1.調査結果の概要


 今回の調査では対象干潟として房総で浜宿海岸、一宮川河口干潟、夷隅川河口干潟の3カ所、東京湾では小櫃川河口干潟(畔戸地先干潟)、船橋海浜公園地先干潟の2カ所を選択した。

 浜宿海岸は九十九里浜の砂浜であるが、大潮干潮時の干潟延長は100mに達し、かつ、シギ・チドリの飛来が確認されており、現在のところ鳥類研究者や野鳥保護関係者にまったく知られていない場所である。底質は典型的な砂質であり、類型の干潟が他にみれれないことから選んだ。一宮川河口干潟は比較的よく知られたシギ・チドリ渡来地であるとともに、九十九里浜唯一の河口干潟であることから選択した。夷隅川河口干潟は南房総唯一の河口干潟であり、隣接して岩礁、砂浜をもつこと、渡り鳥の渡来地として高いポテンシャルをもつ可能性があるなどの理由から選んだ。

 東京湾では、全国的にみても内湾干潟の環境、形態が維持されている小川河口干潟、湾奥部にあって人工的色彩の強い干潟でありながら、かっての湾奥部干潟の様相を残している船橋海浜公園地先干潟を選んだ。東京湾有数の渡り鳥渡来地である谷津干潟はきわめて閉鎖的な干潟で、かって湾奥部に広がったいた干潟とかなり様相が異なるので今回は除外した。しかし、きわめて閉鎖的な環境であるため、人工干潟の1つのパターンとして興味深い干潟である。


【生物相の概況】

 房総海岸は直接外洋と面するため、東京湾とくらべると干潟が少ない。しかしながら、九十九里浜のように勾配の少ない砂浜では、干出延長が100mを越える干潟が露出することが明らかにされた。その代表的なものとして今回調査対象地となった浜宿海岸があげられる。高潮線上部にはハマヒルガオ、ケカモノハシ、コウボウムギなどの典型的な砂浜植生が広がり、かつ、春秋にはシギ・チドリなどの渡り鳥が飛来し、これを支える餌生物も、内湾干潟ほど豊富ではないが、充分に存在し、渡り鳥の渡来地として今後注目する必要があると考えられる。とくに、内湾干潟には飛来しないミユビシギが生息、かつ、越冬していることが確認された。

 房総で特記すべき干潟としては、浜宿海岸に加えて、一宮川河口干潟があげられる。内湾にくらべ小規模な干潟であるにもかかわらず、シギ・チドリの飛来数、種類数はかなり多く、餌生物も豊富である。干潟は外洋海水に周期的におおわれ、汚染の進行が抑えれる環境にあるので、長期的にみても安定した干潟として存続する可能性がある。一宮川河口干潟以外の外房河川は、夷隅川をのぞくと海岸に直走するように改変されており、干潟の発達はみられなかった。

 東京湾では、日本有数の干潟である畔戸地先干潟(小櫃川河口)が前回の調査と同様に規模、生物相を維持していた。認められた生物相の変化は自然の経年変動の範囲内と考えられた。より湾口寄りに位置する富津干潟はイボキサゴが一部で生息し、より良好な環境にあることが判明した。湾奥部では前回とくらべ大きな変化がみられ、とくに人工海浜の増加がめだった。いなげの浜に加え、けみがわの浜、まくわりの浜、習志野人工海浜(仮称)が増設された。人工海浜では共通して底生生物相が回復しているとは認められなかった。

 谷津干潟は前回より海水の流動の促進により泥質の傾向が緩和されており、これに対応して砂質性の生物が出現している。また、ゴカイを中心とした底生生物も豊富で、渡り鳥、とくに、シギ・チドリの渡来地としての充分な機能の維持が確認された。湾岸道路で分断された南側には、あらたに砂泥質の小規模干潟が形成され、シギ・チドリの定着が認められた。

 今回、調査対象地に選定した船橋海浜公園の地先にある干潟は、全面に三番瀬浅瀬を有し、小規模ながらも湾奥干潟の典型的な生物相を保有していた。現在、アサリ種苗の放流と、潮干狩場として利用されているが、シギ・チドリの飛来も認められた。全面水域の三番瀬は大規模な埋め立て工事(市川2期工事)が計画されており、東京湾奥部の生物自然への多大な影響が懸念されるところである。

 

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