1.陸域に関する調査

日本の代表的な植生の一つである照葉樹林

 

1 陸域に関する調査【植物】

●1−1

植生自然度調査*1

植 生 調 査*2

@

昭和48年度 *1

@1/20万現存植生図(昭和50年/都道府県別53面)

@1/20万植生自然度図(昭和50年/都道府県別53面)

A

昭和54年度 *2

A1/5万現存植生図(昭和56〜57年/608面)

A植生調査報告書(昭和55年/都道府県別<山梨・長野を除く>45冊)

A植生調査報告書(昭和56年/全国版)

B

昭和58〜61年度 *2

B1/5万現存植生図(昭和60〜平成元年/685面)

B植生調査報告書(昭和62〜63年/都道府県別<愛知・香川・宮崎を除く>44冊)

B植生調査報告書(昭和63年/全国版)

B1/300万現存植生図((昭和63年)

C

平成元〜4年度 *2

 

 

1.調査の目的

 植生は地域ごとにさまざまな様相を示すが、この多様性は植生の存在する地域の地史、気象、地質、地形さらには人間を含む他の生物との相互作用等に基づく植物の進化、適応の結果である。したがって、われわれが自然に働きかける場合には、地域の環境の特性を植生から読み取ることによって適切な手段を講じることができる。

 主として植物社会学的に分類された群落単位を地形図上に表現した植生図は、国土計画、地域開発、産業立地等のための自然診断図として、また自然環境の保護・復元・維持のための生態学的処方箋として重要な基礎図であり、各種の保護ないし開発のマスタープラン作成に不可欠な資科として高く位置づけられている。

 本調査は、全国の植生の現況を把握して、上記のような重要な役割をもつ植生図を全国的に整備する目的で行われている。

 第1回基礎調査においては、全国にわたる植物社会学的手法による植生図の整備と、それに基づいて、土地に加えられた人為の影響の度合(自然度)の判定を目的に実施された。

 「自然度」とは、「自然は人間の手のつけ具合、人工の影響の加わる度合によって、きわめて自然性の高いものから、自然性の低いものまで、いろいろな階層にわかれて存在する」という考え方に基づいて、植物社会学的な観点からみて、土地の自然性がどの程度残されているかを示す一つの指標として導入されたものである。自然度は、つぎの10ランクに区分された。

■植生自然度区分基準

植生自然度

区分基準

10 高山ハイデ、風衝草原、自然草原等、自然植生のうち単層の植物社会を形成する地区
エゾマツ−トドマツ群集、ブナ群集等、自然植生のうち多層の植物社会を形成する地区
ブナ−ミズナラ再生林、シイ・カシ萌芽林等、代償植生であっても特に自然植生に近い地区
クリ−ミズナラ群集、クヌギ−コナラ群落等、一般に二次林と呼ばれる代償植生地区
常緑針葉樹、落葉針葉樹、常緑広葉樹等の植林地
ササ群落、ススキ群落等の背丈の高い草原
シバ群落等の背丈の低い草原
果樹園、桑畑、茶畑、苗圃等の樹園地
畑地、水田等の耕作地、緑の多い住宅地
市街地、造成地等の植生のほとんど存在しない地区

 

2.調査の内容と方法

 第1回基礎調査から第3回基礎調査まで、調査は都道府県に委託して実施された。各都道府県では、空中写真の判読と現地調査を実施して縮尺5万分の1の現存植生図(原図)を作成した。第l回基礎調査ではこの原図をとりまとめて、縮尺20万分の1の現存植生図を都道府県別に印刷した。

 第2回基礎調査および第3回基礎調査では、全国の植生の現況をより詳細に把握して、地域レベルの計画に対応できる5万分の1現存植生図の作成を目指して調査が進められ、第2回基礎調査および第3回基礎調査でそれぞれ全国の約2分の1の地域が調査された。5万分の1現存植生図は昭和62年度までに1,293面が印刷・刊行された。

 集計に当たっては、全国の植生図を基準地域メッシュ(「3次メッシュ」ともいう。約1km×1km)単位で小円選択法(メッシュ中央部の5mmの測定円内で優占する群落を読み取る)により群落コード化するとともに、これらを用いて、全国植生図、主要群落の全国分布図等の図化や植生区分、植生自然度別の集計等を行い、全国的な視点からわが国の植生の状況が把握されている。

 第4回基礎調査では、経年変化の把握を効率的に行うため、人工衛星画像を活用する方法が新たに導入された。この方法は、新・旧2時点の衛星画像データ(ランドサットMSS,TM等)を解析して植生改変地を抽出し、その結果を基に都道府県において現地調査するというものであり、調査期間の短縮による最新情報の全国整備が図られている。

 

3.調査結果

 第2回基礎調査及び第3回基礎調査により、全国土の『5万分の1現存植生図』が完成した。全国土をカバーする5万分の1レベルの植生図の完成は世界的にも例がない。

 植生図に表された植物社会学的群落分類(凡例)も、わが国の多様な植生を反映して、全国統一凡例に地方特有のものを加えると、計766群落にのぼる。

 これらを人為による影響度合に応じて10ランクの植生自然度に区分して集計した結果、わが国の森林(自然度9〜6)は、約25万km2、国土の68.2%を占めている。一方、自然林に自然草原を加えた自然植生は、国土の19.3%と2割を切っており、このうち2分の1以上が北海道に集中している。

 植生自然度区分をさらに大区分したうえで、第1回基礎調査調査結果と第2、3回調査を比較すると、国土面積に占める森林全体の割合はほとんど変化がないものの、自然林・二次林が減少(-3.9ポイント)し、植林地が増加(+4.1ポイント)している。また、農耕地が減少(-1.8ポイント)している一方、市街地が増加(+1.5ポイント)していることが判明した。

■植生自然度の経年変化

植生自然度

第1回

自然環境保全基礎調査

第2回・第3回

自然環境保全基礎調査

増  減

メッシュ数

構成比(%)

メッシュ数

構成比(%)

メッシュ数

構成比(%)

自然草原(自然度10)

3,260

0.9

4,038

1.1

778

0.2

森  林(自然度9〜6)

自然林・二次林(自然度9〜7)

植林地(自然度6)

244,994

169,854

75,140

68.0

47.1

20.9

248,538

157,509

91,029

68.2

43.2

25.0

3,544

-12,345

15,889

0.2

-3.9

4.1

二次草原(自然度5・4)

12,876

3.6

11,676

3.2

-1,200

-0.4

農耕地(自然度3・2)

83,030

23.0

77,412

21.2

-5,618

-1.8

市街地など(自然度2・1)(*1)

15,597

4.3

21,172

5.8

5,575

1.5

その他(自然裸地・不明区分)

602

0.2

1,464

0.4

862

0.2

全  国(*2)

360,359

100.0

364,300

100.0

開放水域

0

4,170

全  国

360,359

368,470

*1 市街地などには「緑の多い住宅地」(自然度2)を含む。

*2 開放水域を含まない。

第1回調査のデータに開放水域が含まれていなかったため、第2・3回調査結果との比較に際しては、開放水域を除し全国土に対する構成比を算出し、その増減をみることとした。

 

■代表的な植生の出現メッシュ数

代表的植生

メッシュ数

代表的植生

メッシュ数

ブナ林(自然林)

太平洋側のブナ林

日本海側のブナ林

14,486

1,455

13,031

ミズナラ林・シデ林

ブナ二次林

ミズナラ林

シデ林

30,378

9,260

20,121

997

照葉樹林(自然林)

シイ林

タブ林

カシ林

海岸風衝低木林

3,622

1,995

174

687

766

コナラ林

23,140

シイ・カシ萌芽林

8,874

アカマツ・クロマツ林

アカマツ林

クロマツ林

33,950

31,396

2,554

 

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