1.調査結果の概要


 県内の現存干潟から代表的な5標本区を選定した。地域的にみると、瀬戸内海区に属し干潟の最も発達している燧灘に3標本区(西条市禎端 加茂川河口西;東予市大新田 新川河口;東予市河原津 河原津干潟)、佐田岬以南の豊後水道に1標本区(北宇和郡 津島町岩松河河口)および南太平洋南区に属す土佐湾に1標本区(南宇和郡 御荘町 僧都川河口)である。干潟のタイプをみると、前浜干潟の東予市河原津の標本区以外は河口干潟である。

 底生動物は全標本区に共通してゴカイ類が個体数も多く、広く分布していた。一方、二枚貝類はどの標本区においても種数、個体数ともに少ない傾向があった。しかし、アサリにては、養殖後放流している干潟では高い生息密度を示した。

 地域別に底生動物相の特徴をみると、燧灘は浅海で干潟がよく発達しているため、ユムシ、アナジャコ類が多く出現した。一方、佐多岬以南の岩松川、僧都川河口では巻貝類であるウミニナ類の生息密度が著しく高く、ヘナタリ類も多数認められた。カニ類では、スナガニが多く出現した。

 干潟のタイプ別に底生動物相をみると、顕著な差異は認められなかったが、富栄養の河口干潟の方が若干、種類・個体数とも多い傾向を示した。

 さて、燧灘の干潟について底生動物相を約20年前と比較すると、カブトガニが干潟から姿を消していた。カブトガニは中世代三畳紀に出現して以来、約2億年ほとんど進化のみられない「生きた化石」と呼ばれている貴重な種である。1949年西条市加茂川から東予市河原津までの沿岸は、愛媛県によってカブトガニ繁殖地として天然記念物に指定された。その当時は干潟で産卵がみられ、各発育段階の個体を普通に観察することができた。しかし、1955年頃から東予新産業都市建設のために沿岸の埋立てが促進され、赤潮の発生をみるようになった。特に1969〜1970年の赤潮大発生は、海産生物に大きな被害を与えた。現在、これらの干潟でカブトガニを見ることはできない。

 干潟の底生動物が複数生息密度ともに減少した原因としては、周辺の干潟の埋立てによる海流の変化、アサクサノリ養殖場で用いられる科学物質、田畑・果実園等で用いられる殺虫剤、殺菌剤、除草剤などの農薬、河川上流に建設されたダムの影響、工場排水・生活排水中の有害物質、ときに大発生する赤潮などが考えられる。それゆえ、干潟動物と有害因子との因果関係の究明とその対策が急務である。

 鳥類の渡来状況をみると、県内では西条市加茂川河口を中心とした干潟と伊予灘東の松山市重信川河口が有名である。後者は、砂利採取によって荒廃していたが、徐々に回復の状況にある。リアス式海岸の豊後水道および土佐湾では、広大な干潟はみられずわずかに南宇和郡御荘町僧都川河口と北宇和郡津島町岩松川河口に小規模な干潟がみられる。シギ・チドリ類は年間を通して10〜15種で個体数も多くないが、僧都川河口ではセイタカシギや数十羽のウミウの越冬がみられる。

 県内最大の干潟の加茂川河口を例にとると、シギ・チドリ類は年間を通じて約22種が知られ、渡りの最盛期は4月と9月で最大時には渡来数は1000羽を越える。主な種としては、ハマシギ、イソシギ、チュウシャクシギ、キアシシギ、アカアシシギ、シロチドリ、コチドリ、ダイセン、ムナグロなどでホウロクシギ、ダイシャクシギのような大型のシギも見られる。ミヤコドリは1982〜1983年に渡来した。シギ・チドリ以外には、ヒドリガモ、マガモ、コガモ、オナガガモ、カルガモ、ツクシガモなどのガンカモ類、ユリカモメ、ウミネコ、セグロカモメ、アジサシなどのカモメ類、コサギ、アオサギ、ゴイサギなどのサギ類、トビ、ミサゴ、サシバ、ハヤブサ、チョウゲンボウ、ハイイロチュウヒなどのワシタカ類も見られ、記録された種数は約150種にのぼり、冬期の生息数は3000羽を越える。干潟は旅鳥にとって採餌の場、休息の場として重要な役割を果している。

 

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