2.クワガタムシ科

 甲虫目の中でクワガタムシ科は、種ごとの分布がもっともよく調べられているグループである。それは、このグループは研究者を含めて関心を持つ人が多いこと、甲虫目の中では一般に体が大きく種数も余り多くないことによる。今回(第4回)の自然環境保全基礎調査では、調査対象種37種(亜種)のうち36種(亜種)についての情報がまとめられている。したがって前回の「情報不足」の段階から「やや情報不足」の段階へ達したと云える。

 しかし前述のように、このグループは関心の高さから同好会誌等に採集の記録も多く、それらの記録をまとめることで情報の欠落による空白をうめることが、ある程度可能である。近年のクワガタムシ科分布に関する記録で注目すべきものとして次の3つをあげたい。

1.ルリクワガタ類の種ごとの分布が地域変異を含めて一段と詳しくなった。

2.オオクワガタの分布地の環境悪化の実態が把握できる。

3.県の離島に分布する種の記録がふえている。

 以上の3つの中、今回のデータ不足を補う目的からオオクワガタについて記しておきたい。

オオクワガタ

 平地から低山帯に広く分布するが、その生息地は局地的である。本種への関心 はきわめて高く、これまでに多くの地域からの採集記録があるが、記録地の多くが開発によって大きく変貌している。今回の調査によせられた情報から欠落した部分(県)を、1985年以降に記録されたもので補うと次のようになる。青森県上北郡、秋田県仙北郡、群馬県渋川市付近、埼玉県秩父郡、千葉県東金市、愛知県瀬戸市・春日井市、三重県松阪市、京都府亀岡市および周辺、大阪府豊能郡・箕面市・池田市・高槻市・三島郡、兵庫県川西市などである。以上の採集記録地も開発の影響をうけているが、山梨県、京都府、大阪府、兵庫県の有名な産地は台場クヌギ等の伐採によって生息地が消滅、または著しくせばめられ個体数が激減している。それに加えて朽ち木を片端から壊して幼虫を見つけ出す採集法が行われている。一つの朽ち木で通常数個体から数十個体の幼虫が育つ。幼虫が発見された朽ち木からは、すべての個体が持ち去られることが多い。朽ち木を破壊することは、その地域のオオクワガタの絶滅を招くのみならず食腐性、食菌性、食肉性の多様な昆虫を失うことになる。オオクワガタは分布が広いが、個体数の減少がもっとも著しいクワガタムシとして注目すべきであろう。

(林  長閑)

 

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