5.今後の課題

1)地方名・方言に関する資料の収集

 本調査の過程で,産物帳などに記載されている地方名が特殊なため,現在の標準和名を比定でぎない鳥獣が多数あった.このような地方名のうちには,方言に関する資料を参照することにより,標準和名を比定できたものもあった.こうした,地方名・方言に関する資料を駆使することにより,本調査で作成された分布図より,多くの種についてより多くの地域を対象にした分布図の作成が可能となる.従って,こうした資料の収集が必要であると考えられる.


2)中間時点での分布情報資料の収集

 本調査の結果,いくつかの地域で,現在把握されている分布と異なる分布を示す種が認められた.こうした種について,その地域における「産物帳」(250年前の情報)と現在の「自然環境保全基礎調査」結果とをつなぐ中間時点の資料から,その間の動態を把握する必要がある,と考えられる.例えば,ニホンザル(Macaca fuscata)については,長谷部言人がまとめた1920年代の分布情報がある.こうした資料を収集することで,動植物の分布動態がより明確に解明できる,と考えられる.


3)環境の変化に関する資料の収集

 「産物帳」の時代と現在との分布の変化の原因の一つとして,環境の変化(特に動植物そのものと,生息環境に対する人為圧力の増大)が考えられる.どのような環境の変化によって,どの種の分布が変化したのかを把握していくことが,今後の分布予測の基礎資料となる,と考えられる.従って,「産物帳」から現在までの250年間の環境の変化を,節目節目でとらえられる資料を収集することが必要である.こうした資料を用いた,特定地域での分布変化とその要因の追跡を行うことによって,個体群の消長の機構が解明される,と考えられる.

 

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