まとめとこれからの課題

 1997年には、身近な生きもの調査のテーマのひとつとして、「ツバメの巣」を取り上げました。対象としたのは、人工的な建造物に巣を作る、ツバメ科のツバメ・コシアカツバメ・イワツバメ・リュウキュウツバメ、アマツバメ科のヒメアマツバメの5種です。全国から、31,352人の参加者を得て、これらの鳥の巣について8,373件の情報を集めることができました。ツバメ類の分布や繁殖環境、さらに詳しい営巣場所について、全国規模でこれだけたくさんの情報が集まったのは、初めてのことです。

 分布については、それぞれの種で、従来言われてきた分布の傾向が裏付けられる結果になりました。イワツバメやヒメアマツバメでは、記録の(まれ)な県でも巣が見つかった例がありました。

 繁殖環境に関しては、都市部と農村部で、いくつかの点でツバメの生活に違いがあることが分かりました。農村部では室内で営巣しているツバメがいる、都市部では集合住宅の階段室で営巣しているコシアカツバメが多いなどの結果は、ツバメ類の繁殖に人の作り出した条件が大きく影響を与えていることを示しています。

 営巣場所については、コシアカツバメとイワツバメの方が大型の建造物を好む、イワツバメでは橋を利用することが多いなど、種による違いが浮かびあがってきました。ツバメでは、巣の形をタイプ分けし、壁の材質との関係なども解析しました。

 また、今回の調査で、繁殖が途中で失敗した場合も原因を調べましたが、こうした内容の全国調査が行われたのは初めてのことです。結果としては、ツバメではカラスとヘビ、コシアカツバメとイワツバメではスズメの影響が大きいことが示されました。こうした点は、ツバメを通して身近な自然環境のしくみを見ていく上で大きなヒントになるものでしょう。

 営巣している住宅や商店の方にお話をうかがうインタビューを取り入れたことも、今回の調査の大きな特徴です。その結果、予想以上に多くの方が、ツバメ類の営巣を歓迎されていることが分かりましたが、このことは調査結果の中で喜ばしいことのひとつでした。

 このように、今回のツバメの巣調査は、大きな成果をあげることができましたが、課題も多く残りました。全体に本州などのおもだった島では多くの記録が得られましたが、沖縄県をはじめ、周辺の島々からの情報が少なかったのが残念な点でした。生物の分布を調べる上で、どの島にどんな種が生息しているかをきめ細かく把握することは、非常に重要な点です。今後の調査で、とくに島に住む方々の協力をお願いしなければと思います。

 繁殖環境や営巣場所については、たとえば建物の種類分けの基準がはっきりしなくて記入に迷うというご意見を多くいただきました。ザラザラの壁と、スベスベの壁の区別も難しかったようです。再び、ツバメの巣の調査をする機会があれば、そうした選択肢の整理が必要でしょう。

 このように、多くの課題も残されましたが、今回の調査では、参加されたみなさんから送られた数々の写真が、現代の日本で、ツバメたちがどんな環境でどんな生活を送っているかを何よりも雄弁に示してくれました。その資料が蓄積されたことが、もっとも大きな成果ということができるでしょう。

 

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