1.調査結果の概要


 本県沿岸域には紀伊水道西海域に10か所、118ha、徳島海域に1か所、6ha、の干潟が現存する。干潟生物調査はこれら干潟の中から紀伊水道西海域の河口域干潟2か所(吉野川河口域(通称、オニガス)、那賀川河口域)、紀伊水道西海域及び徳島海域の前浜干潟3か所(橘湾(大潟)、椿泊湾(椿)、那佐湾)の5か所を標本区に選定し、干潟の環境、底生生物相並びに鳥類の渡来状況を観察した。

 生物相の観察は干潟高潮線域に起点を設け、起点から低潮線に向かって調査ラインを敷設し、ライン上を上部、中部、下部に区分し、スコップ等で砂泥を堀りおこして行ったほか、縦50×横50×深さ20cmの枠内の生物を採集して観察した。

 また、干潟面積は平板測量し、ブラニメータで面積を測定した。

 1)吉野川河口域干潟(徳島市、通称、オニガス)

 1干潟の環境

 干潟は吉野川河口域に広がる河口干潟で、標本区の干潟面積は69haである。底質は高潮線から低潮線にかけて砂泥域で占められている。

 清澄度は出水、波浪の影響がない場合は良好である。干潟は人工的な改変は認められないが、出水、波浪よる影響が認められる。また、干潟植生は高潮線の砂域にヨシ等が生育している。

 2底生生物相

 底生生物をゾーン別にみると、上部はホトトギス、ユウジオガイ、イソシジミ、(以上二枚貝)、ウミニナ、アラレタマキビ(以上巻貝)、コメツキガニ(カニ類)、ゴカイ類(多毛類)が観察されるが、なかでもユウシオガイ、ウミニナ、コメツキガニが多かった。中部ではコメツキガニ、ホトトギスガイ、ユウシオガイ、イソシジミ、ニホンアゲマキ(二枚貝)、アナジャコ(エビ類)、ゴカイ類が観察されるがコメツキガニ以外は出現個体数は少なかった。

 また、下部はコメツキガニ、アナジャコ、イソシジミ、ゴカイ類も観察されるが個体数は少なく、全般的にみて動物群集の少ない干潟である。

 3鳥類の渡来状状

 県内では、最大の干潟であり、シギ、チドリ類等の水鳥数多く、今までに約140種の野鳥を確認しており、周年観察でき、春秋は、ダイゼン、メダイチドリ、ホウロクシギ、ハマシギ、等のジギ、チドリ類約15種類とサギ類カモメ類、冬は、マガモ、カルガモ、オナガガモ等のカモ類約10種類とカモメ類、サギ類等が見られる。

 2)那賀川河口域干潟(那賀川町)

 1干潟の環境

 干潟は那賀川河口域の中央部に広がる、標本区の干潟面積は10,7haで沖だし幅700mに達する。

 底質は高潮線の上部から低潮線の下部にかけて砂域で占められ、清澄度は出水、波浪のある以外は概ね良好であるが僅かに濁りがみられる。

 干潟は河口域の中央部に位置するため改変はないが、1986年秋の台風では21haが消滅している。

 2底生生物相

 底生生物をゾーン別にみると、干潟の上部はシオフキ、イソシジミ(以上二枚貝)スナホリムシSp,(甲殻類)がみられるが、イソシジミ以外は少ない。中部はイソシジミ、イワガニSp,(カニ類)もみられるが、イソシジミの個体数は多く観察された。下部はイソシジミの個体数は多くないが観察された。全般的にみて出現種類数、個体数ともに少ない干潟である。

 3鳥類の渡来状況

 県内では、吉野川河口と並ぶセッカ、カワセミ、サギ類の渡来地として、知られて周年を通じて約70種の野鳥を確認している。当地は、水辺の野鳥を観察するには絶好の地であり、特に秋から春にかけてが野鳥の種類が多く、ウミウ、ユリカモメ、オナガガモ類、ハヤブサ、チョウゲンボウ等が見られる。また、干潟周辺の砂浜、湿田地帯が採餌の場及び休息の場となっつている

 3)橘湾(大潟)干潟(阿南市)

 1干潟の環境

 干潟は橘湾の湾口部に(大潟町)位置する前浜干潟である。標本区の干潟の面積は3,9ha、と狭い。底質は上部が砂礫、中部から下部にかけて砂泥域が続いている。

 清澄度は多少汚れがみられる程度である。海岸及び干潟の改変はなく、後背地に自然林がある。また、干潟は潮干狩りのほかノリの種付け漁場となっている。

 2底生生物相

 底生生物をゾーン別にみると、干潟の上部はスナガニ(カニ類)、アナジャコ類(エビ類)、ゴカイ類が観察されるが、なかでもゴカイ類が多かった。

 中部はアサリ、ヒナガイ(以上二枚貝)、スナガニ、アナジャコ類、ゴカイ類のほかギボシムシ類(原索動物)、ニホンヒラムシ(扁形動物)、ハゼ(魚類)が観察されたが、ヒナガイ、スナガニ以外は少なかった。下部はアサリ、ゴカイ類が多く観察されたが、ヤドカニ類は少なかった。また、中部から下部にかけてアオサの密生域があった。

 3鳥類の渡来状況

 橘湾の湾口部の大潟漁港口に位置する前浜干潟である。個体数は、少数だが、カンムリカイツブリ、アカエリカイツブリ、アビ等が海上で見られ、カワウ、コシキリ、オオヨシキリ、ハクセキレイが見られる。

 4)椿泊湾(椿)干潟(阿南市)

 1干潟の環境

 椿泊湾奥部の椿町に位置する干潟である。標本区の干潟面積は3,2haと狭いが、この干潟の北側に椿川を隔てた干潟2haがある。底質は上部の高潮線が礫混じりの砂、中部から下部の低潮線にかけて礫混じりの砂泥域か続いている。

 清澄度は多少汚れがみられる程度である。

 海岸及び干潟の改変はないが、海岸線は人工海岸化され、後背地は農耕地で特に変化が認められない。

 2底生生物相

 ゾーン別に生物相をみると、干潟の上部はホトトギス、アサリ、ウミニナ類、スナガニ、ゴカイ類が観察された。なかでもアサリ、ゴカイ類が多かった。中部はアサリ、タカベダマシ(巻貝)、スナガニ、ヤドカリ類、ゴカイ類、ユムシ・ホシムシ類、ニホンヒラムシが観察されるが、ユムシ・ホシムシ類、ニホンヒラムシは少ないが、スナガニ、ゴカイ類は多かった。下部はホトトギス、アサリ、スナガニ、ヨコエビ類、ゴカイ類のほかオキシジミ、マガキ、ヒメシラトリ(以上二枚貝)、アシヤガイ(巻貝)、ヤドカリ類、ユムシ・ホシムシ類も観察されるが、なかでもアサリ、ゴカイ類が多かった。

 全体的にみると出現種類数は少ない干潟である。

 また、干潟の中部、下部の低潮線域かけてアオサの着生も多く観察された。

 3鳥類の渡来状況

 椿泊湾の湾奥部に位置し、この中央部に椿川が流れ込んでおり、背後地は農耕地である、、個体数は多くないが、色々な種類の野鳥が見られ、周年、セグロセキレイ、カワセミ、イソヒヨドリ、ゴイサギ、セッカ、夏はオオヨシキリ、ササゴイ、冬はアオサギ、アオジ、ツグミ、ハクセキレイ等が見られる。

 5)那佐湾干潟(宍喰町)

 1干潟の環境

 那佐湾の湾奥部に位置する前浜干潟で、標本区の干潟面積は5.9haである。

 底質は上部の高潮線付近が礫混じりの砂、上部から中部にかけて砂泥域と続き、更に下部は礫混じりの泥となっている。

 清澄度は汚れはなく良好である。

 海岸及び干潟の改変はないが、海岸線は既に人工海岸化され、前回調査時と比較して変化がない。

 また、植生は干潟の高潮線上部の陸域部にススキが繁茂している場所がある。

 2底生生物相

 ゾーン別に生物相をみると、干潟の上部はシオマネキ類(カニ類)、ゴカイ類のほかヤドカリも観察されるが、シオマネキ類、ゴカイ類が多かった。中部ではサルボウ(二枚貝)、シオマネキ類、ゴカイ類、ホトトギス、ヤマトシジミが観察されるが、サルボウが特にに多かった。下部はサルボウ、ヤドカニ類、ゴカイ類のほかオキシジミも観察されるが、サルボウ、ヤドカリ類、ゴカイ類が特に多かった。

 また、干潟の中部から下部にかけてコアマモが観察されるが、特に下部に多かった。

 3烏類の渡来状況

 県南の那佐湾の湾奥部に位置し、背後には、県内唯一の湖があり、湖岸はヨシに覆われており、カモ類の渡来地である。夏は、オオヨシキリ、セッカ、カワセミ、アオザギ等が、冬は、マガモ、カルガモ、ヒドリガモ、コガモ等のカモ類、ウミウ、オオジュリン、カシラダカ、ハクセキレイ等が見られる。

 

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