型である。このような分布傾向は,主として,ニホンザルが亜寒帯林に適応していないことに起因し,積雪は本種の分布に影響を与えないこと(広大な平坦地は除く),一般に本種は,森林による被覆度(森林率)の高い地域を選好して生息することなどが明らかとなった。

(2)シカは北海道,本州,四国,九州,瀬戸内海諸島,対馬,五島列島,大隅諸島,慶良間諸島に分布するが,東北地方から北陸地方にかけてきわめて広い分布の空白部が存在し,県単位で生息が確認されなかったのは,青森,福島,秋田,茨城,新潟,富山,石川の7県にのぼった。

このような分布をもたらした第一の要因は,本種の行動を制限する雪積深であり,ホンシュウジカは50cm以上の積雪が年間20日以上の地域,エゾシカは60cm以上の積雪が80日以上の地域にはほとんど分布しない。

シカの分布中心は雪の少ない地域であるが,これらの地域の中で分布域が狭い地域は狩猟圧と森林地域のさまざまな開発が大きく影響していると思われる。 

(3)ツキノワグマは北海道と沖縄県には本来分布しないが,今回の調査の結果,九州ではほぼ絶滅したと考えられ,四国でもごくわずかの生息区画が確認されたにとどまった。現在のところ,ツキノワグマの分布域は中部地方以東の山岳地帯に偏り,近畿地方南部と中国地方西部には隔離された分布域が認められた。

現在の本種の分布域は,本州以南における落葉広葉樹林(主としてブナ林)の水平分布と良い一致を示した。これは西南日本における本種の分布域の狭少さが,落葉広葉樹林帯の狭少さと深い係わりをもつことを明らかにするものであった。

(4)ヒグマの分布は,我が国では北海道本島に限られ,周辺の離島には生息していない。ヒグマの現在の分布は,森林の被覆度(森林率)が40%以上の地域に限られ,分布の中心域は道内の森林の57%を占める国有林である。

(5)イノシシは北海道と宮城,山形を除く東北地方の各県及び新潟,富山の1道6県には全く生息せず,本種の分布は大きく西南日本に偏っており,その中心は近畿地方である。このような分布をもたらした要因は,シカと同様積雪深であり,本種の分布域北部の分布前線は,積雪深30cm以上の日数が年間70日以上の地域の境界線とほぼ一致した。

(6)キツネは北海道,本州,四国,九州にきわめて広く分布しているが,周辺島嶼での生息例は少なく,北海道の利尻島と長崎県の五島列島に限られた。これ以外で分布の空白が目立つ地域は,関東,越後,庄内等の平野部や,四国,南九州などであった。

(7)タヌキも北海道から九州までほぼ全国的に分布するが,北海道での分布は,きれぎれとなっている。島嶼部の生息例はキツネよりもかなり多いが,利尻,礼文島,伊豆七島,対島,五島列島,南西諸島には分布しない。

(8)アナグマは,本州,四国,九州のほぼ全域と瀬戸内海諸島の一部に分布するが,北海道と他の島嶼には分布していない。また本種は多くの半島部で生息が認められないか,分布が疎であった。

(9)分布状況に地域的偏りの認められたニホンザル,シカ,ツキノワグマ(ヒグマ),イノシシの分布域を重ね合せて検討したところ,北海道におけるシカ,ヒグマの2種,本州におけるニホンザル,シカ,ツキノワグマ,イノシシの4種が重複して分布する地域は,いずれも深い山岳地帯が中心となっている。

(10)調査対象とした8種の哺乳類の生息状況を都道府県ごとに比較検討したところ,中・大型哺乳動物相が豊かな地域と貧弱な地域とが明瞭に区別された。豊かな都道府県はいずれも上記の重複分布域を含んでいた。また,レーダーチャートにより都道府県間にみられた種々の生息パターンは,開発の進展に伴う哺乳動物の生息域の縮小と分断の時系列的変化を表わしていると考えられた。

6.鳥類分布調査は,我が国で繁殖する可能性のある257種の鳥類を対象に,その繁殖分布を明らかにするために実施した。調査は4月〜8月の繁殖期間中,(財)日本野鳥の会の会員1078名が5万分の1地形図の区画に最低2か所設定された調査コースにおいて,現地観察を行った。この結果と既存資料から得られた情報とによって,種ごとの繁殖分布図が作成された。

分布図に表示しうるだけの繁殖に関する情報が得られたのは257種のうち205種で,このうちには外国産飼鳥が野性化したもの10種が含まれていた。この205種を繁殖の確実性のランク別にみると,繁殖を確認したもの(Aランク)は188種,繁殖は確認できなかったが,その可能性はあるもの(Bランク)11種,生息を確認したが,繁殖の可能性については判断できなかったもの(Cランク)6種であった。

それ以下のランク,すなわち生息を確認したが,当該メッシュでは繁殖の可能性はおそらくないもの(Dランク)は27種,生息確認はできなかったが,環境から推測して繁殖期における生息が考えられるもの(Eランク)は25種であった。

Cランク以上で確認された種数を都道府県別にみると,北海道,沖縄を除く45都府県の平均は約100種であり,最も多く確認されたのは石川県で125種,最小は長崎県の67種であった。

生息が確認されたサブメッシュ(繁殖サブメッシュ)総数は,それぞれの種の生活様式の相違による確認の難易も一部反映するが,一般に種の分布の広さや生息密度の高さを表わしていると思われる。繁殖サブメッシュ数により,これらのことを的確に判定するには,今後島嶼等の未調査域を埋める等情報を充実させる必要があるが,現段階で調査対象種を繁殖サブメッシュ数により類別したところ,一般に非スズメ目(ガン・カモ,ワシ・タカ,ツル目などスズメ目以外のグループの総称)はサブメッシュ数が少ないものが多く,スズメ目はサブメッシュ数の多いものが多数を占めた。非スズメ目でサブメッシュ数が最も多いグループ(200サブメッシュ以上)に属するのはキジバト(ハト目)のみで,スズメ目ではヒヨドリ,ウグイス,シジュウカラ,ホオジロ,スズメの5種であった。

公表することにより,その種の繁殖活動がマニアによる観察や写真撮影により妨げられたり,密猟を助長する可能性のある種がその繁殖生態や既知の分布状況等から情報の処理段階で検討され,稀少種として40種が選定された。このうち3分の1に当たる13種については分布図を作成するに足る情報が得られたが,分布図の表示方法については配慮がなされた。

7.両生類・は虫類分布調査においては,我が国に生息する59種及び亜種(以下種とする)の両生類(サンショウウオ目:21種,カエル目:38種)と83種のは虫類(カメ目:12種,トカゲ目:71種)のうち,絶滅のおそれのある種,学術上重要な種として,両生類24種(カエル目:6種,サンショウウオ目:18種)とは虫類10種(カメ目:5種,トカゲ目:5種)を選定し,その分布や生息状況を明らかにした。

調査の結果は,全国分布図が作成された他,専門研究者によって動物地理学や分類学,あるいは保護の観点からそれぞれの種の位置付けが行われた。

選定された種はいずれも分布域が局限されていたり,開発の影響を受け易い生活様式を持つため,多かれ少なかれ絶滅の危険性を有するものであるが,このうち特に人為の影響を受け易く,絶滅の危険性の高いものは,平地の小規模な止水域を生息場所とするカスミサンショウウオ,トウキョウサンショウウオ,トウホクサンショウウオ,アベサンショウウオなどの止水性サンショウウオ類であった。

8.淡水魚類分布調査は,我が国の淡水域において生活環の全部又は一部を過ごす魚類およそ170種のうち,絶滅のおそれのある種,学術上重要な種等について,分布や生息状況を明らかにしたものである。調査に当たっては,上記の基準に該当するものとして27種及び亜種(環境庁指定種)があらかじめ選定されたが,この他,都道府県において44種が選定調査された。

調査結果は,全国分布図が作成された他,専門研究者によって,動物地理学や分類学あるいは保護の観点からそれぞれの種の位置付けが行われた。

我が国の淡水域に生息する魚類に対する環境圧は,水質の汚濁,ダム堰堤の建設(渓流域の湖化,遡上,降海の阻害),河川改修による河岸・河床等のコンクリート化(隠れ場,産卵場,餌場の消失),都市化に伴う小水体(池沼,湧水,クリーク)等の破壊,さらに生物的な環境圧として外来種との競争や交雑など,きわめて多様である。

このような環境圧は,人間活動の盛んな平野部において著しく高く,そのような地域の小止水体に主として生息するタナゴ類やトゲウオ類には,その生存が危機的な状態に陥っているものが少なくなかった。

絶滅のおそれのある種のうち現在のところ全く保護対策がとられていないものがある一方で,文化財保護法による天然記念物指定などの制度と,地域住民の関心の高まり,保護の実践とが噛み合い相当の効果が上がったものもあり,このような生物の保護に対する今後の在り方を示唆するものであった。

9.昆虫類分布調査においては,良好な自然環境の指標となると思われる10種の昆虫(指標昆虫類)の全国的な分布及び生息状況の調査と,絶滅の危険性や学術上の重要性を有するものとして選定基準に基づき都道府県ごとに選定された50〜100種類の昆虫(特定昆虫類)の分布及び生息状況の調査が行われた。

調査の結果,指標昆虫類については全国分布図を作成するとともに,専門研究者による分布状況や生息状況に基づく種の位置づけを行った。この他,指標昆虫類の環境指標性に基づき都道府県ごとの環境診断を試みた。

特定昆虫類については専門研究者による標準和名の統一,学名の併記を行う一方,選定基準の適用の妥当性が検討された。

指標昆虫類の分布状況や生息状況をみると,人為の影響を最も強く受けているのは,平地の小止水体(池沼や低湿地)で,このような環境を主たる生息地とするタガメやハッチョウトンボは全国的に激減していた。

また,ガロアムシを除く9種の指標昆虫類を里山・田園的自然環境の総合的指標として行った都道府県ごとの環境診断では,指標昆虫類のすべてが,良好な状態で生息している。すなわち,里山・田園的自然環境が調和のとれた状態で存在している地域はわずかであった。

10.表土改変状況調査は,表土の重要性の認識,ひいては表土の慎重な取扱いを促す端緒として,関東地方(島嶼部を除く)における表土の状況を昭和20年頃,35年頃,50年頃の3時期において明らかにすることにより,時系列的に表土の改変の実態を量(面積)的に把握しようとしたものである。

調査の結果,戦後の30年間において関東地方では都市地域が拡大し,自然表土地(森林,草原等)や半自然表土地(農地等)を蚕食していくという顕著な傾向が把握された。

昭和20年頃から50年頃までの30年間を昭和35年頃を境に前期と後期に分けると,前・後期の間には明らかに異る傾向が見出された。すなわち,前期においては,表土の改変に都市化的傾向が強くみられたのは,東京都と神奈川県のみであったが,後期に入るといずれの県でも都市化的な改変傾向が顕著になった。

また,表土の改変の過程は,森林や自然草原から農地,農地から被覆地(市街地や工場地)へと非可逆的に進行しており,いったん表土がコンクリートやアスファルトで被覆されればこの過程内に生じる通常の変化では,他の形態に変化することはない。この過程を表土の人為的遷移と考えると,都市地域はその極相に当たるといえる。

11.湖沼調査においては,我が国の天然湖沼の自然性の消失を監視し,その保全を図るために,面積1ha以上の湖沼を対象に水質の総合指標である透明度をはじめとする各種の水質や湖岸の改変状況等を現地調査により明らかにするとともに,代表的な61湖沼(特定湖沼)については,既存資料により魚類相の把握を行った。

調査対象湖沼は合計487湖沼に達し,その面積は約2,400km2で国土面積の0.64%に相当するものであった。これらの湖沼は東北日本に偏在している。

成因別に改変状況をみると,一般に,火山湖,カルデラ湖は改変の度合が小さく,海跡湖,断層湖は大きかった。

湖岸が人工物によって改変されておらず,湖岸周辺の土地(水際線より100m)もすべて自然地である湖沼(非改変湖沼)は,全体の半数近くあったが,小規模な湖沼が大部分で,湖岸線の延長が5km以上(湖沼全体の平均湖岸線延長は6.6km)のものは,20湖沼しか存在しなかった。そして非改変湖沼で最大のものは摩周湖であった。

一方,改変の進んだ湖沼として湖岸線が50%以上人工化し,湖岸の30%以上が市街地・工業地となっているものを摘出したところ,該当するものが17湖沼あった。成因別にみると,海跡湖が多くカルデラ湖,火山湖は皆無であった。また非改変湖沼と異なり延長が10kmを超えるものが7湖沼あり,規模の大きいものが比較的多かった。この中で最大の湖沼は浜名湖で海岸線延長は110.2kmであった。

12.河川調査においては,我が国の河川の自然性の現況及び利用の状況を把握し,河川の多面的な機能保全を考えるうえでの基礎資料とするため,主として1級河川の幹川を対象として,魚類の生息状況及び河岸等の改変状況等が調べられた。

また,集水域全体が原生状態を保っている河川流域(原生流域)で大規模なものは,我が国ではごくわずかしか残されていないと思われるため,これらの地域の摘出が行なわれた。

魚類調査の結果,生息が確認されたのは,純海産魚を除くと159種類(亜種や種レベルでの同定が不能であったものを含む種数)であった。1河川当たりの生息種類数についてみると,全河川の平均は32.8種類であり,地域的には,四国の瀬戸内海に注ぐ河川が39.0種類と最も多く,少ないのは北海道の日本海に注ぐ河川で,14.3種類しか生息しなかった。河川別にみると,信濃川,筑後川,淀川,長良川の4河川で60種以上の生息が確認されたのに対し,渚滑川,常願寺川,常呂川の3河川は10種以下の魚類しか生息が確認されなかった。

改変状況調査の一つとして,魚類の遡上を阻害するおそれのあるダム,堰等の河川横断工作物の設置状況が明らかにされた。調査された113河川のうち100河川には,魚が遡上できない工作物が,平均7箇所以上設置されていた。なお,魚類の遡上を阻害する河川横断工作物が皆無の河川は13にすぎなかった。

原生流域(1団地の大きさが1,000ha以上の原生状態を保った流域)は全国で109箇所摘出され,その総面積は230,759haで,平均面積は2,117haであった。その分布は東北日本に偏在しており,北海道・東北に全体のおよそ70%が存在していた。静岡県と石川県を結ぶ線の西側には鹿児島及び沖縄の離島部を除いては1か所しか存在しなかった。

13.海岸調査においては,我が国の海岸の現況を把握するため,海岸(汀線)と海岸陸域の自然状態あるいは改変状態が精査された。

調査対象は北方領土を除くすべての海岸線(但し,長径が0.1km以下の島は除く)で,その総延長は32,170.21kmであり,北海道,本州,四国,九州の本土4島(以下本土という)の海岸線延長は18,668.31kmであった。このうち自然公園法及び自然環境保全法に基づき指定されている海岸線は17,380.54kmで,海岸線総延長の54.0%を占めている。

海岸(汀線)の自然(改変)状態を把握するため,人工海岸(※1),半自然海岸(※2),自然海岸(※3)に区別し延長を計測した。その結果,自然海岸は全体で18,967.17km,海岸線総延長の58.96%を占め,本土のみでは9,156.43km,本土の海岸線延長の49.05%,本土を除いた島嶼(以下島嶼)では9,810.74km,島嶼の海岸線延長の72.66%を占めた。以下半自然海岸,人工海岸の順にこの値を示すと,半自然海岸は全国で4,340.36km(13.49%),本土で2,905.01km(15.56%),島嶼で1,435.35km(10.63%),人工海岸は全国で8,598.95km(26.73%),本土で6,367.45km(34.1l%),島嶼で,2,231.50km(16.53%)であった。

海岸陸域(汀線から100m陸側の部分)の現況は,自然地(樹林地,砂浜,断崖等),農業地,市街地,工業地,他に区分し,延長を計測した。その結果,自然地は全体で,19,369.16km(60.21%),本土で9,679.65km(51.85%),島嶼で9,689.51km(71.76%),農業地は全体で4,253.96km(13.22%),本土で2,452.57km(13.14%),島嶼で1,801.39km(13.34%)であった。

市街地・工業地他は,全体で8,283.36km(25.75%),本土で6,286.55km(33.67%)島嶼で1,996.81km(14.79%)であった。

 

※1 人工海岸(著しく人工的に改変された海岸)

※2 半自然海岸(一部に人工が加えられているが潮間帯においでは自然の状態を保持している海岸)

※3 自然海岸(自然状態を保持している海岸)

 

14.干潟・藻場・サンゴ礁分布調査は,我が国の沿岸域の生物環境としてきわめて重要な存在である干潟・藻場・サンゴ礁の分布状況や消滅状況を把握したものである。

我が国の海岸域に現存する干潟の総面積は53,856haで,有明海,八代海にその50%が分布している。干潟の消滅は著しく,1945年から1977年までに,1945年当時存在した干潟の約35%が消滅していた。

我が国の20m以浅の沿岸域に存在する藻場の総面積は182,727haで,これはコンブ場(20.5%),アラメ場(19.8%),ガラモ場(28.2%),ワカメ場(3.5%),小型多年藻場(2.7%),アマモ場(22.6%),小型1年藻場(1.3%)の各タイプから成るものであった。

我が国の沿岸域に存在するサンゴ礁の総面積は87,183haで,その90%以上は沖縄県に属している。

15.海域環境調査は汚濁・汚染が進行しつつある我が国の沿岸域の現状を生物の生息状況を通して把握するため,プランクトン,底生生物,付着生物等について既存資料を収集したものである。

収集した資料から海域の富栄養化の指標として赤潮の発生状況についてとりまとめた。それによると,1973年4月から1987年3月までの5か年間に,我が国の海域で発生した赤潮の件数は2,168件で,その継続延日数は15.165日,1件当たりの平均継続日数は7日であった。発生件数及び継続日数が多かったのは,宮城,千葉,神奈川,静岡,愛知,三重,大阪,兵庫,和歌山,岡山,広島,山口,徳島,香川,愛媛,高知,福岡,長崎,大分の各都府県で,これらは1,2の例外はあるが,いずれも瀬戸内海や東京湾などの内海・内湾に面し,陸域に大規模な市街地・工業地等が存在する海域であった。

16.海域生物調査は,今後とも汚濁や生物相の変化が進行すると思われる我が国の海岸域において,生物の生息状況や生息環境の変化を継続的に監視していくため,都道府県ごとに調査地区を設定し,潮上帯(飛沫帯)及び潮間帯に生息する生物を調査したものである。

調査の反復に伴い蓄積されていく情報を的確に活用していくため,今回の調査結果は位置のちがいに応じた生物相の水平分布と帯状構造を把握することに重点を置き整理された。

 

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