1.第2回自然環境保全基礎調査の概要

 

1−1 調査の意義と目的

 自然環境保全基本方針は、第1部「自然環境の保全に関する基本構想」の中で、自然保護を中心とする自然環境保全政策は、人間活動も日光、大気、水、土、生物などによって構成される微妙な系を乱さないことを基本条件としてこれを営むという考え方のもとに、地域の特性に応じて人間活動を規制するという面を主として分担するものであり、その施策は国土や各地方において確保すべき自然の適正な質と量とを科学的に検討し、それを明確にしたものでなければならないことを明らかにした。しかし、同時に、このことを実現可能なものにするためには、なお克服すべき多くの困難が存在することをも指摘した。

 このような認識の下に基本方針では、現在破壊から免かれている自然の保護にとどまらず、自然環境を共有的資源として積極的に復元し、整備していく方策の必要性を強調している。ここで示された施策の基本的方向は次の5つである。 

1 国土に存在する多様な自然を体系的に保全するため、自然環境保全法をはじめとする各種の関係制度を総合的に運用する。

2 保全すべき自然地域をその特性に応じて適切に管理するため、管理体制の整備と必要な民有地の買上げを行う。

3 自然環境を破壊するおそれのある大規模な各種の開発に当たっては、自然環境に及ぼす影響の予測、代替案の比較を含む事前調査等により、開発の影響を小さくする。

4 自然のメカニズムの解明等のため、研究体制の確立に努め、情報システムの整備や自然環境の現状の的確な把握のための調査を実施する。 

5自然のメカニズムや自然と人間との正しい関係について国民の理解を深め、自然に対する愛情とモラルの育成を図るため、学校や地域社会において環境教育を推進する。

6 野外レクリエーション需要の増大に応えつつ、自然環境の保全を図る。 

 しかし、この基本的方向を施策として具体化していくに当たって一つの障害となるのは、保全しようとするものの概念規定のあいまいさではなかろうか。たとえば、「貴重な植物、野生動物、地形地質等のかけがえのない自然やすぐれた自然」あるいは「国を代表する傑出した自然景観、学術上、文化上特に価値の高い自然物」など、対象を規定すべぎ表現の中にみられる未定義概念は、基本方針だけでなく自然環境保全法その他の関係制度においても十分明確化されているとはいいがたい。

 もちろん、自然保護においては人間の高貴な感情に根ざす部分を無視してはならない。むしろそれなくしては真の自然保護の実現はありえないといってもよいだろう。しかし、基本方針があらゆる対策の第一歩とした「我々が自然の価値を高く評価し,保護保全の精神を我々の身についた習性とする」状態には、基本方針策定時にも増してなお遥かな距離が存在する現在、自然保護政策において着実な歩を進めるためには、人間の感性に訴えることもさることながら、科学的、客観的手法により保全すべきものが何であり、それは何のために保全すべきなのかを明らかにしていくことが必要と考えられる。

 自然環境保全基礎調査は、自然環境保全法第5条「基礎調査の実施」に定められている、

 国は、おおむね5年ごとに地形、地質、植生及び野生動物に関する調査、その他自然環境の保全のために講ずべき、施策の策定に必要な基礎調査を行うよう努めるものとする。

 という条文に基づき、全国的な観点からわが国における自然環境の現況を把握し、自然環境保全の施策を推進するための基礎資料を整備するために実施される調査で、自然保護におけるこのようなアプロ−チの主要な部分を担うものである。この調査が明らかにしていく我が国の自然環境の現状の的確な認識の上に立って、自然環境の保全施策は展開されていくことが望まれる。そしてこの調査の目的をより具体的に示せば次のとおりである。すなわち、

1 全国の植生、野生動物、地形地質等、あるいは、これらが生息、存在する陸域、陸水域、海域の自然の状態を調査し、我が国における自然環境の現状を的確に把握する。

2 調査はおおむね5年ごとに実施し、その積み重ねによって長期的な視点から自然の時系列的な改変状況をも把握する。

3 調査の結果を記録、保存するとともに、それらを公開することにより、自然環境のデータバンクとしての役割を果たす。

4 自然環境保全長期計画、土地利用計画及び自然環境保全地域、自然公園、鳥獣保護区、保安林、天然記念物、都市緑地保全地区等各種の自然保護計画、あるいは、環境アセスメントの実施、開発計画の立案に際しての基礎資料を提供することである。 

 

1−2 調査の経緯

 昭和48年度に実施された第1回自然環境保全基礎調査(以下本文中では自然環境基礎調査を基礎調査という)から今回の第2回基礎調査まで、経緯はおよそ次のとおりである。

(1)第1回自然環境保全基礎調査

第1回基礎調査は、全国的な観点からわが国における自然環境の現況を把握し、自然環境保全の施策を推進するための基礎資料を整備する目的で昭和48年度に実施された。

昭和40年代後半は、高度経済成長のひずみが顕在化し、公害の深刻化や自然の破壊による人間の生活環境の悪化に対して何人も無関心ではいられなくなった時代であった。このような状況下で、昭和46年には「自然環境の保護及び整備その他の環境保全」等のための主管官庁として環境庁が設置され、47年には自然環境保全行政の中核法ともいうべき「自然環境保全法」が制定された。この法律の第5条には「国は、おおむね5年ごとに地形、地質、植生及び野生動物に関する調査、その他自然環境の保全のために講ずべき、施策の策定に必要な基礎調査を行うよう努めるものとする。」と明記されている。そしてこれを拠りどころに基礎調査が実施されることになった。

基礎調査は一般に「緑の国勢調査」ともいわれ第1回基礎調査は48年度に、2億5000万円の予算で都道府県及び民間調査会社に委託し植生、野生動物、地形地質、海中自然環境、歴史的自然環境等の現況を把握するとともに、それらの解析・評価により、自然度等の判定を行った。

この調査を実施する目的は、科学的な観点に立った調査を実施することによって、国土にある自然の現況をできるだけ正確かつ総合的に把握し、守るべき自然、復元・育成・整備すべき自然は何かということを明らかにし、全国的な観点に立った自然保護行政を推進するための基礎資料を整備することであった。それまでわが国では、基礎的な自然保護のための調査は、文化庁で実施された天然記念物緊急調査を除いては全国的なレベルでは実施されていなかった。したがって自然環境保全法に基づく第1回基礎調査が全国調査としてはじめて実施され、全国の自然環境の現況が把握されたという意義は大きかった。また、自然環境を自然度等の指標によりできるだけ客観的に評価・解析してまとめた点も特徴的であり、これによって国土や各地域に残された自然の実態が浮き彫りにされた。

その調査結果は、49年度に全国の現存植生図及び植生自然度図(何れも縮尺20万分の1、都道府県分図)及び関東地方の植生区分図、植生現存量図、植生生産量図,鳥類生息分布図(何れも縮尺20万分の1)等を作成し、さらに50年度にはすぐれた自然図(縮尺20万分の1、都道府県分図)と報告書があわせて1億2000万円で作成され、国土利用計画や自然環境保全長期計画の策定作業に活用され、また自然環境保全地域や自然公園の指定・計画の基礎資料として、さらに、各種の地域計画や土地利用計画の基礎資料として広く利用された。

(2)第2回自然環境保全基礎調査

第2回基礎調査は、51年度より検討委員会において、調査項目、方法等基本的事項が検討され、その結果に基づき環境庁が作成した調査要綱に従い、53、54年度の2か年にわたり、約8億円の予算により都道府県、民間団体および民間調査会社に委託して実施された。

第2回基礎調査においては基礎的な情報の収集を5年おきに繰返し実施するというこの調査の性格をより明確にし、その目的を前記(1−1参照)のとおり定めたが短期間に全国土とその周辺海域にわたって多様な生物環境や地形・地質的環境のすべてを調査・記録し、それらを集計・解析して、我が国の自然環境の実態を把握することはきわめて困難なことである。

そこで第2回基礎調査は、行政上の必要性と調査の実行可能性とを考慮して

1 自然保護上重要な動植物に関する選定及び評価基準を定め、それに基づいた動植物リストを作成し、リストアップされた動植物の生息地と生息状態について把握する。

2 自然環境の基本情報図として、縮尺5万分の1の植生図(全国の約2分の1の地域について)を整備する。

3 広域に生息する大型野生動物の分布状況を把握する。

4 海岸、河川、湖沼の自然環境がどの程度人為的に改変されているかについて把握し、これらのうち、人為により改変されていない、自然状態のままの地域をリストアップする。

5 以上の諸情報を体系的・総合的に整理し、これらのデータを行政機関だけでなく、国民一般が広く利用できるように公開する。

以上の点に目標をしぼり、陸域、陸水域、海域について合計14項目に亘り調査を行った。

調査結果は昭和54年以降、「都道府県別報告書」として逐次公開され、その後全国的な状況を把握するため、電算機利用を主体とする情報処理を行い、その集計・整理の結果を中心に調査項目別に「全国版報告書」が作成された。また、昭和55年度には「動植物分布図」(縮尺20万分の1、都道府県分図)と「現存植生図」(縮尺5万分の1)の一部とが印刷・公開された。56年度には残りの現存植生図が印刷されるとともに、「我が国の自然環境」(自然環境アトラス)が作成され、調査結果の一層の普及が図られた。これらの情報処理や地図印刷に要した予算は、約6億円であった。

 

1−3 調査の骨子と内容

 第1回及び第2回の基礎調査の骨子と調査の内容や方法の概略を示した。なお第1回基礎調査については調査結果の概要もあわせて示した。

(1)第1回自然環境保全基礎調査

調査は基礎調査と改変状況調査の二つの部分から組立てられているが、全体の項目としては1自然度調査、2すぐれた自然の調査、3環境寄与度調査の三つの項目から構成されている(図1−1)。

ア.自然度調査

国土を陸域、陸水域(湖沼・河川)、海域(海岸線とその地先海面)の三つの領域に区分し、自然環境の現況を調査し、自然度や自然性を判定した。

(ア)植生自然度

陸域については、植物社会学に基づく全国の現存植生図を作成し、これから土地に加えられた人為の影響を判定した。人為による影響度合に応じて447の植物群落を1Oランクの植生自然度に区分し、全国をほぼ1キロ・メッシュ(縦横1kmの格子状区画)−行政管理庁の地域メッシュ−に区切り、約36万個のメッシュごとに自然度を読み取り、電算機処理した。第1回基礎調査で最も重点が置かれた項目である。

この結果、全国的にみると、自然林や自然草原など人間の手がまだあまり加わらないで、比較的自然性を保っている自然度の高い地域は、国土の約23%にとどまり、その他の約8割近くは何等かの意味で人間の影響をうけていることがわかった。一方、市街地・造成地など緑のほとんどない自然度の最も低いランクの地域は、3.1%となっている。地方別にみると、自然林のように自然度の最も高いランクの地域は、北海道・東北・北陸・南九州・沖縄など、日本列島の北と南、及び高山帯・亜高山帯、離島等にかたよって残っている。また、緑のほとんどない自然度の最も低いランクの地域の比率の高いのは東京(約40%),大阪(約34%)、神奈川(28%)などの都府県で、愛知、千葉、埼玉の3県も、この比率が10%を越え、大都市圏の緑の減少が目立った。

(イ)陸水域自然度

陸水域については、既存資料の比較的整っている67湖沼と51河川を選び,それらの物理的改変状況,水質等の理化学的性質、生物分布を参考にしながら自然性を判定した。しかし、陸水域及び海域ともに、今回の調査では、植生自然度のように10段階の判定ではなく、“自然性が失われている”とか“自然性が保たれている”といったような記述的な判定にとどまった。

湖沼調査については、調査対象となった67湖沼のうち、まだ全体的にみて本来の自然性を保っているものは、摩周湖、板戸湖、五色沼(福島)、八丁池、白駒湖の5湖沼にすぎず、その他の62湖沼は人為的な改変や水質汚濁が進み、特に印旛沼、手賀沼、加茂湖、柴山潟、河北潟、諏訪湖、白樺湖、丸池、琵琶湖(南湖)、伊庭内湖、中海、諏訪の池の12湖沼は、湖沼本来の自然性が最も失われていると判定された。

河川調査については、調査対象となった51河川のうち、まだ全体的にみて、本来の自然性を比較的保っているものは、標津川、久慈川、肱川、嘉瀬川の4河川にすぎず、その他の47河川は人為的な改変や、水質汚濁が進み、特に北上川、荒川、養老川、多摩川、阿賀野川、神通川、富士川、加古川の9河川は、河川本来の自然性が最も失われていると判定された。

(ウ)海域自然度

海域についても陸水域と同様な調査を行い、全国の海岸線の物理的改変状況を調べると共に、特に代表的な17海域を選び水質や水産物の状況も加味して自然性を判定した。

まず、全国の海岸線の物理的改変状況だけから現況をみると、約60%が自然海岸として、まだ比較的自然性を保っているが、約20%は埋立や港湾整備によって人工海岸となり、その他約20%はある程度人為の加わった半自然海岸になっている。また、代表的な17海域について、さらに水質、水産生物等の現況も加味して総合的に自然性を判定すると、全体的にみてまだ本来の自然を比較的保っている海域は、陸中海岸、鳥取海岸、石狩後志海岸、鹿児島湾、宇和海の5海域であり、その他の12海域は人為的な改変や,水質汚濁が進み、特に、東京湾、大阪湾、伊勢湾、燧灘の4海域は開発によって、本来の自然性が最も失われていると判定された。

イ.“すぐれた自然”の調査

「すぐれた自然」の調査は、植物、野生動物、地形・地質・自然現象、海中自然環境、歴史的自然環境など5つの項目について全国を対象として稀少性、固有性、特異性という観点から、すぐれた自然がどこに、どのような状態で残されているかを調べたものであり、それぞれの貴重度、規模等のちがいはあるが、約18,000件のものが確認された。

ウ.環境寄与度調査

環境寄与度調査は、改変状況調査の一環として実施されたものである。人間活動が著しく、しかも各種の環境タイプが見られる広域的なモデル地域として関東地方を対象とし、緑の量がどの位あるかという“植生現存量”と、その緑が年間当り有機物をどれだけ生産しているかという“植生生産量”を調査したものである。これは植生が人間環境の保全にどの程度の寄与をしているかを検討する基礎的なデータを整備する目的で行った調査であり、自然度及びすぐれた自然の調査が自然の質的調査であるのに対して、この調査は自然の量的調査に当る。植生現存量・生産量ともに関東地方を1キロ・メッシュに区画し、約3万メッシュごとに両者の数値を読み取り、電算機処理した。

関東地方の植生現存量は、1.2億トン、植生生産量は2,600万トン(年当り)で、人口1人に対する植生現存量は、群馬の18.8トンに対し、東京は0.4トンで、東京都民は群馬県民の50分の1の緑しか保有していないことが明かになった。さらに、この調査の一環として、生態系の一部である野鳥の種類の数を調べた。

(2)第2回自然環境保全基礎調査

今回の第2回基礎調査では、より基礎的な情報の整備を目的として図1−2に示す骨子に沿って調査を実施した。

第2回基礎調査は、調査域、調査対象により14の項目に区分され、53年度に実施された調査は、「特定植物群落調査」、「動物分布調査」、「海岸調査」、「干潟・藻場・サンゴ礁分布調査」、「海域環境調査」、「海域生物調査」の6調査であり、54年度に実施されたものは「植生調査」、「表土改変状況調査」、「湖沼調査」、「河川調査」の4調査である。

それぞれの調査の内容は以下のとおりである。

ア.植生調査

この調査は、全国の植生の現況をより詳細に把握するとともに、地域レベルの計画に対応できる植生図を全国的に整備するためのもので,国土の約1/2の地域について、現地調査及び空中写真の判読等により、縮尺5万分の1の現存植生図が作成された。調査の結果は都道府県ごとに凡例解説、植生調査表(または組成表)等を掲載した報告書にとりまとめられた。

イ.特定植物群落調査

この調査は、わが国における植物群落のうちで、学術上重要なもの、保護を必要とするものなどを、選定基準を設けて都道府県ごとに選定し、その生育地及び生息状況について調査したものである。

調査の方法は、既存資料その他の知見の収集整理を行い、これらを参考にしつつ、必要な場合は現地調査を実施した。

調査結果は、都道府県ごとに縮尺5万分の1地形図に表示するとともに各生育地ごとの特定植物群落調査票、植生調査表、概略分布図等を掲載した報告書にとりまとめられた。

ウ.動物分布調査

この調査は、わが国に生息する野生動物の生息状況を把握するため、哺乳類、鳥類、両生・は虫類、淡水魚類、昆虫類を対象として分布の把握を中心に実施した。それぞれの調査内容は次のとおりである。

1 哺乳類

わが国に生息する大型及び中型獣8種(ニホンザル、シカ、ツキノワグマ、ヒグマ、イノシシ、キツネ、タヌキ、アナグマ)の分布について調査した。

全国を、5万分の1地形図を縦横それぞれ4等分した方形区(約4.5km×5.5km)に区切り調査区画とし、1区画につき2地点で各2人から聞きとりを行い、生息、絶滅情報を収集した。哺乳類の研究者・自然保護指導員、鳥獣保護員、林務関係職員等の1,600人を超える調査員が、狩猟者など約5万人から聞きとるとという、国民参加の調査であった。

聞きとり結果は、聞きとり調査票、縮尺5万分の1の地形図に記録した。また、都道府県ごとに、哺乳類分布メッシュ図、出現絶滅年代図(ともに約4.5km×5.5kmのメッシュ図)に整理し、これらの図と解説を掲載した報告書にとりまとめた。

2 鳥 類

わが国で繁殖することが知られている約250種の鳥類を対象として、繁殖期における分布について調査した。日本野鳥の会の協力により、1,078人の調査員の参加を得て2,225地点の調査コースにおいて現地観察を実施した。また、1,100地点における繁殖状況の資料を収集した。

調査結果は、コースごとに繁殖状況票、環境調査票に記録した。データは、5万分の1地形図の区画(約18km×22km)の全国繁殖分布メッシュ図にとりまとめられた。

3 両生類・は虫類

絶滅のおそれのある種、学術上重要な種等を対象として、生息地(分布)及び生息状況を調査した。

調査方法は、主として既存資料その他の知見の収集整理等により実施された。調査結果は、都道府県ごとに縮尺20万分の1の両生類・は虫類分布図に表示したほか両生類・は虫類調査票、概略分布図等を掲載した報告書にとりまとめられた。

4 淡水魚類

絶滅のおそれのある種、学術上重要な種等を対象として、生息地(分布)及び生息状況を調査した。

調査方法は、主として既存資料その他の知見の収集等により実施された。

調査結果は、都道府県ごとに縮尺20万分の1の淡水魚類分布図に表示したほか淡水魚類調査票、概略分布図等を掲載した報告書にとりまとめられた。

5 昆虫類

絶滅のおそれのある種、学術上重要な種等の生息地(分布)及び生息状況を調査した。調査の対象となった昆虫は、指標昆虫類10種及び選定基準に従い都道府県ごとに選定された特定昆虫類(都道府県ごとに50〜100種程度)である。

調査方法は、主として既存資料その他の知見の収集等により実施された。

調査結果は、都道府県ごとに縮尺20万分の1の昆虫類分布図に表示したほか昆虫類調査票、概略分布図等を掲載した報告書にとりまとめられた。

(エ)表土改変状況調査

この調査は、人間活動が著しく、しかも各種の環境タイプが見られる広域モデル地域として、関東地方(1都6県島しょ部は除く)を対象とし、改変状況を昭和20年頃、35年頃、50年頃の戦後の3時期において調査することにより時系列的・量的に表土の改変の実態を明らかにしようとするものである。

調査方法は、空中写真の判読を主に、その他資料をも活用し、基準地域メッシュ(約1km×lkm)ごとに,表土区分を判定した。

調査結果は、年代毎に、メッシュ図化された他、各種の都県別集計がなされた。

(オ)湖沼調査

湖沼の自然性の現況及び利用状況を把握するために、全国の天然湖沼480を対象にして、湖沼概要、水質の総合指標でありそれ自体価値の高いレクリエーション資源でもある透明度、湖沼の改変状況等を調査したものである。また、代表的な61湖沼については魚類相についても調査した。

調査方法は、湖沼概要、魚類相については、資料の収集、整理により、また、透明度調査、湖沼の改変状況については、現地調査により実施した。

調査結果は、都道府県ごとに縮尺2万5千分の1の湖沼調査図にデータを表示するとともに湖沼概要調査票、透明度調査票、湖沼改変状況調査票、魚類調査総括表等を掲載した報告書にとりまとめられた。

(カ)河川調査

河川の自然性の現況及び利用の状況を把握するために、全国の109の1級河川及び沖縄県浦内川の幹川を対象として、魚類の生息状況及び河川の改変状況等について調査した。また、集水域全体が原生状態を保っている河川(「原生流域)」は、わが国ではごくわずかに残されているにすぎないと思われるため、早急に保全対策を講じる必要から、これらの地域のうち1OOOha以上の大規模なものの摘出も行った。

調査方法は、魚類の生息状況及び河川の改変状況は主として現地調査により、また、原生流域の摘出については資料の収集整理によった。

調査結果は、都道府県ごとに縮尺2万5千分の1の河川調査図、5万分の1の原生流域図に表示するとともに魚類調査票、同総括表、河川改変状況調査票、原生流域概要表等を掲載した報告書にとりまとめられた。

(キ)海岸調査

海岸が人為によりどのように改変されてきているかをみるために、海岸汀線及び海岸陸域の改変状態及び海岸地形の形態を調査した。

調査方法は主として、現地調査によった。調査結果は、海岸調査票及び縮尺2万5千分の1の海岸改変状況調査図にとりまとめられた。 

(ク)干潟・藻場・サンゴ礁分布調査

干潟・藻場・サンゴ礁のわが国における分布状況を把握するため、位置、面積,タイプ、環境の現況等について調査した。

干潟は昭和20年(1945年)以後に、藻場、サンゴ礁は、昭和48年(l973年)以降に人為的に消滅したものについても、調査対象とし、消滅面積、時期、理由,現況土地利用等について調査した。

調査方法は、地形図、空中写真の読み取り、既存資料その他知見の収集を主とし、必要に応じて現地確認調査、聞きとり調査等により実施した。

調査結果は、都道府県ごとに縮尺5万分の1分布図に表示するとともに調査票、概略分布図等を掲載した報告書にとりまとめられた。 

(ケ)海域環境調査

生物の生息状況からみた、我が国の沿岸域の現状を把握するために、あらかじめ区分した91の海域ごとに、プランクトン、底生生物、付着生物、大腸菌、赤潮の発生状況について、既存資料の収集整理によって調査した。

調査結果は、都道府県ごとに、縮尺20万分の1の採集地点位置図や分布図(原図)に表示するとともに、各種調査データ票と概略図を掲載した報告書にとりまとめられた。

(コ)海域生物調査

わが国の海岸域における生物の生息状況及び生息環境を今後5年ごとにモニタリングするため、潮上帯(飛沫帯)及び潮間帯に生息する生物を調査した。

調査方法は、各都道府県において選定された海岸各2 所(北海道は10か所)において、肉眼で見える大きさの動植物を対象とし、年2回の現地調査によった。

調査結果は、都道府県ごとに、環境調査票、植物の被覆度及び湿重量、動物の個体数及び湿重量を記載した海域生物調査票等を掲載した報告書にとりまとめられた。

以上が第2回基礎調査の内容であるが、これらについては、総括的に表1−1に示した。

 

1−4 調査の経過と実施体制

(1)経 過

2回調査を実施するにあたり、昭和51年度より調査項目や方法について検討が始められた。その際、調査が広い範囲にわたり、自然科学の諸分野の専門家の協力を必要とすることから、自然保護局長の委嘱により、自然環境保全基礎調査検討会を発足させ、専門的見地からの各種検討を依頼した。この委員会は宝月欣二玉川大学教授を座長とし、植物生態学、動物生態学、地球化学、自然地理学、土壌学、作物学、林学、水産学、河川、湖沼学、航測学の諸分野からなる15人のメンバー(後に19名)によって構成された。この検討会を中心に、第1回の調査の問題点も含めて各種の検討を行い、第2回基礎調査骨子の暫定案を策定した。これに基づき、植生、動物、土地、陸水域、海域、生態の6つの分科会を発足させ、調査内容、調査方法を検討したうえ、最終的な調査骨子が昭和52年に正式に定められた。

調査は53年度と54年度に分けて行われることとなり、昭和53年度に実施される「特定植物群落」「動物分布調査」の各調査、「海域」に係る各調査について昭和52年度に調査要綱等が作成された。その際、動物分科会と海域分科会の下にさらに哺乳類、鳥類、両生類・は虫類、淡水魚類、昆虫類及び海域生物の各作業分科会を設置し、作業が行われた。これと並行して、調査の実施主体となる都道府県に対しては、「担当者会議」等を通して趣旨の徹底、協力要請等を図った。

昭和53年度には、上記により策定された調査要綱に基づき調査を実施するとともに、54年度に実施する調査の要綱作成を行った。

昭和54年度の調査のうち、植生調査の場合は、調査員間の連絡調整を行うための全国を10のブロックに分けて実施することとしたので、各ブロックごとに植生調査実行委員が置かれ、調査の円滑化、統一化が図られた。

調査結果は、調査実施の翌年に都道府県別の報告書、各種原図、原票として実施機関より環境庁に報告された。都道府県等より報告された調査結果から全国的な状況を把握するため情報処理作業を行うこととし、昭和54年度には前年度に実施した調査のうち、情報量が多く、処理に時間を要する哺乳類及び鳥類分布調査、区間距離の計測を正確かつ統一的に行う必要のある海岸調査について実施し、それ以外の調査については55年度に行った。

情報処理作業の主たる内容は、1データの点検、2文章記述による調査内容の類型化とコード化、3地形図に表示された位置情報のメッシュコード化、423に基づくデータの磁気テ−プへの収納、5磁気テープヘ収納したデータの電子計算機による集計、メッシュ分布図等の作成などである。この集計結果を中心に各調査項目ごとに全国版報告書が作成された。また、動植物の生息地・生育地や干潟・藻場・サンゴ礁の分布域、原生流域の所在地等を縮尺20万分の1の都道府県分図に表わし、植生調査の結果は、縮尺5万分の1の現存植生図に表わし、両者を印刷、公表した。なお、前者は昭和55年度の単年度事業として実施したが、後者は55、56の両年度を必要とした。

以上の経過は図1−3に示すとおりである。

(2)実施体制

第2回基礎調査においては、大部分の調査は都道府県に委託して実施されたが、調査が可能な研究者が少く都道府県を通じては十分に確保できない場合や、既に全国的な組織が存在する場合、調査方法が特殊な場合などでは、民間団体や民間会社に直接委託された。

情報処理及び集計・整理作業の段階では、専門的知見と電算処理技術を要するため、それぞれの分野の専門家を相当数擁する団体や航測会社等に作業は委託された。

各調査項目ごとに調査と情報処理の実施体制について示せば図1−4のとおりである。

 

1−5 調査結果の公表

第2回基礎調査では、自然環境のデータバンクとしての役割を果たすことを目的の一つとし、その結果を調査や集計・整理の段階ごとに作成された報告書、印刷された動植物分布図や植生図の形で公開してきた。公開の手段は、報告書の場合はすべて、政府刊行物サービスセンター(全国9力所)と(財)日本自然保護協会、(財)日本野生生物研究センターに依頼し、閲覧及びコピーサービスする方法によった。なお、閲覧及びコピーサ−ビスの実施機関は限られたものであるので、報告書は編集し逐次大蔵省印刷局より刊行中である。動植物分布図及び現存植生図は(財)日本野生生物研究センターより頒布されている。

 

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