調査結果の概要

1調査項目について

 本調査では造礁サンゴの群集を主体としてサンゴ礁地形をとらえることを目的とし,「サンゴ礁」として海中に分布する現生のサンゴ礁で空中写真や現地調査でその地形構造が確認できるものだけを取り扱い,隆起サンゴ礁は調査の対象としなかった.すなわち「サンゴ礁」とは,石灰岩の岩礁面とその上のサンゴ群集だけをさすのではなく,それらを含む水平的なひろがりを示す地形構造を基準としている.典型的な裾礁の場合を例にすれば,海岸線から干潟を含み,礁原,礁縁,礁斜面までの地形の広がりをとらえてサンゴ礁の分布域とした.

 1978年に行われた前回調査では藻場・干潟の消滅域との重複を避けるために,礁縁付近の岩盤に人工改変が加えられた部分だけが「サンゴ礁消滅域」として報告された.しかしサンゴ礁を海岸線からとらえるという見地から,岩盤だけではなく干潟や礁原の改変部分もサンゴ礁消滅域とするのが妥当である.このため今回のサンゴ礁改変状況調査では最新の空中写真と公共事業報告書などに加えて,前回調査で消滅域に含まれなかった部分を見直し,また1989年度の干潟・藻場消滅域調査の結果も参考にした.

 カラー空中写真は,モノクロ写真に比べて読み取れる情報量が多いので,海底の底質や生物群集の状況を調査することが可能となった.これと同時に,今回はいくつかの海域ごとに異なった目的で撮影された空中写真を使用したために,読み取りの精度が写真に応じて変化するという問題も生じた.読み取りに最も大きな影響を与えるのは撮影縮尺の大小で,つぎにハレーションを含めた色調の変化である.このような変化が著しい写真の読み取り精度を高めるためには,過去に撮影された空中写真や調査報告書を読み取り作業の参考にしたり現地調査を行う必要があった.

 前回調査と同様に,礁縁部の境界線は空中写真上で礁斜面が読み取れるところまでとした.これは典型的な裾礁の場合だが,同様にして堡礁的な地形の場合は岸側の礁斜面に境界を引くことができ,卓礁や離礁の場合もその分布域の境界を認めることができた.場所によって海水の透明度や写真の色調が異なっていたために,読み取れる水深が約10mから約20mまで変化した.礁原や礁池の底質を読み取る際にはまず岩盤の境界を描き,次に砂底やレキ底などのいずれか優占するものから境界線でくくった.

2結果の概要

 今回のマンタ法による調査では沖縄本島のサンゴ礁の礁縁部を合計約280kmにわたって踏査した.判定した被度階級ごとの距離はそれぞれ,+(5%未満)183km,T〜U(5%〜49%)79km,V〜W(50%以上)18kmで,総踏査距離に対する割合は順に65.4%,28.2%,6.4%となった.海域別にみれば,本島北部東海岸(辺戸岬〜奥),今帰仁村,本島南部東海岸(喜屋武岬〜知念)で比較的良好な状態の水中景観がみられた.ただし,これらの海域にはオニヒトデも比較的多くみられ,サンゴ群集が慢性的な食害をうけていることがうかがえた.

 空中写真の読み取りによる礁原・礁池調査の結果,現存する沖縄本島のサンゴ礁域の総面積は16046haであった(瀬底島,伊計島,宮城島,平安座島のサンゴ礁を含む).このうち被度5%以上のサンゴ群集がみとめられる礁原や礁池の面積は1477haで,総面積に対して約9.2%を占めていた.このうち生サンゴ被度が50%以上,被度階級にしてVからWのサンゴ群集がみられる場所は礁原や礁池のごく一部であることが多く,その面積は合計110haで現存域面積のわずか0.7%でしかない.この面積には辺土名のシッピシなどの離礁も含まれているので,われわれが通常みることができる礁原や礁池で水中景観が美しい場所はほとんどないといえる.

 サンゴ礁消滅域は51件あり,その面積の合計は1214haで,この主となったのは平安座島の原油CTS基地と糸満市西崎の埋立地である.両者はともに干潟を埋め立てたものなので前回調査では消滅サンゴ礁として扱われなかった.この両者を含め,1973年から1977年にかけて消滅したサンゴ礁で,前回調査で報告されなかったものは15件,合計827haであった.1978年以後の消滅域としては,那覇市近郊の埋立地が大きかった.51件の消滅域中で39件と件数で多いものが漁港・港湾設備による改変であった.

 結果をまとめたサンゴ礁調査報告書およびサンゴ礁分布図帳に関する事項を列記する.2万5千分の1の地形図に記されている砕波線を便宜上の礁縁としてマンタ法の結果を記入したので,空中写真から読み取った礁斜面部の地形はサンゴ礁分布図に記入しなかった.サンゴ群集の被度に基づいて彩色する際には,最新の調査報告や聞き取り調査の結果なども参考にした.分布図は地図番号の大きいものからまとめ,消滅サンゴ礁記録表やとりまとめ表もこの順に従った.現地調査を行った場所は分布図中にSt.で番号とともに示した.とりまとめ表の項目は次のとうりである.Sr,沈水裸岩;Dr,干出裸岩;G,れき底;S,砂底;M,泥底;Dc,死サンゴ;Sg,海草群落;Sw,海藻群落;消,消滅サンゴ礁域;Co,造礁サンゴ群集.地図番号に対応する市町村名は,海岸に面している市町村を北から順に記した.

3前回調査結果との比較

 1978年に行われた前回調査では沖縄島のサンゴ礁分布域の総面積は21055haであった(瀬底島,伊計島,宮城島,平安座島周辺のサンゴ礁を含む).これは今回の調査で現存サンゴ礁とした分布域の総面積に消滅域の面積を加えてもなお大きく隔たりがある(表1).この原因として,次の三つがあげられる.1,異なった空中写真を用いて調査したため.2,前回調査で報告されなかった消滅域を今回の消滅域に含めたため.3,前回調査でサンゴ礁分布域として報告されたいくつかの海域を,今回調査ではサンゴ礁とみなざず除外したため.以下はそれぞれの詳細である.

 前回調査と今回調査ではそれぞれのデータ源が異なっている.前回はサンゴ礁の分布域を1977年撮影のモノクロ空中写真から読み取り,今回はおもに1987年から1989年にかけて撮影されたカラー空中写真を使用したが,おのおのの画像の間には大きな差があった.例えば,モノクロ写真上では礁縁部の画像が不明瞭であったために水路や岩盤の張り出し部分など,海底地形に対して忠実に境界線が引かれていない場所があった.また,1977年撮影のモノクロ写真と比べて今回使用したカラー写真では読み取れる礁斜面の水深が浅いことが多く,そのため同じ場所のサンゴ礁でもその分布域の面積が前回よりも小さく求められる傾向があった.このような画像の差による読み取り方の違いが,調査結果の差を生じさせる一因になったと思われる.

 前回調査で沖縄本島のサンゴ礁分布域とされた53調査区のうち,海中道路周辺の4調査区と中城湾の3調査区(旧調査区番号9,10,11,13,19,24,26の合計1453ha,この値は前回報告書に基づく)に相当する海域を今回の調査ではサンゴ礁とせず,分布域から除外した.これらの海域は図1に示し,とりまとめ表には地図名をカッコでくくってサンゴ礁分布域と分けて記入した.また,この海域中の埋立地などの人工改変部分は分布図中に黒でふちどりを施して示した.これに対応する消滅サンゴ礁記録表は地図名をカッコでくくって区別した.

 金武湾の金武町地先から具志川市天願地先にかけては,サンゴ礁がみられないので調査の対象としなかった.ただし,このことは造礁サンゴが分布しないことを意味するものではなく,地形構造としてのサンゴ礁が分布していないことをさす.この一帯の海底は赤土まじりの砂れき底が優占的で,造礁サンゴが生育している岩盤はみられるものの,明瞭な礁縁や礁斜面はみられなかった.

 具志川市宇堅地先(旧調査区9に相当)には石灰岩礁の存在が空中写真から認められたが,マンタ法による調査では礁縁部分を確認できなかった.この海域に連なる与那城村照間を経て海中道路北側,平安座・宮城両島の北西岸(旧調査区10,11,13)にかけてはまとまったサンゴ礁地形がみられないので,今回はサンゴ礁分布域には含めなかった.

 中城湾の沖合い約10kmには離礁群があり,湾全体を堡礁的なサンゴ礁地形のひとつとみることができる.また中城湾の地質学的な成因から,岸側の石灰岩礁を離水サンゴ礁の一種とみる意見もあり,この湾の地形的なとらえかたはさまざまである.前回調査では沖側の離礁群に調査が及ばず,岸側の石灰岩礁と干潟部分とをとらえてサンゴ礁分布域として,つまりこの湾のサンゴ礁は裾礁として報告された.しかし,中城湾北部の泡瀬北方の干潟(旧調査区19)や中城村小那覇の南西石油から与那原海岸にかけての干潟(旧24),そして佐敷町馬天湾の干潟(旧26)では石灰岩礁の存在が認め難く,マンタ法でも礁縁を確認できなかった.これらの干潟部だけをとらえてひとまとまりの裾礁として扱うのは適当ではないと考えられたので,今回のサンゴ礁分布域から除外した.以上のように,前回調査でサンゴ礁分布域とされた海域のうち,今回の調査で除外した海域の現存域の面積を測定したところ,その合計は1484ha,この海域中での埋立地などの消滅域は合計383haとなった.

表1 前回調査結果との比較


調査年度

1990年度

1977年度


現存サンゴ礁

16046

21055

消滅サンゴ礁

12141

386

サンゴ群集

14772

調査せず


単位:ha
1:1977年度の調査で報告されなかった消滅域(827ha,1973年
  から1977年にかけて消滅)を含む
2:現存サンゴ礁のうちで,被度T以上のサンゴ群集がみられる
  部分の面積

図1 今回の調査でサンゴ礁分布域から除外された海域

(カッコ内は前回調査での旧調査区番号)

 

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