調査結果 3

地方名

 私たちの暮らしに身近なセミは、古来から地方ごとにいろいろな名称で呼ばれてきました。たとえば、神奈川県では、ハルゼミのことを、田植えの時期に鳴くセミであることからナワシロゼミ(秦野市)と呼んだり、松林にすむことからマツゼミ(平塚市)と呼んでいます。地域で呼び慣わされてきたこうした地方名は、その地域に根づいた言葉であり、大切な文化です。いまでこそ図鑑類が普及し、セミの標準的な呼び方(標準和名)が一般的なものとなりましたが、一方で地方名が忘れ去られようとしているのは残念なことです。そこで皆さんが使った、もしくは知っている地方名を報告していただき、記録しておきたいと計画しました。

 表は、おもな種について報告数の多かった地方名の上位5位までをまとめたものです。みなさんにもなじみのある名前がいくつもあるでしょう。このうちコゼミ(ニイニイゼミ)は関東地方〜四国地方にかけて、カナカナ(ヒグラシ)は東北地方〜中国・四国地方の広域で呼ばれていたものです。今回の報告でも、同様な地域から多くなっています。また、関東地方のアカジリ(アブラゼミ)、近畿地方のホンセミ(クマゼミ)、東海地方のチイゼミ(ニイニイゼミ)などは、限られた地域の地方名ですが、今回の報告でもこうした傾向がありました。

 こうした地方名の由来は、文献(*)によれば、1鳴き声、2形態(大きさ・色・形の感じ)、3生態(発生期・最盛期の発音時刻・好む樹種・発音量の多少など)に分類できるといいます。チイゼミワシワシ(クマゼミ)などは1に、コゼミアカゼミ(アブラゼミ)などは2に、タウエゼミマツゼミ(いづれもハルゼミ)などは3に、それぞれ区分されるものでしょう。

 今、こうして報告していただいた地方名が、どれだけ生き残っているのでしょうか。地方の分権が注目される昨今、地域文化に根ざしたこうした言葉の再評価もとても重要な事柄です。

*中尾舜一著『セミの自然誌』中公新書.1990

■種別の地方名、上位5名称(数字は報告件数)

 

アブラゼミ クマゼミ ニイニイゼミ

1位

ジージー

78

ワシワシ

149

チイチイゼミ

39

2位

ジージーゼミ

56

シヤーシヤー

56

コゼミ

34

3位

アブラ

39

シヤンシヤン

36

チイチイ

26

4位

オオゼミ

31

クマンゼミ

27

ジージーゼミ

24

5位

ミンミンゼミ

17

カタビラ

21

チーチーゼミ

23

 

ハルゼミ ヒグラシ

1位

マツゼミ

12

カナカナ

873

2位

マツムシ

3

カナカナゼミ

212

3位

タウエゼミ

1

カンカンゼミ

38

4位

アワビゼミ

1

カナカナカナ

12

5位

カイダリムシ

1

カンカン

6

 

 セミの研究者である加藤正世氏は昆虫趣味の会を主宰し、『昆虫界』(1933-1943)という全国的な機関誌を刊行した。その中に「方言」という項があり、全国各地からセミを含む昆虫の地方名を投稿するよう積極的に働きかけた。

  

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