1.調査結果の概要


 岡山県は瀬戸内海の中央に位置し、西より備後灘、備讃瀬戸西、備讃瀬戸東、播磨灘北の4海域に接している。海岸線は複雑に入り込み、入江・湾は数多く、高梁川、旭川、吉井川の河口を中心に干潟が発達している。これらの干潟のうちから、東西の位置、各海域に分散するよう、また河口、内湾、外浜環境を代表するよう次の9地区の干潟を標本区に設定した。


 番 号  調査区番号  調査区名(所在地)   海域      干潟区分

 (1)    1    真尾鼻(日生町真尾鼻) 播磨灘    泥質前浜干潟

 (2)    ―    師楽(牛窓町師楽)   備讃瀬戸東  泥質前浜干潟

 (3)    6    千鳥ケ浜(岡山市外波) 備讃瀬戸東  泥質河口干潟

 (4)    11    相引(玉野市番田)   備讃瀬戸東  泥砂質前浜干潟

 (5)    18    高島(岡山市高島)   備讃瀬戸東  内湾的泥質前浜干潟

 (6)    20    高州(倉敷市唐琴沖)  備讃瀬戸西  砂州干潟

 (7)    25    鶴新田沖(倉敷市岡崎) 備讃瀬戸西  泥質河口干潟

 (8)    30    勇崎(倉敷市玉島勇崎) 備讃瀬戸西  砂泥前浜干潟

 (9)    35    瀬溝(笠岡市鳥ノ江)  備後灘    砂泥前浜干潟

注)(2)の師楽干潟は沖出し幅95mで、現存干潟として記録されない干潟であるが、周辺に適地がなく県東部を代表する干潟として、標本区に加えた。


 標本区に設定した9地区の底質は砂質1ケ所、砂泥質2ケ所、泥砂質1ケ所、泥質5ケ所である。

 砂質の高州では、高潮線域を持たず、砂質前浜干潟に普通のニホンスナモグリ、コメツキガニ、エビジャコ、チゴガニ等の生息を欠くが、アサリと多毛類が優占し、ハスノハカシパン、ホシムシ類、キサゴ、ヤドカリ類、ニンジンイソギンチャクを代表種とする、潮間帯下部砂底の種数個体数の豊富な動物相である。

 前浜海岸のうち、砂泥底の勇崎,瀬溝では、アサリ、ニホンスナモグリ、コメッキガニの砂棲種を代表種とし、多毛類が数多い、砂質干潟の動物が優勢な動物相であり、泥質の真尾鼻・高島では、多毛類と甲殻類が相拮抗し、泥棲種のヤマトオサガニ、アナジャコ、クシケマスオガイを代表種とする泥質干潟の動物相である。そして、相引・師楽ではこれらの砂質、泥質干潟の動物相が混在する動物相である。

 そして、河口干潟の千鳥ケ浜と鶴新田沖では多毛類と腹足類は乏しく、甲殻類が優勢で、二枚貝類が限定される動物相で、ニホンスナモグリ、ヤマトオサガニ、クシケマスオガイ、オキシジミガイに代表される泥質の河口干潟の動物相である。

 しかし、高州、瀬溝、師楽、千鳥ケ浜の他は潮干狩利用による踏圧や海底の攪乱、また泥分の滞留の進行により、下記するように1、2種の多数出現の特徴が認められた。踏圧、海底の攪乱の頻回の勇崎ではメナシピンノの卓越が見られ、近年アサリの養殖を断念した相引ではクシケマスオガイの卓越があり、泥分の滞留が進行している。真尾鼻では極く稀な種のハイガイの生存はあるものの、ダルマゴカイが特徴的に数多い。また、高島では、クシケマスオガイ、アナジャコが優占するものの、総じて動物数は乏しく、有機物の分解が進まず、二枚貝類の後退が著しく、泥底化への進行が著しい。更に河口干潟の鶴新田沖でも、シルト分の滞留があり、動物は乏しく、動物相の後退がうかがわれた。

 渡り鳥の干潟利用は、干潟生物の豊富さに加えて、近接して、身を隠すためのヨシ原等、草原、湿地が存在してこその干潟利用である。水田が広く存在し、塩田跡他等の草原や河川河岸にヨシ原が多く存在する県下では、これらの利用が高く、渡り鳥の干潟利用は多くはない。

 調査干潟9ケ所中、渡り鳥の利用を認めたのは、高島と鶴新田沖の2ケ所と言える。鶴新田沖はシギ、チドリ類の渡来地として知られていたが、近接地の草原、湿地、水田、裸地を失い、干潟生物も乏しくなっており、その利用は水面利用のカモ類にほぼ限定され、シギ、チドリの渡来数は減少している。高島でも干潟生物の減少が見られ、多数カモ類は渡来し、水面利用はあるものの、シギ、チドリ類の数は多くないようである。

 

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