1.調査結果の概要


 本県の海域は、その漁場環境から有明海、八代海、天草海の3海域に分けることが出来る。調査地点の選定にあたっては、この3海域を念頭におき有明海、八代海からそれぞれ2標本区を、天草灘区から1標本区を、合計5標本区を選定した。


 第一標本区の横島は、有明海に面した菊池川の左岸に当たり、広い干潟であったが、戦後の昭和26年に干拓締切がなされ、干拓地が造成されたため沖出し幅500m、面積14ha程度の干潟となった。海岸線はすべて人工海岸となっており、堤防内側は根固めのためのコンクリートブロックの据え付け作業がなされているところである。背後地は、湿田と荒れ地が混在しており、大規模な畜産業が営まれている。

 干潟底質は、護岸堤防から50mほどは、根固めの為の捨石がなされており、荒い砂地となっている。それから以深は泥を主体とした砂泥である。

 底生生物は、上部の捨石部分にはマガキがびっしりと付着し、巻貝類のムシロガイ、ウミニナ類がその捨石部分に、カニ類ではオサガニ類が主体となって生息している。下部になると二枚貝類ではアサリ、マテガイが、巻貝類ではアカニシが、或いはアナジャゴが潮干狩の対象となっている。潮干狩の対象とならない干潟生物としてはシオフキ、ホトトギス、オサガニ類が多く観察された。


 第二標本区の沖新は、有明海に面し阿蘇山を源流とした白川河口の左岸に発生した干潟で、沖出しは2kmに達する。護岸堤防の背後地は昭和28年の熊本大水害で白川が氾濫し、熊本市街地に流入した火山灰の捨て土で造成された土地であり荒れ地となっている。

 沖新干潟のすぐ南には、熊本新港の建設が進み、熊本港大橋、荷揚げ場岸壁が完成し、その全容が明らかになりつつある。

 沖新干潟は白川の影響を強く受け、大水の後は干潟の様相が一変することがあり、底質も大きく変わる。近年は、泥分が多くなってきたということであり、護岸部から沖合い部分まで、歩行が困難なほどの軟泥となっている。

 底生生物は、こうした漁場環境を反映して、今回の調査区のうちもっとも貧相であった。二枚貝類では、多い順にシオフキ、マテガイ、ハマグリ、オキシジミ等である。巻貝類で多く観察されたのはムシロガイでそのほかにウミニナ、ヘナタリ、ヘソクリが採集された。エビ・カニ類としては、シオマネキ、イソガニ類が、渚線付近ではクルマエビが採集された。その他としては、スゴカイ類が多く下部ではミドリイソギンチャクが観察された。藻類では、顕著なものはなく、アナアオサ、オゴオリが点在する程度である。


 第三標本区の文政は、八代海北部に位置し、鏡川と大鞘川に狭まれた前浜干潟で、沖出しは、1.5kmあり、面積は約100haある。文政と云う地名から約170年前の文政年間に干拓されたと推定される。海岸線はすべて人工海岸となり、内側にはコンクリートブロックを並べて補強されている。

 後背地には広い潮遊地があり、ボラ、スズキ等の気水性の魚が多く生息しており、年1回の秋の一般解放時には、口開けと称して同好者の楽しみの1つとして各地から人々が集まり、秋の風物詩となっている。

 干潟の底生動物は、昭和62・63年と2カ年にわたって、降水の影響と思われる二枚貝類の大量へい死があったため、生測量は少なく目を引く動物としてはスゴカイ類及びカニ類である。有用二枚貝類として採用されたのは、マガキ、シオフキ、アサリ、ハマグリマテガイであるが小型の貝が主である。藻類では、低潮線近くにコアマモが広い範囲に渡って分布している。その他にはアナアオサ、オゴノリが生息していた。


 第四標本区は、県内では流域面積、流水量ともに最大の河川である球磨川下流域に発達した干潟である。沖出しは長いところで1Km面積は510haある。

 干潟底質は護岸堤防から100m程は泥、それから以深は細い砂泥となっている。

 底生生物は上部の泥質ではマガキ、ハマグリ、オサガニが多くみられる種類であるが、その他にシオフキ、ソトオリガイ、オキシジミ、アサリが出現した。藻類ではアナアオサ、オゴノリが点在する程度である。下部ではハマグリが最も多く出現し、ハマグリを対象とした潮干狩に約60人が出ていた。ハマグリ以外にめぼしい生物は無く、シオフキ、アサリ、オキシジミ、カガミガイ、ソトオリガイが所により見られる程度である。カニ類ではオサガニ類が多く生息している。藻類では、顕著なものは無くアナアオサ、オゴノリが点在している程度である。

 鳥類の渡来については、谷口(1976年)によると5年間で103種の野鳥が観察され、そのうち70%が水鳥で、その半数がシギ、チドリである。ハマシギ、シロチドリの越冬で羽数は冬に最高となるとされている。


 第五標本区は、天草下島の北西端富岡半島の東側の干潟である。沖出じ幅は300m前後で面積は48haである。干潟の陸境は海岸道路からなり根固めに消波ブロックの設置が行われている。海面は、沖側では、真珠養殖が行われ、干潟域の北部はアサクサノリの養殖場である。干潟は岸から低潮線まで細砂からなり、砂紋がみられてその水域には、ニホンスナモグリが、干出域には、コメツキガニが見られる。

 

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