〔11〕 陸水域(河川)の自然度について

 

小野寺 好 之

陸水域(河川)自然度を判定するための水質基準について、及び河川自然度の判定手続き

 

1.陸水域(河川)の自然度区分について

1.1 魚類指標及び五感による区分

“水質汚濁に係る環境基準”(昭46.12.28環境庁告示第59号)1)を参照すると、同告示の別表二による“生活環境に係る環境基準”(河川)の“類型”は、AA、A、B、C、D、Eの6段階である。

この表に示される類型ごとの“利用目的の適応性”を、“この環境類型が適している環境の利用のし方の指定”というほどの意味にとらえれば、AA、A、Bの3類型については、魚類の生息環境として抽出すると、“水産1級”のみに限定されるのはヤマメ、イワナ、水産1級を除き“水産2級”のみに限定されるのは、サケ科魚類及びアユとなっている。同告示第四により、この環境基準が将来改訂されることがありうるとしても、現在は、これに従っておくこととすれば、アユ及びサケ科魚類の生息できる水域は、通念的に、総体的な環境評価としては、まだあまり破壊されていない陸水環境(河川)(自然度区分〔A〕と仮称する)、と諒解してよいように考えられる。

この告示の別表二の一の(1)による類型Cは、“水産3級”すなわち、コイ、フナ等の生息適の水域と考えられているので、人為的富栄養化によってこの水域の環境状態がもたらされていたとしても、中等度の自然度を保存している陸水域(河川)(自然度区分〔B〕と仮称する)、と解釈できる。同表(河川)の類型D及びEは、水産用としては級指定から外されている範囲であるが、人為的富栄養化が最も進んでいる、と理解される。

類型Eの“利用目的の適応性”としては、「環境保全」の指定があり、この意味するところは、“沿岸の遊歩等を含む国民の日常生活において、不快感を生じない限度”と記述されている。この指定を、水質として、相当自然度を失って好ましくない陸水環境(河川)(自然度区分〔C〕と仮称する)、の区分に入れるか否かは、諸種の見解の存するところと考えられるが、コイ、フナさえ生息しない自然は、好ましくない水域と考えることとしたい。なお、これらのAA−E類型から外れる陸水域(河川)は、当然好ましくない環境であり、論外の環境である。しかし、前掲告示1)の第三に示されるように、昭和51年以内とまでいわなくとも、可及的速やかに当面AA−E以内で、将来は魚の生息できるAA−C以内におさまるように環境が改善されるように努力する必要があると考える。

仮に自然度保存の程度による環境分類を上記の3群について〔A〕、〔B〕、〔C〕とすれば、この群の区分と上述の類型との対応は(第2表)のとおりである。

 併立的に“6種類”と考えるべきでなく、段階的な清濁の系列のように受とられる。

第2表)陸水域(河川)自然度区分、陸水域(河川)環境類型対照表

区 分

類 型

陸水域(河川)自然度区分

〔A〕

〔B〕

〔C〕

陸水域(河川)環境類型

AA、A、B

C

D、E及び左記以外

 

1.2 陸水域自然度、理化学的性状区分表4)の検討

(1)透視度、cm

6月14日付環境庁資料5)にもとづいて以下のとおり区分した。(第1図)。

T:30<  U:30〜20  V:20〜10  W:10〜5

X:5〜3 Y:3>

この資料は、野洲川、由良川、比謝川、相模川における利用可能な142観測値の頻度分布により妥当と見られた階級幅を設定したもので、それぞれの階級の示した頻度百分率は以下のとおりである。T:48、U:24、V:20、W:5、X:3、Y:0。

(2)懸濁質、ppm

同じ資料により、(透視度、SS)座標の分布図から、懸濁質の階級区分を以下のとおり定める(第1図)。

T:3>  U:3〜5  V:5〜10  W:10〜20

X:20〜100  Y:100<

その頻度分布百分率は以下のとおり示された。N=120。

T:17、U:18、V:20、W:16、X:20、Y:9。

第1図の材料となった観測値は、全蒸発残渣とJISの懸濁質(■過後の蒸発残渣)とが区別されていないので、この階級区分は曖昧といえば曖昧である。しかし、上述のように142の観測例の示す分布にもとづいて、ほぼ無理のない階級区分の試行をしたものである。第1表に示される基準値区分に従って、ただし平水位における河川観察による濁りの直観的景観印象すなわち、平水位において上流から、下流にわたる河川の清澄に関する印象に対して、神流川の濁度実測値(小野寺、他、1965)6)が白陶度置換ppmによって示された値を対応し、さらに、この白陶土置換濁度のppm値がJISのSSに対応すると仮定し、なお加藤7)8)のRe及びER(全蒸発残留物)の上流域と想定される範囲における測定値の分布幅を参考にした上でJISのSSによる基準値分布階級区分を上記の懸濁質分布のように提案し、平水位(河川の通常の状態)における透視度と濁度との対応を配慮しながら第2表に示される自然度区分と環境類型区分とに適合する透視度と懸濁質との階級の対応を提案すれば第3表のとおりである。

* 加藤(1963)7)の野川における上流域のReのmg/lは25〜38

加藤(1963)8)の白川における上流域のERのmg/lは15〜57

 

第3表)河川環境の自然度分類に対応する透視度及び懸濁質観測値階級区分

河川環境自然度分類

〔A〕

〔B〕

〔C〕

観測値

階 級

透視度

懸濁質

T

T、U

U、V

V、W

W、X、Y

X、Y

 

なお透視度に関連しては以下のことを検討しておかなければならない。Ellis9)は、懸濁固形物は透過光線が百万分の一の強さのレベルになるのが5m以下でないような量であることが“魚の生存に対する適性の基準として最も役立つ水の特性”の一つとして記述している(SWPCB、California、1952.邦訳:通産省鉱山保安局、1957)。10)

小野寺、他(1965)6)は、吸光度と濁度との関係について論理的な検討を行ったあとで、濁度が8〜13倍に増加することは、透過光の強さが、1/8〜1/13に減少していることを意味している”と述べた。河川においては、濁度の分布が均質であると考えられるので、5mで100万分の1に減少する光の強さは、1mmの層の厚さで1/200に光の強さを減少する条件と考え、透視度30cmにおける光の強さの減少とは、水の層の厚さによる光の吸収を無視して、透視度30cmの光路を光が単純に水面の直上から透入し、垂直に反射して眼の網膜に達するまでに受ける強さの減少と考える。そうすると、透視度のような測定法のもとではEllisの条件は、1mm層の厚さで1/400に光の強さを減少する条件におきかえる必要がある。これを、1mm3の水中に、その垂直軸に対する1mm2の水平面で、1/400の光路を遮断する無機懸濁質の粒子1個が懸濁している条件におきかえる。この断面積は2,500μ2であるので、これを球におきかえると94000μ3と計算される。この体積に、砂の平均の比重を1.55(理科年表1970、11)の砂の比重の幅の中央を平均と仮定)とし、懸濁質量を計算すると146ppmとなる。さらに、流水においては、乱流その他の水流条件がきわめて容易に有機質、無機質の粒子を懸濁させるので、懸濁質の粒子の総合的な比重はさらに小さい、と想定される。仮に、これを1.0補注2)とすれば、流水中の上記の懸濁質は146 × 1.0 / 1.55 = 94ppmと補正される。すなわち、Ellisの条件は、魚が生息するためには、河川では懸濁質は94ppm以下でなければならない、ということになる。これらの諸数値は、将来実測によって補正せられなければならないが、今回は、前掲第1表の諸数値は、Ellisのこの条件に背反していない、という検討を行った、というに止める。

結論的に述べれば、透視度の階級区分、懸濁質量の階級区分ともに、直観的階級区分であり、さらに、これらの観測値階級区分の自然度区分に対応するし方も、白陶土濁度の測定法がJISに近似していると考えて、懸濁質については妥当であるが、透視度については,単に仮定のものである、と述べる以外に何らの合理的な理由はない。

(3)BOD、ppm

津田、森下(1974)12)は、河川のSaprobic systemによる水質階級にBODの蓋然的な値を対応させて示している。これを採用して、河川におけるBOD観測値階級区分を示すと下記のとおりである。

Saprobi階級

BODの観測値

自然度水質性状階級

β貧腐水性水域

α  〃   

β中腐水性水域

α  〃   

β強腐水性水域

α  〃   

1ppm >

 1 〜 2.5

 2.5〜 5 

 5 〜 10 

10 〜 50 

50 <

T

U

V

W

X

Y

これを、第1表第2表に適用し、BODの自然度区分基準を第4表のように定める。

 

第4表)河川環境の自然度分類に対応するBOD観測値階級

河川環境自然度分類

〔A〕

〔B〕

〔C〕

BOD観測値階級

T、U

V

W、X、Y

 

(4)DO、ppm

DOについては、津田(1972)13)と水産用水基準(1965)3)とを参考にし、これらを少々改変して以下のとおりDOの自然度観測値階級を区分した。

このとき、種々の温度における酸素含有量に対応している水質階級(図2.21、P124、津田、1972)13)を参照した。すなわち河川環境類型AA、A、B、Cが、上、中流の河川として盛夏に示す水温帯を想定し、その水温帯における酸素水質階級(津田、1972)13)別のDO量を、その水質階級に部分的に注釈されたSaprobi階級(津田、1972)13)を用いて定めた。下記のとおりである。

ここでは、β中腐水性水域のDO下限は6.0と定められたために、第1表の類型Cは、前述1.2節にもかかわらず、さらに修正されることに注目する必要がある。

Saprobi階級

夏季のDO(蓋然的)

自然度水質性状階級(DO観測値階級)

s

 

βm

αm

 

s

8.5 <

 7.5〜8.5

 6.0〜7.5

 2.0〜6.0

1.0〜2.0

1.0 >

T

U

V

W

X

Y

これによって自然度区分を示せば、第5表のとおりである。

 

第5表)河川環境の自然度分類に対するDO観測値階級

環境自然度分類

〔A〕

〔B〕

〔C〕

DO観測値段階

T、U

V

W、X、Y

 

1.3 理化学的性状分類の指定を行わず、直接に指定する自然度分類

(1)COD、ppm

神流川(1963〜4年調査)6)におけるKMnO4消費量は、季節により測点により著しく大きい値を示すことがあるが、おおむね上流域で2ppm以下、中流域で2.0〜4.0、中流下部で4.0〜7.0程度であった。

観測値階級区分と、環境類型に対応する観測値階級区分の表を作ることなく、CODについて〔A〕、〔B〕、〔C〕にそれぞれ対応する観測値を指定すると、以下のとおりである。

〔A〕:COD 2.0>、〔B〕:2.0〜7.0、〔C〕:7.0<

(2)NH4−N、ppm

同様にして、NH4−N(ppm)については、前掲6)を参照して、以下のような対応を提出する。

〔A〕:NH4−N 0.1>、〔B〕:0.1〜0.3、〔C〕:0.3<

(3)NO2−N、ppm

〔A〕:0.003>、〔B〕:0.003〜0.007、〔C〕:0,007<

(4)NO3−N、ppm

〔A〕:0.45>、〔B〕:0.45〜1.0、〔C〕:1.0<

(5)PO4N ̄ ̄、ppm

〔A〕:0.05>、〔B〕:0.05〜0.07、〔C〕:0.07<

(6)塩素イオン、ppm

〔A〕:7.0>、〔B〕:7.0〜10.0、〔C〕:10.0<

 

1.4 急性毒性物質、ppm

急性毒性物質については、水産用水基準に従い、〔C〕を指定するにとどめる。以下の指定から外れる水域は、何らかの意味で検討を要する。ただし、淡水魚を中心として検討されており、他の淡水生物ではこれよりわずかにキビシイ値もあることを付記する。

第6表

急性毒性物質の陸水中における濃度が純粋な化学成分として、それ以下であるべき限界濃度、ppm

 1) Hg:0.004

 2) Cu:0.01

 3) Cd:0.03

 4) Zn:0.1

 5) Pb:0.1

 6) Al:0.1

7) Ni:0.1

8) Cr:1.0

9) Mn:1.0

10) Sn:1.0

11) Fe:1.0

12) シアン化物CNとして:0.01

13) 遊離塩素:0.02

14) 硫化物、pH6.5において

  全硫化物態硫黄Sとして:0.3

15) Br:1.0

16) フッ化物Fとして:1.5

17) pH8において全NH3−N:1.0

 

1.5 不適当な有機化合物、ppm(水産用水基準3)

第7表)下記以上の濃度は何らかの意味で好ましくない限界ppm、有機化合物

1) フェノール:0.3

2) 樹脂酸:0.3

3) タンニン酸:0.6

4) フォルムアルデヒド:0.3

5) ピクリン酸:10

6) ABS:0.4

 

2.環境庁保全企画係による河川自然度区分作業について

2.1 観測項目ごとの自然度区分

(とりあえず第8表に従って、サンプル河川の上、中、下流の測点を項目ごとに自然度区分する。)

2.2 観測地点ごとの総合的自然度評価

サンプル河川の理化学的性状の観測項目ごとに、第8表に従って記入された〔A〕、〔B〕、〔C〕の配列のパターンを見た上で、検討を加え、総合的に判定する分科会を開催する。

さらに、委員会で検討する。

 

 文        献

1)環境庁、1971:水質汚濁に係る環境基準、環境庁告示、第59号、昭46.12.28.

2)Doudoroff, P, 1957 : Water quality requirement of fishes and effects of toxic substances. In "The Physiology of Fishes"、 M.E.Brown, Ed., Academic Press, N.Y., Vol.U. 1-526。

3)日本水産資源保護協会、1965:水産用水基準、日本水産資源保護協会、東京1−72。

4)環境庁自然保護局企画調整課保全企画係、1974:3<陸水域自然度>理化学的性状区分表8及び、湖岸線改変状況区分表、自然環境保全調査委員会陸水域専門部会1974.5.29 会議資料、謄写刷、1P。

5)環境庁自然保護局企画調整課保全企画係、1974:河川透視度資料(野洲川、由良川、比謝川,相模川)1974.6.14付連絡資料、謄写刷。

6)小野寺好之、小島貞男、石田力三、武田福隆、1965:神流川 漁業・水質調査報告書、第2部。水資源開発公団、東京1−103。

7)加藤武雄、1963:野川(最上川水系)の陸水学的研究、陸水雑、24(1/2)、53−62

8)――、1963:白川(最上川水系)の地球化学的研究、陸水雑、24(3/4)、94−103。

9)Ellis,M.M., 1942 : Water purity standards for fresh-water fishes. Special Sci. Rept. No2, Dept. of the Interior, U.S.

10)通商産業省鉱山保安局、監修、1957:水質基準.日本鉱業協会技術部、1−642.

(Water Quality Criteria. California SWPCB〔州水質汚濁防止庁〕出版物No.3, 1952.の邦訳)

11)東京天文台、1970:理科年表 丸善、東京1−

12)津田松苗、森下郁子、1974:生物による水質調査法、山海堂、東京1−238.

13)―――、1972:水質汚濁の生態学、公害対策同友会、東京1−240.

(1974年7月15日提出)

補   注

1.第1図:透視度−懸濁質関係について

透視度はその観測法によって30cm以上の値は不定である。同一試水について懸濁質(本文参照)には観測された値があるが、透視度については30cm以上という値の報告された値について第1図のような様式の図示を試みた。この様式は、懸濁質の値のある度数分布を作って、自然度階級を想定することが必要であったために行なった試みである。

 

2.魚類の生息環境における懸濁固形物の量の必要条件に関するEllis9)の提言の検討について

Ellis9)の提言の検討に関する記述の中で、水流中の懸濁質の粒子の総合的な比重を1.0としたことについては、以下の計算を行なって見た結果からのものである。

日光湯ノ湖の湯滝の下で、滝による乱流により攪拌され懸濁している無機質・有機質の粒子は、滝下約70m下流の流量観測定線から、滝下約170mの下流の水質観測定点に至るまでの間に、すなわち約100mの流下の間に、目視によるものであるが、いちじるしく澄明になる(小野寺、未発表)。この100mの流下の間には、当然主流における乱流部分もあり、主流とは別の分流部分もある。主流の流速は約80cm以上から約50cm程度まで種々の流速があり、分流はまたいちじるしく遅いが、この状況を平均水深50cm、全平均流速50cmにおける流下100mの間に、粒子が大部分沈降した条件、と仮定すると、懸濁粒子の沈降速度は平均0.25cm/secとなる。

一方,Stokesの式から、

V = 2g (s - s') r2 / 9v …………………………(1)

ここに、V:沈降粒子速度(止水条件下)、g:重力加速度(32.16呎/毎秒)または980ダイン)、s:沈降物体の比重、s':粒子を懸濁させている液体の比重、r:物体の半径、v:液体の粘性。

小野寺、ほか(1965)6)より、神流川で実測された粒度の代表的階級について、最小粒子階級、最大粒子階級、および粒度階級に計算された懸濁質の体積または重量の、両端の階級からの累積が測定定点(同書第48表)別に、ほぼ50%に達する階級、という3階級を選定すると(同書第52表)

粒度階級(μ3

C=階級代表値(μ3

最小:0.4〜4.0

重量50%階級:400〜1600

最大:3200〜6400

  1.2648

 800.00 

4525.4  

小野寺、ほか(1965)6)では、懸濁固形物を立方体と仮定して計算を進めたが、今回の小論の前提に従って、懸濁粒子を球と概定し、これによりrを算出する。

一方、s = 1.55(小野寺、ほか、1965)6)、s'≒1、v≒1、として実効のs - s'を算出することにした。

 

* Welch,P.S.,1952:Limnology. 2ed.

   McGraw−Hill,N.Y.

 

球の体積 C=4/3 π r3より、

粒度階級(μ3

r(μ)

V/sec(10-8cm)

 0.4〜4.0

 400〜1600

3200〜6400

 0.671 

 5.76  

10.3  

  53.9 

 3970  

12600  

が算出される。

実効のs−s'は、式(1)と上述の沈降速度計算(推定)値の0.25cm/sec とより、

s−s'=9V・v/2g・r2 ……………………(2)

これに、

s'=1、V=0.25、v=1、g=980

を代入して

s−1=(0.25×9)/ 980 × 2 × 5.762 = 3.46 × 10-5

すなわち、s≒1.0

なお,1mm2の水平面において、1/400の光路を遮断する懸濁質の粒子1個の断面は2,500μ2、その体積は94,000μ3、その懸濁質量は146ppmと計上されたが(本文参照)、2,500μ2が、さらに小さく分割された粒子によって同面積の光路を遮断する。と仮定された場合には、その個数が増加するに従って、懸濁質量としてのppmはさらに小さい値を示し得ることは当然である。Ellisの提言9)に対しては、この場合は、前述の場合よりもさらに充分である。

一方では、この点に、光路遮断効果としての濁度と、懸濁質量として示される濁度とが同一主義をもっように取り扱い得ない根拠が存在している。

 

陸水域(河川)の自然度の総合判定の手法について(案)

 

3.河川、測点別、観測項目別の自然度の指定

 自然度を判定するために以下の自然度区分を設けた。

A.まだあまり破壊されていない陸水環境

B.中等度の自然度を保存している陸水域

C.相当自然度を失って好ましくない陸水域

 これらの各級区分については、環境類型基準(環境庁告示第59号、1971)陸水域(河川)の表の類型に示す基準値のうち、魚類の生息しうる環境を基準を基準として、下記の環境類型を自然度区分に該当させるものである(前章第2表)。

 このとき、自然度の各級区分は、やや理想的な区分案として提出し、また、環境類型基準値は,各種の文献により、また、一部は環境庁が調査した記録を参照して、部分的に修生した。

 その結果、自然度分類基準値を前章第8表のように定めた。

 金属・非金属・有機化合物の急性毒性物質については、魚類の生存し得ない限界に該当するものをCに該当させ、その他は指定しなかった。

 上述によって、各河川の測定項目別の自然度指定を行うときは、河川の観測地点別に、データを整理する。

 

4.各河川単位の自然度の総合判定

 これによって各河川の総合的自然度を判定する場合は、各項目ごとに、下記のようにとりあつかう。

ア 急性毒性物質について

1)急性毒性物質が“非C”であるとき、総合判定は、A、B、Cのいずれかである。

2)急性毒性物質が“C”であるときは、他のいかなる条件があっても、その河川の総合判定はCである。ただし、例えば〔C〕Cuのように、急性毒性物質を指摘しておく。

イ 総合判定に配慮しない観測項目について

1)透視度の調査記録は、自然度指定のA、B、Cの如何にかかわらず総合判定には影響せしめない。

2)いわゆるセストン量も同様である。この値は、河川においては“懸濁質”と呼称する。

3)クロロフィル量も判定には影響せしめない。

 

5.総合判定に用いる項目と、判定の手続き

5.1 DO

DOが“C”であるか、“B”であるか、“A”であるかは、測点ごとに区々でありうるが,それらの表示された観測地点が、上流であるか、中流であるか、下流であるかによって、下記のようにその項目についての判定を総合的に行う。そ上性、また、降海性の魚類の生活環を阻害しないことに注目して、下流区の性質が重視されている。

 

測点の位置

総合判定

上流域

中流域

下流域

測定別のDO観測値の自然度指定

A

A

A

A

B

B

B

B

C

A

A

A

A

B

B

B

B

B

C

C

B

A

A

B

A

B

A

B

C

C

C

C

C

A

A

A

B

B

B

C

C

C

C

C

5.2 BOD

BODについては、DOと全く同様に作業して、項目としての総合判定を行う。

5.3 COD

CODについても、DOと同様に作業するが、CODについての自然度指定基準を定めるに用いられた資料の基盤の限定されていることにより、参考資料とするにとどめる。

CODの判定が、DO又はBODと合致しない判定結果となったときは、CODによるその判定は採用しない。

5.4 塩素量

CODと同様にとりあつかう。

5.5 窒素量

同前

5.6 燐量

同前

 

6.項目別総合判定を用いての最終判定

上述により、下記のように行う。

急性毒物質

項目別総合判定

最終判定

DO

BOD

COD

塩素

窒素

C

 

 

 

 

 

 

C

Cでない

A

B

C

A

B

C

1974年8月15日

(備考)このレポートは河川自然度判定のための一つの基礎資料として、小野寺委員より陸水域自然度小委員会に提出されたものである。

 

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