1.調査結果の概要


 前回の第2回自然環境保全基礎調査では,松川浦沿岸のほとんどが護岸工事のコンクリート処理を施されているために,中州の東岸に海域生物調査地区を設定した。今回も同地域に標本区を設定しようとしたが,中州東岸も標本区環境調査票の写真にあるように,コンクリートの護岸工事が進み,クロマツ林からなだらかに汀線に続く地域が消滅している。しかし,他に適当な標本区が見あたらず,前回の底生生物の調査区から約100m程北に標本区を設定した。

 中州は南北に約1200m,東西に約200mの細長い島で,基準面からの高さは最も高いところで約3mである。


1 植物相

 松川浦は,砂泥及び泥を主な底質とし,四季を通じて波浪がおだやかな浅い気水湖である。したがって,湾外部の鵜の尾岬付近で見られる外海域の海藻相とは異なり,内湾的な環境を好む種が生育している。

 9月下旬の秋季の調査では,浦北部は,海藻の種類が少なく,大形のアナアオサが海底を覆い,ほかに,オゴノリやイトグサが生育していた。また,湾中央部中州付近の砂泥海底及び礫上には,アナアオサ,成熟したオゴノリやイトグサ,杭上には,ボウアオノリやヒラアオノリが生育していた。また,中州東岸の護岸工事により設置されていたコンクリート岩盤上には,ヒメテングサがマット状をなしていた。宇多川河口域では,砂泥地にヒラアオノリ,ボウアオノリ,ウスバアオノリが散見された。浦南奥部では,外海との海水交換が少なく,海水は滞留しがちであり,海藻相は貧弱である。十二本松から中州にかけて,海産種子植物のアマモの小規模な群落が残存している。アマモ体上には,四分胞子嚢を形成したイトグサが密生しており,ほかに,嚢果を形成したヤナギノリが認められた。なお,養殖設備の網等には,ヒトエグサ類やアマノリ類は全く認められなかった。その後,12月から1月にかけての冬季の調査では,外洋水の影響を強く受ける浦入口部の岩上に,ウシケノリ,ウップルイノリのいわゆる冬の海藻やアナアオサが認められた。中州付近の砂泥海底及び貝殻等の基質には,オゴノリ,イトグサが,砂礫には,ボウアオノリ,ヒラアオノリ,ウスバアオノリ,スジアオノリのアオノリ類が繁茂し,ほかに,カヤモノリが認められた。オゴノリの体上には,量的には少ないが,アサクサノリ,フクロノリ,セイヨウハバノリ,ハバモドキ,ショウジョウケノリが着生していた。養殖施設の網には,アサクサノリが散見されたものの,ほとんどヒロハノヒトエグサなどのヒトエグサ類で占められており,ほかに,イギスやシオミドロが認められた。このように,冬季においては秋季の植生とは異なり,ヒトエグサ属,アマノリ属などが混生した海藻相を示した。


2 動物相

 前回の海域生物調査は,干潟後背地の海岸クロマツ林からなだらかに汀線に続く地域での調査であった。今回はほぼ同じ地域の調査であるが,潮上帯,高潮帯の部分に護岸のためにコンクリート岩盤が設置されていた。

 今回の調査ではコメツキガニやアシハラガニが見られたが,ヒメハマトビムシ,タマワラジムシ,ホソワラジムシ,アカテガニ,チゴガニが観察されなかったのは,潮上帯にあたる砂浜の部分の消失や,高潮帯の砂泥浜の部分の変化が影響したためと考えられる。また,前回みられたヤマトオサガニやイソガニ,イワガニ,ガザミ,ヒラツメガニがみられず,今までに観察されているクロベンケイガニ,メガネガニ,スナガニ(福島懸相馬市松川浦の生態学的並に堆積学的研究)も観察されていない。これは調査地点の選択にも関係があるかもしれない。

 二枚貝ではアサリ,イソシジミが広く分布し,シラトリガイ類も出現しているが,前回みられたホトトギス,ソトオリガイ,ユウシオガイ,マテガイが観察されていない。

 巻貝類ではキサゴ類,ウミニナ類が広く分布し,個体数も多く観察されているが,ムシロガイ類やヘナタリ類がみられなかった。

 以前の調査時点からみると,種類数や個体数がともに減少している原因としては,護岸工事による底質の変化,水質の変化などが考えられる。また,前回は5月上旬と8月中旬の調査であったが,今回は9月下旬の実施になり,調査実施時の季節的な違いや,調査地点の選択の影響なども考えられる。

 明治末まで製塩が行なわれていた塩田跡地には,シギ・チドリ類が多数訪れていたが,この塩田跡地が姿を消すにつれてダイシャクシギ・ホウロクシギなどの大型のシギ類が観察される機会が激減している。1987年から1989年の春と秋に実施されたシギ・チドリ類調査結果(日本野鳥の会 福島支部 福島方部実施)をみると,シギ類ではムナグロ,コチドリ,シロチドリおよびメダイチドリが観察されており,チドリ類ではオオソリハシシギ,チュウシャクシギ,ツルシギ,コアオアシシギ,アオアシシギ,タカブシギ,ソリハシシギ,イソシギ,キアシシギ,キョウジョシギ,アカエリヒレアシシギ,タシギ,ミユビシギ,トウネン,ハマシギおよびエリマキシギが観察されている。今までこの他に観察されているシギ・チドリ類としては,イカルチドリ,ダイゼン,ヒバリシギ,ウズラシギ,オバシギ,ヘラシギ,クサシギ,キアシシギや大型のオグロシギ等がいる。また,稀なものとしてキリアイ,アカアシシギ,カラフトアオアシシギ,ヤマシギや大型のダイシャクシギ,ホウロクシギ等がいる。観察される個体数が多いのはチュウシャクシギ,オオソリハシシギ,ハマシギおよびイソシギであるが,やはり,環境の変化につれて年を追うごとに観察される種類数,個体数が減少しているのが現状である。

 

目次へ