1.調査結果の概要


1選定した標本区の名称

  ア 東辺田 イ 脇本浜西 ウ 大里川 エ 思川 オ 役勝川

2選定理由

  ア 東辺田干潟は,かつては蕨島に守られた外海干潟であったが,荘の埋立地が造成された時点で,蕨島は陸続きの半島となり,本干潟は江内川の河口干潟となった。また数年前には,北西出口に,東辺田と蕨島長万崎とに,漁船の舟だまりが出来て,外界との結びつきが弱められた。これら環境の激変が,どのような影響を与えたかを,具体的に明らかにするためである。付近には,ツル渡来地があることも,一つの理由である。

  イ 脇本浜西干潟は,自然度の高い干潟であることと,10年前までは,その下部は,地先海中とともに,アマモ類の繁茂地であったことが,選定理由である。

  ウ 大里川干潟は,串木野市八房川と市来町大里川の合流地点干潟の一部であり県内第一のハクセンシオマネギ生息地である。本干潟の前縁は,背後地水田用水路排水のみお筋にあたる。農薬が使用されているはずであるが,ハクセンシオマネギはこれをしのいで,快適生息状況を示しているように見える。

  エ 思川干潟。鹿児島湾奥には,姶良町脇元から国分市敷根に至る間に,多数の干潟があるが,その代表として本干潟をとりあげた理由は,調査員がもっともなじんだ干潟であるからである。

  オ 役勝川河口干潟。住用川と役勝川との合流点付近約60haは,メヒルギを優占種とするマンガルであり,国定公園特別保護地区に指定されている。標本区は合流点より下流であるが,右岸沿いであるので,役勝川河口干潟と呼称する。本干潟を,県を代表するものとしてとりあげた理由は,背後に,このような県内最大のマンガルを持つことである。


3干潟の底生生物

 1 貝類

    河口干潟では,大里川のクチバガイ,オチバガイ,ウミニナと,思川のソトオリガイ,ハザクラガイが特に高密度で生息していた。泥量最大の東辺田干潟と最小の脇本浜西干潟とは,貝の産出量が少なく,有機汚染の適当に進行した大里川と思川の干潟が産出量が多かった。

    鹿児島市磯や姶良町,加治木町の地先前浜では,潮干狩用として,毎秋熊本県から種貝を導入している。潮干狩の獲物は主としてアサリであるが,ハマグリや,食用とはならないタマガイ科のトミガイなども珍しくない。いずれも,熊本県からの移入物であろう。

    役勝川の河口干潟には,貝類とゴカイ類が非常に少ない。これは,発電所建設など,住用川上流で,これまでに行われた土木工事のために生じた赤土被害の一つと判断される。

 2 カニ類

    干潟のカニの代表者はシオマネギ類である。県本土のものはハクセンシオマネギで,シオマネギを産しない。九州のシオマネギは,志布志湾に流入する宮崎県の小流本城川の河口干潟が南限である。奄美大島では,住用のほか手花部の干潟をも調査したが,ともにハクセンシオマネギとヒメシオマネギであった。

    脇本浜西干潟では,オヨギピンノとギボシマメガニ一種とが採集されたが,オヨギピンノはチンチロフサゴカイの巣孔を,ギボシマメガニはミサキギボシムシの巣孔を住家とするとされている。本干潟では,ゴカイ類は,チロリ,スゴカイイソメ,ギボシイソメ,ツバサゴカイ,イトゴカイ,タマシキゴカイなどが確認された。このなかで,ツバサゴカイはオヨギピンノに,タマシキゴカイはヨコナガピンノに,住居を提供するとされている。

    脇本浜西干潟のオヨギピンノとギボシマメガニ一種とが何者の巣孔を住居とするかは未確認である。

 3 エビ類

    アナジャコは,県本土の河口干潟に広く分布する。住用村役勝川河口干潟には,5cm以下のオキナワアナジャコの稚エビが広く見られたが,その成エビは,マンガル中に巨大な砂塔を作ることで有名である。

    その他の動物では,スジホシムシモドキが東辺田干潟と思川干潟とで,イカリナマコー種が大里川干潟と思川干潟とで採集された。

 4 鳥類

    今回の干潟調査中は,コサギとカラスとシギの小群とを見ただけである。県内野鳥についての成書には,1987年,鹿児島県が編集した「鹿児島県の野鳥」がある。本書は,それまでに県内の野鳥の会の会員により報告された情報をまとめたもので,この中から,5標本区に関係のあるサギ類,チドリ類,シギ類,カラス類だけを抽出して,要求をみたすことにした。

    県内の野鳥について,最も詳細に観察された場所は,出水市荒崎のツル渡来地を中心とする干拓地である。またこれに次ぐ場所は,鹿児島湾奥の姶良町脇元から国分市敷根に至る間の干潟と干拓地である。東辺田干潟からは,付近干拓地のものを総合して,サギ類12種,チドリ類11種,シギ類36種,カラス類4種をあげ,思川干潟からは,両岸の姶良干拓と帖佐干拓を加えて,サギ類7種,チドリ類5種,シギ類14種をあげた。しかし,後者では,これを脇元から国分干拓まで拡大すれば,サギ類12種,チドリ類10種,シギ類29種となり,出水の干拓地にせまる種数となる。カラスは,ミヤマガラス,ハシボソガラス,ハシブトガラスの3種で,コクマルガラスは観察されていない。

    他の3標本区,脇本浜西,大里川,役勝川の干潟では,記録種数が極めて少ないが,これは必ずしも生息種数が少ないことを意味しない。ただ信頼できる観察例が少ないだけのことである。

 5 海藻類

    脇本浜西干潟の下部から地先海中水深数メートルまでは,アマモ帯であったが,干潟上では,アマモ類はほとんど見られなくなった。わずかな場所にコアマモが生き残り,アマモは痕跡的に生き残っているだけである。これは,この10年間に来襲した2回の猛烈台風のためと考えられる。

 

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