17.鳥取県

(1)分布及び消滅状況の概要

1現存干潟

鳥取県は砂浜海岸が岩石海岸よりも多く存在している。 これらの砂浜海岸には、前浜に堆積が卓越する砂浜海岸もある。 例えば、鳥取県東部の浦富海岸の西側では、田後港の東側付近で海岸線が過去20〜30年間に数十m前進している。 また、鳥取砂丘の東端の岩戸海岸や弓浜半島の西端も堆積傾向がある。

千代川、天神川、日野川の河口には、河口部を閉塞するような形で河口砂州が発達し、河口から上流部には砂礫堆状の低湿地がある。 この中で、千代川は鳥取港の改修工事と同時に千代川の河口の付け替えが近年行なわれ、コンクリートの護岸によって河口砂州地形が人工的な地形に改造された。

天神川の河口には東西250m、南北80mの砂州があり、高さは3mである。 また、新天神橋の下流側には、アシなどにおおわれた砂礫堆が2ヶ所あり、200m×300m、150m×300mくらいの面積で、水面上20〜30cmの地形がある。

日野川の河口には東西300m、南北100mの砂州があり、高さは4mである。 砂州上部にはコアジサシの自然産卵地(米子野鳥保護の会)がある。 また、最下流部の橋から河口砂州にかけて砂礫堆があり、200m×100mの低湿地が2つ認められ、高さは水面上1.5m以下である。

鳥取県の潟湖は東から湖山池、水尻池、日光池、東郷池、中海などがある。 これらの潟湖の中で、中海の沿岸には干拓地および干拓予定地が多い。 米子市粟島付近の干拓予定地(シルトの底質)の水面には、水鳥を中心とした野鳥が200種以上も観察される。 そこで、この30haの干拓予定地を人工地形ではあるが、重要な干潟と考えて考察の対象地とした。 中海の8,462haは国設中海鳥獣保護区となっている(1974年11月以降)。

鳥取県内の干潟は、大山山麓の礫質の干潟があげられる。 行政的には淀江町、名和町、中山町となるが、この海域では円礫が海浜に堆積しており、とくに名和町沿岸では干潟として発達が著しい。5万分の1地質図によると、これらの町村の地質は、第四紀の中山砂礫層と砕屑物(名和火砕流)からなっている。 大山の裾野をめぐる岩層の中で、もっとも新しい地層である。 海岸の波浪の浸食作用によって、これらの地層をけずり、干潟を形成したものであろう。 つまり、海食作用による波食棚に似たベンチ状の干潟ではないかと思われる。

名和町には4つの干潟がある。 東端の干潟は下木料の干潟(番号1)が小半島の先端部に前浜干潟として細長く発達している。 この高潮面には、最近、海岸浸食防止のために建設した高さ5mほどの傾斜面の堤防がある。

真子川の干潟(番号2)は幅員が一番大であり、干出幅が大きい。 この干潟では、野鳥がいつも干潟におりており、動物を探しているのが注目される。 後背地が水田であり、古い堤防も草木におおわれており、自然が変形されずに残っていることも、野鳥にとってよい環境であろう。

下坪の干潟(番号3)も同様に円礫からなるが、東に舟付き場があり、背後に民家がある。干潟の幅は、最大100mくらいで平均幅員が小さい。

御来屋の干潟(番号4)も同じような円礫の干潟であるが、1978年の調査よりも長さが長いことが確認されたので、面積は1haから2haに変更した。

鳥取県の干潟の調査地は以上のとおりであるが、現存干潟には、前回調査した大山山麓の礫質干潟の4ヶ所および、野鳥の公園候補地となっている中海沿岸の彦名干拓地の30haも、今回は干拓調査地とした。ここは人工地形であるが、今、自然保護や環境保全が要請されている干潟地である。

県下全体の干潟をみると、砂丘地の汀線を構成する砂浜海岸や河口部の砂州の砂浜や底質の砂は0.125〜0.5mm程度の砂粒であり、分級度もよい。 しかし、大山北麓の礫質海岸には、直径5〜30cmくらいの円礫が卓越し、礫の間には砂が含まれている。 例えば、名和町真子川(番号2)で砂礫の計測をすると、128〜256mmの礫が全数の50%以上の重量比を占め、32mm以下の細礫や砂の割合は3%くらいである。

潟湖の干潟である中海彦名干拓地は泥質の干潟であり、しかも遮蔽度の大きな包囲海岸で、潟湖の奥の部分である。 底質をみると、現在水田に利用されている付近では、粒径Mdφ1.9〜2.5、0.26〜0.18mmくらいの平均粒径のシルトである。干拓予定地の水面下では、Mdφ4.6、→0.04mmくらいの粘土で褐灰色を呈する。 堤防外の中海の底質は、Mdφ2.3、0.24mmくらいのシルトがみられる。 そして分級度をみると、干拓予定地の水面下の粘土はQdφ0.14と小さく、粒ぞろいがよい。 しかし、中海の底(水深1.Om)ではQdφ1.2、また、水田地帯もQdφは1.4くらいで分級度がやや悪い。

−海域別の底棲生物分布−

鳥取県中部の砂浜海岸における底棲生物の分布をみると、コタマガイが天神川河口西の北条海岸や橋津海岸、泊海岸、石脇海岸および長尾鼻や浜村海岸、酒ノ津海岸などに認められている。 また、モミジガイ(ヒトデ類)も浜村海岸や泊、石脇、青谷海岸の浅海部に認められる。 その他、クシノハクモヒトデ、ユムシなども生存している。 また、浅海部の0mから水深25mまでの範囲には、貝殻の残存量が著しく多い(鳥取県水産試験場;沿岸漁業集約経営調査報告書,1960)。 砂浜の貝の採集をすると、例えば、鳥取市末恒海岸では、汀線付近でヤマトシジミ、コタマガイ、ベンケイガイ、マツヤマワスレ、ムラサキイガイなどが多数の貝殻片と共に採集された(1990年9月6日調査)。

鳥取砂丘周辺の底棲生物については、アラレタマキビ、ウノアシ、ヨメガカサ、イシダタミガイ、イボニシ、キサゴ、アサリ、ハマグリなどが報告されている(鳥取県教育研修センター;鳥取砂丘・浦富海岸とその周辺,1985)。

天神川河口付近などの打ち上げ貝は、次のようであった。 二枚貝としてはエガイ、コベルトフネガイ、サルボウ、ベンケイガイ、イガイ、ヒバリガイ、チリボタン、イタヤガイ、ナデシコガイ、アサリ、コタマガイ、マルヒナガイ、バカガイ、サクラガイ、ベニガイ、マテガイである。巻貝としては、ヨメガカサ、ベッコウガサガイ、クボガイ、クマノコガイ、イシダタミガイ、キサゴ、カニモリガイ、ウミニナ、シドロガイ、ツメタガイ、メダカラガイ、チャイロキヌタガイである(鳥取県教育センター;天神川流域とその周辺,1983)。

鳥取県西部においては、弓浜半島の三柳、富益、和田の美保湾側の打ち上げ貝が報告されている。 二枚貝としてはサルボウ、イガイ、ムラサキイガイ、ムラサキインコガイ、ナミマガシワガイ、マガキ、コタマガイ、オキアサリ、マルヒナガイ、ハマグリ、カノコアサリ、バカガイ、サクラガイである。 巻貝としては、ヨメガカサ、ベッコウカサガイ、ツメタガイ、マクラガイである(鳥取県教育研修センター;弓ケ浜半島とその周辺,1984)。

東伯町から赤碕町、中山町、大山町をへて淀江町に至る海岸は、大山火山の岩石海岸であり、礫浜がこの周辺の海岸に続く。 また、海岸には浅瀬が多く、外浜に面する干潟海岸が発達する。 とくに名和町の下木料、真子川、下坪、御来屋の海岸には、良好な干潟が見られるので、番号1、2、3、4として干潟の生物調査をした。

番号2の真子川の干潟は、干出面積が最大であるので、ここの生物について述べる。 二枚貝では高潮線付近で、ヒメアサリが見られた。 しかし、大部分の貝は巻貝であり、ムシロガイ、イシダタミ、コシダカガンガラ、オオヘビガイ、クボガイが上部に見られた。 また、中部の基準線から40m〜70mのところでは、コシダカガンガラ、オオヘビガイ、ヒザラガイ、カサガイなどが見られた。 それ以上のところでは、動物は明確に観察できなかった。 上部から中部にかけては、ヤドカリ類が多数見られ、テッポウエビ、イトマキヒトデなども多い。

植物では、ウミウチワ、ウミトラノオ、フクロノリ、イソモクが上部で見られ、中部ではウミトラノオ、イソモク、ウミウチワ、アオサ、フクロノリ、ツノマタ、ノコギリモクがあり、下部では石灰藻、エビアマモ、ヨレモク、アミジグサ、ソゾが見られた。

中海の彦名干拓地の底棲動物をみると、干拓地の中の水面付近では、サルボウ、ホトトギス、アサリ、カガミガイ、バカガイ、シオフキ、ビョウブガイ、シラオガイなどの二枚貝が認められ、巻貝としてはヘタナリ類、ツメタガイ類がある。

また、中海の水面下1.1mの底質では、サルボウ、ホトトギス、アサリ、ヒメシラトリ、ツノオリガイ、ナミマガシワガイなどの二枚貝があり、巻貝としてはムシロガイ類が認められる。また、テッポウエビも多数見られた。

−海域別の鳥類の分布−

・浦富海岸

シギ・チドリが渡来するが、数は少ない。シロチドリは珍しい。 良い砂浜があると営巣、繁殖する。

・千代川

これまでの調査で98種が確認されている。 そのうち、シギ・チドリ類は、チドリ類6種、シギ類22種である。 また、4月中旬にオオソリハシシギ、ハマシギ、トウネンが多く見られ、7月中旬の南下ではトウネン、メダイチドリ、キアシシギなどが多い。

珍しいのは、サルハマシギ、オグロシギ、ヘラシギ、ツバメチドリがあげられる。 その他、サギ9種やシロチドリ、ユリカモメ、シロカモメも見られる。

コハクチョウ、マガンが来るが、数は少ない。

1990年度のガン・カモ科鳥類調査ではコハクチョウ7羽、カモ類2,448羽が認められた。 後者の内訳はマガモ2,064羽、カルガモ210羽などである。

・酒ノ津(水尻池)

水尻池にはガン・カモ類のうち、マガモ、ホシハジロの他、カルガモ、オナガガモ、コガモ、スズガモ、キンクロハジロなどが見られ、恒常的ではないが、オオハクチョウも見られる。その数500〜1,000羽が越冬する。ヒレアシシギもみられる。

酒ノ津では、シギ・チドリ類が渡りの途中に立ち寄るが、数は少ない。 シロチドリ、コアジサシが群れをなして繁殖する。ウミネコが多く、セグロカモメ、オオセグロカモメ、カモメがこの順に多い。

1990年度のガン・カモ科渡来調査では、コハクチョウ12羽、カモ類2,219羽が確認された、そのうち、マガモは1,999羽、カルガモは72羽であった。

・天神川

天神川および近くの東郷池付近では65種が知られている。 そのうち、ガン・カモ類ではマガモ、カルガモは冬季に目だち、秋の渡りの時期には、マガモ、カルガモ、ハシビロガモが多く、他にトモエガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、シマアジ、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ、コハクチョウ、オオハクチョウ、など13種が確認されている。

シギ・チドリ類では、春秋の渡りの時期にはハマシギ、ヘラシギ、クサシギ、タカブシギ、キアシシギ、ソリハシシギ、タシギ、コチドリ、イカルチドリ、シロチドリ、メダイチドリ、タゲリの13種が知られている。 うち、ハマシギ、イカルチドリ、シロチドリが多い。 コハクチョウは1981〜1982年頃には20数羽を確認したが、増加傾向にあると思われる。 シロチドリ、コアジサシは浜辺に営巣、繁殖する。 その他、河川敷きにヨシゴイ、ゴイサギ、アマサギなどが生息し、アオサギも50番が確認され(1982)、増加傾向にある。

1990年度のガン・カモ科渡来調査によると、河口部の274haで、ハクチョウ14羽、カモ類1,871羽、うち、マガモ1,341羽、カルガモ368羽であった。

・日野川

1983年の米子野鳥の会の調査では130種が見られ、うち、ガン・カモ類ではコハクチョウ、オオハクチョウも認められた。 コアジサシは200番くらい、コチドリ、シロチドリ、ツバメチドリなどが繁殖する。

1990年度のガンカモ科鳥類調査では、カモ類4,361羽、うち、マガモ3,194羽、カルガモ829羽であった。 12月〜3月下旬までウミネコ、カモメ、セグロカモメなど、10科1,000羽が群れる。 ワシタカ類のミサゴ、チュウヒ、カモメ、チョウゲンボウ、ハヤブサ、サシバなどが来るのも他より特徴的である。 珍しいものでは、ツバメチドリがあり、ツクシガモも西より飛来する。 コアジサシの営巣地がある。

・彦名地区干拓地

国特設鳥獣保護区で、米子野鳥の会の調査によると、1974〜1983年の10年間で202種が確認されている。 そのうち、ガン・カモ類はマガモ、カルガモを主体に26種確認されている。 オシドリ、カルガモは少数繁殖、マガモ、コガモ、カルガモは少数越夏する。

シギ・チドリ類は38種で、うち、イカルチドリ、シロチドリ、イソシギが通年生息する。 コチドリは4月〜9月の夏期に、多くは4月と9月の渡りの途中で見られる。 ムナグロ、ダイゼン、ハマシギ、ミユビシギ、アオシギなどは9月〜4月上旬まで見られる。 特に多いのはハマシギで、500羽近くが越冬する。 マガン、コハクチョウの集団越冬の南限、ツクシガモは日本の北限地で越冬地として貴重である。

珍しいのはサカツラガン、クロトキなどで、ハヤブサ、ミサゴ、ノスリなどワシ・タカ類が多いが、特にオオワシ、オジロワシも見られる。 バン、カイツブリは繁殖する。 秋から春までにはガン・カモ類は30種40,000羽に達し、春から秋までにはシギ・チドリ類が1,000羽前後の群れをつくる。

現存干潟・消滅干潟総括表

海 域 名

現存干潟

消滅干潟

調査区数

面積(ha)

調査区数

面積(ha)

鳥   取

4

10

0

0

1

30

0

0

  

  

  

  

  

合   計

5

40

0

0

〈調査の実施方法〉

まず、既存の資料として、海岸に関する地形、地質、生物の論文や報告を集めた。 中海に関しては、岸岡 務の「湖沼学的研究」(1975)もあり、島根大学の三梨・徳岡の「堆積学的研究」(1988、1990)もあるので、これらによって干拓地周辺の地形、地質、中海の水質などを詳しく知ることができた。

鳥類の研究に関しては「鳥取県の野鳥」(1972、1977)、「中海の野鳥」(1987)などの文献による他、細谷賢明氏から鳥取県の海岸地域全体について聞き取ることができた。

現地調査は8月12日に彦名干拓地、8月29日真子川他、9月26日、10月10日、11月13日に名和町の干潟を調査している。

(2)現存、消滅干潟一覧表

現存・消滅干潟一覧表

調査区
番 号

地図
番号

海域名

市町村名

地 名

タイプ
番号

面 積(ha)

現存干潟

消滅干潟

1

13

鳥 取

名和町

豊成・下水料

1

 3

  

2

13

真 子 川

1

 3

  

3

13

下   坪

1

 2

  

4

13

御 来 屋

1

 2

  

5

17

米子市

彦名干拓地

4

30

  

  

  

  

  

  

40

  

前回調査区との対照表

(干潟分布・改変状況調査)

今 回 調 査 区

区分の変更
(有無・内容)

前回調査区
現存干潟  

備考

現存干潟

消滅干潟

番号

面積(ha)

番号

面積(ha)

番号

面積(ha)

1

 3

  

  

変更なし

1

 3

  

2

 3

  

  

2

 3

  

3

 2

  

  

3

 2

  

4

 2

  

  

4

 1

面積を改変

5

30

  

  

新  設

  

  

新   設

  

  

  

  

  

  

  

  

(3)現存、消滅干潟分布図

鳥取県 干 潟 分 布 図

 

         鳥 取−2

 鳥 取−1

     

 

 

目次へ