調査結果の概要
1.はじめに
神奈川県の海域は大きく相模湾と東京湾に分けられる。相模湾は開放的な湾で、黒潮分枝の影響を強く受けているが、沿岸域で特に沖合水の差し込む場所は荒崎付近、茅ヶ崎沖附近、真鶴附近とされており、これらの海域は相対的に暖海的な環境が強いといえる。造礁サンゴ類はいうまでもなく暖海性の生物であり、一般的に高水温、高塩分、高透明度な環境が生息に適しているので、それらの要素を持つ黒潮系水の差し込む上述の海域が造礁サンゴ類の生息域として推測される。東京湾側は海水の汚濁が激しく、内湾的な性格が強いので、造礁サンゴ群集の生息域としては不適と考えられる。
これまでの報告でも神奈川県における現生造礁サンゴ類の産地は主に三浦半島西南岸(生物学御研究所 1968)及び真鶴半島(酒井 MS、波部 MS)である。それ故、本調査では調査範囲を砂浜の続く相模湾中央部を除いた、上述の海域にしぼって行った。
これらの海域で、第4回自然環境保全基礎調査要綱 海域生物環境調査(サンゴ礁調査)(環境庁自然保護局 1991)の調査手法に基づき調査を実施した。
調査日時
年月日 |
調査海域 |
調査内容 |
1992.1.8 |
長井沖−油壺湾口−亀城礁 |
マンタ法、スキューバ潜水 |
1.10 |
真鶴半島 |
同 上 |
1.11 |
諸磯−城ヶ島−検崎 |
マンタ法 |
2.マンタ法の結果
(1)三浦半島
荒崎沖、亀城礁附近は調査時透明度は極めて良好で、15m程度はあったと思われる。初声、油壺湾附近に近づくにつれ透明度は低下した。曳航は水深5〜6m附近を海岸線に並行に航走した。植生はアラメ、カジメが優占し、ワカメがそれに混じる。動物ではカイメン類が目につく。荒崎及び亀城礁ではスキューバ潜水で水深12mまで観察したが造礁サンゴ類は観察できなかった。亀城礁ではソラスズメを観察した。
油壺湾東大臨海実験所前の2m深でキクメイシモドキOulastrea crispataの小群体を採集した。城ケ島附近では透明度は10〜12mで、油壺湾附近よりは良好であるが、浦賀水道に向かうにつれ低下し、剣崎附近では7〜8mであった。植生はアラメ、カジメが優占し、それにワカメ、テングサが混じる。
調査した三浦半島海域では、海藻類の豊かな植生が広がるが、造礁サンゴ類は油壺湾のキクメイシモドキ小群体以外には観察することができなかった。
(2)真鶴半島
真鶴半島は相模湾に南東に突き出た半島であるが、先端の三ツ石を境に半島の東側と西側では環境がかなり異なる。東側は河川水の影響が強いが、西側は沖合水の影響が強いとされている。調査時においても、三ツ石を境に透明度は大きく変化し、東側では4m程度であったものが、西側では12〜13mに増加した。植生においても、東側ではテングサ類、有節サンゴ藻類が多いが、西側では無節サンゴ藻類が多く、暖海的な景観を呈する。
真鶴岬の番場浦附近から福浦にかけては造礁サンゴの比較的大きな群体(直径20〜30cm)が航走100mに1群体程度分布するのが観察された。番場浦ではコブハマサンゴの比較的大きな群生が見られたので、調査区を設定して調査を行った。その他、表に示すいくつかの群体を採集した。これらは知られる限りでは、わが国の最北限に近く分布する造礁サンゴ類といえよう。これまで分布が報告されている長崎県対馬北端(34゜43′)、千葉県館山湾(35゜00′)、静岡県江ノ浦湾(35゜01′)(江口 1973、UNEP/IUCN 1988)より、真鶴(35゜09′)はさらに北に位置しているためである。
引用文献
江口 元起.1973. 対馬のサンゴ動物群とサンゴ礁、長崎県海中公園学術調査報告書(対馬地区);45−56.長崎県.
波部 忠重.MS.無脊椎動物採集品目録.神奈川県岩礁動植物生息状況調査報告書.
酒井 恒.MS.神奈川県岩礁生物基礎調査報告、神奈川県岩礁動植物生息状況調査報告書.
生物学御研究所.1968. 相模湾産ヒドロ珊瑚類および石珊瑚類.丸善.
UNEP/IUCN. 1988. Coral reefs of the world, vol.3:Central and Western Pacific. 329pp.